誰にだって本当の恋人がいると言うけれど、君はどうだろう?
知らないかな、分からないかな。俺は知らないし分からない。
でもね……君と一緒なら、巡り逢える気がするんだ。
だって君を見つめているだけで、言葉がたくさん生まれてくる。
知らない、分からないだけのものが、まだたくさんあるんだって思える。
……ねえ、どうかな。そんな素敵なものたちに、一緒に逢いにいかない?
- 性別 / 身長 / 外見年齢 / イメージカラー
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男 / 177cm / 21歳 / laurencin(#ab717d)
- 好きなもの / 嫌いなもの
- お喋り、芸術、散歩 / 細かい作業、整理整頓
いつからかファンタスマゴリアに息衝いていた詩人は、喩えるならば羊か綿菓子のような男だった。ふんわりとして重力を持たない口振りながら言葉数は多く、詩作に詰まった折こそ口唇は囀りを潜めるものの、一晩も眠ればのんびり笑っている。そうして新たなものに目を向けて、言葉が浮かべば声か文字にする。棲家を構えた例はなく、友の家を渡り歩いては寝所を借りる日々の最中に定職へ就くこともなく、好む旋律を口ずさみながら。開いた目に映る全てが、自らの生きるファンタスマゴリアそのものが宝と言わんばかりに、寝る間も惜しんで国の方々を渡り歩く。詩篇で埋めた筆記帳の数は本人さえも知らず、頁が埋まったそれは、その後最初に行きあった者へプレゼント。人見知りせず、誰かと話すのが大好きなのんびり屋──などと表せばそこそこ聞こえは良いだろうか。けれど細かい作業を不得手とするあたり、大雑把な気質と言えなくもない。ついでに言えば友を師として励むリュートの腕前は今ひとつ、だけどそれもまた囁かなこと。明日は明日の風が吹く、ならば今日の憂いは今日の一陣に預けてしまおう、ならば今日の風には今日にしか巡り逢えまい。輝ける前途を思い描きながら詩人は今日も往く。何ひとつ、決して見落とさず、我が目に映したものを全て自身の言葉で描いてみせよう。そんな大望を友にして。
膝を抱え、背を丸め、敷布に穿った涙滴の数が星のそれに届いたならば願いは叶うだろうか──なんてまさか、そんな、馬鹿馬鹿しい。夢も希望も屑籠に投げ捨てた。どんな大望を抱いたとしても、輝ける前途を思い描いたとしても、世人の倍以上の睡眠を要する体質の者に叶える時間なんて残されていないのだから。特別な何かを望んだ覚えなんてなかった。習い事くらいはしてみたかったけど、そうでなくても普通に生きられればよかった。けれど何時に寝ても、時計の声がなければ目覚める頃には翌日の夜が近い。夕方前に起きられれば上々。対処療法に過ぎない薬でも、力を借りねば何時でも何処でも眠りに引きずり込まれてしまう。誰かと想いを通わせて、手を取り一緒に生きてみたかった。他愛ない話で笑いあってみたかった。けれど不可抗力の意識断絶も、他者から見れば怠け者の惰眠に他ならない。向けられる目線の色に心を削られ、人付き合いも自然と避けるようになってどれだけ経っただろう。ああそれでも、睡眠と学業から成る生活サイクルだって、心がなければ回していけたんだろう。されど哀しきかな、独楽でも回転木馬でもなく人の子の身上。いつしか螺旋を描き、そうして奈落に突き当たった心で不意に思ってしまった。なんで生きているんだろう、なんで起きているんだろう、苦しいだけなのに。考えてしまった。こうやって独りで生きて死んでいくのか。そんな世界で目を開けている意味とは一体何だろう──睡眠に始まり夢見にさえも苦痛を覚える青年は、斯くして何より厭う「眠り」に縋る。永遠のそれならば、二度と覚めないならば、きっと穏やかに夢を見られる。そんな切望を供にして。
♪ 芥生 了一(あざみ りょういち)
♪ロールサンプル:A
(大地へ仰向けに寝転がると、心臓と世界が赤い糸で結ばれた気分になる。甘く、芳しく、優しく柔らかな心地。日々の道連れとするギャバジンに身を包んでいても宿す感覚は同じ。清く、暖かな、嫋やかで安らぐ心地。肌触りのいい外套や衣服の内側で、今宵も胸郭は穏やかに上下していた。)ごきげんよう、夜空のお姫様。(半分開いた瞼の向こう側、睫の庇を隔てて垣間見るは満月。軽やかな音節は月へ辿り着く前に溶けてしまうものの、唇は穏やかな弧を描いたまま。だってこうして光の下で寝転がり、息をするのが好きだから。甘く、芳しく、優しく柔らかな心地。太陽の鮮烈、月の優婉、そういったもので肺腑を、引いては我が身の全てを満たした気分になれる。寝転がるにしても場所は問わず、そもそも賑やかなものも静かなものも好きだ。清く、暖かな、嫋やかで安らぐ心地。今こうして芝生に転がり月を仰いでいるのも、そうしようと思った場所と時刻が偶々友人の庭にして夜だったからに他ならない──本日世話になる友の家。その小さな庭の外周をぐるりと囲う木々の全てが実を結び、まあるい果実は内側から金色の光を滲ませていた。葉陰の狭間に数多浮かぶ暖色の珠を眺めていると、地面を天頂と錯覚しそうになる。甘く、芳しく、優しく柔らかな心地。空を鏡写しにしたような夜の底。清く、暖かな、嫋やかで安らぐ心地。康寧に身を浸していれば「ライ、お休憩かい?」、散逸していた思考を優しく束ねる声がした。)……やあ、ペコラ。(親しがる響きを乗せた唇でのんびり応えながら、眼界を上方にずらす。すると見慣れたジュストコールの裾が視界の端を舞い、逆しまの視界の只中でヴァレーブラックノーズの友人、もとい友羊の姿も徐々に明確になっていく。黒い二本の後足を地に着けて、もっふりとした体躯を黒いベストと緋色の上着に包む、そんな背筋の伸びた佇まいも記憶に馴染んで久しい。夜風に踊る外衣へ施された刺繍の金糸が月光を受けて煌きを散らす様は、さながら地上に星が降りてきたかのよう。くすんだ金色のモノクルに片側を隔てられようと、友の円らな瞳が灯す光は柔らかなまま。屈折を孕まぬ眼差しを浴びると心も面持ちも殊更緩みゆく。)休憩……と言いたいところだけど、月も君の庭も綺麗だから。言葉どころか心根も枝木にしても、休むだなんて勿体ない……って、賑やかなままさ。(着想を得た時は、心のまんなかに種を植えられた気分になる。甘く、芳しく、優しく柔らかな心地。清く、暖かな、嫋やかで安らぐ心地。言葉や音が生まれ育っていく、さながら芽が伸びて花咲かせるみたいな感覚も好きだ。一方で、暢気な声を受けた友から「とはいえ君、今日も既に何十枚と書いたんじゃないか」なんて聞こえたのは、自分や彼の傍らにして庭の真ん中に置かれた丸テーブルの上を見たからだろう。秩序なく散る幾枚もの紙の全ては、夜色をしたインクの筆跡に覆われている。お行儀悪く机上に投げ出された硝子のペンをペン立てに戻しながら、友は「明日はきっと何百枚でも書けるね」とも口ずさむ。「まあね、そうだね」と頷きながら、仰ぐ方角を月の御許に移ろわせるも、返す調子は子守唄に似たそれのまま。)……でもね、ペコラ。足りないんだよ……君にも言ったっけ、俺の夢。(そんな声で些かの反論、もしくは駄々を連ねたのは、単純に友と話すのが楽しかったから。心臓の奥に燻るものがあったから。)ファンタスマゴリアの全てを、俺自身の言葉で描くんだ。何枚の紙を費やしても……いくつの言葉を編んでも、きっと足りないよ。(この眸の面を白銀に濡らす月光、黒髪を撫ぜ梳く風の指先。真綿の夜を過ぎれば絹の明け空。日華のヴェールを戴くファンタスマゴリアは、明日もその先も美しい。全てを巡り、瞳に焼き付け、得たものを言葉に変える──待望の瞬間を思い描いただけで生まれるものがあった。甘く、芳しく、優しく柔らかな心地。清く、暖かな、嫋やかで安らぐ心地。唇から羽ばたく響きにも柔い力が宿っていく。明るんだ声に何を感じたか、友は長閑に「それならリュートを弾こうか、君の心が枝を伸ばして実を結べるように。言葉が生えるように。それとも君も弾くかい、先回はどこまで教えたっけね」と囁いた。)どちらもいいね。君の音色を描く言葉を探すのは、いつだって楽しい。俺のリュートの腕前が上がるのも嬉しい……ああ、でもね。君には枕にもなってほしいんだよなぁ……明日はキーラの所に行くんだよ。だから体力を温存しておいた方がいいよね、って。(これも、それも、あれも、どれも。選びかねる稚い声音に、友はおかしげな笑み息をぽっかり吹かせた口を開く。「ゆっくり考えるとよいよ。私はお茶を淹れてこよう。いつか就く眠りが、君の見る夢がよいものになるように」、見守る者の口振りに、月を仰ぐ双眸の端はとろりと下がっていった。)ああ、嬉しいなぁ。よい眠りに就けたらいい、よい夢を見られたらいい……よろしく頼むよ。(喜色にまろむ声を昇らせて、相も変わらず寝転がったまま、小さな家へ戻る友の背を見送ろう。再び一人になれば改めて上空に目線を戻し、しばし夜の瞳と見つめあおうと思ったけれど。)ん?(一瞬で真円を象るこの虹彩の上から下へ、まっすぐ過ぎる影ひとつ。それが何であるかを漠然と理解した頃には見えなくなっていた。天を仰いだまま頭の中を整理するけど追いつかない、何にって、昂揚に。穏当を取り戻しゆく理性とは真逆、思考の空隙を瞬く間に埋める薔薇色の感慨があった。甘く、芳しく、優しく柔らかな、いいや。清く、暖かな、嫋やかで安らぐ、それも違う。芽が伸びて花咲かせるみたいな感覚、それよりもっと。考えるよりも先に跳ね起きて、もつれる脚を真顔で叱咤しながら友の家の扉へ駆け寄っていく。)ペッ……ペコ、ペコラっ! ペコラ、ペコラ!(分厚い木の扉を引きあけて、向こう側で目を丸くする友の名を呼ばう頃には軽く息が上がっていた。真顔で浅く肩を上下させる様は珍しく映るはずで、事実「どうしたんだい?」と問う友の声も驚きを孕んでいる。落ちつくべく吐息を呑みこんだところで鼓動は喧しいまま、頭の裏っ側や項の辺りだってじんと熱い。)あのっ、お茶……淹れるの少し待ってくれるかな──…人が、誰かが、お月様から落っこちてきたんだよ! こんな素敵なことって中々ないよ……!(焔華にも似た薄紅の衝動に導かれるまま、慌しく言葉を走らせよう。そう、人が、誰かが月から落ちてきた。長らくこの国に在りながら一度たりとも目にしたことがない光景は、初めて知る、名を知らぬ情動を吹き込んできたのだ。「人が?」と、ぱちくり瞬いていた友は、やがて穏やかに双眸を撓らせて「ああ、行っておいで。私もこの家も、キーラの家のように気紛れに走り去ったりしないから」と柔らかく頷いてくれた。そうしたらもう後は、ありがとう、その言葉を我が身の代わりに置き去り駆け出すだけだ。)どの辺りかなぁ……。(空の瞳に見守られ、視界も足元も良好万全。はためく外套のフードも、心緒の沁みる体で駆ける調子も軽い。記憶を元に件の影の落下点を探る面の中心、巡らせる双眸は零等星を散りばめていた。だってそうだろう。こんな夜は初めてだ。甘く、芳しく、優しく柔らかな、清く、暖かな、嫋やかで安らぐものとは真逆ながらも爛漫に咲む、こんな気持ちも初めてだ。心地は止まず、熱も冷めず、鼓動だって少しも落ちつかない。風より疾くは難くとも、心地に推された我が身は朝より速くその許に至るだろう。出逢えた暁には君よ、どうか君よ──君を待っていた。逢いたかった。そう、言わせてほしい。)