Mome Wonderland

Lia Tsukikage
リア
おとぎ話の世界は、優しい音に溢れているのね。
音楽にならなかった言葉、言葉にならなかった詩、
その全てを知っているみたいに。
ね、あなたの声も聞かせてちょうだい。そして沢山お話しましょう!
性別 / 身長 / 年齢 / イメージカラー
女 / 161cm / 23歳 / ムーンライト・ブルー(#a3aabe)
好きなもの / 嫌いなもの
バレエ、散策、紅茶 / 病院の空気
太陽の輝きを知ればこそ、光を受けて多幸に輝く月。名より姓が体を表すのか、月影璃亜という女は常々そういう生き方をしていた。胸に芽生えたよろこびや快さをその都度躊躇うことなく伝えんとし、叶うなら相手にも幸福感を分けたいと願う。いつとて朗らかに浮かべている笑みも、長年嗜むバレエもその一環であった。屡々背伸びの振付を舞っては派手に転倒し、両親の肝を冷えさせたお転婆な幼少期。興味の赴くまま自室で黙々と楽典を読み耽っていたかと思えば、唐突に「海外で学びたいの」と表明して周囲を慌てさせた少女期。本質は昔から何も変わっていないと知人に笑われ、その通りだと笑い返して居直っている現在。こうと決めたら留まることを知らない知的好奇心と行動力は、いつしか願いを根差させていた。教える立場になりたい、この手からじかに光を伝えたいと。奔放さと同居する頑固さは人や運をも引き寄せるのか、尊敬するバレリーナに学生時代から師事し、現在はかの講師が経営するバレエ教室にて働いている。幼児クラスを受け持って初歩の手解きをしながら、休日は友人とカフェに行ったり映画や観劇に出掛けたり――なにもかも望み通り、まさしく順風満帆の人生を歩む幸せ者。周囲からの評は恐らくそんな所である。常に左手の薬指に光っているシルバーリングとて、きっと傍目には幸せの証左と映るのだろう。それで良かった。それが、良かった。月代の裏側に見苦しく残った瑕や痕など、誰一人として知らなくて構わなかった。
♪ 月影 璃亜(つきかげ りあ)
♪ロールサンプル:B
大丈夫、なんにも怖くないわ。……ほら、よおく耳を澄ませてみて。(未来のバレリーナの卵が集く教室の片隅、踊ることを躊躇っていた稚い少女へ。年若い“先生”はさりげなく歩み寄って膝を折り、旋律の妨げにならないよう細くささめいた。ちいさな肩をそっと包み、流れくるメロディに自らも耳を傾ける。ピッツィカートの伴奏に乗って葦笛が歌い始め、心楽しいハーモニーに合わせてアーモンド菓子の羊飼いが踊る。)かわいい音が聞こえるでしょう?リズムに乗って踊るのは、こーんなに楽しいことなのよ!って。いっぱいの音が教えてくれるでしょう?(本当は踊りたいのに、失敗を恐れて尻込みしてしまう。そんな繊細な背を押すのもまた自分の役目、バレエ講師の務めと自負していた。就学前の少女達を対象としたレッスンにおいて、プログラム通りの振りを追うには至らない。ちいさな脚が習ったばかりのピルエットを辿々しく、されど楽しげに回り始めたなら、見守る講師のまなざしは微笑ましい充足に染まる。心身ともに未熟な少女達が舞う、だからこその問題も日によっては勃発する職場――この日はどうやら恙なく終わってくれたらしいと、小さな背を見送りながら内心胸を撫で下ろす夕刻。「せんせい、ばいばい」とやや舌足らずの挨拶をくれる笑顔は、如何に見慣れようと可愛いもので。)うん、また明日ね!(自然にくちびるを綻ばせ、ひらりと手を振り返す。香りのように残る賑わいの余韻はゆっくりと、ラスト・ノートが消えゆくように霧消する。しんと静まりかえるレッスン室。幾度も繰り返した日常の一頁が、今日もささやかに閉幕した。すっかりと日脚の短くなった時節、天蓋は急いて夜のとばりを連れてくる。月明かりを一度だけ仰ぎ見て静かに睫を伏せ、いつもの光景に今度は目蓋の幕を下ろす。すれば、半面鏡張りのレッスンフロアは物語の舞台に。仕事用のレオタードは、青を基調とした小さなエプロン付きのチュチュに――なんて。良い大人が空想を広げてもひとりの空間、心の中にとどめれば咎める者は誰も居やしない。大好きな演目の一場面、小さな村の収穫祭を思い起こして目をひらく。音楽がなくとも舞える程度には覚えてしまっているものの、流石に視界を鎖して踊れる程の肝は据わっていなかった。振りに組み込まれたアラベスクやアティテュードは、やさしい弦楽器の旋律を心で歌いながら正確に。けれど軽やかなポワントで弾む足取り同様、ひとつひとつを楽しげになぞる。最後のスピーディーなピルエットで、ステージに見立てた室内を一周するまで。表情も動きも絶えず幸福そうな様を、真っ白な心で見つめていればきっと解りやしないだろう。四方や恋する乙女が心の歯車を壊し、小さな心臓も永遠に動きを止めてしまう前の踊りだなんて。)……、……幸せ、だったのよね。(ほとんど音を伴わないつぶやきが、屋内の空気に柔く溶ける。哀れな物語のヒロインに向けたようにも、追懐による独白のようにも。伏し目に翳りを落としたのは一瞬のこと、両頬を挟むようにぱんっと叩いて笑みを象りなおす。今宵の月は明るすぎて、アンニュイな風情なぞ似付かわしくない。だから、“ 誰か、 ” そう。誰かに、)……? どなた、ですか?(耳に、脳裡に、心の畔に。強からずとも確かに、届く音があった。回りを見渡せど見えるものはなく、ただ数秒前のほど近い記憶に刻まれた音。誰かの声。助けを求める、決して捨て置けない響きの声音。)どなた、……っ、ねえ、どこにいるの? 返事をしてちょうだい!(指導の時より更に真剣味を増して張る声に、されど返答はなく。浅はかに踏み出した一歩は、焦燥にしたがって声の主を探しにゆく筈だった。視認せずとも床があるに違いない場所へ、何処へ向かうとも知れぬままに一歩を踏み外して。――踏み外して?)えっ、あ……っ、きゃあっ!(リノリウムのフロアに、たわむれの落とし穴など作られようもない。万が一今更発覚した手抜き工事による陥没だとしても、床そのものがそっくり失せるなんて有り得ない。ならば何が――などと、思考を巡らせるだけの余裕すら奪われたまま。ただ甲高い悲鳴のみが短く木霊して、そのまま下へ下へ。現から夢幻へと落ちていくような感覚に、条件反射で目を閉じた。それから意識を失ったのか、束の間にゆめを見ていたのか、女はふと目をひらく。先程と同じように見知った光景が広がるものと思いきや、ブルーアイズに先ず映ったのは花々の近景。ぱちぱちと瞬きのシャッターを切り、視線を遠くに飛ばしてゆく。)……え?……私、ウィリの世界へ来てしまった……?(どうか先刻の空想と同類の、稚気た発想だなどと笑ってくれるな。嗤うだけの人目がなかったのは幸いか、逆か。肯定も否定もしない夜風がふわり、ロングヘアをやさしく梳いて通り過ぎてゆく。勤務に合わせて編み込みアップに纏めていたはずの髪は、結び癖のひとつも残さずさらりと背へ流れていた。そんな我が身の違和感をまず自覚したなら、数珠繋ぎのように一粒、また一粒と心付いてゆく不可思議の種。落下の感覚に比して、傷も痛みも一切ない。服装はスカート付きのレオタードではなく、私服のミモレ丈ワンピース。次いで視認した手元、定位置で月華に映える銀の環だけが、先程と変わらぬ唯一の要素。その事実に、伏した睫の下で覚えるはきっと、安堵だった。そう在ってほしかった。一先ず裾をささやかに整えながら立ち上がった刹那、あおの瞳はきょとりと円らになる。)あらっ、あらあら、……ふふふ!(全体として休日スタイルに近しい装いとなっていたものだから、一層、というべきか。みどりに佇む足許を見てつい、ソプラノを明るませて笑ってしまった。)もう。なあに?こんな場所でまで踊れというの?(贔屓にしている靴屋のものと寸分違わぬ、脚に馴染んだトウ・シューズ。よくよく見ずともアンバランスな誂えは、一体誰の采配なのか。口調の割に満更でもない様子で声音は弾み、お安い御用だとばかりに数回転、フェッテで空気を打ってみせた。草の上にも拘わらず難なく回れる感覚に、経験の賜物では説明のつかない違和を覚えながら踵を下ろす。然れど首をかしげるより早く、空気が通るより明確に、鼓膜を震わす音があった。届いた声差しが、“あの声”と同一であったか否かなど知れない。けれど、)……あなたは、(――Not once upon a time, story start from here. ごく当たり前の日常に訪れた、とある物語の序章。白くやさしく円かな月が、ふたりぼっちを見守っていた。)