Mome Wonderland

Koyuki Nitori
コユキ
素敵な場所だね。あかるくて、華やかで、みんなもあなたも、とても親切で。
でも、帰らなくちゃ。だってわたし、むこうに夢を置いてきちゃったの。
帰らなくちゃ。怖くて、孤独で、とびきり綺麗なあの舞台へ。わたしの夢へ。
性別 / 身長 / 年齢 / イメージカラー
女 / 160cm / 19歳 / swan song(#fa9697)
好きなもの / 嫌いなもの
踊ること / 鳥全般(目が怖い)
似鳥湖雪は夢追い人だ。きっかけは8年前、たまたま見かけた路上でのダンスパフォーマンス。その躍動感に魅せられて、自分も彼らと同じように、からだひとつで食べていくのだと心に誓った。16歳のとき、大学まできちんと卒業することを条件として受験を許されたオーディションでどうにかこうにか滑り込み、コンテンポラリーダンスをベースにした、物語性のある舞踊が特色の演劇集団に入団。授業とアルバイトの合間を縫ってスタジオに通う日々は負担も我慢も多分にあれど、それ以上に楽しく、しあわせだった。むすめは踊ることが好きだった。きらびやかな舞台の上が好きだった。けれど、むすめは理解してもいた。愛しているだけでは、生きてゆけない世界であることを。そして自分が、この世界に愛されるだけの才能を持っていないことを。凡人の自覚がある。花咲むことなく枯れる最後を予感している。それでも夢を手放せずにいる似鳥湖雪は、あきらめが悪く情熱的なむすめだ。入団時の約束を違えず大学生活もおろそかにしない実直さ。才能の不足を練習量でカバーするだけの根性を持ち、体力だって申し分ない。社交性もそれなりだ。プロの世界でやってゆくための資質の多くを、むすめは持ち合わせていた。才能と自信。とくべつ得難いそのふたつ以外のほとんどを、皮肉にも。
♪ 似鳥 湖雪(にとり こゆき)
♪ロールサンプル:B
………似鳥あがりますー。おやすみなさい。(ひそひそと囁く声を聞こえぬふりして、まがいものの笑顔でスタジオを出る。残って練習したかったけれど、ぎらつく視線に気おくれしてしまった。明日大学に行く前に、30分でも練習できるだろうか。往来を足早にゆきながら、むすめは起床時間の逆算をはじめる。)7時に入れば、1時間は取れる。2幕の頭と……3人で揃えるところも確認したいし……あと――…(それは1週間ほど前のこと。圧倒的な華やかさと才能とを持ち合わせた一団の花形ダンサーが、とある不祥事により降板した。舞台でいちばんあかるい場所に、突如として生まれた空席。それだけでも団員の動揺を誘ったのに、さらには主演代理に、このむすめ――似鳥湖雪が指名されたのである。)先輩たちが辞退したから選ばれただけ。実力じゃない。比べものにならない。(先ほど背中にぶつかってきた言葉を、ちいさな声で反芻する。結構な言われようだけれど、困ったことに、むすめ本人もまったく同意見なのであった。演出家の一声で決まったのだ。なんの実績も持たない"端役止まり"のむすめに。不満を抱いて然るべきだ。でも。そこでむすめは歩みを止め、)理由なんて関係ない。千載一遇のチャンス、絶対にものにする。(迷いを振り払うようにつぶやく――けれど、すぐにその眉根はぎゅっと苦しげに寄せられて、)………って、なんで言えないんだ。わたしの意気地なし。(滅入る気持ちを放り投げるように、頭上に輝く月を仰ぐのだった。ずっとずっと憧れていた、舞台の中央、主演の座。いざ目の前に差し出されたら、それはとんでもない重圧だった。どんなにたくさん練習しても、不安で不安で仕方がない。刻一刻と本番が迫る。怖い。怖い。逃げ出してしまいたい、どうか、だれか、―― "だれか、" "たすけて。")…………え?(共鳴に、ほそい睫毛がちいさく揺れる。それはまるで、降りそそぐやわらかな月光のような。親しげに呼びかける友人のような、鏡越しにささやくもうひとりの自分のような、そんな彩をした音だった。聞いたことがないはずなのに、なぜだかひどく懐かしかった。そうして、たすけてという祈りのことばが、からだの内側で溶けて熱を滲ませた、せつな――さがさなくちゃいけないって、わかった。考えるよりも早く、わかったのだ。)だ、―――ッ、!! ………っ?!(だれ? と尋ねる声はしかし、がくんと重力に引っ張られる感覚にかき消されることになる。足を踏み外した。なぜ?舗装された、まっ平らな歩道だったはずなのに――。存外冷静さを保っていた思考も、やがて幻想の波に飲み込まれる。そうして次にむすめが認識したのは、頬に触れる若草の感触と、鼻先をくすぐる甘いにおいだった。両のてのひらで地面を押して、へたりこんだまま辺りを見回す。空には普段の何十倍もの数の星。かたわらには、名前のわからない可憐な花。)…………。……わたし、 ………!!(しばらくぼんやりとした表情を浮かべていたむすめは、はっと我に返ったように双眸を見開くと、すっくと勢いよく立ち上がる。それから腕や脚に傷みがないか確かめるように、ゆるやかなステップをひとつ、ていねいに舞うのだった。―――まだ踊れる。ほっとした。それがなにより、たいせつだった。)