いいんだよ、助けて欲しいなら素直にそう言ったら。
だってわたしって、予備のボタンとか、捨印とか、たぶんそんな存在。
だれかの足りない部分をね、こう、補うために生まれたんだと思う。
なんたって閏だもん。余りものの、うるう人だ。 だから使ってよ。ね?
- 性別 / 身長 / 年齢 / イメージカラー
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女 / 170cm / 19歳 / 潤朱(#D75F55)
- 好きなもの / 嫌いなもの
- 娘、家族 / 噂話、雨
未成年、未婚、シングルマザーのレッテルに人々は三度見を免れない。もともとこの女、世良閏という人間は他人にとって「丁度良い」存在であった。別に誰でも良いけどあと一人、に欠かせない人物と言うのが分かり良い。パーソナルスペースに入り過ぎず、けれどそれなりの接触は持ち、人より少し早熟で、人より少し知り合いが多くて、人より少し、恋に浮かれやすい性質だった。17歳で年上の彼との間に子供を授かった時だって世間体も気にせず、素敵な結婚生活が待っていると暢気に考えていた大間抜け女である。愛する人からの「結婚しよう」の言葉を待ち続けた結果がシングルマザーの道だった訳だが、認知もせずに逃げた男を追うことをしなかったのは彼の体裁を考えたからであり、幸いにも家族からの支援を受けることが出来たからでもある。昼間は子供を祖母に預け、自分は知人のコネで入社した小さな町工場の事務仕事。ご近所からの冷やかな視線や謂れのない噂話は気に入らないけれど、可もなく不可もなく、読んで字のごとく「人生ってまあこんなもん」な生活を送っている。風の噂で自分を捨てた男が別の女と結婚したらしいと聞いた時ばかりは枕を濡らしたが、過去は過去と振り切った。かわいい子供がいて、家族の応援があって、大金ではないが月々の給料もある。ゆくゆくは素敵な旦那を見つけて今度こそ幸せな家庭を築きたい。だから、その為に今は「こんなもん」の人生をそれなりに謳歌するのだ。
♪ 世良 閏(せら じゅん)
♪ロールサンプル:B
(午前八時から午後五時まで、世良閏が勤めるのは小さな町工場だ。金属部品の製造を主に扱うこの工場では、大きな機械と腕っぷしのある男性達が二十四時間フル稼働で働き詰めている。殆ど電話の鳴らない小さな町工場。事務である世良がひとりいる以外は、時折技術支援で別会社の女性が来るのみで、ほとんど女っ気のない職場だった。特別学がある訳でもなく、大学を出ていない世良がここで働き始めることが出来たのは、母方の叔父が此処の工場長と親しいからという口利きによるもので、小さいコミュニティならではの人情、言い換えればコネである。生産ラインを止めることは出来ないから祝日営業。休出あり。高給ではない。世の女性が憧れる事務仕事とは、おそらくすこし違う。けれども噂話に精を出すことが生きがいのような女性もなく、竹を割ったような男性に囲まれてパソコンに向かうのは世良の性には合っていたし、少なくとも仕事はそれなりに出来ていた。この日の仕事を終え、午後五時丁度に電話をアナウンスに切り替える。以降に掛かってきた電話は代表者の携帯に転送されるシステムだが、日頃から電話が掛かってくることは少ない。事務室の隣にある立て看板で区切られただけの小さなスペースが更衣室で、コインロッカーに似た申し訳程度の荷物置きがひとりひとりに割り当てられている。そのうちの一か所から通勤用の黒無地のバッグを取り出して、職場用のサンダルからパンプスに履き替え、タイムカードを押すまでの一連の動作の途中。普段夜遅くまで残っている作業員の姿が目に留まれば、ぺこりと頭を下げた。)珍しい~、今日は定時ですか? あ、わかった、子供だ。明日有給取られてましたもんね、どこか行くんですか? いいなあ。いまちょうど、可愛くて仕方ない時期ですよね。(シングルマザーであることを隠してはいないから、子供が小学校に入ったばかりだという男性とこうして子供の話をすることもたまにあった。一足先に「おつかれさまでした」とほほ笑んで、手書きで名前の書かれた勤怠カードを差し込み口に嵌めれば、吸い込まれたカードにガコンと音をたてて退勤時間が打刻された。 ──変哲もない毎日だ。朝起きて、朝ご飯とお弁当を作って、仕事をして、帰って夕食をつくって、夜には寝て、朝にはまた目を覚ます。繰り返しの毎日だ。自分はこの世に必要のない人間だと思ったことは無い。人生に絶望したことも、死にたいと思ったことも、無い。ほどほどに満たされた、それなりに、それなりの人生を得ていると思っている。それでもこうして仕事を終えて帰宅する間の一人の時間、偶にふと思ってしまうのは形容しがたい虚無感であって、それが、もしかすると、ぽっかりと穴をあけるようにして現実の足場を崩したのかもしれなかった。)──……、……え……?(チェーンのスーパーを過ぎ、パチ屋と併設されたコンビニの前で立ち止まる。うしろを歩いていたらしいハイヒールの女性が、迷惑そうに眉を顰めながら右脇を抜けてゆく。どこからか「助けて」と声がした。右でも左でも、上でも下でもなかった。きょろりとあたりを見回してみるけれど姿はなく、その声も幻聴でなければどこからか聞こえた、としか言いようがない。)誰、どこにいるの、(問いかける声はコンビニの入店音でかき消された。立ち止まる者が世良の他に誰もいないことを思えば、何かの聞き間違いであると片付けた方が納得できただろう。けれど戸惑う世良の耳殻がまた「誰か、助けて」の声を拾う。聞こえない振りをして帰路に戻ることも出来だろうに、どうしてか、見つけなければならないような気がしたのだ。一歩足を後ろに滑らせ、背後を確認しようとした。かくん、と体勢が傾いたのはその時だ。ひゅ、と息を飲む音がやけに鮮明だった。悲鳴をあげる余裕もなく、気付けばまっさかさまに風を受けている。何故、であるとか、どうして、であるとか、そんな疑問を抱くよりも先に、足元に見える光がぐんぐん小さくなって、ふっと目の前が真っ暗になった。それからどれほどの時間が経過しただろう。たった数秒の出来事であったのかもしれないし、数日のようにも思えた。どこまでも暗闇なのは瞼を閉じているからだと気付くまでにも数秒を要した。おそるおそる瞼を持ち上げた眼には、見慣れぬ景色が広がる。自動ドアが開く度にじゃらじゃらと煩いパチ屋は無く、煌々と光るコンビニも、人々の足音も聞こえない。そこには、緑があった。ひろく、ひろく向こう側まで続く緑が。手にしていた筈のバッグも無くなっていた。それどころか着ていたオフィスカジュアルはウェディング風の真っ白なワンピースに変わっている。うそでしょ、と吐き出した声は音にならなかった。自分の身に何が起きたのかさっぱりわからなくて、しりもちをついた態勢のまま呆然とする。そのとき掛けられた声は、助けを求めたあの声だったろうか。振り返った先にある顔をゆっくりと見上げれば、かちり、と何かの嵌るような音がした。ネジ巻き人形のように、緩々と唇を開く。──Once upon a time in wonderland.)…………あなたが、わたしを呼んだの?