Mome Wonderland

Idiot
イディオ
お嬢さん、あんたは自分を信じられるかい?
ま、返事は何でも構いやしないさ。黙ってたって世界は回る。
だったら焦って進むこたない。少しは落ち着いて空を見りゃいい。
雲一つない青空だ。悩むのも馬鹿らしくなってくるだろう?
さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! イディオの店がやってきたよ!
性別 / 身長 / 外見年齢 / イメージカラー
男 / 176cm / 24歳 / シュプリーム(#004b8b)
好きなもの / 嫌いなもの
動物全般(特に猫)、仕事、買い物客の笑顔 / 暗い場所
ファンタスマゴリアの随所に現れる、気紛れな商人がこの男だ。中央広場を始めとした各所へ馬に荷車を引かせてやってきて、様々な品物を商っているのだ。深い紺に鮮やかなピンクが透けるインク、繊細な貝殻細工の髪飾り、カモミールが柔く薫るハーブティー。取り扱うものはどれもが一級品で、お茶会の菓子や贈り物を選ぶ際に重宝されているようだ。買い物の際に相談すれば、端的で的確なアドバイスが返って来ると専らの評判。容貌こそ十人並みで取り立てて秀でたところはないものの、人当たりがよく明朗で、いつも自信に満ち溢れて口が達者。屈託なく破顔したかと思えば、したたかな打算を垣間見せることも良くある話だ。まさに商売人になるために生まれてきたような男は、飄々と冗句を嘯いたりする一方で存外面倒見がよく、困りごとを抱えた人間がいれば真摯に耳を傾けたりもするだろう。つまるところ誰かに喜んでもらうことを好むという感覚が根底にあり、買い物客の笑顔が何よりの対価だというのが本人談。だが煙に巻くような物言いをすることもままあった。あまり自分のパーソナルスペースへ踏み入れさせようとはせず、のらりくらりと躱す場面も多いはず。「秘密は魅力を増すとっておきのスパイスだろう?」などと宣いながら、今日も男は商売に明け暮れる。誰かに幸せを届け、その繋がりが連綿と続いていくことを願っている、ただそれだけの男であった。
男は大学生の折りに親友と会社を立ち上げた。モバイル決済に特化したマーケティングを行う事業で、順調に売り上げを伸ばしていた。元々男は営業に向いた性分であり、親友がシステム開発を担ってくれていたこともあり、様々な企業との契約を成立させていった。親友とはどんな悩みも苦しみも分かち合い、これからもどんどん会社を発展させていこうと、少なくとも男は思っていた。しかしその希望はある日突然根元から折られることになる。親友が密かに他社に情報を流し、あまつさえシステムそのものを売却するよう動いていた。男が気付いた時には既に遅く、優秀な社員もことごとく引き抜かれていた。売る商品がなければ男には対抗手段もなく、最終的にはむしろ男が親友を窮地に貶めた側として追及された。漏れ聞いた話によると、親友は男の社交的な姿にコンプレックスを抱いており、華々しい表舞台で活躍する男が己を慮っていないとずっと鬱屈を溜めていたのだという。裁判沙汰にこそならず示談で収束へ向かったものの、男の手元には何も残らなかった。親友も会社も築き上げてきたもの何もかも失った。何の迷いもなく信じていたものが瓦解して、しかもその原因が自分自身にあることに打ちのめされた。親友を親友として大切に思っていたのに、その苦しさに気付くことが出来なかった自分に絶望した。それ以降のことはあまり覚えていないのが実情で、ただ冷静に、自分には生きる意味がないことだけを理解していた。故に行き着いた先が地獄や悪夢であったとしても興味はなかった。何も考えられなかった。漠然と消えてしまいたかった。それだけだったのだ。見目に関してファンタスマゴリアでの姿とは異なる要素が幾らかあり、青色の瞳と一筋の髪は本来黒く、伸ばした襟足もきちんと切り揃えられている。平々凡々な様相で、何の変哲もない、ひとりの男に過ぎなかった。
♪ 千喜良 直人(ちきら なおと)
♪ロールサンプル:C
(麗らかな日差しが広場に降り注いでいる。その一角に、アネモネで飾られた荷車が佇んでいた。荷車を引く役目を担う馬は賑わう人々草を食んでいて、長閑な光景を描き出す一助を成している。男は膝を屈めて、目の前の少女に視線の高さを合わせながら笑みを綻ばせた。)ははっ、そうか。そりゃ責任重大だな。そんなに大事な友達に贈るものはとびきり良いものでなきゃならない。存分に悩んでくれよ。相談だったらいつだって乗るからな。(少女はくすぐったそうな微笑み灯してこくりと頷く。曰く、仲良しの友達に日頃の感謝を込めて贈り物をしたいのだという。荷車には溢れんばかりの品々が並んでいて、少女は視線を右往左往させている。しばらく様子を見ていた男は少女の傍らに寄り、同じように視線を巡らせて首を捻った。)その友達の好きなものは何なんだ? 具体的なものじゃなくてもいい、甘いものに目がないとか、最近興味を持っているものがあるとか……そういうとっかかりがあると助かるんだが。(声音はあくまで穏やかで、少女の背を支えるような響きを孕んでいる。少女がしばらく沈黙を落としていても男は急かしたりはしない。視線の隅で鳥が羽搏いていく。その音が遠ざかる頃、少女はおずおずと口を開いた。男は片眉を上げる。)青色が好きなのか。成程な。だったら……うーん、ちょっと待っててくれよ。(顎に手を添えて思案顔。幾らか経った後に男が手を伸ばした。取り出したのはひとつの箱とひとつの包み。青い陶器のマグカップと、青い小鳥のぬいぐるみが少女の前に披露される。まず男が手に持ったのはカップのほうだ。花の意匠を指先で辿る。)このカップは職人が太鼓判を押していてね。こうして繊細な模様が入っているだけじゃなく、軽くて丈夫だ。珈琲だって紅茶だっていいし、そういうのを一緒に味わうのもきっと格別だ。そうだな、いっそお揃いにしてみるのもいいかもしれない。お嬢さんなら白が似合うんじゃないか?(箱をもうひとつ引き寄せ、同じ形で色だけが真白いそれを見せてやる。あたたかいお茶会の風景が少女も少女の胸裏にも広がったのだろう、はにかむ少女を微笑ましく見遣り、続いて包みのほうも開けてしまおう。ころんと丸いフォルムの小鳥のぬいぐるみは愛嬌たっぷりで、これが窓辺に飾られたら日々も彩られるだろうと安易に想像が及ぶ。「触ってみてごらん」と差し伸べたなら、少女もそっと手を伸ばした。まるで本物の小鳥のようなすべらかな感触。それでいてずっと愛でていたくなるような、心地良い柔らかさを持っていた。少女の眦が緩められる。)大事な友達には喜んで欲しいよな。こういう子がいたら毎日楽しくなるだろうし、悲しいことがあったって寄り添ってやれる。まあ、お嬢さんが傍にいてあげるのが一番だろうけどな。(深青の瞳を細めながら男は言う。豊富な品揃えを自負するのもあり、他にも勧められるものはたくさんある。もし他のものも見てみたいと少女が言えばいくらでも見繕ってあげられるから、男は少女が心を決めるのをのんびりと待っていた。どのくらいそうしていただろう。少女が男に向き直り告げた言葉に、一度瞬いた。それから小さく噴き出した。それはもう愉快そうに。)そういう欲張りはいいな。両方とも友達に気に入ってもらえることを願ってるよ。良ければ首尾を俺にも教えてくれないか? 何なら今度はその友達と遊びに来てくれてもいい、歓迎するさ。(どちらも捨てがたいから、カップもぬいぐるみも両方贈りたいという少女を、素直に応援してやりたいと思う。承りました、と恭しく一礼して、それぞれを箱と包みに入れ直す。青と白の包装紙とリボンで飾り、ふたりのこれからを祝福するような金色のベルを添えた。手提げの袋に入れてやり、そっと少女の手元に渡す。男は不敵に口の端を上げる。)どうぞ素敵な時間を! イディオの店はいつだってお客様の幸せを演出する助けになるよ!(大切に抱えて踵を返す少女の姿が、見えなくなるまで見送った。男の髪が風に揺れる。願わくば少女の道行きにさいわいがあればいい。爛漫のファンタスマゴリアには、哀しみの彩なんて似合いっこないのだから。)