前よおーし!右よおーし!左よおーし!…後ろはよおーしか?
な、ほら。見てくれよ。今日もおれはかわいいな。だろ?
うんって言わなきゃ、首を刎ねるぞ!
へっへー、赤の女王のマネだよ!気に入ってんの。
- 性別 / 身長 / 外見年齢 / イメージカラー
-
男 / 167cm / 16歳 / アスター・ヒュー(#9c84aa)
- 好きなもの / 嫌いなもの
- かわいいヒュー / 愛想笑い、深い水底
なんといっても大事なのは、おれがかわいいということだ。長い睫毛のカールやふわふわのワンピースには隙が無い。几帳面なほどこだわりを見せるその一点を除いては、気まぐれに浅い興味で手足をつっこんでみたりする。ちょいとのつもりがときたまドツボにはまってしまったりもするのだけれど、おれがかわいいということに比べればどれも取るに足らない。そんなふうにみてくれのかわいさに固執しているものの、女っぽいかといえばそうでもなく、言動は少年さながら原則として明朗で粗野ですらある。では自己愛が強いかといえばやはりそうでもなく、ただ身だしなみをきちんとかわいくしているだけ。着のみ着のまま毎日ねむいときに寝て、腹が減ったら菓子を食べ、それ以外の起きてるあいだはこのファンタスマゴリアの星の数ほど存在する取るに足らないことのひとつについて考えて過ごす。些末なことと言い捨てながらなんでもないことを思考するなんでもない日をけっこう好ましく思っているが、気分屋のきらいがあり、興味を持った次の瞬間には違うことを考えていることも多々。反面、気に入ったものは繰り返し、たとえ壊れたとしても飽きるまで使い続ける。
ある朝目が覚めたらヒゲが生えていたから死にたくなった。わかりやすく言えばそういうことだ。ヒューには双子の兄がいた。ちがうタマゴから孵ったのに瓜二つの顔立ちで、生まれてから何をするにも一緒だった。兄はかわいいヒューが大好きで、母はもちろん、ヒューを知る者はみんなヒューが大好きだった。ふたりが十歳になる夏、ヒューが死んだ。くらい水の底に沈んでいって、ヒューはそのままいなくなった。泣いてもヒューは帰ってこない。ヒューの遺した服を手に取ったのは、単にさみしかったからなのかもしれない。憔悴していた母が、かわいい、かわいい、そう言って喜んでくれたことがうれしくて、その日から“おれ”はヒューになった。ヒューとして日々を過ごし、ひとりで正式なティーンエイジャーになるころには背が伸びて、喉ぼとけが出てきた。声はそれほど低くならなかったが、それでも“おれ”はそのころから恐怖が底から這い上がってくるのを感じていた。年々口数が少なくなり、そして十六を迎えた朝、鏡を見て絶望した。母は変わらず、かわいい、かわいい、そう言ったが、死んだ妹のフリも性差と精神の限界だった。母さん、俺が誰だかわかる?ついに恐怖に溺れて尋ねた我が子に母は、下手な冗談を聞いたみたいに愛想笑いを浮かべて言った。そんなの取るに足らないことだわ。そうでしょ、私のかわいい陽優。そのときの母の見惚れるほど美しい顔を、優吾は忘れられないでいる。
♪ 春名 優吾(はるな ゆうご)
♪ロールサンプル:A
(このファンタスマゴリアの多くは取るに足らないことで構成されている。空の青も、星のきらめきも、赤の女王の癇癪だって些末なこと。大事なのは睫毛や髪が正しくカールしていて、赤色の爪が気まぐれな月みたく欠けたりしていないってことだ。かわいいおれ――つまり、ヒューは気に入りの野っ原で夜空を眺めていた。空にはまるまる太った胡散臭い月が浮かんでいる。そうしていつものように、取るに足らないことのひとつを取沙汰する。たとえば今日は、チェシャ猫についてだ。)あいつはたてじまなのか?よこじまなのか?(誰にともなく疑問をこぼす。寝ているあいつはたてじまだ。でも立ち上がったらよこじまだよな。不思議がる声は夜闇に吸い込まれ、溶けて消えた。取るに足らないことの結論は出ないことも多いが、取るに足らないことに変わりはないのでヒューはまったく気にしない。ごろんと寝返りをうち、頬をなぜる風を感じた。新鮮な草のにおいにうずもれて、もうひと眠りしようかと目を閉じる。が、すぐさま目蓋を開き直した。視界のはしに何かを見た気がする。月の光の真ん中に黒い影が。もう一度見たときには既にそれは消えていて――ひょっとするとはじめからなかったのかもしれないが――しかし何故だかヒューには、見た、という確信があったのだ。がばりと勢いよく上体を起こし、胡坐をかいて落ちてった方向に目を凝らした。木々のあいまには、静かな夜気が流れている。不満げにくちびるをとんがらせて。)月め、さてはうっかりなんか落っことしたな。ドジなやーつ!(空に向かって叫んだ。本人に聞こえるようにだ。だいいちヒューはきれいなものをあんまり信用していない。きれいすぎるものはたいてい作りものって決まってるからだ。月はうんともすんとも言わないし、怒りも泣きもしなかった。思った通りのことだったがそれでもなんだか居心地が悪くなって、無視すんなよ、と呟くと、ヒューは今度はにやりと笑いかけた。)しようがねーから、おれが拾ってきてやるよー!そこ動かずにまってろよ!(やはり返事はかえってこない。構わずヒューは立ち上がり、駆け出した。そこにはわずかな罪悪感を押しのけて、血のめぐりをまざまざと感じるような高揚が存在していた。月光の導きを頼りにしなやかな脚で野を越え、黒のワンピースの裾をはためかせ、点在する円い石を渡っておそるおそる川を越えていく。これは取るに足らないちいさな冒険だ。月の落とし物がはたして何であれ、空に投げ飛ばして返してやるつもりだったのだ。このときは、まだ。)