(こころは、かたちのないものだから形を与えてあげないと伝わらない。エセルも青嵐も特別な魔法は使えないし気の利いた言葉だって得意ではないけれど、夢がどんなものだったかと語ることはできた。背を押した手があったからこそ、月の消えるまっくらな夜に飛び込めたこと。その手の持ち主が、自分が呼んだのが彼女だということ。彼女で良かったと思っていること。足りない何かを埋めるのは、何でも良かったわけじゃない。埋めてくれたのが彼女のくれたものだったから、今現実に色を伴った男が再び笑むことが叶ったのだと。痛みの先に在るものが必ずしも無音を奏でることではないと、知っていながらも踏み出せなかった未来だ。まだまだ、願いまではずっと不安定だけれど失うことのなかった今。思ったよりもずっと、優しいばかりではなくとも息苦しくなかったのは目の前で落涙を堪えてくれている彼女のおかげ。彼女と出会った夢には、寝息を立てている小さな天使はいなかった。だからこれは夢の先にある現実。傷痕の痛み、物言わぬ花、伴奏には少し足りない噴水の水音や風のささやき、そのすべてが証明してくれる飛び込んだ月の先。変わらぬ日々ではなく未知の未来がある、俺が呼んで君が導いてくれた今日。)おんなじ顔かあ。どっちも俺だから、それはそうだろうけど……閏のほうが、きっとよく知ってるよ。 ほんとだ、ちょっと似てる。(薄っぺらいプロフィールよりも、エセルを知る彼女の方が男の事を良く知っている。この、情けなさや弱さも含めて。ちょっとした音の類似を聞けば、確かにと目尻に皺が出来た。共通点に満たずとも、似ていると言われればそれがどんな些細なことでも嬉しさに変わる。二度目のはじめましては一度目に比べると随分と穏やかで、ちょっとこそばゆかった。そんな気持ちも、まだかすかにしか震わせられない喉から、うたに込めて。)毎日がいいな。……毎日、君が好きだよってうたいたい。(雲に隠れたみたいに見えなくなってしまった花顔へ、まるで月を探すみたいにしてそっと指先が額に触れていた指先を剥がそうとする。顔を見せてと、扉をノックするみたいに幾度か触れて離れてを繰り返し、覗き込むように鍵を開けてもらえるのを待てば横へすべる指に引き戸だったのかな、なんて。問いかける声に悩むことがなかったのは、ずっとずっとうたいたかったから。二、三日じゃきっと足りない。毎日だって、きっと音が溢れて仕方ないと思う。だって今でさえ、次をうたいたくてたまらない。)俺はもう、好きだよ。閏のことが好き。 閏も俺のことを好きになってくれたら、きっと誰よりしあわせなうたがうたえそう。(好きになってもいいかな、なんて。問いかけてみたいのは自分の方だ。情けないばかりの歌うたい、その自覚はあるけれどもう、君の色が瞼の裏から離れなくなってしまったから。月から降ってきた君に、男は月に連れて行ってもらった。だから今度は、このうたで俺が君を月に連れて行こう。うつくしいものなのだと知らせよう。花弁のようなすべらかな頬を伝った露の跡を、指先が丁寧に拭って微笑む。震える掌が頬に触れれば擦り寄るように少し頭を傾けて、その指先を黒髪が擽っただろう。ファンタスマゴリアでは抜け落ちた白だった――けれど今に思えばそれは、すべてに染まれる純白だったのかもしれない。頬に触れる掌を包むようにしてこの手を重ねて、花が綻ぶようにはにかんで誘う。)今度は俺が、君を月に連れて行くよ。(うたって。手をとって。微笑んで、キスをして。――淡い光が縁取る純白へ、俺だけのうるうを。飾るのは奇跡ではなく、夢かなうしあわせと約束しよう。)
青嵐雅月〆 2020/03/06 (Fri) 22:27 No.87