Mome Wonderland


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(あなたは私のおともだち。)
(まるで夢を見ていたように、目覚めてしまった。寝ぼけまなこに映るのは見慣れた、けれどちょっぴり久しぶりな自分の部屋。ぎゅうっと繋いでいた筈の手は空っぽで、ギンガムチェックのワンピースはおろか灰色の制服さえも脱いだ記憶はないのにピンクの星空模様のパジャマを着て。ワンダーランドのいっぴきおおかみアリスはどこにも見当たらない。やがて鳴り出すスマホのアラームと飼い犬の足音、起きなさいと呼ぶママの声。いつもどおりの朝が、いつもどおりの毎日が、あたりまえの顔をしてやってくる。──でも、夢じゃない、絶対に。)……ママッ、パパ! 私、ともだちができたの……!

(変テコで優しいワンダーランドではじめてのおともだちができたって、此方で突然ともだちが沢山できるわけでもなければ、人前で固まってしまう不器用さがめきめきと改善するわけでもなかった。現実世界は金平糖みたいには甘くない。けれど変わったものだって確かにあった。どんなにきらいな自分にもすきをくれる存在は心に勇気をくれる、上履きが一歩を踏み出す勇気を。──それゆえか二年生になって、ふとした時に喋ってくれる相手が出来た。ともだちと呼んでいいのかはすこし躊躇ってしまうような繊細な繋がりで、けれど学校生活にちいさな彩りがうまれ。あいかわらずべそをかきながらとぼとぼ帰る日もあるけれど、家に帰れば家族にあたたかく迎えてもらえる幸福と幸運をこれまで以上に噛みしめる。それと同時に、いついつまでも情けない自分のまま家族のもとに逃げこんでいてはいけない、とも思うようになって。「バイトしようかな」と漏らしたら、「大学生になってからね」と流されてしまった。そのかわりという訳でもないけれど、どうせ部活もやっていないから、将来の選択肢を増やすためにも塾に通うことにしてみた。中学や高校の同級生が沢山居そうな近いところはすこし気が引けたから、電車で通うちょっと遠いところ。高校生の普段の行動範囲なんてたかが知れているけれど、それをすこし広げたかったという理由もすこしくらいは混じっていたかもしれない。あの夢の日々から覚めて、黒いまなこはいつも"誰か"を探し求めていた、名前も顔も知らないおともだちを。塾の廊下、信号待ちの交差点、通りすがりの店のお客や店員さん、駅のホーム、どこかに"彼"が居るんじゃないかって。桃の花が咲いて、桜が散って、若芽が芽吹いて、ファンタスマゴリアに落っこちた時とおんなじ灰色制服がすこし暑く感じはじめる頃、その時は訪れた。塾へと向かうターミナル駅の構内、すれちがったひとりの男の子。見知ったひとだったわけではない、──けれど。心が感じ取っていた、はじめてのおともだちを。見開く瞳、咄嗟に振り返る動きにあの頃よりすこし伸びた黒髪が舞う。)──っ、コ、ルネ、くん……っ!
大賀美奈瑠 2020/02/26 (Wed) 00:02 No.6
(初夏の気温上昇に伴い、登下校時はブレザーを着用しなくても良いとの通知がされたのは、大型連休が明けて直ぐのことだった。サックスブルーのシャツを肘の辺りまで折り込んで、手にした参考書についてきた赤シートで風を送りながら見上げた電光板。表示された発車時刻まであと七分。大勢の人が行き交う構内をやや急ぎ足で進む少年の背は、真っ直ぐに伸びている。学年がひとつ上がり、受験生となった現在も母親との折り合いはついていない。相変わらず父親は母子関係なんて素知らぬふりだし、お山の大将みたいなクラスメイトは未だに何かあるたびにオカマだなんだのと揶揄うのをやめない。戻って来た現実はやっぱり息苦しくて、時々、どうしようもなく涙に暮れる夜がある。それでも俯かずに歩き続けられるのは、夢うつつの世界で会った女の子がいつだって頼りない手を握ってくれているような気がするからだ。小さなてのひらが分けてくれた勇気は、今も胸の中がきらきら光っている。)今日の動画はー……っと、("中の人"の顔写真が流出して以降休止していたYoutubeのチャンネルは、誠心誠意の謝罪が功を奏したのか、そこまで大きく炎上することは無かった。深夜に家を抜けだした息子が本当なら今頃とっくに死んでいた筈だとも知らないで、今すぐに動画を消しなさいと頬を張った母に「嫌だ!」と反抗をしたのも、握った拳が震えなかったのも、何もかもが初めてだった。生じた溝が埋まるまで何年掛かるかはわからない。だけど、諦めたくなかった。その為には母が望む成績を残して見返してやらなくちゃ、と自宅へ続くホームを目指していた足が不意に縫い留められる。喧騒の中、迷わず落ちてくる声。物語はまだ終わっていない。)ナル……?(こころが理解するより早く、その名前が浮かんだ。廃ビルの中で見た都合の良い夢なんじゃないかと何度も疑って。その度に懐かしんだおとぎの国の景色を思い出す。振り返らせた顔の真ん中で、黒い瞳がおつきさまみたいに丸くなった。)ほ、ほんとうに、ナルなの?(身体ごと少女に向き合って、は、と短く息を吐く。奇跡が起こるときって、壮大なBGMが流れたりするものだと思っていた。心構えなんてちっとも出来ていなかったからどんな反応をするのが正解かもわからずに、指先で自分の方を強めに摘まんだ。とても痛い。)~~っ、ナル……! …………ここに、居たんだね。(待ち合わせに失敗しただけのような会話が、その実、奇跡の再会だなんてこと周りの大人たちは知る由もないのだろう。小走りに駆け寄った少年は絵本の登場人物みたいに少女の体を抱えて回転することはない。ファンファーレだって鳴らない。然れど正真正銘の奇跡だった。細めた瞳の端っこが、じわりと熱い。)
高橋和真 2020/02/26 (Wed) 18:51 No.11
(ピンクの髪じゃない、夜明け色の瞳でもない、ネイビーのジャケットも着ていない、子ネズミが肩に乗ってもいない、けれども分かった──彼だと。そして彼もまた少女に気付いたのだと、まるまった瞳と呼ばれた名に知れる。)っ!(胸の内でぱちぱちとはじける高揚感。願い続けた再会はあまりにも唐突に。月とお星さまのライトアップもなければ、花たちのコーラスが場面を彩ってくれるわけでもなく、周囲のざわめきもそのままで、けれどだからこそ現実世界で彼と出逢えたことを実感させる。あの変テコな世界で過ごした日々を証明するものは何もなかったけれど、やっぱり夢じゃなかった。頬をつまむ仕草に、彼もまたこの現実世界で起きた奇跡を確かめているように見え、ツンと鼻の奥が熱くなる感覚にくちびるがちいさくわなないた。)ほん゛っ、ほんとうにナルだよ…! あ゛いたか、った…! コルネくんこそ、ほんとうにコル、……っあ……、こっちではコルネくんじゃないんだよね。(つい大きくなった声に周囲が何事かと振り返ったから、そそそっとボリュームを戻しつつ邪魔にならない隅に移動しようか。そうして上から下まで、ファンタスマゴリアのコルネくんじゃない彼を見やる。日本人らしい髪や瞳の色、サックスブルーのシャツに制服のズボン、何処にでも居そうな男の子だけれど少女にはひと目で特別になった。あまりそういった方面に詳しくはないから、同じ名前の、ピンクのツインテールが可愛らしいバーチャルアイドルが居ることは知らず。ましてやその子と彼に関わりがあることなんて知る由もない。時計塔から落っこちながら彼が教えようとしてくれていた現実世界の名前は聞き損ねてしまったから、呼ぶべき名を持ち合わせず。くちびるをはくはくさせて一旦噤むと、すこしくすぐったい心地で居ずまいを正し。)──はじめまして、大賀美奈瑠、です。(世界を越えても変わらず大切なおともだちへ、そう改めて名乗ろう。ファンタスマゴリアに落っこちてきたアリスとしてではなく、現実世界に生きるひとりの女子高生として。和らぎと高揚を湛えたまなこは彼からの返しをそわそわと待っている。)
大賀美奈瑠 2020/02/27 (Thu) 08:09 No.18
(摘まんだ頬と同じくらいに痛む心臓が、喜びに震えていた。夢の名残か今すぐにでも手を繋いで踊り出したくなる気持ちを抑えて、手元の参考書をそうっと閉じる。きっと頭に入れたばかりの古語のうち幾つかは、既に意味を思い出せなくなっている。ほんとうだなんて聞かなくとも分かっていたけれど、彼女の声で以て「あいたかった」と紡がれれば、いよいよこれが現実なんだと身に染みて理解する。こちらの声も決して小さくはなかったから、彼女と共に辺りを見渡してから、慌てて壁際に足を運んだ。)……見た目が変わっちゃったから、分からないんじゃないかって思ってた…………おれも、ナルのこと見つけられないかもしれないって。(上から下へ渡る視線を受けながら、ぽつりと漏らすように言う。それは自分自身を傷付けない為の予防線で、決して本心から出た言葉ではなかった。こんな時、コルネならなんて言うんだろう。ついそんなことを考えて、そうじゃないとすぐさま頭を振る。「でも、」と押し出す声は細かな震えを纏っていた。)でも、おんなじくらい、見つけたいって思ってた。見つけて欲しいし、きっと見つかるって。(楽観的すぎるくらいで丁度よい。それはカメラの前で演ずるコルネと、ファンタスマゴリアのコルネの両者が掲げるモットーであった。それら全部が作り物だったわけじゃない。おとぎの国で身に纏っていたジャケットや思い出を書き残した日記は全て消えてしまったけれど、信じる気持ちはちゃんと持ち帰ってくることが出来た。照れ隠しに浮かべる笑顔にも、コルネの面影はあるだろう。向かいで背筋を正す少女を見れば、何となくこちらも畏まった調子で気を付けをして。もう知っている名前、だけど初めて聞く名前に、耳を澄ませた。)うん。初めまして。おれの名前は、高橋和真です。向こうではいろいろありがとう。……そういえば、初めて会った時にも制服だったね。何だかチェックの方が見慣れちゃって……、(ファンタスマゴリアに居た頃は、それが制服だなんて気付きもしなかったけれど。懐かしい光景を思い出して、瞳は懐かしむよう細められた。脳内で思い描くのは、チェックのワンピースに着替えた彼女と共に目を回した光景。そこで急に真顔になった少年は、暫し無言になったのち、口元を手のひらで覆い隠して。)っていうかさあ、おれ……おれほんっと、なんていうか……馴れ馴れしいっていうか、女の子に何してんのって感じだったよね……!?(耐え切れず逸らした目の縁に、じわりと赤が滲み出す。スキンシップ過多では済まされない振る舞いを思い出した分だけ、頬の温度が高くなる。黒い瞳は忙しなく右へ行ったり左へ行ったり。)
高橋和真 2020/02/27 (Thu) 19:08 No.22
私も……コルネくんのこっちでの名前も分からないし、髪もピンクじゃないだろうし、分かるかなって……。ファンタスマゴリアでの日々自体もしかしたら夢だったんじゃないかって、ほんのちょっぴりだけ、思ったりもしたの。(此方の世界に戻ったらきっとすぐに逢えると思っていた、そうであればいいと願ってぎゅうっと手を結んでいたのに。目覚めた時にはひとりで、彼と出逢えぬまま日常が刻々と過ぎていったから。夢なんかではないときっと逢えると信じながらも、この数ヶ月のあいだ焦燥や不安を覚えぬわけではなかった。)でもね、今すれ違ったらね、コルネくんだってすぐにわかったよ…! ──ちゃんと見つけられたし、ちゃんと見つけてくれた、ね。(高揚をあざやかに面持ちに乗せ、喜びをうたう。明るく楽観的な希望の言葉がどこか懐かしく、そして浮かべられた笑顔には確かにピンクの彼の面影があって。ぎゅっと胸が熱くなり、何度も何度も噛みしめる、彼と現実世界でまた出逢えた奇跡を。)──タカハシ、カズマくん……。わ゛っ、たしこそ、沢山ありがとう。あ、うん、制服もちゃんとこっちの世界に戻ってきてたみたい。(高橋和真くん。声で、心で、繰り返す。塾にも彼と同じ制服のひとが居るから、たぶん高校生。手にしていた参考書からして、ひとつ上の3年生だろうか。ほのかに逸る鼓動で現実世界の彼を網膜に焼き付けて、いたのだけれど。突如の真顔と無言にきょとんとし。)……へっ!?(ファンタスマゴリアのコルネくんは明るくて優しくてスキンシップがたっぷりで、少女はたびたび"死んじゃいそう"にはなっていたけれど、なんというかそういうことも含めてそれがあの変テコな世界でのいつもどおりであったから、少女自身もそれに感化されて大胆になっていたところがあるかもしれない。しかし現実世界で改めてそんなことを言われると、現実世界の観点であの日々のふれあいを思い出してしまって一気に羞恥が溢れだす。ぼぼぼっと熱がかんばせに灯り、一足先の夏模様に灰色ブレザーが内側から燃えたちそう。)……い゛っ、言わない゛でよう、……そう゛いうこと……!(文句未満の参りきった声をあげて。) ──……、…………死んじゃいそう、にはなったけど……ぃゃ、じゃ、なかった……から、いいの。……っていうか、ぅ、れし、かった、から……。(染まる目元でもしょもしょと頼りない視線をうろつかせながら、ともすれば駅の雑踏に紛れてしまいそうなか細い声で示す。手を繋ぐのも、くるくる回るのも、ほっぺをくっつけるのも、全部ぜんぶ幸せなドキドキだった。)
大賀美奈瑠 2020/02/28 (Fri) 09:51 No.31
(ああ、彼女はこんなにもきらきらしていただろうか。希望に満ちた言葉を浴びた男は、思わず面食らったよう瞬きを繰り返した。けれど、それからすぐに思い出す。彼女はおしゃべり上手なんだって。面映ゆく思うままに緩む頬は、美味しいものを食べた時とおんなじように蕩け落ちてしまいそう。友人や塾で会う人たちに見られたら、だらしない顔だと笑われてしまいそうだ。いや、コルネの表情も大概ゆるゆるのでれでれだったから、今更こんなことを気にするのも可笑しな話かもしれないが。ファンタスマゴリアに置き去りにならなかったという制服を眺めて、それが週に数回通っている塾で見かける物だと気が付けば、「高校、この辺なの?」と問うた。それに対する答えについて、襲い来る気恥ずかしさを追いやろうと必死になっている少年がまともに処理出来たかはわからないが。)ご、ごめんっ、 けど、けどさあ……っ、…………へっ?(小さな声はおとぎの国でなくとも、何よりよく届くようで。口元から離れ、合わさっていた両手が徐々に熱を帯びてくる。嫌じゃない。嬉しかった。言葉の意味を理解するのにかかった時間は凡そ数秒。自分の頬があちあちになってしまっている自覚は十二分にあったから、こちらの視線も定まらない。喧騒の中で響く心音が、耳のすぐそばで響いている。)~~っ、奈瑠ちゃんこそそういうこと、い、言っ、 言わないのもやだけどさあ……!(どさくさ紛れに呼んだ名前こそ、初めましての女の子に対しては馴れ馴れしいだろうけれど。プレイボーイじゃ済まされないスキンシップの数々と比べれれば、些末な問題だ。どきどきの音が鳴りやまない。それはまるで、ファンタスマゴリアで流れていた音楽みたいに。手の平で送った風は、幾ら経っても頬の熱を追い出してはくれない。格好のつかない顔をどうにかすることは諦めて、男は再び少女の顔へと向き合った。)奈瑠ちゃんに会ったら言いたかったことがあるんだ。聞いてくれる?(一歩前へと踏み出して、大きな深呼吸。彼女の前へ差し出した手には、まだ熱が残っているだろう。)おれと、おともだちになってください。(ガバリと勢いよく頭を下げて待つ姿は、通り過ぎる人たちからして見れば風変わりな光景だった。中には微笑ましげに笑う貴婦人もいたけれど、折り目正しく下げた頭は上がらない。元の世界に戻ったら、今度は自分から。あの日、夢から覚めて以来、ずっとこころに決めていたことだった。)
高橋和真 2020/02/29 (Sat) 21:50 No.46
(うろつかせる視界の端で彼のかんばせもまたあちあちになっているのが知れ、余計に照れてしまう。──言っちゃだめだったかな。でも、言わないのもやだけど、なんて、それって言ってよかったってこと? どちらにしたって恥ずかしさにぐるぐると目が回りそう。)な、なにそれ、どうしたらいいの…!(名前を呼ばれたことにも一拍遅れで気付いて、また頬が熱い。ファンタスマゴリアのコルネくんとは違う呼びかた、現実世界の彼が自分を呼んでくれる呼びかた。それが胸に熱を灯すから頬の高潮はまだまだ収まりそうにない。互いにあちあちを冷ます時間を要したけれど、結局どちらもあんまりどうともならぬままに向き合いなおすこととなって。そして改まっての申し出にはぱちりと目をまるめてから、揺れる呼気がひとひら。)──もう、おともだちだと思ってたよ。(いつかの彼の言葉をなぞり、はにかみに少しのいたずらっ気を混ぜて微笑む。今日はじめて逢って、はじめて名前を知った相手だけれど、ずっと逢いたくてずっと探していた、大切で特別なおともだち。差し出された手のひらを自らの両手を包むように結び、それから少女のほうもまたぺこんっと勢いよく頭を下げて。)わ゛、たしこそ、よろしくお願い、しますっ……!(握手を結びながらふたりして頭を下げあう光景に、周囲の驚きや微笑ましげな気配が濃くなったような。そろりと頭をあげて黒の瞳と目があったら、つい笑い声が漏れた。おまけにまなじりも綻んで、名残惜しくも気恥ずかしさが勝つからそろりと手を離し。)えっと、元気だった…? お家、このあたり? 私は家と学校はふたつ向こうなんだけど、この駅の塾に通ってて……。(やわらかさに気遣わしさをそっと混ぜ込んでうかがう。ワンダーランドから戻ってきても少女の周囲におおきな変化がなかったということは彼の周囲でもきっとそうだったのろう。かつて彼をうちのめした現実世界は、再び彼を絶望に沈めはしなかったろうか。今の彼が明るい顔をしていることもあり深刻な問いかけかたではなく、先程答えそこねた学校のことも足して返し。)──そうだ。っか、和真くん、これから時間ある…? あれば、その゛、よかったら……パフェ食べにいかない、かな。(こんなふうにともだちを寄り道に誘うのははじめてで、どきどきとそわそわに心を揺らしながらいつかの約束を果たしたがる。少女のほうは塾の授業の時間まで自習室に居ようかと思っていたくらいだけれど、彼のほうはどうだろう。強要するつもりはもちろんなく、「なければ、連絡先だけでも、教えてほしいなって……」そう言いながらポケットのスマホをとりだす。折角この世界でやっと逢えたのだから、これではいおしまいにはしたくなくて。)
大賀美奈瑠 2020/03/01 (Sun) 15:33 No.57
(覚えのある言葉に瞬いた目の縁で、睫毛が小さく震えている。本来ならば真似っこしないでよと冗談で返すべきなのに、何だか無性に泣きたくなって。下向けた顔をくしゃりと歪ませた少年は、手を差し出した格好のまま短く鼻を鳴らした。おとぎ話みたいにちちんぷいぷいで全てが解決する世の中ではない。憂いを抱えきれず死にたいと願う夜は、きっとこの先も何度となく訪れるんだろう。それでも今、死んじゃわなくて良かったと胸に浮かんだ気持ちは紛れもない本心だ。繋いだ手を見遣るよう持ち上げた視線の先には少女のやわらかな笑顔があって――こころの何処かで何かが芽吹くような。そんな感覚に首を傾げた。)うん、元気だよ。最近はオープンキャンパスに行ったりでちょっとバタバタしてたけど。……おれはね、学バスがこの駅から出てるんだー。(聞けば自分が通っている塾と彼女の高校は一駅隣に位置するらしい。生活圏の近さに驚きつつも、この距離ならいつでも気軽に会えるなと頬が緩む。けれど次の瞬間には、彼女の学校で変な噂になって迷惑をかけないだろうかと難しい顔に様変わり。ワンダーランドを出ても、表情の変化が目まぐるしい男だ。十面相をする男も、少女からの提案を聞けばようやく思考の森から帰還して。控えめなお誘いに、やや大袈裟に頷いた。)もちろん! 今日はもう家に帰るところだったし、……そうじゃなくたって、まだ一緒にいたいなーって。へへ、おれも思ってたとこ。(いつも通りに手を伸べてから、すぐに「あ、」と声を漏らす。コルネとして彼女の側にいた頃は当たり前だった振る舞いの多くが、この世界では当たり前ではないのだ。反射的に引っ込めた自らの手を見下ろして、それからもう一度。そっと二人の間に伸ばしてみる。だって手を繋いで歩く道の方がずっとすてきに見えることを、少年はよく知っている。彼女の手がやわらかくてあたたかくて、つい触れたくなるということも。どぎまぎ、変な音を立てている心臓の音には知らん振りをして。)おともだちと手を繋ぐのって、こんなにどきどきしてたかな。(彼女への問いなのか、自問自答なのか。和真自身も分からなかった。ただひとつ、答えがNoであることだけは初めから分かっている。一度抜けた改札を出るために歩き出した少年は、その道すがらで連絡先の交換を果たすつもり。目が合うたびに星屑の輝きが見えるのは気のせいだろうか。こんな時、肩の相棒が居てくれたら「これって変かな!?」とすぐにでも相談できたのだろうけれど。どきどきの音は、店に入ってからもずっと鳴っている。やっぱり変かも、変だよね。)
高橋和真 2020/03/02 (Mon) 13:06 No.66
そっか、よかった…!案外近くに住んでたんだね、私たち。(いったいどんなことがあって彼が生を擲とうとしたのか、今の彼がどんな憂いを抱えているのか、少女は知らない。もしもいつか彼が話してくれることがあるのなら真摯に耳を傾けるつもりだけれど、少女のほうから訊くことはないだろう。元気だよの言葉を聴けたこと、再会に嬉しそうにしてくれたこと、それで充分だった。ふくふくと自然に綻ぶ少女の面持ちをクラスメイトが見たらきっとびっくりするだろう、そこにはクールで一匹狼な雰囲気なんてまるきり見当たらず。いっぽう彼のくるくる変わりゆくなかの難しい表情に「どうしたの?」と問うけれど、お誘いへの前向きな答えに意識は攫われてしまう。)! っあ、りがとう…! えへへ、おともだちと寄り道なんて、私はじめて──ぁ、(浮かれた思考ではじめてを紡ぐなか、彼からすこし遅れて零れた愕然とした一音は手のひらが引っ込められてしまったことに。──変な顔でもしちゃっていたかな、どうしてすぐに手を重ねられなかったんだろう、と自己嫌悪が頭を廻りかけた時、もう一度差し出された手のひらに、あまりにも分かりやすく面持ちが明るくなった。今度は引っ込められてしまう前にと急いで手を伸ばし、きゅうっと握る。すると途端に視界が一段明るくなるようなのは流石に錯覚だろうか。心臓がうるさく鳴って、なのにしっくりと落ちつく不思議な心地で。ふわふわと浮つく声音が返答とひとりごとの狭間でたゆたう。)コルネくんと、和真くんとしか繋いだことないから、分かんない……。(どちらの手のひらも同じくらい、ドキドキとそわそわとよろこびをくれる。──おともだちと手を繋ぐのってこんな気分になるもの? 女の子とでも? 他の男の子でも? 経験がないから比べようがないけれど、きっと違うって心が知っている。ワンダーランドで出逢ったピンクの彼も、今日ここでやっと出逢えた現実世界の彼も、とびきりに特別だって。歩きながら連絡先を交換したら、この縁がこれから先も繋がっていく証のようで安堵と共におもはゆい。女性たちに人気なカフェでは店員さんが「今日はカップルデーで、此方のメニューが割り引きですよ」と言いながら席に案内してくれた。驚きが喉で引っかかって素っ頓狂な声すら出なかったのは幸いだったかもしれない。男の子とふたりで歩くことなんて殆どはじめてだから、周りからはそういうふうに見えるんだ、と認識するのすらはじめてのこと。それはそうか、みんな仲良しなファンタスマゴリアならばともかく、手を繋いで歩く高校生の男女が居たら自分だって恋人同士だと思うだろう。だからメニューを眺めるより先に、こしょりとつい訊いてしまった。)ぃ゛、いやじゃなかった……?(なにが、なんてどうか訊き返さないでほしい。対面で座るために手は離したけれど、頬がまた熱く、じ、と見つめる瞳はすこし緊張が滲む。ともだちなのにこんなこと気にしちゃうなんて変かな、変だよね。ストロベリーアイスや生クリームに金平糖が散らばるいちおしメニュー『きらきらピンクの星空パフェ』には『カップルデーは100円引き!』の文字が踊っていた。)
大賀美奈瑠 2020/03/02 (Mon) 23:10 No.73
(分からないという彼女に「だよね」と曖昧な相槌を打って、やわい力で小さな手を握り返す。記憶を失っていたとはいえ紛れもない自分自身の筈なのに、こんな時ばかりは能天気なコルネが羨ましい。改札を抜けて駅から程近いカフェへと向かう最中には自分と同じ紺の制服を纏った生徒の姿もそれなりに多く、すれ違うたびに指先が僅かに強張った。けれど決してその手を解くことは無かったし、解きたいだなんて気持ちは微塵も沸いてこなかった。それが何故なのかは、少年にも分からない。ただ、ワンダーランドで野うさぎやお花たちと手を取り合って歌うのとは、全く違う胸の高鳴りがあるのは確かだ。気を抜くとくちびるがにまにま緩んでしまいそうだから気を付けないと。そう思うがあまり、道中は言葉少なになってしまった。かわいらしい内装のカフェは日頃友人たちと集まるファミレスとは打って変わった雰囲気で――というのもあるけれど、女性客が多いことに動揺して。扉を潜った直後から、忙しなく辺りを見渡していただろう。)カッ……うぁ、 は、 ……はい、あの、はい。(笑顔でオススメしてくれる店員に対する態度は、もはや挙動不審といえる域だった。それはもう、右手と右足が一緒に出てしまうくらいには。春風に乗っかってようやく赤みの引いた頬が、再び燃え上がってしまいそう。幾ら動転していたとはいえ、カップルじゃないんですよと手を解いてみせることは出来た筈。彼女を困らせてしまっただろうか。椅子の背凭れにスクールバッグを引っ掛けて、ぎこちない所作で腰を下ろす。解けた手の表面は度重なる緊張の所為か、少しだけしっとりとしていた。恥ずかしい。)……! あのっ、あのさ、今おれもおんなじこと聞こうと思ってた……。(質問に答えるより先に、共鳴した感情に喜ぶなんて。根っこはやはり能天気。店内だからと静かな声で打ち明けたなら、改めて自身の手を見下ろして。ふ、と息を零すような。微かな笑みを湛えた。)やじゃないけど、そうですって答えられないのが惜しいなあって思っちゃった。(片手で頬杖つきながらメニューを見下ろして、自然にまろびでた言葉の意味を後から考える。これって変かな。変じゃなくて、恋かもね。チュウチュウ鳴いてる相棒なら、そう答えるかもしれない。)カップルだと勘違いされて、うれしいって意味だよ。(星屑の優しい甘さを今はもう思い出せなくなってしまった。だけどどんな世界だって、甘い物を食べると最高にハッピーだってことは知っている。お財布に優しいしを言い訳にオススメメニューを頼もうかと考えながら、ふと隣のページを捲ってみる。くり抜いたハートマークから覗く苺ジャムがかわいいトランプ模様のサンドウィッチ。紫芋を使ったしましまタルト。何処となく見覚えのあるモチーフに瞳は懐かしむよう細められた。)ねえ奈瑠ちゃん、おれもさ、こっちに帰ってきてから料理の練習始めたんだ。オムライス……はまだ卵を焼く練習中なんだけど、ハンバーグはばっちり焼けるようになったからさ。今度味見してくれる?(実はパンを焼く練習もこっそり始めたのだけれど、驚かせたいから今はまだ黙っておこう。注文したパフェが届いたら、「だってカップルだと思われてるし」を言い訳にアイスと金平糖を乗せたスプーンを差し出してみようか。こころに浮かんだ企みは果たしてどうなることやら。ピンクの表紙にきらきらの箔押しと、飾りのリボン。ふたりの物語を記した本はきっととびきりにかわいくて、誰もが手に取りたくなっちゃうに決まってる。)
高橋和真 2020/03/05 (Thu) 11:32 No.82
(店員さんの勘違いへのどぎまぎ具合はどっちも負けず劣らずだったよう。同じ思考を知れば緊張はすこし薄らいで、けれどすぐさま別のどきどきが襲い来る。)……!!(惜しいって、それってもしかして、もしかして。自惚れじみた予想をしかと言葉で肯定されると、メニューを眺める彼とは裏腹に少女は顔を両手で覆って天井を仰いだ。だってあんまりにも頬が熱くて、しかもきっとみっともないほど緩んでしまっていて、とてもじゃないけれど彼に見せられるような顔をしていない。)…………、わ゛っ、……ゎたし、も゛……その、ぅれ、嬉しかった、から…………和真くんが、ぃ゛……嫌じゃなかったなら……よかった……。(手のひらの隙間から照れを透かすもごついた声を漏らす。チュウと鳴いて教えてくれる子ネズミの声も届かないのに、この世界では出逢ったばかりの相手なのに、変だよねこんなの、恋だよねこんなの。漫画やドラマの中でしか知らなかった想いが、キャンディピンクの一輪が、自分の中で花ひらいていくのを感じる。頬の熱さがなかなか引かないせいで、どこか懐かしさを覚えるメニューを覗き込めるようになるには少し時間がかかったけれど、お誘いには目を輝かせ。)いいの…!? うん、是非。そうだ……よかったら、うちにも来てね。ママのオムライス、美味しいから。(味見の約束を新たに結んで、それからまたひとついつかの約束を果たしたがる。ファンタスマゴリアでつくった風変わりなオムライスもあれはあれで悪くなかったけれど、少女の好物である"ママのオムライス"をきっと彼も気に入るはず。その時にはもちろん彼のことを両親に紹介しよう、私のおともだちなの!と。──世界ってこんなにきらきらしてたかな。彼がそこに居ると視界がまばゆくて、次の約束がたのしみで仕方がない。差し出されたスプーンに真っ赤になりながらもぱくっと食いつけば、甘い幸せが口内にひろがり、ひどく恥ずかしいのに心が踊る。こんな想いをくれるあなたは私のとびきりに素敵なおともだち。そしていつか遠くない未来には、もしかしてもっと違う関係性にもなっているかもしれない。たとえばそう、家族や他のともだちに向けるものとは違う特別で唯一の「だいすき」を伝えられるような関係に。 ──そんなきらきらなピンクの表紙に綴られる物語を読みたくなったなら、ちいちゃな赤の女王さまが統べる変テコで優しいワンダーランドの、灰色屋根のお家の本棚を探してみて。じょうずに見つけられない時には子ネズミがチュウとしっぽを振って教えてくれるはず。けれどきらきら注ぐ星屑を背景にどれだけページを捲ってもHappily ever afterとFinの文字は見当たらない。それもそのはず、ふたりの物語はこれからも続いてゆくのだから。 世界は決して優しく甘いばかりではなく、時に打ちのめされることもあるだろう。けれど、自分よりも自分のことを好きでいてくれるひとがある限り、この手をぎゅっと結んでくれるひとがある限り、ぐしゃぐしゃの涙を拭いまた前を向いて歩んでいける気がするのだ。そう、彼といっしょなら!)
大賀美奈瑠 2020/03/06 (Fri) 22:27 No.86
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