(店員さんの勘違いへのどぎまぎ具合はどっちも負けず劣らずだったよう。同じ思考を知れば緊張はすこし薄らいで、けれどすぐさま別のどきどきが襲い来る。)……!!(惜しいって、それってもしかして、もしかして。自惚れじみた予想をしかと言葉で肯定されると、メニューを眺める彼とは裏腹に少女は顔を両手で覆って天井を仰いだ。だってあんまりにも頬が熱くて、しかもきっとみっともないほど緩んでしまっていて、とてもじゃないけれど彼に見せられるような顔をしていない。)…………、わ゛っ、……ゎたし、も゛……その、ぅれ、嬉しかった、から…………和真くんが、ぃ゛……嫌じゃなかったなら……よかった……。(手のひらの隙間から照れを透かすもごついた声を漏らす。チュウと鳴いて教えてくれる子ネズミの声も届かないのに、この世界では出逢ったばかりの相手なのに、変だよねこんなの、恋だよねこんなの。漫画やドラマの中でしか知らなかった想いが、キャンディピンクの一輪が、自分の中で花ひらいていくのを感じる。頬の熱さがなかなか引かないせいで、どこか懐かしさを覚えるメニューを覗き込めるようになるには少し時間がかかったけれど、お誘いには目を輝かせ。)いいの…!? うん、是非。そうだ……よかったら、うちにも来てね。ママのオムライス、美味しいから。(味見の約束を新たに結んで、それからまたひとついつかの約束を果たしたがる。ファンタスマゴリアでつくった風変わりなオムライスもあれはあれで悪くなかったけれど、少女の好物である"ママのオムライス"をきっと彼も気に入るはず。その時にはもちろん彼のことを両親に紹介しよう、私のおともだちなの!と。──世界ってこんなにきらきらしてたかな。彼がそこに居ると視界がまばゆくて、次の約束がたのしみで仕方がない。差し出されたスプーンに真っ赤になりながらもぱくっと食いつけば、甘い幸せが口内にひろがり、ひどく恥ずかしいのに心が踊る。こんな想いをくれるあなたは私のとびきりに素敵なおともだち。そしていつか遠くない未来には、もしかしてもっと違う関係性にもなっているかもしれない。たとえばそう、家族や他のともだちに向けるものとは違う特別で唯一の「だいすき」を伝えられるような関係に。 ──そんなきらきらなピンクの表紙に綴られる物語を読みたくなったなら、ちいちゃな赤の女王さまが統べる変テコで優しいワンダーランドの、灰色屋根のお家の本棚を探してみて。じょうずに見つけられない時には子ネズミがチュウとしっぽを振って教えてくれるはず。けれどきらきら注ぐ星屑を背景にどれだけページを捲ってもHappily ever afterとFinの文字は見当たらない。それもそのはず、ふたりの物語はこれからも続いてゆくのだから。 世界は決して優しく甘いばかりではなく、時に打ちのめされることもあるだろう。けれど、自分よりも自分のことを好きでいてくれるひとがある限り、この手をぎゅっと結んでくれるひとがある限り、ぐしゃぐしゃの涙を拭いまた前を向いて歩んでいける気がするのだ。そう、彼といっしょなら!)
大賀美奈瑠〆 2020/03/06 (Fri) 22:27 No.86