(今はまだ、君は知らないままでいい。後悔も悲嘆も、君に与えたくはないのだから。然れど呼び合う名前と共に、想いを交わし合ういつかに流れる涙を拭うことが出来ればいい。代わりに今は、触れ合う温度で優しさを分け合おう。微かに触れた耳朶の弾力に胸が甘く弾む。頬と共に愛でる様に撫でてやりたい衝動を堪えて、名残惜しく話した掌はすぐに彼女の指先を焦がれた。繋いだ指先から、じわりと心まで熱が拡がる。ほらね、やっぱり君が暖めてくれるんだ。噛み締めるような淡い微笑みが、隣ではにかむ彼女へと向けられた。)そうしようか。コンビニで好きなの選んでいいよ、湖雪の好きなものが知りたい。……ああ、僕も甘いもの、好きだよ。チョコとかつい買っちゃうから……えっ、と……カップ麺って、どっちだと思う?(二人だけの記憶を懐かしめば、分け合う喜びに瞳を細める。けれど生活習慣を問われたなら不摂生を白状して、いたたまれない心地で頬を掻いた。「食べるのはどちらでも」と言い添えたのは、彼女が何を作ってくれるとしても、喜んで食べるという意思を伝えたくて。)約束は、ご両親と?偉いね、一生懸命がんばってるんだね。……君より、5つ上です。まぁ、大学生でまだ良かったかな……。(夢の為にと凛々しい顔を見せる様子は頼もしくも、微笑ましくもある。素直な賞賛を零しながらも、直球の質問には誤魔化せないとばかりに告白しよう。幾らしっかり者の彼女とはいえ、少なくともあと数ヶ月は未成年と知れば、おとぎの世界なら気にしなかった一切が脳裏を過ぎってくらりと眩むが、今更この手を離すつもりも無い。繋いだ指先に籠る温度が、少しだけ熱を増したような気がした。──憧れの舞台を見届けると約束を捧げて、りんどうの顔ばせを見つめながら少しだけ先の未来へ思いを馳せる。スポットライトの中心で、しなやかな手足を翼のように拡げて、誰よりも光り輝くエトワール。観客の誰もが見上げる一等星になる明日が、きっと君を待っている。ならば、自分は?自分も、彼女のように正面から向き合うことができるだろうか。儚い祈りを信じたいからこそ怖れてしまう。未来へと駆け出したいからこそ立ち止まってしまう。然れど愚かな迷いも、受け止めてくれるひとが居るから吐き出せると知る。)……うん。(”できるよ。”清浄な空気に溶けゆく誓言が、心を覆う暗雲を払ってくれる。真っ直ぐ見つめ合うりんどうの星へ、願いを託すような思いで柔く首肯しては支えてくれる声に耳を傾けた。ひとつ、またひとつと背中を押してくれる言葉は魔法のステップ。アン・ドゥ・トロワでこころが軽やかになれば、君と共に少しずつでも歩き出せる。ひとりじゃないから、歩き出せる。何より男を信じてくれる眩しい笑顔に、怖れを溶かすように柔く眦を緩めてみせた。)……おまじない?って、っ、(そうしてささめく甘声を問い返すより早く、手を引く力で二人の距離が縮まった。春を薫らせる梅花よりも柔らかな花弁が、男の硬い頬を掠めてゆく。擽るような触れ合いに目を瞬かせた直後──夢の世界に置き忘れた羞恥心が甦って、祝福が授けられた一点から熱が拡がる様に頬が赤く染まってゆく。)……湖雪。ああ、……もう、君ってひとは!(稚い笑顔がぱあっと咲いて、朗らかな声が高らかに響く。爪先立ちの顔ばせが離れゆく前に、込み上げる感情に突き動かされるように右腕を伸ばすと、男は半ば彼女に覆い被さるような勢いで抱き着いてしまおうとした。頬だけで無く全身が熱いのは、君がかけたおまじないのせい。けれど何より一番熱いのは、こころの奥で燃ゆる星なのだろう。)笑顔の魔法だなんて、なんて、素敵なことを言ってくれるんだろう!僕よりずっと、君の方がその魔法を使っているよ!(至近距離で見つめ合えば、黎明を映した黒曜がきらりとひかる。滲む光はエレクトリックブルーに煌いて、たったひとりを映していた。支えてくれる大切なひと。一緒に歩いてくれる、愛しいひとよ。)やってみるよ。誰かに笑ってもらえるように、多くの人を笑顔にできるように。でも一番”笑顔の魔法”をかけてあげたいのはね、君なんだ。……大好きだよ、湖雪。ずっと僕の傍で、笑っていて!(溢れて止まない至純を囁けば、額を触れ合わせて二人の距離を埋めてしまおう。柔らかく触れ重ねるのは、君にだけ捧げる笑顔の魔法。断ち切れぬ過去も、拭い去れない不安も、いつか乗り越えられるように。誓いを込めて口付けを贈ったなら、──いっしょに笑おう。君が僕を照らしてくれるように。笑おう。僕が君を照らせるように。そうすればきっと、二人の未来を祝福するように朝陽が輝き僕たちを照らし出すだろう。If you just smile, 僕も沢山笑えるから。)
黒木誠十郎〆 2020/03/04 (Wed) 22:52 No.79