(うれしさだって苦しさだって、誰かと比べて図るものじゃあない。にしても。ほんの一端だけ知った彼の境遇や心情、何よりも、あの世界に迷い込んだという事実を思えば、自分がここから抱えていった心の隙間なんて、とるにたらない、小さな小さなものだった。自分で自分を守れずに苦しむ女の子なんてきっとごまんといて、きっとどうにか戦ったり逃げたり受け入れたりしていて――どこにいてもどうにかはなってしまいそうな、ありふれたコンプレックスのほどけた場所が、あなたのとなりで良かった。――それから、もう一度、出会えて良かった。)ふふ、おそろい。……何か、まだちょっと恥ずかしいわ(蕩けるような声音が、おそろいの笑顔が、絡められる男の子らしい指が、体温をふわりと上げてゆく。正直にくすぐったさを零すのと一緒にはにかんでいれば、気遣う言葉が傾けられた。ほら、やっぱり、“エース”じゃなくなったあなただって優しい。優しくって、格好良くて愛おしくて、言葉とうらはらな手のぬくもりみたいに、いつだってずるい、ひとりの男の子。)ああ、大丈夫。今から休憩だったの。ふふ、出会った時とおんなじ格好して再会するなんてね。――ワンダーランドへようこそ、なーんて?(彼とおんなじ方にゆるく首を傾けて、あの日とは反対に世界へ招くような台詞を手向けてみる。「そっちこそ、誰か待たせているんじゃない?」と気遣えど、まだもう少し再会を祝福していたい気持ちはおんなじだった。――花咲く幸福な信頼に、ぱちくり、まばたきを数度、うん、と頷きながら聞き入った。そう、そうよね、と心がその言葉をなぞっては高鳴って、やがてくしゃりと咲いた笑顔に、愛おしく瞳をほそめた。)うん。――おとぎ話の終わりはハッピーエンドだって、私、言われたもの。だから、信じてた。……今の私たちは、エンドって言うより、つづきかな?それってもっとすてき。(今、私とあなたが佇むこの場所が、もうおとぎ話とは違っていたって、しあわせなつづきが始まりだしている。直球にちょっぴり息をのんでくちびるをむずむずと照れさせる彼女にとっては、また知らない世界の始まりだったりするかもしれない。匂い立つ幸福の予感を声に乗せて、)っ……あらためて言われると、そわそわするわ、もう。――次の、水曜日。会えるかな。(ゆびさきを絡めてデートの約束。ああ、水曜日までに可愛くなるおまじないを仕込まなくっちゃ。あこがれの中の話みたいで、気持ちがふわふわと花吹雪のように舞い上がってゆく。上目で見つめた彼のかんばせは、爽やかに甘やかな春の陽気によく似合うから、これからのストーリーのことだっていくらでも信じてみたくなる。――今、ふたりが佇むこの場所から。手をつないで、名前を呼んで、ゆっくりと歩んでゆきましょう。)
巡みこと〆 2020/03/05 (Thu) 01:06 No.80