Mome Wonderland


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(それは月だけが知る物語、)
(時計台から月へ向かって飛び込んで、夢物語はそこで終わった。自室のベッドで目を覚ませば、ブーブーとLINEの通知に震えるスマホが現実への帰還を確かなものへと変える。事務所から月へ落ちたのにどうやって帰ってきたのかも分からないし、日付を見てもたった一晩が過ぎただけ。あんなに長い日々を過ごしたのに夢の一つで終わってしまうだなんて不思議だ。)……帰って来たんだ、わたし……。(スマホの待ち受けの時間を確認しても何一つ実感がない。夢が覚めるまで一緒にいたのに、彼の姿はまた幻になった。残るのは掛けられた呪い、ただ一つだけ。)――うん、頑張ろう。見つけてもらわなくっちゃいけないもん。もう言い訳する私はいないよ。絶対、だいじょうぶ。(真っ直ぐな紫色の瞳は昨日とは違う。選ばれないことに保険をかけていた自分にさようならをした。今度は彼がくれた自信を活力へ変えて、これから咲夜麗花は未来へ続く道を歩きだす。運命がまた二人の道を交じり合わせてくれると、そう信じて。)

(泡沫の夢から醒めて半年が過ぎたある日。事務所が通達していた期限ギリギリの頃、咲夜麗花の人生において一つの分岐点が訪れる。「おめでとう」とスタッフさんから掛けられた言葉が意味したのは――)……わ、あ……。(待ちわびていたデビューの知らせだった。渡された紙に綴られていたのはメンバーの名前とグループの名前。そこに並ぶ自分の名前。努力が実を結び、漸く選ばれた感動はどんな言葉にも代えることが出来ず嬉しくて涙が止まらなかった。花の名前にちなんで、五人が星のように輝けるよう願いを込められた『Startice』――そう名付けられたグループが活動を開始したのはその次の日のことだった。)

(それから更に二年が過ぎた。Starticeもそれなりに知名度も上がり、テレビ露出も増えてきたのは事務所のバックアップや運もあったが何より咲夜の成長も確かに影響していた。勿論個人のスキルとしてはやはり秀でている者と比べると何にも持ち得てはいないが、拙くとも全力投球で言葉を発信する姿や過酷なロケにも挑戦する姿がファンを着実に集めている。が、意外と都会の街を歩いても気付かれることも騒がれることもなく、キャップを深めに被っていれば電車だって何ら問題なく乗れてしまう。事務所での打ち合わせ終わり、もう間もなく月が浮かび出す頃合いだから人々は尚のこと一人の顔なんていちいち見てはいないのだろう。)『タイトルはこれでどうかな?』……っと。送信。(がたんごとん揺られながら、今回は番組企画関連でメンバー全員で”会いたい気持ち”を募って作詞をしてみた。そのタイトルがなかなか決まらずにずっと未定だったから、咲夜はグループトークにてひとつの単語を送信した。それは”ダイヤモンドリリー”。再会を望む歌に添えるならこの花が良い。花言葉に聡い訳では無いからネットで調べた知識だったけれど、自分も会いたい人がいるから、再び会うときには素敵な花で彩られたいと思っている。別れたあの日の薔薇の香りが未だこころに残ったままだから。やがて電車は主要駅へと辿り着き、咲夜の迷うことの無い足取りは近くの花屋に立ち寄って一輪の薔薇を求めた。あの夢から醒めてから欠かさず、あの夜を忘れない為に毎月していることだから今日は『その日』だった。)――……、……え?…、ひゅ……ユーゴくん!(ありがとうございましたという店員さんの声を背後に歩き出した先、此方へと歩く人影がどうしてか瞳を捉えたまま離さなかった。また月から落ちたのかと思った。夢を見たのかと思った。でも此処は現実だから――あの日から一度たりとも忘れたことない、ほんとうのあなたの名前を呼ぶ。少し背が伸びても、髪型が変わっても、見間違える筈がない。まなうらの奥でずっと待ち焦がれていた大切なあなた。思わず込み上げてくるのは、想いか涙か。)
咲夜麗花 2020/02/27 (Thu) 05:01 No.16
(やるべきことは本当に山ほどあった。中でも最も大きかったのは、ヒューが正式に亡くなったことだった。吐きそうになりながらも、それは最もしなければならないことだった。数年越しの写真を見て、あおじろい四肢から目をそらさず、俺ははっきりと言った。「春名陽優で間違いありません。」――やっぱり川は川に過ぎず、水底があり、水面にうつる見せかけの月は夢の世界なんかには繋がっちゃいなかったんだ。陽優は今、安らかなねむりについている。夢から醒めて俺が驚いたことは、ひとたび外にさえ目を向ければ、存外助けてくれる大人がいたということだ。数日もすれば俺は祖母の元へ行くこととなり、普通の高校生となった。母の見舞いにも足繁く通い、数週間後には俺の名前を呼ぶようになり、半年もすれば退院した。父のことだけは未だにわからない。どこでどんな暮らしをしているのか、あるいは、生きているのかさえも。けれどそれは仕方のないことだと思う。いちど壊れてしまったらもう戻せないものもあるということだ。)

(それから二年後。俺は高校を卒業し、今はユニセックスのアパレルブランドで販売員をしている。薄く化粧を施して、手を振ると青いネイルがきらきらひかる。一部のお客さんからは名物店員とされていること、話すと笑ってくれること、びっくりされること、店長に褒められること、怒られること、性差を問わない服に囲まれていること。俺はけっこう気に入っている。)いらっしゃいませ。今日はどんな自分を探しにきたの?俺がきみを「なりたい自分」にしてあげる。(中でも一番好きなのは、お客さんが試着室から出てきたお客さんが笑顔になってくれること。)わあ!すごーく似合ってるよ。言っておくけどお世辞じゃないから。俺、似合ってなかったらウゲーって言うもん。ていうか、着る前にやめときなよーって言うし。で、店長に怒られんの。おーコワ。(イーッと歯を見せて愚痴ると、店長の鬼の視線が飛んできた。いっけね。ぺろりと舌を出すとくすくす笑ってくれるから俺は嬉しくなる。ふと店内に流れる曲にお客さんが人差し指を立てた。『あ。あたしこれ好き。“Startice”』 思わず俺は微笑んだ。)俺も大好き。(――そうして過行く毎日は充実している。トレーナー生地のゆったりとしたロングワンピース。メンズレギンス。黒のスニーカー。すれ違うと振り向かれる視線。ねえ今の人って――遠くで聞こえるひそひそ声もどこ吹く風。男の子?女の子?なんて未だに訊かれるけれど、もったいぶらずに「俺は俺だよ」って答えている。街中に香る花に、ふと、ぽっかり空いた穴を感じたって、そこからもう何かが落ちてくることなんてきっとなくて、だけど、やっぱり俺は馬鹿だから、つい立ち止まって、あの色を探してしまう。夜空のいろ。あれから背はすこし伸びて、髪もすこし伸びた。後ろで束ねた俺の髪は、きみのひとみとおなじいろをしている。名前を呼ばれて満月が瞠る。紫色に俺が映り込んだなら、)れいっ、(思わず声に出してしまって、はくっと両手で口を押えた。今や彼女は有名人。知ってたけど、知らなかった。すごくすごく懐かしい。)~~~っぷは。夢よりずっと夢みたいだ!俺がわかるの?覚えてるの?うわあ、また会えるなんて。久しぶりだな!(止めてた息を吐き出して、駆け足で彼女の元へ。ひとみがきらきら輝き、くちびるが歌うように。よろこびが零れ落ちていった。)
春名優吾 2020/02/27 (Thu) 22:24 No.24
(視線と視線が絡み合った瞬間、咲夜の両手は感極まって震えだす唇をぱっと覆い隠した。月と星のパーツを乗せたネイルが街のネオンに鈍く銀光る。ああやっぱり、彼だった!――咲夜にはなにより彼が『ヒュー』ではない存在となっていてくれたことが嬉しかった。不思議の国でずっと一緒に居た彼。可愛いを追求した見目麗しいお人形だった彼。それが二年の月日を経て、精錬された美しさと自由さを体現する一人になっている姿が語っている。この彼が呪縛から解かれた王子様の本当の姿なのだろう。再会出来た喜びと同時に、まるで初めて出会えたような感覚は新しく胸をちりりと焦がして咲夜自身を戸惑わせる。この感情は嬉しいだけじゃ言葉には出来ないので、涙も困り眉も微笑みも全てが共存する不思議な表情がかんばせに乗る。自分の名を呼ぼうと動いた筈の彼の唇が、彼自身の手で制止を掛けられることに一度首を傾いだものの――もしかして『Startice』の存在を知ってくれているのかなと見当つけて思えば、なにより気を遣ってくれたことが嬉しかった。ああもう、どうして一つ一つがこうも愛おしく思えてしまうのだろう。)分かる、分かるよっ…!当たり前だよそんなの、だって…私…、絶対会いたくて、見つけて貰うためにも頑張ろうって思っててっ……まさかこんな風に会えるなんて思ってなかったんだもん!びっくりしてもう心臓止まっちゃうかと思った~…。(心から溢れ出る言葉は決壊したダムのように留まることを知らずに。潤む視界ながら近づいてきてくれる彼を改めて見ると、二年前よりも角度がついたことに気付く。自分の身長はさほど変わっちゃいないから、彼の成長をまじまじと感じることになる。)ほんとうに夢みたい。……でも本当に夢じゃ、ないんだよね?(目深に被ったキャップの影の下にある紫は満月の奥にある光を求めて上へとあがってゆく。綺麗に輝く月は紛うこと無きあなたのもの。夢見心地に揺蕩う心は微睡むようにとくりと鳴るものだから、ああ、私また迷い込んでしまったのかと錯覚してしまう。出会ったあの日確かめたように、咲夜の手は確かなる何かを捕まえようとたどたどしくゆっくりと持ち上がる。何処へ触れるのかは分からないまま、もうましろが纏うことのない指先はほんものを探していた。)
咲夜麗花 2020/02/29 (Sat) 10:27 No.41
(束ねた髪を尾っぽのように揺らし、さらりと梳く。彼女の眸は記憶の中のいろとおんなじで、おのれの一部分が彼女とおんなじであることが喜ばしかった。夢から醒めても繋がっている。それは心強い事だったから。)へへ、俺もずいぶん変わったから、もしかしたら気付いてもらえないかも?ってちょっと思ってた。すごくすっごく、頑張ったんだな。えらいな。テレビなんかでさ、見かけたときには驚いたし、うれしかったな。夢だけど、夢じゃなかったんだって思ったし、レイカががんばって夢を叶えたのも、うれしかった。俺もがんばらなきゃって思えたよ。(いつもよりだいぶん声を落とした囁きにだって、ほほえみが滲んで溶けだしていた。確かめたがる彼女にくちびるがいっとう柔らかい三日月を描き、黄昏に現れた朝陽に目を眇める。穏やかな風情を装って、ゆったりとした時が流れる。永遠と思われる時間が待ちきれなくて、伸ばされた手を素早く掴み、大人びた相好はあとかたもなく崩れた。悪戯っぽくにひひと笑う。喉ぼとけがちいさく上下する。変わらぬアルトが、溌剌として。)夢じゃないよ。ほんものの俺!ほら、今日もユーゴは可愛くてかっこいいだろ?(掴んだ手をゆらゆら揺らす。“アイドル”の名に傷をつけるおそれは、あんまりなかった。パッと見男か女か判断できない外側は、存外に役に立つこともあるものだ。自信満々にそう言えるくらい、俺は、俺自身が好きになっていた。目深にかぶった帽子の奥で、紫色があわく揺れている。そのいろを見ているうちに、ゆっくりと瞬いてみる。そうしても彼女はやっぱりそこにいて、吐息が漏れた。)やっぱり、夢かもしれない。だってさ、きっと、夢が叶うってこういうことをいうんだろ?(あいた穴が満たされるような。多幸感はおそろしい。それでも怯える事は無かった。)はじめまして、俺は春名優吾。18歳。お仕事は、「なりたい自分」にする魔法使いのたまごってところ。まったくおかしな話だときみは思うかもしれないけれど、ずっときみに、俺のことを知ってほしいなって思ってた。(真剣なのに笑いだしてしまいそうなちぐはぐさ。演技がかった口調もしぐさも夢の中よりちょっとばかり落ち着きをもっていて、まるきり俺そのもの。くたりと下がったアイブロウが、一匙の弱気を見せた。)
春名優吾 2020/03/01 (Sun) 10:35 No.55
(本日、また一つ咲夜麗花の夢が叶った。夢が現実に変わる瞬間ほど世界が煌めく瞬間を知らないから、月の色がいっとう眩く映る。まるで晴れた空に虹が架かったときのように彼の言葉が七色に輝いて鼓膜を揺らし、その煌めきは自分の糧になって血液に溶けてしまうそんな感覚が不思議だった。ひとつ、またひとつと少しずつ詰み重ねてきた日々が彼との人生に再び交じり合えたこと、それがなによりも幸せで正しく運命と呼ぶ以外なんと言うのだろう。自分の抱いた夢が、そしてそれを追うことが、誰かの夢とまた繋がることはこんなにも晴れやかで素晴らしいことだったなんて知らなかった。)ほんとに、私たちのこと……知っててくれてたんだ。へへ、嬉しいしなんだか恥ずかしいな。(照れくさく頬をかきながら緩んでゆく微笑みが、内側に隠しきれない幸せを語る。アイドルという仕事をしているけれど、誰よりも知って欲しいと望んでいた人に実際認知されているというのはなんともこそばゆい。そして然りと捕まえられた手が愛おしくてあたたかくて。)うん、とっても。可愛くてかっこいい、現実の世界でもとびきり輝いてるよ。もしかしてその髪の先、……わたしの、色?(これが自惚れならずっと恥ずかしいけれど、彼の揺れる毛先には夕暮れと夜を結ぶ色が見えた。本当にこれが彼の言うように夢だとしてもおかしくはない、それくらいさっきから幸せで――ううん、今はその夢が叶っている瞬間だから現実なのだ。ああもう、のぼせてしまいそう。)はじめまして、優吾くん。たくさんの人をきらきらした世界に連れて行くお仕事をしている、咲夜麗花です。22歳です。ふふっ、私もおかしなことを言うんだけどね、ずっとあなたに会いたかった。あなたの隣にいたいと思ってた。(ずっと変わらぬまっすぐな想いは何を以て彼へと伝わるのだろう。指先か言葉か表情か、否、そのどれもだろうか。夢の中のあなたとは少し違うあなた。でもそれが本物のあなた。春名優吾という名前とは初めて出会ったけれど、ずっと前から彼の事は知っていたから。咲夜はもう迷わない。)優吾くん。これは青い薔薇じゃないけれど、不可能を可能にしていく道を私と歩いていきませんか。私はアイドルだから、もしかしたら一般的な寄り添い方がむずかしいのかもしれないけど、それでも優吾くんと生きていきたい。辛い道を辿ることがあったとしてもあなたとなら、何処へだって進んでいけるって自信しかないんだ。ふたりで、歩きたい。(誇らしさと凜々しさを携えて彼へ向けて差し出すのは先ほど購入した赤い薔薇一輪。あの日の薔薇にはもう会えなくても、ずっと変わらず思い出として強く咲き続けているからこれは新しいスタートへ手向ける花としよう。数多の夢の欠片を紡いできた過去を大切にして、彼とまた新たな夢を結んで形にしてゆきたい。夢の世界でも挫けそうになったことがあるように、誰しもみんな等しく何かの壁にぶつかる――それでも頼りになるこの掌があれば、自分は進んでいけるとそう思っているから。夢のなかではずっと言い訳をしていたけれど、今の咲夜麗花は自分に自信を纏って生きている。だからこそ今なら言える。愛おしいあなた、どうか私と生きてくれませんか。)
咲夜麗花 2020/03/02 (Mon) 19:49 No.69
(魔法の箱を通じて見るレイカより、こうやって見るレイカはずっと記憶の中に近い。もちろん変わってもいるけれど――大凡成長を拒絶する事は難しいと、俺は最近になって学んだのだ――それもまた、成長のひとつなのだ。)あ、これ?へへ、いいだろ。俺の好きな色。(紫の尾っぽを自慢げに揺らす。何気ない挨拶は非日常なんてなかったみたいだけれど、世界に帰って俺はずっと異端になった。けれど夜空を泳いでたどり着いたお月様での生活は案外悪くない。俺はヒューでも王子様でもなく、ただの俺で、お姫様に戻った少女の事をそうっと見守るだけで良かった。彼女には彼女の道があって、俺には俺の道がある。それは当然の事に思えたからだ。)俺の隣に?(だけど彼女はそんな事を言う。不思議がった双眸が月を模し、角度をつけて彼女を映す。ゆらゆら揺れる繋いだ手は、落ち着かない心地の表れ。差し出された紅に我らが女王の事を思い出した。ああ、あの癇癪!朝に出逢ったあの場所がなつかしくなって、俺は微かに笑ってしまう。)あーあー、それは早計ってやつだぜ。俺のことちゃんと知る前にそんなこと言っちゃうなんてさ。(夢の中とおんなじようににんまり顔。無防備なところがちっとも変わっちゃいないんだ。)俺はあんまり聡くないから、きっとたくさん間違えるよ。一般的じゃない寄り添い方も上手くできないかもしれないし、一般的な寄り添い方っていうのも実はよくわかってない。いっぱい怒られてきたし、これからもたっくさん怒らせるんだろうな。変な話だけど、俺さ、最近やっと歩き出したんだって感じなんだ。朝目が覚めたとき、時々自分が誰でここがどこなのかわかんなくなるし、陽優や母さんのこともまだ…、それは俺が向き合わきゃいけないことなんだと思う。だから…(一般的な寄り添い方が出来ないという点において、おそらくは慎ましいアイドルよりきっと俺は程度が酷い。馬鹿で乱暴な俺がまたふたりになる事は、夢みたいに美しくて、恐ろしく儚いことでもある。俺は終わりを知ってしまっているからだ。言い淀んだ言葉の先をもしも思うままに辿るなら、手の感触が消えてしまわないうちに。)…これからたくさん俺のこと、教えてあげる。きみのこともたくさん教えてよ。夢の中の出来事だけで、きみをすっかり理解した気になりたくないんだ。(ぽつりと雨だれのように落ちた言葉は月面に何と響いたことだろう。スニーカーの踵がコツコツ音を立てても身体はまだここにある。根無し草にも家が出来た。帰るべき場所が今はある。)その薔薇を俺にあげてもいいかなって、もし思ってくれるなら、はじめにいくつか約束してくれる?聞き逃さないように、ようく耳を澄ませてね。――消えちゃわないこと。壊れちゃわないこと。俺をひとりにしないこと。それから、俺を呼ぶときにくんはなし。(内緒話の声色は、花に触れるようにそうっと。陽優に焦がれた俺は、懲りず今は違うものになりたがっている。絶望の朝が希望に変わったように、今はもう取るに足らない事たちがあんまりに愛おしすぎて、本音を言うとちょっと困ってる。馬鹿みたいだけどさ、ヒューでも王子でもなく、性差すら投げ捨ててしまって、俺は俺を好きでいるために、ただの優吾になりたかった。だから。たったひとつの希求を音にするだけなのに、馬鹿みたいに緊張しちゃって息を吸う。ふたつの満月が照れくさがって欠けた。“だから”――ほら、呼んでよ。“麗花”。)
春名優吾 2020/03/04 (Wed) 18:28 No.78
(『Startice』における自分の担当カラーは紫。知名度が上がるにつれて自然と自分の色やグッズに反応してしまうことは増えていたが、街中でそれらを見つけるよりもずっと嬉しいものだった。彼の中に自分が生きているようで。そっか、と瞳は喜びに細まっていたけれど――)? ええっ?だ、駄目だった?(早計だと評され、驚きに丸まる瞳はその先にあるのが拒絶なのかとすっかり早合点しておりわたわたと慌てたのも束の間の杞憂に終わる。)あ、……(そういうこと、か。納得さえできれば微笑みも浮かべることは余裕だった。この世界では初めましてで、夢の中の彼ではないのだと知っていたのにまるで生き急いでいるみたいで少し恥ずかしい。時間はたっぷりあるのだから、少しずつパズルのピースを埋めるみたいに形取っていけばいいのだ。)うん、消えないし壊れないし一人にしないよ。約束す、………る……。……ゆ、……う……優吾……。(内緒話は背徳感にも似た何かを芽生えさせる。彼は狡いひとだ。お陰で心臓が煩い。近しい唇と吐息と優しい月の色――そのどれもに囚われたまま、『うしろ』を取っ払うことはなによりも恥ずかしいことだった。普段敬称をつけた呼び方ばかりをしているおかげで、何も付随しないそれはなにより特別だという証のかわりになっただろう。ゆうご。改めて呼ぶその三文字はすとんと胸の真ん中に落ちてくる。温かい音だった。長く伸びた睫毛が一度しばらくの間紫を覆い隠すように伏せられ、大きく深呼吸したあとに再び姿を現わす。宝石の色をした双眸は然りと覚悟を秘めていた。)ずうっと信じていて、私を。(震う音は歌うときよりもなによりも力強い。薔薇を握らせるように彼の両手ごとぎゅっと掴んで、視線は恥じることなく恐るることなく真っ直ぐなまま彼を貫く。)私ね、あなたの月でありたいの。あなたの星でもありたい。優吾が溶けてしまわないように夜になりたい。優吾が迷わないための朝になりたい。あの不思議の国の景色も思い出も何一つ忘れないから、此処まで歩いて来られた。優吾に、あなたに出会えて本当に良かったと思ってるの。これからも、その思いは変わらない。(アイドルになれた今だからこそ言える。誰かのために頑張るということは何よりも力に変わるのだと。二年前の自分の原動力になってくれた彼は、自分の原点であり今でも変わらぬ熱でもあるから何よりも愛おしくて尊くて。やはりあの夢がなければ今の自分が輝けることもきっとなかっただろう。彼との出会いと約束が確かに咲夜麗花の人生を変えたのだ。)だからお花、一緒に手向けにいかせてくれるかな。(眉尻を下げて初めて強請ったのは、彼の原点に触れること。相手のために自分には何が出来るのだろうと手探りだが、ヒューではなく、春名優吾という人のことを一つずつ知っていきたい。そのためにはこれはきっと見ない振りなどできないことだ。彼と歩いて行きたいと思うなら尚のこと――うん、きっとこの世界でも言うんだろうな。あなたのこと好きだよって。)

(明日は雨かもしれない。水たまりの水がスカートに跳ね返るかもしれない。取るに足りないことも大きな壁になるかもしれない。これから先たくさんの困難が待ち受けているかもしれない。それでも、あなたとまた再び運命が交わった奇跡と約束は私を強くする。誇らしさを胸に抱いて、ふたりで歩いて行こう。――「ねえ優吾、やっぱり運命ってあるのかもしれないよ!」咲夜が喜んで語る日。彼に送ったLINEメッセージの一つ、添付された写真にはましろのあの日の衣装に身を包むアイドルの姿があった。信じられないけど、これが真実の物語。王子様もお姫様も魔法が解けてしまったけれど二人が辿るお伽噺はきらきらしたまま、ずっと続いていく。A dream is a wish your heart makes.If you keep on believing,the dream that you wish will come true.)
咲夜麗花 2020/03/06 (Fri) 23:01 No.88
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