うん、うんっ。おれも、……おれもいつか、お母さんにおれのともだちだよって紹介……出来たら、いいなあ。(ねむり草の香りを乗せた夜風が濡れた頬をこしょこしょ擽って、それがあんまりにも心地良いものだから、後ろ髪を引かれるまま立ち止まってしまいそうになる。爪先がはみ出した足先も固く繋いだ手も僅かに震えていただろう。だけど、それで良いのだと思った。怖くて当たり前だ。生きてるってそういうことだ。大切なのは恐れないことでも傷付かないことでもなくて、そんな弱い自分を受け入れること。そう思えたのは、隣に立つ彼女がコルネの分までコルネを好きでいてくれるからだった。撫でられた手の甲から滲む勇気を握って、せーので地面を蹴飛ばすイメージを脳内に思い描く。夢にあふれたおとぎの国ならば、白い羽でも生えてきそうだ。すぐ隣の横顔を最後に一度眺めて、少年はコルネらしい笑みを浮かべた。明朗で、悩みなんてなさそうで、いっつも幸せそうな。ファンタスマゴリアの住人らしい笑顔を。)せーのっ!(元の世界へ戻る方法は、目覚めたら一番逢いたい人の顔を思い浮かべて、月へ向かって跳ぶこと。うさぎの尻尾みたいに丸かった月は、今にもまなこを閉じようとしている。掛け声に合わせて跳ねた身体は、きらきら輝く流星に紛れて夜の空へと落ちていく。閉じた瞼の裏側に思い描いた少女の表情を忘れませんようにと祈りながら、結んだ手に力を籠める。まるで空でダンスをしているみたいな感覚。憂鬱な帰り道も、こんな風変りなら悪くない。「またね!」と叫ぶともだちの声を背中に受けながら、ふたりの身体は沈んでいく。その手が解けてしまう前に、不思議の国から目覚める前に。薄く開いたくちびるは、彼女の名前をつむいだ。)ナル。おれの名前はね、…………。(ワンダーランドのコルネじゃない本当の名前。それを伝える前に、ページは捲られてしまうだろう。おとぎ話というものは案外にせっかちなものなのだ。こうして、ファンタスマゴリアのコルネといっぴきおおかみのアリスは元の世界へ戻っていきました。ふたりの再会が知りたいのなら、どうか下巻を手に取って。ファンタスマゴリアでなくとも奇跡は起こせるってことがきっとわかる筈だから。月が夜空で居眠りを始めた頃、ふたりのともだちを見送った子ネズミはチュウと鳴き声を残したきり、いつまでも星降る空を仰ぎ続けていたそうな。そんな子ネズミの大冒険が描かれる予定は――残念ながら、今のところはないみたい。)
コルネ〆 2020/02/25 (Tue) 15:54 No.80