……そう思ってもらえるなら、よかった。(死にたくって失敗した。彼女は幸運に数えてくれるそれは、自分にとっては不運で。けれど記憶を失ってしまえば夢の世界に埋没し、生を謳歌してさえいた。──だったらやっぱり、自分は、本当は、生きたいのだろう。生も死も幸せになるための手段であった。それでも、能うならば、命を繋いだままで幸福に辿り着きたかったのだ。そして、眠る体質でさえなければ世人と等しい幸を手に入れられたのだろうと知った今、枷だらけの現実に還されようとしている。独りで放り出されるのであれば、同じことを繰り返していただろう。還りたくないと心底絶望し、涙もしていただろう。けれど今はふたり。涙はいつか止み、心も凍えぬままでいられる。高所に目の眩む思いこそしても、現の烈火に目を側める気持ちとて最早持たぬ。そう思わせてくれた人は傍らに。叫ばずとも声の届く近しさに。)そうだね。……謝りっぱなしっていうのも……疲れるし、ね。君がいてくれるなら……まだ、……また。頑張ろうと思えるよ。(嘗て。諦めてしまう以前。何とか"普通"に生きようと、必死になった時代もあった。手の甲に刻んだシャープペンシルの痕数こそ忘れても、生きたいと願っていたあの頃の心を蘇らせることは難しくないと感じている。それもこれも──やっぱり、彼女のお陰なのだ。)……今までのように、これからも。君に、喜びを……幸せを、贈れるもので、ありたい。(棄ててしまいたい自分でも、誰かの役に立てるなら価値がある。彼女が喜びを抱いてくれたなら尚のこと、生きる意味も生まれてくる。指先と唇で触れる大切な君。その言葉が、声が、眼差しが、瞳が──すべてが、宝で存在理由だった。)俺も。……必ず君を探そう。どんなに時間を費やしてでも、必ずまた逢おう。(不可能だと思えることであっても、本当の恋人を望むのならば。やってみせよう。上辺だけでなく、心の底からそう望もう。さあ、跳び発とう。美しき夢よ、これにてさようなら。刹那鎖したまなうらに、幾年もの記憶が蘇る。無声映画のごとく次々と移り変わる景色、友の姿、優しく愛しきものたちよ。胸を焼くほどに鮮烈な思い出たちよ──忘れまい。開く瞼から覗かせる虹彩に、今ひとたびその姿を刻む。憶えていよう。たとえ夢幻に還るお前たちなのだとしても、捧げる感謝は幾年経ても決して薄れまい。褪せもしない。)さよなら。(それでもさようなら。この命が選ぶ最愛は、お前たちの中には存在しなかった。だからさようなら。)ありがとう。(されど慈しむ思いは決して変わらず、現の少女の手を取る選択とも矛盾するとは思っていない。この魂の歩む道程に住まうものたちよ。行き着く先にいてくれた君よ。踏みきる寸前に想い描く顔ばせはひとつきり。情の向け先は数多。そんな生き様さえも慈しんでくれるなら、どうか見守っていてほしい。振り返らない。後悔もしない。だからどうか、夢のあとさきよ。星光の和らぎに満ちたものであれ。)
トロイメライ〆 2020/02/24 (Mon) 20:03 No.72