Mome Wonderland


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(love of mine.)
(朝は小鳥たちがおはようと囀って気持ちの良い風が吹き込み、夜はまたたく星々に見守られ、穏やかな一日の終わりを迎えること約二週間。朝食にかのひとの来訪を受け、外界へ誘われては日差しの中を歩き回り、日没頃にはまた用意された家へと“帰る”日々。それが今日は、穏やかな心境とはとても言い難い。赤の女王によって限られた期限は月が消えるまで、その当日。三日月限界まで細く欠けた夜、娘は右の耳朶に咲いた約1センチの宇宙に触れた。あのひとのことが、好きだ。誰かに寄せた気持ちの中で、いちばんつよく“愛”を感じたと言ったら、まだ若いだろうにと馬鹿にされる?されても良い。誰かと一緒にいたいと積極的に思ったのははじめてだったから、誰かに触れたいと、恋しいと、いとおしいと思ったのははじめてだったから。こんな気持ちを抱えたままで、決して首を刎ねられたくはなかったが――もう、手の打ちようがない。首は今晩刎ねられるのか、明日か、とかく約束の期限は切れる。最後の晩くらい、かのひとの腕の中で眠りたかったかな、なんて平気な振りして心に嘘ついて。でも本当は、だって、死にたくない。生きるってどういうことかってずっとずっと考えていたけれど、まだ明確な意味が芽生えた訳じゃあないけれど――もしもあのひとと一緒に生きる道があるのなら、私は、ともに生きてみたかった。ただ、あのひとの為だけに生きるだけじゃあ、それはそれでまた駄目なのだろう。きっと依存というに他ならないから――ならば“一緒に生きる”とは、一体どういうこと?疑問は回りに回っていつもと同じく迷宮入り。そんな風にこの小さな部屋を眺めて、自分のものではない本に首を傾げた――“Read me”?ばかな娘にも、さすがに読める。)――…あの時の声が、ライの…?………っライ、トロイメライ…!(それが、あの男の真実じゃ。扉の辺りからそうかかった声に思考はふつりと切れ、下げられた小さな頭に瑠璃が瞠る。あのひとは生を諦めたのだと、そんなの、どんな気持ちだった?女王さまもその従者の措置も確かに意外に思ったけれど、そんなことより、何よりずっと、)…トロイメライには、どんなにつらい現実だっただろう。どれほどつらい夢、だったんだろう…?(夢も希望も初めから奪われて、なぜそれ以上、生きたいと望めるだろうか。いのちに価値が見出せないなんて、その意味合いは娘と青年じゃあ段違いだったのだと思い知らされよう。あのひとはぼろぼろの心を抱えて「誰か、たすけて」と、そうしてこのワンダーランドに来たのなら、もし現実を思い出しても果たして、戻りたい、還りたいと望んでくれるだろうか?)…女王さま。人生どんなことがあるかわかんないけど…、…逃げ出しても、戻りたくなくても、自分の生涯には違いないんだよね。前へ進めと、ライに喝を入れたら…あのひとは、私と生きてくれるかな?(かのひとのことを粗忽者とは、娘には言えない。言えないし、実際のところ二週間このワンダーランドにいて娘が思ったことは「戻りたくない」「帰ったとして誰が待っている?」のやらと――いっそ、かのひとと共にここで潰えるのも悪くないと、そうまでも思っていたはずだ。いつもじゃあなくても、例えば何度だって、血迷ったかのように。)――…でもね、でも。“嘘”だとおもって“ライ”と呼んだことはないよ。私の“夢”とあのひとの“夢幻”が、いっしょだったのが嬉しくて、そばにいられたのが奇跡みたいに輝かしくって、(首を刎ねられようが、僅か一時だけでもかのひとと共に生きたかった。現実世界に戻りたくなかったのは娘の方だ。そしてそれが紛れもない逃避行動だと、娘にも十二分にわかっていた。だから、それならいっそ――、)迎えにゆく。いま、声が聞こえるよ。あのひとの声が聞こえるよ。(あの夜には到底気付けなかった彼の声が、間違いなく私を呼んでいる。もう「一緒に死んでも構わない」じゃあ済まないんだ、あなたと「一緒に生きてゆきたい」から、娘はエプロンドレスを翻した。勢いよく幼気な女王さまを通り過ぎ――その女王さまが言う。あの男は城にいる。辿り着こう、いま“ふたりでしあわせになろうよ”なりたいよ、とこの気持ちを伝える為に。あのひとの許へと、早急に。ねえ、会えたら言いたいことがたくさんあるんだ。満天の下での口付けがうれしかった。でも、醒めない夢の中にいるだけじゃあ、この“愛”を伝えきる意気地がたりないって。私のはじめての愛を盗んだかのひとよ、いっそ“嘘”でも良いから、ああせめてやってみると、どうか生きてみると言ってちょうだい。でなければあなたと、決して恋人のようには生きられないから。)
ユメ 2020/02/17 (Mon) 15:22 No.8
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