Mome Wonderland


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(夢はひそかに、今宵をまって。)
(元の世界へ帰る手がかりは掴めないままのワンダーランド暮らしにて、舞踏会を告げたのは、いじわるな継母とお姉さまたち——では、なかったけれど。開かれるのはもう今宵だなんて、けれどふさわしい服を持っていないだなんて、今日の私はさながらアリスではなくシンデレラらしかった。いつだって愛おしい服を仕立ててくれるおさげのあの子が今日ばっかりは申し訳なさそうにするものだから、いいのよきっと大丈夫よ、と宥めるように頭を一撫で、普段着のワンピース姿で城門までやって来て。するとどうでしょう。待っていたのは、ドレスコードと、おしゃべりでおせっかいな花々たちでした。——『それで、どんなドレスにする?』『何色がいいかしらね?』)……!せっかくだから、あの、……かわいいドレス、みなさんにお任せしても、良い?あっ、色は……晴れの日の空みたいな——あの瞳の色が良いな。(花が仕立てるオーダーメイドのドレスに、この女の心がときめかないわけもない。それを咎める様な声はこの世界には無いともうよく知っているものだから—その中でもいっとう優しい彼が今宵もお相手なものだから—一生に一度かもしれない夜のため、どこか照れくさそうにも素直にねだった。ぽつりと添えた呟きまで、『あらパートナーのこと?』『空色ね?』『あなたの色よってちゃんと言いなさいよね!』ときゃらきゃら掬った花たちが手がけたのは——夢のようにひろがるプリンセスラインは、とびきりの女の子のためのもの。基調となる爽やかにも気品あるブルーグレーは、芯の通った大人のためのもの。ブルーのカラーパレットにほんの少しの桃色も隠し、幾重にも重なるチュールスカートが描くのは、たしかに優しく深い空の色だ。ベアトップの胸元から腰まで銀糸が花の模様を描き、淡いピンクのチュールリボンがプレゼントをそっと包むようにウエストに咲いている。背中が大きく空き、肌があらわになるのには少しそわっとするけれど、スタイリストたちのこだわりらしかった。いつか彼の触れた栗色はハーフアップに編み込まれ、小さな花々たちが自ら彩った。ひかえめヒールのレースパンプスで歩くと、その彩りがあまくやわらかに夜を香らせる。バラが呼んだ流れ星が降り注ぎちいさく輝くネックレスになれば、お姫様のできあがり。)……!すごいわ、もう、最高に嬉しい……!どうもありがとう!(息をのんで花園の泉にそっと自らを映し見る彼女はもう夢見心地だけれど、まだまだ夜はこれから。あなたが来てくれたのなら、はにかんでその名を呼ぶところから、はじまりはじまり。)
ミコト 2020/02/08 (Sat) 20:51 No.8
(前提を確認しよう。アリスは来訪者だ。彼女の見仰ぐべき城はおのれが見慣れた赤の女王のそれじゃない。夢はいつか醒める。咲いた花は散る。それが真理。……されど。ばらの花びらを地へ埋めたとして、ファンタスマゴリアならば芽吹くこともあろう。果たしてこれは信頼を預けてくれたむすめへの手酷い裏切りに成り得るだろうか? ――飛ぶように過ぎてゆく寧日。手掛かりらしいものも掴めぬ日々のなかで、あの鏡の森での一件以来、時折ふとエースの顔ばせが翳ることがあった。何かを考え込むような沈黙は饒舌な男の平生を鑑みれば、さぞ目立ったに違いない。お預けになったままの"欲しいもの"。こぼれ落ちてゆく時の砂。転機は、またも女王の命によって生じた。)――いいや。何も。(呼び出された舞踏会。出くわした女王の問いかけに答えるエースは何処か上の空。)あの花たちに任せときゃあ綺麗に仕上げてくれるだろう。そこは、まあ、心配してねえけど……。(らしくもなく歯切れの悪い口ぶりに赤の女王は怪訝な顔をしたものだ。何かを言い出したがるような沈黙を華やかな旋律が抜けてゆく。結果として、赤の女王にほぼあしらわれるような形で歩みだした。いつも雑に持ち上げられている前髪は舞踏会の装いに相応しくしっかりと固められ、コツコツとフロアを叩くそれはガチョウの店主が見立ててくれた新品のエナメル靴。紺色の燕尾服に合わせたのはシャンパンゴールドのベスト。夜色のパンツにもゴールドのラインを引いて、彼女に触れたがるゆびさきは今は真白の手袋の中に収められている。胸元へ黄色のばらを咲かせて、さあお姫様を迎えにゆこう――。求めたシルエットは泉のそばで見つかった。足音を忍ばせて歩んでいたわけでもない。青年の来訪は声を掛ける前に知り得るだろう。水鏡を覗き込んでいたむすめが顔ばせを持ち上げてはにかむ。真昼の蒼穹を写し取ったよな色彩のドレス。夜風に晒される華奢な肩。小花に飾られた髪。息を呑んで、刹那、頬に朱が走ったのを自覚した。ロマンチックな舞踏会にはおあつらえむきの星月夜。その変化も分かりやすかったに違いない。)……、……あ~。(詩人が万の言葉を尽くしても、そのうつくしさを形容するには薄っぺらい。言葉が出てこなくて、まごつく音を口にしながら、癖で開け放していた第一ボタンを締める。胸のあたりがそわそわして、ちょっとだけ切ない。)…花たちはいい仕事をしてくれたみたいだね。ミコト。(そんな他愛もない言葉からこの一夜をはじめよう。)
エース 2020/02/09 (Sun) 23:22 No.25
(——思い出したことがひとつ。あの満月の日、助けを求める声に駆られて走り出し、”落ちた“ということ。聞き間違いにしては随分とおとぎ話の始まりにおあつらえ向きだけれど、それじゃあ一体、誰の声?——先延ばしにしていることがひとつ。作ってくれるという”欲しいもの“のこと。心から嬉しい提案なのにチーズケーキを前にあれこれと言い浮かべてはお預けにしたのは、“お土産”の響きに胸がきゅうとなったから。お土産は、帰るためにある。きっとこの夢は醒めてしまう。分かっている。別れも突然やってくるのかしら、それとも正しく月が消える日なのかしら、どちらにせよ私は、彼に——、——まあまあ、そんな物思いも今は丸め込んで仕舞い込んでしまいましょう。だってこんなに素敵な夜だ、天の濃紺にきらめきわたる星々があふれ、まるでそこから降ってきたようにひかりを纏ったあなたがいて。)……!エース、きれい……!(晴れの空を纏う女は、はにかみにいっそうのよろこびと高揚をぱぁっとのせ、軽い足取りで待ち人に駆け寄った。零した感嘆の通り見惚れるほどの紳士に変身した男は、それでもやっぱり彼らしい、とボタンを留める指先に心が解れる。間近で見つめた表情に、ふと気が付くのは)すごい、とってもよく似合ってる!大人っぽ……、……ふふ。でも、“真っ赤っか”で“かわいい”顔になってるわ、エースくん?(そっとかんばせを指差し、出会ったばかりの頃の呼び名付きで、ふふん、と悪戯っぽく笑ったのはいつかの仕返しのようなつもり。他愛もない言葉には、自らのドレスを撫でて。)本当に。こんな素敵な思い出、一生忘れない——わ、っええ、あはは……!(ひとつの誇張もなくうっとりと紡いだ言葉は、あたり一面に咲くスタイリストたちにも届くだろうか。彼女たちが『ああ、あの瞳ね!』『あの色ね?』『あの男のことを言っていたんだわ』とくちぐちに噂する声はつつぬけで、あなたにも聞こえてしまいそう、聞こえていませんようにと祈り誤魔化すように笑った彼女の頬もじんわりと熱い。)ね、ねえエース。私のいた世界には舞踏会なんてなくって、踊り方とか分からないの。エースはできる?(花々たちには心からの感謝を抱いているけれど、このおしゃべりさんたちの住処からはきっと早く出た方が良いわ。クエスチョンマークを差し出したなら、ましろに包まれたあなたの手をとって歩み出すことは叶うだろうか。ドレスの魔法でいつもよりほんの少しだけ大胆に、切ないくらいに無邪気な心で、ふたりっきりになりたがった。)
ミコト 2020/02/10 (Mon) 21:05 No.32
(先延ばしになった"お土産"の希望を、早く早くと急かすことはなかっただろう。果たされぬ約束がある限り彼女を繋ぎ止められるような。そんな気がしていた。――きれい。そう口にする君の方がずっと美しいのだと、どう言ったら伝わるのだろう。億の賞賛を放つよりもエースの心を素直に表してしまう顔色は、やっぱり彼女にも気付かれていたらしい。悪戯な微笑みに子供っぽく口元を引き結ぶ。機嫌を損ねたんじゃなくて今宵の彼女は絵本から飛び出したみたいにとびきり素敵だったから。甘酸っぱい気恥ずかしさが喉元へせり上がってきた。)………誰の所為だと思ってるの? ミコトさん。(いつぞやの意趣返しをしっかりと食らって、この頬へ紅色を塗りたくった犯人を眇め見る。取ってつけた敬称はこの場において如何程の効力を発揮しようか。何処かぎこちない空気もなんのその。花たちは噂好きでおしゃべりだ。その声は断片的に拾い上げられた。"瞳"、"色"、"あの男"……最初は何のことかと思ったけど、むすめの花顔とドレスを交互に見てようやく合点がいく。)? ああ――……ふふっ。似合ってるよ。……お揃いだ。(目元へと手を遣ってくふくふとまろい笑みをこぼす頃にはもう固い空気なんてない。その色を選んでくれたことが嬉しくて、疑問符はもちろん、差し伸べられた掌だって上機嫌に受け取ろう。まだまだ口元は弛んだまま。ふたりきりで魔法のような夜へ歩みだそう。)俺も舞踏会なんてのは食うために来てるようなものだったからなぁ。…あっ、城の料理長特製のショートケーキは絶品だぜ。後でつまみ食いに行こうよ。(そんないざないを投げかけながら花園からむすめを攫ってしまおう。なにやら冷やかすような花たちの声も聞こえたけど、そこはひらりと手を振って見逃してもらうとして。靴先はメインホールへは向かず、星と月が飾る空のしたを往く。やがて辿り着いたのは中庭。しじまに満ちた空間であるからこそ、大広間から漏れ聞こえるワルツの調べも聞こえる筈。)…俺の腕前がどんなものか、試してみない?(それは少し前に問いかけられた踊り方の話。嘘と真の境界を彷徨う曖昧な口吻。立ち止まって望むはコンタクト・ホールド。片手は繋いだまま、むすめの左肩へと空の手を添えて。)此処なら誰も見ちゃいないよ。(悪戯に碧眼を細めてそのステップを唆す。エスコートには少々優雅さが足りぬかも知れない。とびきり豪華なダンスホールへ彼女を誘い込んだって良かったけれど――今宵くらい独り占めさせてくれたっていいじゃないか。手放せない指先に、甘やかな欲が滲んでいた。)
エース 2020/02/11 (Tue) 02:40 No.37
あは!いつものエースじゃないみたいだわ、(誰の所為かなんて、ふたりきりの花園ではそのクエスチョンこそがそのまま答えだった。彼まで魔法にかけられたようなドレスアップも、聞き慣れない呼び方も、それから自分の所為だということも、すべてが何だかくすぐったくって笑う顔は少女のよう。いつだって“彼らしい”と思わせるひょうひょうとした親しみやすさを持った男の新しい表情に口許が綻ばないはずもなく、にやけるのを隠すように手を添えた。もっともっと色々な顔が見てみたいけれど、おしゃべりさんたちの噂話に捕まれば百面相をするのはこっちの方。ほら、もう、聞こえちゃったじゃない!—そうそのまま顔に書いたよなぎこちなさでしばし泳ぐ視線。声が揺れたのを聞くと、気恥ずかしさにほんの少し眉を下げてあなたを見上げた。ああ、また、ほしい言葉もほしい微笑みもこんなに惜しみなくひとりじめできてしまう。きゅう、と結ぶ唇も締めつけられるような胸も、照れ臭いからというだけが理由じゃなくって。眩しいくらいのあなたの前で、今夜なら素直に言葉にできるかな。)ぁ、りがとう。……っうん、お揃いだったら嬉しいな、って……あなたの色が似合うなら、もうひとつ嬉しい、な(お礼とありのままの本心との間に小さな深呼吸をして、やわらかな声をつくってその瞳の色を見つめようとした。受け取られた掌はあなたに導かれ、女は淡く花を香らせて歩く。“いつものじゃないみたい”な彼にいつもの空気が戻ればそれはそれで安堵を誘ってくれるから、まるで、この手の温もりまでずっと昔から知っているみたい。)ふ、そっか。エースなら、ダンスのお誘いもかかりそうなのにね。人気者だもの(会わない日はない暮らしの中、街の人々に彼が愛されていることはすぐに分かった。だからこそ、彼がときおり自分を唯一のように大切にしてくれるのが不思議であり幸福でもあり—私にとっての彼が唯一なことは間違い無いけれど。「つまみ食いって響き、何だかわくわくしちゃうわね」と添えてくすくす笑う声だって、あなた以外に誰も知らない。——煌々と華やぐ光からかくれんぼするように辿り着いた夜のしじま。ふっ、とあなたに包まれると、)、!(手袋越しの体温が素肌にふれる。いつかのお姫様抱っこより、いつか髪を掬われた時より、もっとずっとからだの奥がふるえるみたい。不意打ちに刹那伏した睫毛は、ひみつを謳う囁きにそっと持ち上げて。)もう……何か、ずるいわ。——王子様みたい、(ふれあう距離でなければ聞こえないよな呟きがくちびるからこぼれた。こんなせりふ、言う日がくるなんて。ほのかなワルツの調べより、あなたの指先とステップに誘われるように、1・2・3、と踏み出してみよう。お姫様になるにはまだまだぎこちない足取りさえ、きっと愛おしいと笑える夜だ。揺れるブルーはあなたの色、ひめやかなピンクは甘く香るこころの色。)
ミコト 2020/02/12 (Wed) 19:05 No.55
(稚気てくちびるを尖らせるのも、切ないくらいの喜びで胸が張り裂けそうなのも、全部がぜんぶ君が為。ささやかな礼と共に告げられた"もうひとつ"にゆるく開かれた双眸。心音が速まらなかったと言えば嘘になろう。その琥珀のまなざしに射抜かれて、しばし言葉を忘却していた。なにせ――あまりに可愛いことを言ってくれたので。)…あの花たちに感謝しなきゃな……。(負けました、とばかりに目線を花園へ遣る一幕もあっただろう。今宵の彼女は魔法にかけられたヒロインのよう。為れば手を取り歩く幸運を得た男はどうだろう。少なくとも彼女をエスコートする間くらいはいつも通りに見えていたらいい。ほんとうは、淡くも確りと香る甘い花の匂いに、身も心も酔ってしまいそうだ。)まあ、あいつらは俺じゃなくたっていいわけだし。(たとえば舞踏会へと顔を出して、むすめが想像するようないざないを受けた過去を否定するわけではない。気まぐれに踊ったことだってあった。誰に対しても付き合いのいい性分なのだ。されども可憐な笑みを真横でこぼすのを認めては、もたげる欲がある。近頃の沈黙をもたらす正体。それは、きっと――。)…でも、ミコトとはじめて踊るのは俺が良いな。…俺とだけ踊って欲しいな。(なんて、目尻をかすかに下げて、ほろりと冗談の温度で落とした本音を君はどう受け取ったのだろう。こんな願いを掛けなくたって、彼女の世界に"舞踏会"がないのならこれが最初で最後になる可能性が高かろうに。どうしようもなく、エースは欲張りだった。)――、光栄だね。(耳朶に触れた音にはにかんで紡ぐ声柄は弾けるよな多幸に満ちる。彼方の旋律を頼りに、星あかりでまぶした一夜の舞踏会が幕を上げる。手袋越しに触れる肌、長身といえども男のそれに比べれば華奢な体躯。壊れ物を扱うように大切にゆびさきを馴染ませて、踏み出す一歩。ぎこちないステップをリードする青年の挙措は、存外手慣れてもいただろう。あざやかに揺れる燕尾。しなやかな身のこなし。相応の努力の跡を感じさせる足さばきでワルツは続く。)…ミコトは、お姫様になりたかった?(ダンスの延長線上のような調子で投げかけた疑問符は、無論、からかいの色なんて絶無。鏡の森。今宵の姿。それらを結びつけて爪弾いた推論を、彼女のことを知りたいという純な欲求で以って放った。)………王子みたいな男じゃなきゃ、好きにはならない?(ならば、次いだ問いにはどんな意図があっただろう。下弦の月。まばゆき星影。城の遠い灯り。それらに照らされる男の顔ばせは凪いだ湖面が如く穏やかで、眉尻だけがちょっとだけ寂しそうに垂れ下がっていた。)
エース 2020/02/14 (Fri) 01:47 No.72
っ、(そうかしら、きっとその子たちだってエースとだから手を繋いで踊りたいんじゃないの?——なんて、乙女たちの気持ちを勘繰るかのようなせりふを軽い調子で謳えなくなったのは、彼がすぐに紡いだつづきのせい。ぱちくりと瞬いてはみるみる火照るむすめだって、ほろりとした口ぶりを聞き落とすわけではないけれど。それでも26にしてうぶな心はいちいち反応してしまうのだから、冗談だとしたらタチが悪いわ。)……誰にでも言ってちゃ嫌よ、そんなこと。(つんとくちびるを尖らせたのは、夜へ溶けてゆくずるい温度へのせめてもの抵抗として。私だけにしてね、なんて可愛く言えやしないけれど、欲張りさんはお互い様らしいと伝わるだろうか。——広い広いお城の中、大きくひろがる星空の下、ふたりきりの世界をうきぼりにするのはその優しく熱い指先だった。今宵を舞う足取りの確かさにおどろきときめきながら、辿々しくもチュールのスカートを青く揺らそう。みどりの上で踏むステップは、少しずつ、あなたのワルツに追いつき馴染んでゆこうとするけれど——不意に降る疑問の声を聞き取れば、見開く瞳とともに、と、ととと、とん、足元のリズムがくずれた。)——……わ、たし、(自分の中の奥の奥。いっとうかわいい箱にリボンをかけてずっとずっと仕舞い込んでいた気持ちを、今、目の前のあなたに解かれてゆく。それは決して嫌じゃあなかった。あなただから、よかった。)……そう。お姫様に、なりたかった。(彼の言葉をそのまま借りて、そっとささやくように零した。口に出せば切ないくらいだから——ああ、あなただって、なんて顔をしているの。正しいステップを取り戻すように、1、2、3、と、ゆっくり踏み出して。)憧れているの。お姫様みたいに……優しく、自分らしくいられて、愛する人からとびきり愛されて、幸せに暮らすような。……でも、だからって……好きになる人は、きっと、出会ってみなくちゃ分からない。……出会って、名前を呼んで、一緒に過ごしていれば——……分かっちゃうの、(花の香る夜のしじまに、ゆっくりと選んだ言葉たちを浮かべてゆく。その声も、伏し目がちにする睫毛も、穏やかに甘いけれど、ひとたびかんばせを見上げてしまえば、繋いだ手に力がこもる。)ねえ、——ねえエース、やっぱりずるい。そんな顔で、そんな風に言われたら、私……言っちゃいそうになるでしょう、(あたたかな夜にふるえる吐息が熱い。女を導く足取りは、まだ踏まれているだろうか。——ワンダーランドには好きが溢れてる。人が街を想うように、女王が民へ叫ぶように、蝶が花にとまるように、鳥が空へ飛ぶように。だけどそのどれとも違うかたちに、気付いてしまう。認めてしまう。)——あなたが好きだって。(きっとこの夢は醒めてしまう。それなら秘めなくてはいけなかったかもしれない想いは、願うように切ない表情にのせて、星屑のようにささやかにこぼれた。私をびっくりさせて、ドキドキさせる、あなたへの恋に出会ってしまった。)
ミコト 2020/02/14 (Fri) 23:11 No.83
(「君だけだよ」――明け方の三日月みたいな双眸を流して、口の端だけを持ち上げて告ぐ言の葉は、輪郭から溶け出してしまいそうなくらい甘ったるい。ささやかな抵抗さえも都合よく解釈して、けれどそれが許されるとも思っている。熱い指先の温度も、抱いた願いの形も、どれもこれもお揃いでお相子でお互い様なのだ。――神秘的な月下美人。楚々としたナイトフロックス。星月のスポットライトに照らされて踊る演者を眺める観客は沈黙は美徳とよく心得ているらしい。尤も青年の目には花も星もろくに映ってやいなかった。まるで世界にふたりきりみたいな夜。ちょっとだけ円舞のリズムが崩れたのなら自分もステップを緩めよう。そうして再び規則正しいリズムを刻む靴音が音楽にアクセントを与える。)――うん。("……この格好で、変じゃない、かな" 出逢ってすぐそんな風に尋ねられたことを想い起こしながら相槌を打った。可愛い、なんて。ありふれた褒め言葉にすらうぶに反応してくれた理由が今なら分かる。たいせつだからこそ誰にも壊されたくなくて箱へ仕舞い込む。そういう心の動きだって自然なことだろう。…それでも。)――、……。(宵に浮かべられてゆく言葉につられるみたいに、自分の体温もぬくく上昇しているようだった。細く長い睫毛を眺め見る。応えるようにゆびさきを握り返す。曲の終わりに合わせて足取りも絶える。いつかすべては醒めてしまうのに。降る星よりも鮮やかに飛び込んできた想いが在る。今、この胸に湧きいづるどうしようもない愛おしさを、果つるまで憶えていたいと願ってしまった。)……ミコト。(これまでに幾度も君の名を呼んだことがあっただろう。されどもその何れとも違う熱く切ない声柄で薄いくちびるから漏れ落ちた。喉奥に引っかかっていた希求がある。これは信頼への手酷い裏切りだ。わかっている。わかっている、のに。)……帰らないで。(好きだから、を枕詞に置いてしまうのはあまりに残酷。ゆえに秘めた想いも、碧眼からぽろり溢れるひとしずくの存在を思えば音に成したのと同様であったのかもしれない。肩へ遣っていた手を引き戻して、むすめの頬へたなごころを添わせることは許されるだろうか。気恥ずかしくても、花咲かすものでないとしても、せめてその目を見て伝えたくて。)なんて、ね。(声の芯は震えなかった。落涙の証は潤んだ瞳だけ。顔貌だって器用に笑みを咲かせていただろう。愛し君へ贈りたいのは呪いでなくて祈りだから。)――俺にとっては、ずっと、ミコトがいちばん特別な"お姫様"だよ。(はじめに告げた願いは虚飾に挿げ替えて、代わりに過去形にはならない真実だけを君へ捧ぐ。たとえ彼女の"王子様"になれなくても、とこしえに続く魔法をかけよう。近づいてゆく顔ばせ。甘やかに香るは花か、彼女か。ふたりの距離が零になったのなら、君を縛っていた呪いが解けますように。君の見た夢はファンタスマゴリアにも負けないくらい、優しくて、心を躍らせる、素敵な夢なのだから。)
エース 2020/02/16 (Sun) 01:48 No.87
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