Mome Wonderland


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(甘いあまい星空に飾られて。)
(この世界に落っこちてきてもう十日が経ってしまった。相変わらず元の世界に戻る方法はわからなくて、でも思ったよりも悲観的になっていないのはいつかに彼がくれた「大丈夫」の言葉のおかけだろう。──さて、突然に催された舞踏会に着の身着のままのこのこ出向いたら、あっさり追い返されて追いやられた花園。「で、あなたはどんなのがいいわけ?」と早速質問を飛ばしてきたかしましい花たちの勢いに、人見知りならぬ花見知りを発動し「ぁ、え゛っ……」とこわばった顔で固まってしまった。しかし花たちは顔を見合わせたあと「……、おまかせってことね任せなさい!」と頼もしい言葉を返してくれ。その先はなされるがままの着せ替え人形だった。「セクシーなのはイマイチね」「色は黄色……いいえピンク!」「ロング丈は重たすぎない?」「裾はふわっとさせて……」「髪飾りは銀とピンクの星を束ねましょう」「ネックレスや耳飾りもお揃いがいいわよ」「ハイヒールは?履けないですって!?」「ま!それなら踵が低いのにしてあげるわ」「髪型を先に決めなくちゃ」「お化粧もよ」ああだこうだ、あれやこれや、ぴーちくぱーちくした末に、「「「これね!!!」」」と満場一致でゴーサインが出た装いは──まるでピンクの甘い星空みたい。胸元の淡いコットンピンクから腰にかけてのキャンディピンク、そして裾のローズボンボンへと彩りを移ろわせるグラデーション。夜空に光る星のよう散りばめられたビジューがきらきらと輝いて、身じろぎに合わせてたなびく雲はグレーのサッシュベルトリボン。ふわふわと広がるミモレ丈から伸びる華奢な足首はいかにも少女らしい可憐さで、けれどストラップに支えられたパンプスはいつもよりちょっぴり大人びている。普段はしない薄付きのメイクと、編み込んでアップスタイルに整えられた黒髪がそんな印象を後押しするだろう。)……あ゛っ、りがとうございま゛した……っ(力を尽くしてくれた花たちへ深く頭をさげると、「いいのよ」「ほらあんまり頭を下げると髪飾りが落ちちゃうわ」「はやくお城に戻りなさい」と送り出してくれ。 ──とっても綺麗にしてもらったと思う、なんといっても女の子だから嬉しい気持ちももちろんあるけれど、正直なところ落ち着かなかった。今や慣れてしまったもののあのギンガムチェックのワンピースだって気恥ずかしかったのに、こんなふわふわできらきらのドレスなんてそわそわしてしまって仕方がない。背伸びの踵は慣れていないし、メイクだってほとんど初めてだ、いつもは髪裾が触れる首筋がすっきりしているのもすこし恥ずかしくて。)このまま帰っちゃだめ……かな。(国民全員がお城に集うなら自分ひとりくらい居なくたって分からないんじゃないかなって考えがよぎる。打ち首になるのはいやだから実行する勇気はないけれど、ビジューが飾る夜明け色のパンプスはなかなかお城のほうに向かずに。)
ナル 2020/02/08 (Sat) 15:22 No.6
(女王様の仰せのままに。丁寧にお辞儀を返す代わりとして頬張っていたクッキーを飲み込むと、大慌てでパン屋二階のクロゼットに頭から飛び込んだ。赤を冠する女王様の気まぐれは今に始まったことでは無いけれど、男の子だっておめかしするのに三秒では足りないのだからもう少しだけ早く教えて欲しい。文句を言う口はどうなってしまうか分からないから、粛々とした報せの声に従うまま手早く準備を整える。いつもの濃紺よりもう一段黒いタキシードは、裾を捲ってみれば裏地に星の瞬く夜空が描かれている。否、これはファンタスマゴリアの空そのものなのだ。今日の月と同じ形をした月と、星と雲とが布の内側で徐々に色や形を変えていく。首元を彩る蝶ネクタイは気持ち大きめに、落ち着きのあるグレーをしたものをチョイスした。皮の靴に白い手袋、ポケットに突っ込んだ懐中時計はどうせ出番なんて無いけれど。城の門を潜ってすぐ、門番をしているトランプ兵たちの前でくるりと回っておかしな装いでないことを確認してから、真っ赤な絨毯を辿り賑やかな城内へと足を踏み入れた。――さて、肩を竦めながら我らが女王様との謁見を済ませた男は騒々しく足音を響かせながらおしゃべりなお花たちの元へとやってきたわけだけれど。)おれもナルにお洋服選んであげたかったのにさ!ずるいよね!ほんとに!(入口近くの薔薇と話してからというもの、不満がぱちぱち弾けて止まらない。迷子のアリスがどんな花にも負けないくらいに愛らしいってことを、コルネはよく知っている。彼女の為なら毎日だって店先でファッションショーを開いてやりたいくらいだ。美味しいところを横取りされたみたいな、宝物に容易く触れられたような。形容しがたい感情に曲げていた唇は、けれど一等大きな薔薇のアーチを抜けた先に今夜の物言う花園で最も美しい花を見つけた途端、柔らかな橋を掛けることとなる。今日は小さな相棒を置いてきたから、跳ねる足取りを止める者もいなかった。)ナル!こんばんは! ……女王様ってこんなに綺麗なお花も隠してたんだって思ったよ!ほんとうに、ほんとうに、……きらきらしてるね。(勢いのまま飛び出した癖して、いざ間近で彼女を眺めていたら面と向かって褒めちぎるのに一抹の照れ臭さが芽生えてしまって。手袋に覆われた指を遊ばせながら、くしゃりと気取らない笑みを浮かべてみせた。足先が触れてもおかしくないくらいの距離のまま。)でもね、パーティの日のナルもパーティじゃない日のナルもおれはすっごく好きだなーって思うよ。(鏡の森から彼女を連れ出してからというもの、殆ど口癖みたいに口にしている好きがまたひとつ転がり出る。元の国へと帰る手立ては一向に見つからないというのに、好きなところは両手の指では数え切れないくらいに見つかってしまった。なんてこった!)
コルネ 2020/02/09 (Sun) 21:16 No.21
(もうすっかりと耳に馴染んだ呼び声にピクンと肩が跳ねた。反射で面持ちに浮かぶ喜びの色の直後に、今の自分の格好を思い出してぶわっと恥ずかしさが膨れ上がる。咄嗟に逃げをうちかけたものの、おたおたと慣れないヒールでは彼の跳ねるような足取りのほうがずうっとはやくて。)っこ、こん゛ばんは、コルネくん゛……!(結局ぎこちなく振り返って、ぎこちない挨拶をぎこちない笑顔で返すはめになった。やたらに緊張してそわそわと落ち着かないのは気恥ずかしさの他に、いつもと装いを変えた彼の姿にドキッとしたせいもたっぷりあった。そんな心臓のはやりを誤魔化すみたいに、周囲をきょろきょろ見回して。──どのお花も綺麗だけれど、彼がこんなに興奮するくらいとびきりに綺麗なきらきらのお花ってどれのことだろう。こっちの赤い薔薇?それともあっち? しばらくきょろきょろしてから、気取らぬ笑顔とすこし照れくさげな視線がすぐ近くからまっすぐに自分に向いていることに気付く。──えっと、まさか、それって。)わ゛、わ……ゎたし、の、こと……?(そんなまさか、と根暗な思考は思うのに、頬には勝手にぽぽぽっと熱が灯った。こんな自意識過剰めいた思考が浮かぶようになったのは、可愛いだとか好きだとか両親からしか贈られたことがないような言葉を彼が惜しみなく伝えてくれるおかげにちがいない。裏付けるようにまたひとつ自然に好きをくれるから、ドキリと裾とリボンが揺れて。)! (強張ったって、ぎこちなくなったって、笑ったって、涙したって、変わらず親しく接してくれる。おめかししたって、いつもどおりだって、好きだと言ってくれる。ひどくどぎまぎして、でもそれ以上に嬉しい。想いが喉でつっかえて、いつも貰いっぱなしになってしまっている気持ちを今宵こそは返したくて。)ぁ゛!の゛! ……わた、私も……その゛、いつものコルネくんも、今日のコルネくん、も……っ、す、……すすす、……好き、だよ゛……。(他者に、それも男の子に、「好き」なんて伝えるのは初めてで、頬が熱くて頭のてっぺんからぷすぷすと煙があがってしまいそう。赤い頬を隠すようにうつむきがちに、ちらりと視線だけが彼を盗み見る。今宵は耳も首筋もあらわだからそちらの染まり具合から察せてしまうかもしれないけれど。)……そういう格好も、似合うね。……かっこいい。ジェントルマンって、感じ。(彼は普段からかっちりした格好をしているほうだけれど、舞踏会用のおめかしはやっぱり雰囲気が違う。明るく甘やかな髪色に黒のタキシードがよく映えて、ほろほろ零れる拙い褒め言葉は心から。お化粧のせいじゃない頬の薔薇色を、周囲の花たちがくすくすそわそわ見守っていた。)
ナル 2020/02/10 (Mon) 07:32 No.28
(女王様は赤い薔薇がお好みだ。それこそ誤って白い薔薇を植えようものなら、ペンキで塗り潰さねばならないくらいに。けれどコルネは、赤でも白でもなくふたつを混ぜた彩りが一番に好きだった。だから髪の色は生まれつきの桃色なんだと子ネズミの一匹に言ってみせたら、順序が逆じゃないのと返されて頭を捻ったのは昔の話。兎角、大好きな色彩を纏った少女を可憐な花にたとえた少年は、我ながら言い得て妙ではないかと満足気に頷いていた。彼女が自らの考えで、花の正体に至れば尚更に。おれが変えてやったんだなんて高慢なことは思わない。けれど、その変化を間近で見てるのはおれなんだって胸を張りたい心地になる。しましま模様の猫みたいな三日月型の笑みを作って、)当たり前だよ。ナル以外にいるわけないじゃん。(元気なおひさまが好き。頬にくすぐったいそよ風が好き。焼きたてのパンの匂いも、日が暮れるまで本に没頭するのも好き。けれど最近のお気に入りは、専ら目の前の迷子ちゃんだった。首を落とされる恐れと、帰る方法が見つかる――見つかってしまう寂しさとではどちらの方が重いのだろう。こころの天秤を目にすることは叶わない。しかしながら、今この瞬間に喜びが何より大きいのは空と地面とがひっくり返ろうと変わらない事実であった。出来るなら髪飾りのひとつでも選ばせて欲しかったけれど、コルネくんもと必死に押し出された声を聞けば胸がいっぱいで苦しいくらい。)あはっ!うれしい!ジェントルマンって柄じゃないけど、……ナルが言うならきっとジェントルマンだね。隣に並んでてもへんてこりんじゃないといいな。(宝石と小石。薔薇とぺんぺん草。星と角砂糖。美しく飾った彼女をエスコートするのにコルネは些かばかりちんちくりんの自覚があった。けれど臆して縮こまることはなく。ぴっぴと伸ばした襟をもう一度伸ばして、「行こっか」と声をかけたのだけれと。)ナル、顔があちあちだ!大丈夫?調子良くない?無理してない?(りんごのキャンディみたいになった頬をみて、双眸は大きく見開かれた。近い距離はそのままに、両の肩口にそっと手を置けば、腰を屈める動きに合わせて花園の地面に映る影がひとつになる。頬と頬とが重なれば、湛える温度の違いも明らかになるだろうか。どこか涼しいところで休んだ方が良いだろうか。考えながら、目を伏せる。寄せた頬の熱はゆっくり、ゆっくりと馴染み始めていた。)
コルネ 2020/02/11 (Tue) 12:50 No.39
(自意識過剰めくもしかしてを疑う余地もないくらいにくっきりはっきり肯定されると、瞠ったまなこがぽろろんと落っこちてしまいそうな気さえした。いくらともだちといったって、ちょっと贔屓目が過ぎやしないかしら。畏れおおさにどぎまぎしてしまうけれど、嫌な訳では決してなくて。むしろ彼の目にとびきり可愛く映れているのなら、それはなんだかとってもくすぐったくて嬉しいことで。くるんと夜空を仰ぐ睫毛を散々そわつかせた末に「ありがとう……」を返すことが出来た。自分自身に関してはそんな調子だったけれど、彼のこととなればころりと一変。薄ピンクのサテンショートグローブをぐぐっと握って勢いこみ。)へっ、へんてこりんな訳ないよ…! ……とっても素敵だもん、本当に。(隣に並ぶのにふさわしくないのは自分のほうでは…なんてマイナス思考は折角彼が褒めてくれたのだから胸の隅に追いやって。ほら今も、ぴっと襟を伸ばす仕草と臆さぬ笑顔に目を奪われて、一層ぽわっと頬が色づく。そんなあちあちの赤みがとうとう彼に気付かれてしまったから、さぁ大変。)え゛っ…!? あ゛…っ ぅ゛、ちが、これはその、そういうの゛、じゃ、な──……(肩に置かれた手、近付いてくる彼の顔、重なる影、詰めた息……そしてぴたりと合わさった頬。)…………、…………(──……キス、されるのかと思ってしまった。だって漫画やドラマでよくみる状況だったから!男の子が女の子の肩に手を置いて、屈んで顔を近付けて、その先はキスって流れがお決まりだったから! そんな内心の言い訳ばかりはぐるんぐるん回るのにまんまるに瞠った瞳と固まった身体は石のようで、心臓だけがうるさく暴れて。真っ赤な頬は彼へ熱をじかに渡し、ふたつの温度を肌のうえで混じりあわせていく。──こんなこと、両親とだって近年はしていない、唯一愛犬とくらいだ。けれど彼はティティーのように毛むくじゃらじゃないし、ていうか人間だし、もっといえば男の子だし。 ぐるんぐるん、ぐらんぐらん、沸騰する思考となにかの感情がたやすく臨界点を突破し。)……っちちちち近、ちが違うから、体調不良とかじゃなくて、これはそういうのじゃなくて……っていうか、あのその、ちょっとちちちち近くないですかね!?!? きききキス、され゛る、かとっ、あぁぁいやななななんでもな……っていうか、今も、ほほほほほほっぺ……ほっぺが、ぴとって……して、ぴとってして、るよ…!?  あ゛っ、いやあのその、いいいい嫌なんじゃなくて、ね!? むしろなんていうか、どどどどどドキドキしすぎて心臓が爆発して死ん、死んっじゃいそうだから…! いつもはこういう時チップちゃんが止めてくれ……あれっ今日はチップちゃんが居ないね!?(頬をあわせた耳元で喋りまくるのだから彼もうるさかったことだろう。今更な最後の気付きではたと石化が解けて、彼のちいちゃな相棒を探そうとする身じろぎで頬が離れた。代わりに触れた夜気は火照り過ぎた肌を冷ましてくれてありがたいような、すこしさみしいような。そんななかでどうにか紡いだ「も、もう大丈夫……」がどれだけの信憑性を持っていたものやら。)
ナル 2020/02/11 (Tue) 23:30 No.48
(例えば道化の彼だとか、例えばかわいいを体現する彼だとか。華やかな衣装の似合う住人は多いけれど、コルネという少年はあまり華美な服装を好まなかった。というより、クロゼットを開けば見た目がそっくり同じジャケットとズボンが五着ずつ下がっているから、特別におしゃれをする必要が無いのだ。慣れないことをしている気恥ずかしさは、アリスの言葉ひとつでコットンキャンディに様変わりしてしまう。しかも口に放るとぱちぱち騒ぎ出すやつだ。前振りもなく頬と頬を寄せたのは、そんなすてきな気持ちをくれる彼女が溶けてしまったらどうしようと心配になった所為。ほら、現に喋ることすら儘ならないみたいだ。泳ぐ視線はどうしよう、どうしよう、と渦を描いていたけれど。)へっ!?(驚きの声が掻き消される。)ちょっ、ナル、(思わず読んだ彼女の名前も、)ま、待っ、待って、ねえ、(制止の声も、次から次へ溢れ出してくる彼女の声に呑まれてしまった。時々、夜の空に目を凝らしてみると流れ星の大群が一斉に地面に向かって零れ落ちる時がある。今まさに、それを目にしている気分だ。耳から脳みそまでビリビリ伝わる声音は、怒っている風ではない様子。嫌じゃないとも言っているし。宥めるように一層摺り寄せた頬は、留守番を言い渡された友人の名前が出てきたところで漸く離れることと相成った。残念そうに下がった眉を隠しもせずに。)チップは店でお留守番してるよ。しんじゃいそうって何?いいこと?悪いこと?キスはしてもよかったの?(今度はこちらの番とばかりに質問を浴びせて、大丈夫だと言っていた少女の顔をじいっと眺めた。本当に大丈夫かと疑うこころは口にしなかったけれど、自然と首が傾いているから、少女にも伝わってしまったやもしれない。暫し少女を見下ろしてから、肩に乗せた手は自身の内ポケットへと向かう。そこから取り出したる小瓶には、星の欠片がぎっしりと。薄い水色、ピンク、黄色、紫にミルク色。色とりどりの星屑の中から黄色の欠片を取り出すと、指先で摘まんで彼女の口元へ。)甘くておいしいよ。甘いの食べたら気分が落ち着くんだって、誰かが言ってた!(落ち着かなくさせたのはコルネ自身だとは知らないで。呑気に笑って、彼女が欠片を口に含むのを待った。無論、それでは食べづらいようなら小さな掌に渡してやったろう。遠くからは楽器が歌う音が聞こえてくる。エスコートってどうするんだろう、したことないからわかんないや。いつものお出かけと変わらぬ調子で手を差し出して、月明かりの下で笑う。)あっちは人が多いからさ、庭の方でこっそり踊らない?おれさ、ダンスへたっぴだから見られんの恥ずかしいんだあ。へへっ。
コルネ 2020/02/13 (Thu) 11:08 No.63
(制止の声も聞こえずに喋りまくったからちょっぴり肩で息をする羽目にもなったけれど、どうにかひとまず言の葉の流星群をおさめ。)そっか、チップちゃんはお留守番……し、しんじゃいそうは死んじゃいそう、だよ……。もしかして、分からない? ここってひとが死なないのかな…?(アリスたちのように外からやって来た存在はとびきりの珍事らしいので、増えるひとが居ないってことは減るひとも居ないってことなのかもしれない。このおとぎの世界ならありえそう……なんて考えかけたものの、その先の問いかけに頭は途端にそれどころじゃなくなり、背筋がびょびょっと伸びる。)キッ……、っな゛んで、死んじゃいそうは分からないのにキスはわかるの、も゛うっ! ──……、…………こ、コルネくんに、なら、……ぃゃ、じゃない、けど……ドキドキし過ぎて、出逢った時みたいに気を失っちゃう、かも……。死んじゃいそう、って、そんなふう……。(キスされるのがいやじゃないなんて、なんて恥ずかしい事を口走っているんだろう。でも、嘘じゃなかった。くるくる回されるのも、抱き上げて運んでもらったのも、頬をぴったり寄せるのも、たぶんきっとキスされるのだって。ともだちに覚えるには過ぎたる想いの所以は、ふわふわ夜風に舞うリボン裾のよう今は掴まえられずに。実際にはされてもいないのに"死んじゃいそう"になりかけていたら、目の前へ差し出された黄色の星粒に反射で口を開いて。ぱくん!)──…おいしい。(ころころと甘い星を口内でころがせば、彼の言うとおり少しずつ心がほぐれてくる。恥ずかしさを逃がす吐息をゆるゆると抜いたら、頬のあちあちも幾らかましになるだろう。そうして叶うならば小瓶からミルク色の星を一粒拝借して、彼のお口へお返しできたらと。ふたりで甘い星粒をふくめば、きっと零れる笑みも甘くなる。)……っうん! 私、ダンスなんてしたことないから、もっともっとへたっぴだと思うけど……。(どんなに下手っぴでも彼の前では萎縮しなくていいのだと、もう知っている。だから、差し出された白にためらわず薄ピンクを重ねることが出来た。丁重なエスコートよりもいつもと同じ形が心地いい、……ううん、この変テコな世界で得たいつもどおりは元の世界では信じられないくらいに特別だ。大切にきゅっと手を結んで、お花たちにもう一度「ありがとう」を伝えたら、へたっぴふたりのためのダンスホールを目指そう。歩みはドキドキとワクワクに急かされて、いつの間にか一足先にタキシードとドレスの裾を踊らせる駆け足模様。辿りついたお庭で乱れる息も楽しくて、聴こえてくる音楽がさぁ踊ってと誘うから、すこし気恥ずかしい気分で夜明け色の瞳と向かい合おう。手の繋ぎ方を変えて、それからもう片手はどうすればいいのかな。彼の肩?腰?それとももっと別のところ? もしもふたりして分からなければ、両手を結んでしまおう。正しいホールドの形よりも、上手な足さばきよりも、彼と見つめあって笑いあっておんなじ音楽に身を浸すことのほうがきっとずっとこの心は幸せになれるから。)
ナル 2020/02/13 (Thu) 22:05 No.70
ナルが倒れちゃうのはやだ! どきどきするなら良いことかなって思ったけど、しんじゃうって良くないことなんだね……、気を付けなきゃ。ナルが元気じゃないと、おれも元気じゃなくなっちゃうもん。(昨日まで無かった洞穴を見付けた時のドキドキや、焼きたてパンを目の前にした時のワクワクとは、どうやら種類が違うみたい。正しく理解を出来ているのか居ないのか、蝶たちがチューリップに挨拶するときと同じ気安さで頬に口付けてしまわないよう想いを改めた少年は「後でみんなにも教えてあげなきゃ!」と元気いっぱいに宣言をするのだ。良くも悪くも有言実行を体現している少年は、実際に城内でおとぎの住人たちとすれ違うたびにアリスたちにとってキスは毒であるらしいと言い触らしたろう。隣の彼女の制止が無ければの話だが。兎角、星のちからで彼女の気持ちも落ち着いたようであるから。ほ、と吐き出した息は色付くことなく夜の空へと溶け消えた。)んっへへ、おいしいでしょ。一番おいしい部分だからね、みんなには内緒だよ。(もう一個食べたいのかなと差し出した小瓶から拾われた星粒が口元に寄せられると、朝色の瞳はしぱしぱ大きな瞬きを繰り返す。呆けた顔を晒していたのは数日を三つ数える間。忽ちぱっかり大きな口を空ければ、細い指先ごと齧ってしまわぬよう慎重に星を含んで、甘い星屑をカリカリ噛み砕いた。外側の固い部分より、中の少し柔らかくて甘みの濃い部分の方が好きなのだ。星がころころ転がる口内で、殺しきれなかった笑みがこだまする。帰んなきゃいいのになって、胸のどこかで思ったような気がした。)じゃあ、これから上手になればいいね!へたっぴだと、上手になる楽しみがたっぷり残ってるもんね。(屁理屈を捏ねるのはお手の物。空いた穴に中に詰めるのは、悲しみよりもチョコやカスタードのクリームの方がいい。楽しみのひとつは静かに、密やかに。結んだ手の内から始まった。薔薇のアーチ、雛菊の曲道、白百合の階段。花々の間を抜ける足取りは、全然厳かではないけれど。それでいい。それがいい。気が付けば随分と欠けたかたちをした月をひとたび見上げて、ぴぴぴっと背をただす。重なる手のうち、自分の手が下に来ることだけはかろうじてわかっていた。もう片方の手は、くるくる彷徨ってから空いた手を取ったろう。手をつないでティースプーンみたいにくるくる回るだけのダンスは、けれど今まで踊ったどんなダンスよりすてきなメロディに満ちている。)ナルはさあ、……ずっと………… ううん、なんでもないや!おれね、今日のこと日記に書こうかな。今まで書いたことないけど!何回でも思い出したいからさ!(元気じゃないのに、無理に元気な振りをする。そんな気持ちを表す言葉をコルネは知らなかった。ファンタスマゴリアの図書館にある本を片っ端から読んだなら、ぴったりの言葉を見付けられただろうか。別れを知らなければ、別れを惜しむこころも知り得ない。浮かべているのは笑顔、なんだろう。きっと。)
コルネ 2020/02/14 (Fri) 17:44 No.77
ど、ドキドキするのは良いことかもしれないけど、……ドキドキし過ぎるのは……、ん゛ん……大変、かも……。(キスと死んじゃいそうの関係性をなんと訂正したものか、いやそもそも彼は少女の言葉を言葉どおりに飲み込んでくれたのだから違うと否定するのも変な気がする。それにいったいなんと言ったら? うまい説明なんてとても出来そうにないから「わ゛、私の場合は……っだから…!」と付け足して、他の誰かの何かに影響しないことを願っておこう。──ふたりで甘い星屑を口の中でころがして、手を結んで、駆ける駆ける花の路。笑った猫の目みたいな月と、数多の星あかりが照らすふたりっきりのダンスホール。鏡のように磨きあげられた床の代わりに、ふかふかの芝が慣れない背伸びの踵をやさしく受け止めてくれる。ふたりして残りの手の行方を探した末に、両手を結ぶ形はきっととてもふたりらしく、彼の前ではずいぶんと自然にこぼれるようになった笑みを花開かせ。三拍子にのせるステップだって当たり前にめちゃくちゃだけれど、くるり、くるくるり、音に心を寄せて明け空の瞳を見つめればとびきりに素敵なひととき。きらきら、ちかちか、ふわふわ、どきどき。──嗚呼。ずっと、ずっとずうっと、こんな時間が続けばいいのにな。)なぁに?(まるで心が伝わってしまったかのように「ずっと」が彼の声で紡がれて、どきりと驚きのまばたきがひとつ。けれど間近に見える彼の笑顔がいつもと同じようですこしだけ違う気がして。だから、途絶えた言葉の先にほんとうは何を続けたかったのか訊けずに。代わりに黒の眸を細めて笑みを浮かべてみせた。)──…、うん。いっぱい書いて、何度も、沢山、思いだして欲しいな。(──私が元の世界に戻ったあとも。とはなんだか胸がつっかえて声に出来なかった。まだその方法は見つけられずにいるから、戻れるかなんて分からないけれど。もうすぐ月が欠けきってしまう、どんな形にせよなにかしらの区切りはきっとある。──パパ・ママ・ティティー、寂しいよはやく帰りたいよ。でもそれと同じくらいに、この変テコでやさしい世界となにより彼とお別れしたくないよ。 相反する願いは矛盾でなく、どちらも少女の素直な気持ち。けれどふたつの望みの両方を叶えることはどうしたって出来ない。きゅっと切ない心を押しこめて、息を吸うとくるんっと勢いよくターンを誘おう。星空燕の尻尾と、ピンクの星空がふんわり膨らんで夜に舞う。)っ楽しいね、コルネくん……!(星屑が鳴るように明るく息をはずませ、くしゃりと顔いっぱいの笑顔はせっかく飾り立ててもらったドレス姿にはすこし子どもじみていたかもしれない。でも、日記に書いてもらうのはとびきりに楽しい想い出と楽しい顔がよかった。──私はコルネくんと過ごせてこんなに楽しくて嬉しくて幸せな気持ちなんだよって、どうか沢山伝わりますように。はじめてのともだちで、とっとき特別なあなたに。)
ナル 2020/02/15 (Sat) 23:07 No.86
(不思議の国ファンタスマゴリアにもおとぎ話は存在する。どこの誰が書いているのかも知らないし、落ち着きがない本は表紙を開くたびに内容や結末を変えてしまうけれど。舞踏会で運命的な出会いをしたふたりがこころを通わす物語を、いつかの昔に読んだ気がする。話がつまらなかったのか、それとも他の本に目移りをしてしまったのか。結末は覚えていない。けれどもしもコルネがその本の主役であれば、ふたりぼっちの舞踏会に費やすページは100項あっても足りないと駄々を捏ねていただろう。だって繋いだ手の温度があんまりにあたたかくて話し難い。残念ながら、喜劇であろうと悲劇であろうと、終わりのない物語など存在し得ない。今日の夜だっていつかは明けてしまう。お庭の真ん中でくるくる回るたびに変わる心模様に置いてきぼりを喰らっているのは、果たしてコルネだけだろうか。)うん、うん。ナルも……夜寝る前のほんのちょっとの時間でいいから、たまにはおれのこと思い出して。お月さまがどんな形をしてたって、ちゃんと……ちゃんと、世界のどこかにおれはいるからね。(忘れたくないのも離れ難いのも、きっと此方の方だけど。自分自身を嫌いになってしまうなんて悲しいことが起こる世界に彼女が戻りたいというのなら、せめて俯いた顔を上げるための糧でありたかった。過ぎたる願いだろうか。いいや、きっと。彼女の表情を見ていたら、月の裏側にある世界なんてちっとも遠くないように思えるのだ。満月の夜が来るたびに、ふんわり膨らむドレスの丸みを思い出すだろう。そんなことを考えながら、お返しにもう二回し。舞い上がる裾の裏側で、月と星がぐるぐる巡る。)うん!今日は最高の夜だね、ナル!なんでもない日よりずっと好き!(きみと踊るこの時間が。ふわふわ愛らしく揺れるドレスが。何より笑顔のきみが。次から次へと好きな物が増えるから、言葉にして伝えなきゃと思っていた「好き」が喉元で渋滞を起こしている。だから代わりに重ねた手を引き寄せて、掌の真ん中にくちびるを寄せた。薄い布越しに、あたたかさを感じる。)どうしよどうしよってなった時には、てのひらにばってんを書いて飲み込むといいんだって。誰かが言ってた気がする。ナルよりおれの方がいっぱい食べるから、ナルの分までたくさん食べたげる。おれはね、女王様とお話するときは緊張するからいっつもこうやっておまじないしてるんだあ。ないしょだよ。(おまじないの内容ではなくて、我らが女王陛下に対する不敬について。無礼が過ぎればそれこそ首と胴体がバイバイしかねない。口元に手を引き寄せたまま、ニシシと笑う顔は不思議なしましま猫に似ていたやもしれない。おまじないをかけた手をもう一度握り締めて。くるくる、ぐるぐる。コーカスレースをする鳥たちみたいに同じところを何度も回って。今日の記憶をまぶたの裏に焼き付けよう。昔のことはあんまり覚えていないけれど、きっと大切なおともだちとの記憶だけは胸の内で輝き続けるだろう。そんな確信があった。)
コルネ 2020/02/18 (Tue) 12:17 No.93
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