(不思議の国ファンタスマゴリアにもおとぎ話は存在する。どこの誰が書いているのかも知らないし、落ち着きがない本は表紙を開くたびに内容や結末を変えてしまうけれど。舞踏会で運命的な出会いをしたふたりがこころを通わす物語を、いつかの昔に読んだ気がする。話がつまらなかったのか、それとも他の本に目移りをしてしまったのか。結末は覚えていない。けれどもしもコルネがその本の主役であれば、ふたりぼっちの舞踏会に費やすページは100項あっても足りないと駄々を捏ねていただろう。だって繋いだ手の温度があんまりにあたたかくて話し難い。残念ながら、喜劇であろうと悲劇であろうと、終わりのない物語など存在し得ない。今日の夜だっていつかは明けてしまう。お庭の真ん中でくるくる回るたびに変わる心模様に置いてきぼりを喰らっているのは、果たしてコルネだけだろうか。)うん、うん。ナルも……夜寝る前のほんのちょっとの時間でいいから、たまにはおれのこと思い出して。お月さまがどんな形をしてたって、ちゃんと……ちゃんと、世界のどこかにおれはいるからね。(忘れたくないのも離れ難いのも、きっと此方の方だけど。自分自身を嫌いになってしまうなんて悲しいことが起こる世界に彼女が戻りたいというのなら、せめて俯いた顔を上げるための糧でありたかった。過ぎたる願いだろうか。いいや、きっと。彼女の表情を見ていたら、月の裏側にある世界なんてちっとも遠くないように思えるのだ。満月の夜が来るたびに、ふんわり膨らむドレスの丸みを思い出すだろう。そんなことを考えながら、お返しにもう二回し。舞い上がる裾の裏側で、月と星がぐるぐる巡る。)うん!今日は最高の夜だね、ナル!なんでもない日よりずっと好き!(きみと踊るこの時間が。ふわふわ愛らしく揺れるドレスが。何より笑顔のきみが。次から次へと好きな物が増えるから、言葉にして伝えなきゃと思っていた「好き」が喉元で渋滞を起こしている。だから代わりに重ねた手を引き寄せて、掌の真ん中にくちびるを寄せた。薄い布越しに、あたたかさを感じる。)どうしよどうしよってなった時には、てのひらにばってんを書いて飲み込むといいんだって。誰かが言ってた気がする。ナルよりおれの方がいっぱい食べるから、ナルの分までたくさん食べたげる。おれはね、女王様とお話するときは緊張するからいっつもこうやっておまじないしてるんだあ。ないしょだよ。(おまじないの内容ではなくて、我らが女王陛下に対する不敬について。無礼が過ぎればそれこそ首と胴体がバイバイしかねない。口元に手を引き寄せたまま、ニシシと笑う顔は不思議なしましま猫に似ていたやもしれない。おまじないをかけた手をもう一度握り締めて。くるくる、ぐるぐる。コーカスレースをする鳥たちみたいに同じところを何度も回って。今日の記憶をまぶたの裏に焼き付けよう。昔のことはあんまり覚えていないけれど、きっと大切なおともだちとの記憶だけは胸の内で輝き続けるだろう。そんな確信があった。)
コルネ〆 2020/02/18 (Tue) 12:17 No.93