Mome Wonderland


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(アン・ドゥ・トロワで素直になって、)
いいよいいよ。このワンピースだってじゅうぶん素敵だもの。ありがとうね。(申しわけございません、と眉下げる少女にひらと手を振って家を出発したむすめは、城門前で仰天した。ほかの招待客の装いが、想像の10倍はきらびやかだったからだ。唐突に開催が宣言された"舞踏会"がこんなに本格的だなんて思わなかった。ドードーちゃんも青くなるわけだ、と瞳をまるめたむすめが連れてゆかれた先は、色とりどりの花が咲き乱れる"物言う花園"なる場所だった。おしゃれが好きな花がいたところで今更驚きもないけれど、「髪はおろす?まとめる?」「このイヤリングもつけてみてよ」「ぱきっとした色も似合うかも」まるで着せ替え人形にでもなった気分だ。ほとんど競うみたいにむすめを着飾らんとする花々。そのはしゃいだ姿に劇団の衣装係を担う仲間たちの笑顔が重なれば、ほんのすこしだけ、胸がきしんだ。)……あの、――…えっと。……ちょっと派手じゃない……?(まとったドレスのモチーフは、海の底みたいに透きとおったやわらかなブルー。「好きな花を選んで!」とせがまれたむすめが、これと示した野に咲く花だ。陽気に笑うあのひとの、風にあそぶ長い髪によく似た青色だったから。ほかのどの花よりもはっきりと目に飛び込んできたそれが、道化師が咲かせた純白とおなじアスターの花であることをむすめは知らない。―――肌に馴染むしっとりとしたサテン生地。その上に重ねられたレースは細い銀糸で繊細な花をかたちづくり、デコルテから肘上までの部分を透かしたクラシカルな雰囲気。ふんだんにあしらわれたビジューをウエストの切り替え代わりに、そこから広がるスカートの、右から見ればシンプルなサテン地、逆から見れば裾までの銀糸の刺繍が華やかなアシンメトリーは、動きがあってこそ映えるデザインだろう。すこしのおくれ毛を残して低い位置でまとめたシニヨンにシルバーを基調としたヘッドドレスをあしらえば、その装いは招待客として申し分ない。にも関わらずむすめが気おくれしたようすなのは、このクラシカルなドレスが実は、大胆な"隙"を併せ持っているからだ。「アリスはムネは小さ、――っスレンダーだけれど、背中がチャーミングね!」花たちの失言にむっと頬を膨らませながらも反論する余裕が持てないのも、その"背中"がぱっくりと開いたドレスを彼女たちが着せつけたからに他ならない。細いリボンの編上げは申しわけ程度に腰元まで、そこから上はおおきくV字に素肌が出ていて、肩甲骨や背骨のかたちがよくわかる。心許なさから追加したショールは、パンプスとおなじ天の川を閉じ込めたようなしろがね色を選んだ。「だめよ、もう始まっちゃうもの!」「いやでも、」「自信を持って!とても素敵よ!」「せめて髪で隠させて……」花々と押し問答している情けない顔ばせは、さて青年にはどう映るだろうか。)
コユキ 2020/02/08 (Sat) 10:34 No.4
(響き渡る御触れの声に、退屈の綿毛が飛んだねと笑ったのは誰が最初だったか。夕焼け空に今日のお茶会はここまでにしようかと、お喋り好きな住人達と話していた矢先。舞踏会の開催を知れば、お楽しみはまだまだ終わらないと弾むスキップで胡蝶の主人が営む貸衣装屋を尋ねた。一点物ばかり並ぶクローゼットから手慣れた様子で一式を選べば、支度を整えていざ彼女の家へ。ところが先に城へ向かったと丸眼鏡の乙女から聞けば、置いていかれちゃったねとけろりと笑って城へ向かった。男の姿を見た門番のトランプ兵達にほんのりと物言いたげな眼差しを向けられれば「キミ達では何もしないよぉ」とひらひら片手を振って門を潜る。十日振りに赤の女王と顔を合わせれば、彼女を元の世界へ帰す方法探しの進捗でも聞かれるかと思えば盛大な溜息を聞かされた。「さすが女王陛下はお優しい!」と素直に褒めれば、今にも蹴り飛ばされそうな剣幕で広間を追い出された。そのまま十日前の命令の事など忘れてくれれば良いのにねと思案しながら、気侭な足取りは花園へと辿り着く。──舞踏会という名目なれば、男が選んだ装いは湖面の星空を思わせる煌きを宿したテールコートだった。跳ねる足取りに合わせてはためく布地は、水深に応じて濃淡を変える水面の様に深い夜色のグラデーションを生んでいる。袖口を飾る白のカフスボタンは丸みを帯びた意匠で、光を浴びた鈴蘭に良く似た形をしていた。日頃からスーツを纏う男だが、普段と異なるのは髪型だ。高く結い上げていた長髪は、サイドを真っ直ぐ耳横から垂らしているが残りは全て背中の方へと編み下ろし、蝶タイや手袋と同じ純白のリボンで結っている。腰まで流れる髪を遊ばせながら賑やかな声の許へ近付けば、銀色の光を浴びる青い花を見付けてヒュウと高く口笛を吹いた。)エトワール!やあっと見つけた!(タタタン、タン!とリズムを連れて彼女の傍へ。かと思えば足を止める事無く、柔らかな青を纏う彼女の周りをくるくる、くるくると回って遠慮なくその装いを眺めた。奥ゆかしい青地の装い、細やかな模様を織り成す銀の花。天河を写し取った様なヴェール、そして。 ようやく足を止めたのは四周目に入った時。正面で足を止めれば両手で掬い上げる様にむすめの両手を取った。)とっても素敵だよ、コユキ!きらきらしていて眩しくて、もしかしてキミが着ているのは流れ星で作ったドレスなのかい?!(両手と共に、花々と語らう顔も上向かせる事が叶うだろうか。騒々しい程の喜びと共に満開の笑みで彼女の顔ばせを見つめる事が出来たなら、無邪気な声で誘ってみせよう。)さあ、コユキ。ダンスもパーティも何でも出来るよ。何がしたい?ボクにキミをエスコートをさせてくれる?
ジェスター 2020/02/08 (Sat) 22:21 No.12
(露わになったうなじを、夜風がそうっとやさしく撫でる。万年端役には華やかすぎる装いなれば、どうにも気持ちが落ち着かなかった。困ったように眉を下げるむすめに、花々が心底不思議そうに尋ねる。「なぜ?あなたの好きな花の色よ!」「ロマンチックなブルー!」「刺繍だってきれいでしょう?」自分たちで飾りつけた"アリス"の出来に満足しきりだから、その口ぶりは無垢そのもの。心から褒めてくれている彼女たちに、かわいげのない態度を取っていることが心苦しくなってきたころ――「……締めつけがきつすぎる?」「その靴だと足が痛い?」いつまでも笑わぬアリスを気遣うように花々がしおれたものだから、むすめはついに白状するのだ。)ち、ちがうの。こういう衣装は着慣れているし、ヒールも大丈夫。似合わないんじゃないかと思って、恥ずかしかっただけなの。………素敵なドレス、ありがとう。(あの花を溶かして染めたみたいなブルーも、動くたびにまたたく刺繍も、簡単に壊れてしまいそうに儚いレースも、しゃんとしてなきゃ勿体無い。むすめはていねいに感謝の言葉を紡いだならば、自信なさげに丸めていた背筋をすらりと伸ばし、やわらかな微笑みをそっとこぼすのだった。それを契機に、花々は賑やかさを取り戻す。彼女たちのおしゃべりに相槌を打つむすめの表情も穏やかだった――「それで、コユキの王子さまは誰なの?!」そんな質問が投げかけられるまでは。)………、 えっ?! そ、そんな人いな―――…っ、 じ、ジェスターさん……っ! ………な、ちょ っと、 ねえ、 ……何周するの……?!(王子さま。問われて真っ先に思い浮かべたのはあのひとの、まっさらに明るい笑顔だった。頬が熱くなったのを感じて否定しようとした矢先、絶妙なタイミングでその声が響いたなら、心臓がおおきくどきりと跳ねる。色めき立つ花々の歓声をBGMに、かろやかなステップで円を描く彼のまなざしがくすぐったい。ようやく正面に落ち着いたかと思えば、間髪入れずに両手を掬い取り、抱えきれないくらいたくさんの言葉で褒めたたえてくれて――ああほんとうに、ずるい人。)………そうだよ。流れ星をスカートいっぱい拾ってきて、作ってもらった一点ものなの。素敵でしょう。(じろじろ見すぎ、って、文句のひとつも言ってやろうと思ったのに。彼があんまり嬉しそうに笑うから、むすめのこころもあまやかな熱を滲ませるのだ。冗談を言っておどけたあと、「ありがとう。」そっとはにかんだくちびるは、薔薇の彩りを載せて艶めく。エスコートをさせてくれる?まっすぐ見つめて問うその言葉にも、睫毛を伏せて頷こう。ほんのすこしだけ照れくさそうに。)なんでも?じゃあ……わたし、ダンスホールに行ってみたい……!………あ、でもわたし、こういう場でのダンスって習ったことがなくて……。すぐに覚えられるとは思うんだけど、………ジェスターさん、とくい?
コユキ 2020/02/10 (Mon) 18:24 No.30
(国中の住人が城に集まっているのだ、どこを歩いても賑やかな事に違いはない。けれど近づけば近づく程に華やいだ花園の歓声はどこよりも楽しそうな音色を奏でていた。「コユキの王子さまはワンちゃんみたい!」「とっても大きなわんわんよ」「でもお顔はチェシャ猫そっくり!」きゃらきゃらと響く愛らしい声に包まれて、男が刻むステップは三拍子でくるくる回る。──落ち着きが無いのは元々の性情だが、星屑のスカートを纏う普段とは異なる彼女の雰囲気にどうしたって心が弾んでいた。咲き時を迎えた花の青に似たマリンブルーが、とても彼女に似合っている。しかし何より美しく見えるのは、華やかな装いに負けずしっかりと背筋を伸ばすむすめの立ち姿そのものだ。だからそう、その美しさを目に焼き付けたかったからこそ無遠慮に視線を送ってしまった非礼はどうか見逃してほしい。謝罪も今は後回しにして、柔らかな手を掬い上げたら熱を込めて強く握り締めよう。)嗚呼、とっても素敵だね!一体どれだけの流れ星を集めたら、こんなにきらきら眩しくなるんだい?本当にキレイだよ、コユキ!(薔薇色の唇が艶めく笑みを湛えたなら、微かに言葉を呑んだ様な、微笑み未満の溜息が落ちる。空はとうに陽が落ちたというのに、はにかむ彼女の周りが不思議と明るく灯ったように見えるのは何故だろう。満月から零れたヒトだから、下弦の月が彼女を輝かせているのかもしれなかった。そんな彼女から要望を聞けば、勿論だと首肯をひとつ。)フフ、やっぱりダンスが気になるかい?じゃあホールに向かおうか!(踊りを愛するむすめならば当然だろう。早速行こう、とばかりに繋いだ両手を片手に結び直して、彼女を美しく着飾ってくれた花々へ一礼。そうして勝手知ったる城の中をスキップしながら進んでいく。談笑する住人達の間を縫って進みながら、彼女の質問には小首を傾げて陽気な声を投げようか。)まあ、女王の気まぐれ舞踏会は初めてじゃあないね!ダンスも知っているけれど……だけど、そんなのはどうだっていいよ!(どうだっていい。その言葉に偽りなく、興味が無いような軽やかさで告げると一旦りんどう色を覗き込もう。エレクトリックブルーに灯る光は、きっと流れ星よりも眩く煌いてむすめを見つめていた筈だ。)でたらめなステップだって構うもんか。ただ、音に身を任せて楽しめばいいのさ。それならコユキは、誰よりも得意だよ!(ね?と笑う声には自信が宿る。形に拘る必要などどこにも無いのだ。キミが楽しみさえすれば何も不安に思う事は無いのだと、口端を大きく持ち上げて笑う。やがてホールへ辿り着いたなら、一度畏まっては彼女の柔らかな手をそっと持ち上げてみよう。)──さあ、ボクと一緒に楽しみませんか、エトワール。ほら、ちょうど始まるよ。(エスコートをと申し出たのは男自身だ。だから紳士を気取って悪戯に笑えば、むすめはどんな顔をしてくれるだろうか。)
ジェスター 2020/02/11 (Tue) 00:17 No.35
(首すじも、銀糸の花から覗く鎖骨も、宵風に晒された背中も、すべてを彼に見られている。やわく刺さる視線はちりちりと甘く、痺れるような高揚感に、耳朶がじんわりと熱を孕んだ。曲がりなりにも演じる者。見られることには慣れているはずなのに、これまで受けた選別のまなざし、そのどれよりも胸がふるえた。飛び出したのが不服ではなく軽口だったのは、安堵の気持ちもあったのだろう。感情をすなおに載せた笑顔で、飾らない言葉で、てのひらの熱さで、きれいだよって、伝えてくれたから。)さあ? それはジェスターさんにはないしょ。………っ、 そ、そんなに何度も言わなくてもいいってば……!(夢みたいにまばゆいドレスの仕立て方は、世話好きの花々の企業秘密だ。知りたがる青年をあしらうように口角上げて、ひとさし指をくちびるに添えた。こんなに無邪気な称賛の言葉を、異性から向けられるのは初めてだ。よどみなく紡がれる甘い言葉に戸惑いながら、洋画に出てくるイタリア人みたいだとむすめは思った。変なひと。そう思うのも何度目だろう。けれどむすめは気付いてもいた。くりかえしたそのモノローグに、これまでとは違うやわらかな響きが、たしかに宿っていることに。)うん、気になる……!シャンデリアがぴかぴかで、音楽もとびきり素敵だって聞いたの。(ふたつ返事で快諾してくれた青年に、好奇心滲んだ双眸を細める。そうして「いろいろありがとう。」と繋いでいないほうの手を花々に向けて振ったなら、女王の待つ大広間へと急ごう。――軽快な足取りの彼に手を引かれて進む城内は、見るものすべてがきらびやかだ。だんだんと大きくなってゆくワルツの音色。高鳴る胸の鼓動を感じながら、前をゆく青年のやわらかな髪を見つめた。やさしい青と、まっさらな白。それはあんまりにも清廉で、なぜだかすこし泣きたくなる。そんな感傷もせつなの泡沫、こちらの問いかけに対しての「どうだっていい」という回答に、ぱちんと弾けて溶けるのだけれど。)どうだってって、―――……。(最初はまた適当言って、とあきれ顔。けれど言葉の真意を知れば、むすめの双眸はおどろきで見開かれる。あかるいネオンのまなざしに、吸いこまれてしまいそうだった。楽しめばいい。それがきっと、むすめがなにより聞きたかった言葉だったから。優劣なんて関係なく、だれと競うこともなく。心のままに、なんて、なんて――ああ、なんて素敵な夜!)………、よろこんで。(あらためて誘うように笑う青年の顔ばせが、急におとなびて見えるのはなぜだろう。これまでだったら真っ向から受け止められたはずのまなざしに、ひとみが揺れてしまうのはなぜ?芽生えた感情に胸を突かれ、こわごわと、もどかしく、それでいて幸福に、むすめはささめいた。頬に、耳に、まぶたにさえも、はじらいのあまやかな熱が灯る。信じる碧をまっすぐ見つめて、りんどうはいま、咲きこぼれる。)
コユキ 2020/02/11 (Tue) 17:16 No.44
(溢るる好奇心をよく回る舌先に乗せて、感じた侭を口にする男をいなすような指先が立てられてしまえば思わず笑みを深めてしまう。薔薇色を隔てる指先の白さがいっとう眩くて、微笑みなんかじゃ抑えきれない喜びでにんまりと唇に大きな弧を描いていた。戸惑うように男を窘める言葉を呈されたなら、そうかい?と尋ねる様に小首を傾げよう。おかしいな、これでもまだまだ言い足りないというのに。だから控えた言葉の分だけ、繋いだ掌から温度で伝えられたらいい。繋いだ両手からは誰よりも素敵だと震えるような感動を、結び直した片手からは始まったばかりの愉楽の一時への期待を。顔も声も熱も雄弁なれど、伝えても溢れて止まらない歓喜は軽やかな靴音に乗せてしまおう!)大広間のシャンデリアは夜を忘れるくらい明るいんだ!音楽家達も、今夜は女王のご機嫌取りよりみんなが楽しく踊れるような曲を弾くからね。それはもう、とびっきり最高の演奏が聴けるとも!(むすめが興味を示す事柄には己の知見を添えて、彼女の好奇心を煽ってみせる。覗き込んだ先に呆れの色が見えようと、構わず不敵に三日月を湛えていた。呆れられたって構わない。却って、その花貌をもっと素敵な彩に変えてみせたいと思えるから。やがて驚嘆の波がりんどう色を見開かせたなら、調子に乗ったようにフフンと鼻を鳴らしていた。するとタイミングよく曲と曲の移り変わりが静寂を生み、そよ風の様に優しく紡がれる許諾の声が男の耳に届く。まっすぐに花開いたりんどうの可憐さを目の当たりにすれば、体の芯からじわりと熱が拡がるようだった。だから密かに生まれた熱に浮かされる様に、持ち上げたむすめの片手へとそっと顔を近付けた。編んでいない髪がさらりと流れて男の顔に刹那の陰を生む。零れた吐息がむすめの手を擽ったかもしれないが、唇が触れる寸前で身を起こすから飽くまで敬愛の挨拶だと彼女が捉えてくれれば良い。そうして再び咲き綻ぶりんどうの花と向かい合えば、紳士を気取るのはお終いにして最初の音を踏み出そう。)それじゃあ楽しもう、コユキ!ほら、よーく音を聞いて。ワン・ツー・スリー!(陽気な声を響かせて、空いた片手で形ばかりのホールドを取る。けれど繋いだ片手でシャンデリアの真下へと引っ張る様に、周りなんてお構いなしのステップを踏み出した。街中に響く旋律よりもどこか甘く柔らかな三拍子に乗って、メロディに負けない声量でワン、ツー、スリー。女王の御前で、なんでもない日のお茶会で、──何度も口遊んできたカウントに今ばかりは違う役割を与えよう。心の侭にリズムと戯れる事が出来るように。好きなだけステップを刻んで楽しめるように。心を弾ませるような素敵な魔法を、今宵キミにかけたかった。)
ジェスター 2020/02/11 (Tue) 23:34 No.49
(ちょこんとかわいらしく首を傾げた彼を見て、やれやれと小さく肩をすくめる。その表情から推測するにたぶん理由はわかってないけど、説明するのも恥ずかしいや。出会ったときから今日まで、微笑んでいないことのほうがまれな人。きっとそっけなくしているだろうに、それでも嬉しそうに笑う彼を、むすめはしばしば不思議に思う。些細なしあわせを見つけることが、とびきりじょうずな人なのだろう。だからもしも着飾ったのがわたしじゃなくても、おなじようにあふれる喜びを全身で表現し って、それのどこに問題が?ああほら、また乱されている。―――実際を知る青年の説明は想像するだけで心が弾み、存外素直なむすめは瞳のきらめきを隠しきれない。たどりついた大広間、迎えてくれたシャンデリアと音楽隊の生演奏が言葉に違わぬ素晴らしさであったなら、うっとりとした感嘆までもがくちびるからほろりこぼれ落ちた。小休止の静寂のなか、疑いを知らぬ陽光の声が、こころのなかでリフレインする。ささめく薔薇のひとしずく、薄氷にも似たかぼそい声。じぶんのものとは思えないほどの蜜をふくんだその響きに、むすめはすこし動揺した。わたし、いったいどうしちゃったの。こんな、こんなのって、まるで―――。そのとまどいが醒めきらぬうちに、青年のくちびるが、髪が、吐息が、この指先に触れたから、)―――……っ、(空いた片手をぎゅう、と胸元で握りしめて、かすれた声で呼んでしまのだ。そのなまえを。)………ジェスターさん、(ねがうように。)―――…うん。 楽しもう!(けれどエスコート役の奇術師にいつものほがらかな笑みが戻って、大広間がふたたび華やかなしらべに包まれたならば、なにかに泣きだしそうだったむすめも、霧が晴れるみたいに表情を変えた。あまたの"ふたり"が円環の星雲を乱すことなく舞うなかを、中央だけを目指して進む。星映す湖面と青いアスター、異端のふたり、澄んだ碧をまとうまがい星。陽気すぎるかけ声は、ちょっぴり優雅さに欠けるかもしれない。でも彼の打つ三拍子は、この世界中のどんな音楽よりも、自由だ。)ジェスターさん、っ、―――……ジェスター! 迎えにきてくれて、ありがとう!(宙を蹴るように片足を伸ばせば、波打つスカートで銀の刺繍がまたたく。やわらかなサテンがおおきく峰を描いたなら、むすめの足元に白菫のアンクレットが揺れているのも見えるだろうか。かがやきを増したりんどう色、ほんのりと上気した頬、繋いだ指先の力にだって、喜色を隠すことはもうしない。音楽にかき消されることのないように、はしゃいだ声で気持ちを伝えよう。)すごく格好良いよ。服も、髪も。(いつもは言えないようなことも、今ならぜんぶ、素直に言えた。だから――むすめはやおら顔を寄せると、青年にだけ聞こえる声で、そうっとその耳朶に触れるのだ。)ほんとうに、魔法使いだったんだね。(今度は意識して、薔薇みたいに、甘く。)
コユキ 2020/02/12 (Wed) 19:24 No.56
(磨かれた大理石の廊下も金縁の額に飾られた名画達も、期待にきらめくりんどう色には敵わない。城中のどんな芸術品よりも眩しい素直な笑顔を見たなら、行き交う住人達へ胸を張って自慢したいような心地になる。ねぇ、ボクのエトワールってこんなにも可愛いでしょう!現実に声を張り上げこそしなかったけれど、胸の中を満たす本音は調子の良い笑みとなって滲み出ていた。そんな調子で大広間へと辿り着いたから、たとえ咎められたとて己の振舞いを悪びれる気は無かったろう。気侭な蝶が花の蜜に惹かれるくらい自然なことだとでも主張する心算だったから、流れる青の陰に隠れて顔を寄せた。なのに、ほっそりとした柔らかな指先へ熱孕む吐息で触れれば、愛らしく震える溜息が聞こえてくるのだから不埒な唇は笑みを描く事を止められない。楽しもうとむすめが笑ってくれるなら、尚の事。優美にきらめく星の海へと、ふたりで手を取りあって踊り出そう。 繊細なメロディの上を飛び回るようなリズムを連れて、碧の軌跡を描く流れ星。気品有るワルツというより陽気で伸びやかなポルカを舞うような、自由なステップを刻む二人が灯すのはまがいものの笑顔なんかじゃない。)……ハハ、何だい急に!当然だよ、だってボクがキミをエスコートしたかっただけだもの!(流麗に響く三拍子の間で呼びかける声に、碧眼がぱちぱちと二度瞬いた。弾けるような呼び名と、迎えへの礼と。思わぬ言葉に少しばかり驚いたものの、明るく響くむすめの言葉が嬉しくない筈が無い。だから陽気に笑い返すが、不意に飛び込んで来たりんどう色に心臓がひときわ大きくリズムを打った。)っ、(甘く囁く声が花開く。咲き立ての薔薇より薫る声に、思わず繋いだ指先をぎゅっと握り締めた。飾る事の無いむすめの言葉に、どうしてこんなにも胸が弾むのだろう。動揺を隠したくとも、一番星より眩いりんどう色から視線が逸らせない。けれど夢見るような声が捧げられたなら、途端にエレクトリックブルーは花火の様なきらめきを放つのだ。)そうとも!ボクは、キミが心から笑える魔法をかけてあげる魔法使いなのさ!(喜びを満面に灯して、寄せられたりんどう色と向かい合う。囁きあう距離のくせ、誇らしく響かせた声はうるさい位。だが全身から溢れる歓喜を伝える姿は、仔犬が戯れつく様に似ていたかもしれない。)さっきも言ったけど、コユキだってキレイだよ。それにね、ボクは気付いたんだ。こうして踊っているとドレスがコユキと一緒にきらきら揺れて、もっとキレイだって!ま、とってもキュートな背中をみんなに見せてしまうのは、ちょっと悔しいけどね!(キミが踊るからこそ、何倍にも溢れる魅力に気付く。そんな喜びを語りながら、繋いだ腕を高く上げて二人の間に少しの空間を作りだそう。「ターンは出来る?」と促す声を挑発と取るか、それとも彼女に恥じらう余裕を与えない配慮と取るか、どちらだって構わない。)
ジェスター 2020/02/13 (Thu) 09:46 No.62
(星のひかりを映すみなもから、ねむる魚を抱く水底へ。むすめのドレスとも微笑むまなざしとも似ているようで違うそのテールコートに、世界にあふれる彩のゆたかさを思う。こんなに胸がそわそわするのは、天井で揺れるシャンデリアのせい。おたがいとびきり着飾ったせい、ワルツの音色が急き立てるせい、いつもは無邪気なこのひとが、急にやわらかく笑うせい。あしたのこともはじらいも、見栄もなにもかもすべて忘れて、むすめは素直に笑い、踊った。ステンドグラスから漏れるひかりみたいに、絵本作家の描く水彩画みたいに、こうふくだけで満たされた今宵だから。迷いこんだ流星を咎める声は、ひとつだって聞こえてこない。「たのしそうねえ」「じょうずだわ」って、だれもが認め、見守ってくれる。演奏隊までもがより華やかな曲調へと舵を切り、ふたりのポルカに羽根を与えた。)――…、(揺れるひとみに青年のおどろきを見れば、すこし得意げな気持ちになる。もっと意表をついてみたい。わたしにもこんな声が出せるって、年下だけどおんななんだって、あなたにちゃんと知ってほしかった。独占欲にも似た熱を宿して、りんどうの碧でエレクトリックブルーを撃ち抜く。指先に自分のそれよりもおおきな彼のてのひらを感じれば、あまえるように睫毛が揺れた。――その矢先。)~~~っ、うるさ…っ……ジェスター、声おおきい!(こなしてきたステージで鍛えられたのだろう、よく通る澄んだ声に、むすめは思わずまぶたを閉じる。すぐそばで踊っていたアリクイの夫婦まで振り返るほどの声量をぴしゃりとたしなめたけれど、への字の口はすぐに三日月に変わり、そこからちいさな歯を覗かせた。あなたといると、ずっとたのしい。あなたが嬉しそうにしていると、わたしも嬉しいの。ジェスター。 心のなかでそっと呼びかけながら、「ずいぶんニッチな魔法使いね。」と応じる声はすましている。誇らしげなその姿、今更ながら花たちの"わんわん"という表現は絶品だった。こみあげてきた笑いを、頬にぐっと力を入れてかみ殺す。)キュートなせな――……。…………。!!(動きがあってこそ映える意匠。ドレスの仕掛けに言及されれば嬉しそうに頷くも、続いた言葉に忘れかけていた羞恥がよみがえる。わざと話題にしたでしょう、と物言いがつくのを予想してか、間髪入れずに促されるターン。繋いでいない方の指先でスカートを摘まんだなら、青年のリードに合わせて音もなく一回転しよう。ふたたび見つめあうときにはもう、文句はどうでもよくなっている。)わたし、忘れてた。踊ることが、こんなにしあわせだってこと。(けれんのない声音で青年に告げるむすめは、たいせつな宝石箱を開いてみせるみたいな顔をしていた。8年前の冬の日、路上の舞いに魅せられたおさない少女。あの日とおなじ憧憬に、りんどうの碧が染まってゆく。)
コユキ 2020/02/13 (Thu) 17:42 No.65
(白菫が結ばれたしろがねの足が星の海を渡ったら、「とってもすてきね」と微笑むひかりが次々伝わり広がってゆく。厳かで壮麗な三拍子よりもずっと賑やかで陽気な旋律が大広間に響く頃には、流れ星は世界の真ん中に辿り着いてくるくると廻りだしていた。柔らかく色めくひかりの中心で一際眩いりんどう色の閃光に射抜かれたなら、身動きが出来なくなりそうな、なのに今直ぐ飛び跳ねてファンタスマゴリア中を駆け巡れそうな、揺れる衝動がエレクトリックブルーに走り抜ける。おんなのこは砂糖にスパイス、それと素敵なものでできていると誰かがお茶会で謳っていたと不意に思い出したのは、きっと、刺激的なのに甘く可憐な顔ばせを碧の中心に映してしまった所為だろう。騒めくこころを抑え込めたのは男を撃ち抜く眼差しが閉ざされたからで、一度調子を取り戻したなら動揺を隠す事など容易いことだった。瞼を伏せたむすめからぴしゃりとした声を聞こうとも、繋ぐ指先に生まれる熱は増すばかり。)これは失敬!だけどコユキだって笑ってくれてるじゃないか!(驚き顔の夫婦と目が合ったなら変わらぬ声量で詫びるものの、同じステップを刻む彼女が楽し気に笑ってくれるなら編み込んだ髪を結ぶリボンが尻尾のように跳ねていた。分別のある声が男を窘めようと、揺らぐ事ない自信を携えて「とびきり浪漫がある魔法だろう?」と朗らかに告げて遠慮の無い笑みを零す。キミが笑ってくれるなら、もっと楽しませてあげたくなる。すました顔だって愛らしいけれど、心から笑ってみせてほしいのだと湧き上がる想いは男にとって歓びに他ならない。)おや、どうしたんだいエトワール?何かおかしな事でも?(突然言葉を詰まらせたむすめに、努めて柔らかな声で問いかける。男を撃ち抜くりんどう色の気高さはどこへ行ったのか、野に咲く花に似て素朴な反応を垣間見れば、満たされる心地を覚えて秘かに笑った。それでも銀糸の花を引き連れて軸が動くことも無く鮮やかなターンを魅せるむすめを間近で見守れば、ほう、と感嘆の声が漏れた。まっすぐに伸びた背中に揺れるしろがねのショールは、まるで天に向かう羽根のように優雅さを湛えている。──嗚呼そうか、それが月から落っこちたキミの翼なんだね。すとんと胸に落ちる納得に眼差しを和らげながら、無垢な輝きに染まるりんどうを優しく見つめてみせた。)本当に、踊ることが大好きなんだね。フフフ、キミをしあわせにしてくれるなら、それは一番たいせつな宝物だね、コユキ。もう忘れたらいけないよ!(しあわせを灯したりんどう色がきらきらひかる。大切な宝石箱の中身を教えてくれた事が嬉しくて、思わず伸ばした片腕はそっと抱き寄せる為にむすめの背中へと回していた。即座に跳ね除けられない限りはそのまま半歩ほど身を寄せて、宝石箱を大切に包み込んでやるようにぎゅっと熱を閉じ込めようとする。──キミのしあわせの傍らに、この熱が少しでも残ってくれたら良い。喜びできらめく宝石箱にひとかけら、星屑よりも小さなひかりも忘れずにいてくれたなら。そっと願えばむすめに文句を言われるより早く、ぱっと身体を離す心算だ。その時、近くで踊っていたカラスの紳士と背中をぶつけてしまうから「これまた失敬!」と悪びれずに笑ってからむすめへと向き直ろう。)さぁ、まだたったの一曲だよ!もっともっと踊ろうよ!(軽やかに告げる男の瞳には揺らぐ色など微塵も無い。だからむすめを抱き寄せた男の気紛れはそう、無邪気に甘え付いた仔犬の戯れとでも思ってくれれば良い。だから笑って、舞踏会が終わるまで踊り明かそう。女王を湛えるシャンデリアだって今宵だけは二人の為のスポットライト。眩いひかりの下では湖面の星空も青銀の花も、何もかもが輝く夜になるのだろう。)
ジェスター 2020/02/14 (Fri) 20:56 No.79
だってジェスター、大人なのに子どもみたいなんだもん……あと、さすがの声量だなって思ったら、なんだかおかしくて。(言葉と表情との矛盾を指摘されたなら、減らず口とともにぺろりと舌を出してみせる。素直に頷かないむすめの分まで前向きに切り返す”浪漫ある”魔法使いの自賛には、敵わないとばかりに肩をすくめて笑った。物事をよいほうに受け取るちから、自分を肯定するちからで、端からむすめに勝ち目なんてない。悪びれることもなくこちらのはじらいを刺激する、その厄介な無邪気さにだって。挑戦を受けたとばかりに銀の花弁を周囲に舞い散らせば、この世界のかなたまで指先で触れたような気持ちになる。そのままふわりと飛んでゆきたいと地上から離れかけたこころを繋ぎとめたのは、やわらかな碧の虹彩だった。そのやさしいひかりに滲むのは、隣人愛だろうか。もっと深いこころを垣間見たように思うのは、それを望んだむすめの欲か。)うん―――…すき。ずっと好き。なによりも。ほかのぜんぶを我慢してもいいって思うくらい。(もう忘れたらいけないよ。むすめを諭すあかるい声は、風に飛ばされた麦わら帽子を、拾ってかぶせる掌に似ている。そっとちいさく頷いた。もう絶対になくさないように、握りつぶしてしまわぬように。わたし自身がこぼした声を、両手でまあるく包みこむように。いつのまにか真上できらめいているシャンデリアを仰げば、あんまり綺麗で胸が詰まる。舞台でいちばんあかるいところ、だれもが憧れる一等星。あんなに怖いと怯えた場所で、いま、わたし踊っている。ただしあわせに。それでいいんだ。そうだよね、ジェスター。肯定をねだるようにほほ笑み返したその刹那、ふいに、)―――……! じぇ  す、 (音楽が途絶えた。 ピアノもヴァイオリンも靴音も、談笑する声も、なにもかも。瞳に映るのは彼のやわらかなまなざしだけ、まるで星の海のなか、ふたりぼっちでいるみたい。そうして、ほんの一瞬、けれどたしかな意思を持った熱で、むすめはこころごと包み込まれる。抱き寄せられて触れあうからだが、燃えるように熱かった。)―――……。ジェスター。………ありがとう。 今夜のこと、わたし、―――…わたし、一生忘れない。(不思議だね。ことばがなくても聞こえたの。からだが離れてしまう直前、むすめはそっと、けれど迷いのない声で誓うと、その肩にぐいと頬をすり寄せた。彼が無邪気な仔犬なら、彼女は甘え下手な猫だ。ねえ、ジェスター。わたしの声も、聞こえるかな。少しでもなんて言わないで、いつもみたいに図々しくしてよ。このひとかけらをしまうところは、宝石箱のまんなかがいい。見つけやすくて、壊れにくい場所。)もっともっとはいいけど……。ジェスター、ちょっと落ち着いてよ。このままじゃ、いつかだれかをはじき飛ばしちゃう。(はしゃぐ青年をたしなめながら、けれどむすめの表情もまた高揚感に満ちている。踊ろう。笑おう。夜明けまで。へとへとになったら、足がもつれてしまったら、わたしがその背を支えてあげる。アン・ドゥ・トロワで素直になって、アン・ドゥ・トロワできらきらひかる。たいせつなひとりだけを一心に見つめるりんどう色が、あまやかな思慕でやさしく揺れた。)
コユキ 2020/02/16 (Sun) 09:54 No.89
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