(白菫が結ばれたしろがねの足が星の海を渡ったら、「とってもすてきね」と微笑むひかりが次々伝わり広がってゆく。厳かで壮麗な三拍子よりもずっと賑やかで陽気な旋律が大広間に響く頃には、流れ星は世界の真ん中に辿り着いてくるくると廻りだしていた。柔らかく色めくひかりの中心で一際眩いりんどう色の閃光に射抜かれたなら、身動きが出来なくなりそうな、なのに今直ぐ飛び跳ねてファンタスマゴリア中を駆け巡れそうな、揺れる衝動がエレクトリックブルーに走り抜ける。おんなのこは砂糖にスパイス、それと素敵なものでできていると誰かがお茶会で謳っていたと不意に思い出したのは、きっと、刺激的なのに甘く可憐な顔ばせを碧の中心に映してしまった所為だろう。騒めくこころを抑え込めたのは男を撃ち抜く眼差しが閉ざされたからで、一度調子を取り戻したなら動揺を隠す事など容易いことだった。瞼を伏せたむすめからぴしゃりとした声を聞こうとも、繋ぐ指先に生まれる熱は増すばかり。)これは失敬!だけどコユキだって笑ってくれてるじゃないか!(驚き顔の夫婦と目が合ったなら変わらぬ声量で詫びるものの、同じステップを刻む彼女が楽し気に笑ってくれるなら編み込んだ髪を結ぶリボンが尻尾のように跳ねていた。分別のある声が男を窘めようと、揺らぐ事ない自信を携えて「とびきり浪漫がある魔法だろう?」と朗らかに告げて遠慮の無い笑みを零す。キミが笑ってくれるなら、もっと楽しませてあげたくなる。すました顔だって愛らしいけれど、心から笑ってみせてほしいのだと湧き上がる想いは男にとって歓びに他ならない。)おや、どうしたんだいエトワール?何かおかしな事でも?(突然言葉を詰まらせたむすめに、努めて柔らかな声で問いかける。男を撃ち抜くりんどう色の気高さはどこへ行ったのか、野に咲く花に似て素朴な反応を垣間見れば、満たされる心地を覚えて秘かに笑った。それでも銀糸の花を引き連れて軸が動くことも無く鮮やかなターンを魅せるむすめを間近で見守れば、ほう、と感嘆の声が漏れた。まっすぐに伸びた背中に揺れるしろがねのショールは、まるで天に向かう羽根のように優雅さを湛えている。──嗚呼そうか、それが月から落っこちたキミの翼なんだね。すとんと胸に落ちる納得に眼差しを和らげながら、無垢な輝きに染まるりんどうを優しく見つめてみせた。)本当に、踊ることが大好きなんだね。フフフ、キミをしあわせにしてくれるなら、それは一番たいせつな宝物だね、コユキ。もう忘れたらいけないよ!(しあわせを灯したりんどう色がきらきらひかる。大切な宝石箱の中身を教えてくれた事が嬉しくて、思わず伸ばした片腕はそっと抱き寄せる為にむすめの背中へと回していた。即座に跳ね除けられない限りはそのまま半歩ほど身を寄せて、宝石箱を大切に包み込んでやるようにぎゅっと熱を閉じ込めようとする。──キミのしあわせの傍らに、この熱が少しでも残ってくれたら良い。喜びできらめく宝石箱にひとかけら、星屑よりも小さなひかりも忘れずにいてくれたなら。そっと願えばむすめに文句を言われるより早く、ぱっと身体を離す心算だ。その時、近くで踊っていたカラスの紳士と背中をぶつけてしまうから「これまた失敬!」と悪びれずに笑ってからむすめへと向き直ろう。)さぁ、まだたったの一曲だよ!もっともっと踊ろうよ!(軽やかに告げる男の瞳には揺らぐ色など微塵も無い。だからむすめを抱き寄せた男の気紛れはそう、無邪気に甘え付いた仔犬の戯れとでも思ってくれれば良い。だから笑って、舞踏会が終わるまで踊り明かそう。女王を湛えるシャンデリアだって今宵だけは二人の為のスポットライト。眩いひかりの下では湖面の星空も青銀の花も、何もかもが輝く夜になるのだろう。)
ジェスター〆 2020/02/14 (Fri) 20:56 No.79