(刻一刻と時期は迫っている。それが元居た世界に帰れる日までのカウントダウンなら良いが、胴と首を分かつ日では困る。すぐそこにまで危険が迫っている、切迫した状況であるはずなのにどうしてか欠伸が出てしまいそうな穏やかな日常。本日も決まった時間には彼の花園を訪れて、今日はこんな花が咲いていただとか、今日はこんな甘味を貰ったのだとか、昨日と変わらぬ時間を過ごしてしまった。もう帰れない気もする。もしかすると、それでよいのかも知れなかった。余りもののひとつが無くなったと思えばきっと、それで世界を均衡に保つことが出来るのだ。はじめに召していたのが白いワンピースだったからといって、世良の住まう家のクローゼットには形違いの同じようなワンピースが並べられている。どうせすぐに帰れると思っていた数日間は気にもしなかったのに、最近は無いものねだりをしているようで飽きが来ていた。そして奇遇にもその日、退屈、だと思っていたのは世良だけじゃなかった。──おしゃべりな花たちがあれよあれよと世良を着飾った。ふんだんにビジューをあしらったもの、多段フリルの豪華なもの、映画の中でしか見たことの無いようなもの、様々。どれだって良いのに、どれでもいいよと任せっきりにしているうちに収集が付かなくなったのが現状だ。)ああ、もう。むつかしいことは分からないから最初のでいいよ。(最初の、といってもその記憶さえ曖昧なものだが、着せ替え人形をするのにも体力を要する。装飾は無い、ただシンプルなだけのデコルテが空いたベル型のドレスは、チュールの重なりが淡い印象を与える。あか、あお、きいろ、と色が差し替わり、「白がお好きなのだっけ?」と白色に変えられそうになった時には思わず制止を掛けていた。赤。赤が良い。思いついた色を咄嗟に口にしてまで。真っ赤なドレスはけれど女王と被ってしまうから、黒く、なるべく暗く、落ち着いた色味にまで落としてもらう。「これじゃ黒じゃない」と咎められたって、これで良かった。それから、)──…………エセル、迎えに来てくれたの? いきなり言われるんだもん、舞踏会って。吃驚しちゃった。こういうもの?(踊ったことなんてないから、今夜はきっと壁の花になるのが関の山。それなのにこうまで着飾ってもらうことには申し訳なさを覚えて、迎えに来てくれた彼には困ったように笑いかけた。見慣れぬ彼の姿を見ては、)なんか変な感じだ、……似合うね。(とその出で立ちをまじまじと観察してもみただろう。)
ジュン 2020/02/08 (Sat) 22:08 No.11