(あえかに瞬く星明りよりも弱々しい笑みを見つめると、そっと口端を釣り上げて笑う。夜空を満たす月光が冴えていれば霞んでしまいそうな弱さだけど、確かに瞬く優しいひかりは彼女の内面に瞬くものの現れだろう。記憶が齎す不安や恐れは未だ消えてはいないだろうに、それでも微笑みを宿せるような灯火を想う。)うん、それはとても素晴らしい事だね、エトワール。大好きって言えるような、大切なものを持っている。キミをそんなに素敵に笑わせてくれるものが、しっかりと有るんだから。(淡い驚きに蕾が丸くなったかと思えば、やがて綻ぶりんどう色の可憐なことよ。真面目でしっかりとした面が前に出る彼女にしては、どこか稚くも思える純粋な笑顔を見つめながらフフフと密やかな笑みを浮かべる。胸に抱く”大好き”がほんものであるなら、何よりも大切にして欲しかった。だからつい零してしまったお節介だったがむすめが告げた形容には「おじいさん?」と疑問符を宿そうか。だけど彼女が冗談めかした口振りだったから、軽口の類だろうと受け止めて男もニヤリと笑い返した。トランプ兵のような敬礼を受ければ「分かればよろしい!」と偉ぶるのは女王の真似だ。二人きりの草原ならば不敬を怖れる事も無い。そして彼女が目的を忘れかけていた様子であれば、おやおやと呆れを装った嘆息を零した。かと思えばすぐさま背筋を伸ばして、こう続けるのだ。)”だってアリスがあんまり楽しそうに踊ってくれるから、お礼に素敵なものを教えたかったんだ!”そう聞いたからキミを探しに来れたのさ。(ビオラを弾く仕草でおどけてみせれば、誰の真似をしているかは伝わるだろう。鏡の森へ到った経緯を明かせば、ニィと歯を見せて笑っていた。)後でロンにありがとうって言う為にも、ちゃんと見に行かなくちゃね!(さぞ正当な理由が有るかのように宣ったなら、むすめに足を出すよう催促しよう。いよいよ地平へ沈む夕陽の下で口籠る彼女の顔を眺めていたけれど、挑戦状を頂戴すればまるで口笛を吹くかのように楽し気に唇が結ばれる。)おんぶが良いなんて、意外と甘えん坊さんだね、エトワールは。(からかう声にしては幾らか甘い音を捧げながら、恭しく彼女の足へといちご飴色を差し出そう。むすめの足首に己の手を添えて、爪先が靴の中へと収まれば──直ぐには手を離してなんてあげない。)キミの宝物に魔法をかけてあげる!(彼女の抵抗が無いと信じ切っている不届き者は、弾む声で告げるとむすめの足首に何かを結び付けた。男が手を離せば、そこに宿るのは薄紫のリボンに白菫の花がチャームとなって揺れているアンクレット。マダム・ヴィオレットご自慢の花びらコレクションから「どうぞアリスに差し上げて」と預かった代物だ。ブレスレットとして譲り受けた気もするが、きっと彼女には足首の方が似合う気がしたから。これで良しとばかりに機嫌良くむすめの足を解放すれば、今度こそ虹玻璃を目指して進むとしよう。リクエスト通りおんぶを実行したか、はたまた先行く背を追う形になったのかは、彼女だけが知っている。)
(丸い花弁に陽光を溜め込んだ小さなすずらんは、まるで夜を照らすランプの様に暖かく咲いていたことだろう。虹玻璃の美しさに息を呑む横顔を満足気に眺めていたが、たったひとりの観客に選ばれたのなら今度は男が息を呑む番だ。軽やかに羽搏くような優しいステップを照らすのは柔らかなスターライト。このやさしいひかりが、いつまでもキミを照らし出してくれればいい──。祈りを託した拍手が、宵空の下で響いていた。)
ジェスター〆 2020/02/08 (Sat) 00:29 No.100