Mome Wonderland


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(弱さから逃げることはできない、それも“生きる”こと?)
(ランチを一緒に食べたあと、娘は街の散策に繰り出すべく、ここ5日間ずっと付き合ってくれているかのひとと共に歩み揃えて。先日は友羊に黄金林檎のパイをご馳走になり、走る家も見た。パンチョウとはひとりでいても挨拶を交わす仲、古木のおじいさんに人生のアドバイスも頂いたり。今日の主な目的は桜探し。日本では春になると爛漫に咲き誇ったものだが、ここには四季がないらしい。あのうつくしい薄紅色を見てほしくて探していたが、そこに兎の少女現れると事情は少し変わるだろう。やさしいひとは兄兎とはぐれて泣いている姿に手を差し伸べるはず、そのひとが言うなら娘も手を貸すに吝かじゃない。妹兎のいる場所を目印に、二手に分かれて兄兎と桜の捜索――そろそろ日暮れ時かしらん。夜までに見つけなければ不味いかも、と娘が思い始めたころ、いつの間にやら景色は薄闇にきらきら光る森の中。暗いのに光っていて、反射するのに姿かたちは映らない――否、映っているのだ、隣のひとが運転席で真っ赤に染まってぐったりとしているのが。わんわん鳴り止まないアラーム音、衝突の衝撃で立ち上る硝煙、蒸発する何か、消防と救急の声にけたたましい爆音――「冬道なのにスピードを出していたんですって」「隣の友愛子ちゃんは無傷だったんでしょう?」「その友愛ちゃんのために吹雪の中運転してらして」「もしかして友愛ちゃんママ、負担だったんじゃ?ほらあの子、変なところあるから」事故だった、だがその後の風評はまるで娘を責めるよう。男子の悪戯でましろいコートが汚れたから、一緒に買いにゆこうと慰めてくれたほんとうの母のかんばせ血に染まり、やさしい面差しが、出て来ない。「友愛子!お前のせいで母さんが!」ちがうのお兄ちゃん、「友愛だけでも無事でよかった…。愛実のことは忘れなさい」なかったことになんて出来るわけがない。見て見ぬふりが通るのはお父さんだけじゃない…!「ゆめちゃん、お母さんころしたってほんとう?」違う、ちがうちがう「愛実さんも災難だったわね。なんであの子だけ生き残ったのかしら?」)――…し、知らないよそんなこと!だから聞いているんじゃない!私はどうして生きてるのって…っ!!生きてて良いのかって、いつも!(力の限り、叫ぼう。人生とは何か?生き続けていく意味とは?存在理由って?そう、あの時からずっとずっと胸の奥底に凝ってる。生き残った真の意味がわからないまま、この先どうやって人生をあゆんでゆけるものか。いっそ奇怪だ厭だと突っぱねてみる?今のように、)…っおかあさん、(ひん、鼻啜って両腕で肩を抱きながら、辺りの鏡から瑠璃背けようとするもこの森は全体が鏡のよう。どこを巡ったって周囲からの責め苦が響き渡る。自らを苛むそれらに、ああ、しゃがんで目を瞑って耳を塞ぐことしか、もう出来ない。)
ユメ 2020/02/01 (Sat) 11:07 No.6
(レディ・ローズマリーとミスター・ローズの日々はせせらぎに似て緩やかに、清かに穏やかに過ぎ去っていく。幼子の笑い声めいて和やかな輝きに彩られた時間は風に揺れる花のごとく。彼女と友とお茶とパイを前に詠じた夜も随分前のことのよう。走る家の持ち主を始めとして、彼女に教えた友の名も両手の指の数を超えていた。ふたりで並べた"やりたいことリスト"の事柄は、きっとそれよりもっと多い。そんな風に何処までも平和が横たわるファンタスマゴリア──だけれど、偶には涙に出会う日だってある。たとえば今日、彼女と共に桜探しへ出かけた先、目的の花より先に迷子の兎を見つけた。何でも兄兎とはぐれたらしいと聞けば放置出来るはずもなく、迷子の仔に「此処で待っていてね」と伝えた後は、彼女と手分けして周辺を探しもしよう。妹を置き去りにする兄などいるまい。だからそう離れた場所にはいないはず、それか迷子を捜す兄兎の話を誰かが広めるはず。思ったとおり、やがて黄昏の空の下、心配そうな顔で辺りを見回している兎の少年を見つけた。)──あれ。ユメはまだ戻っていない?(斯くして再会を喜び合う兄妹の傍ら、自分は瞬きひとつして平原を眺め回した。陽の落ちかけた頃合。朱金に染まる世界に彼女はいない。その事実に否応なく鼓動が軋む。自然と眉根が寄った。遠くまで探しに行ってくれたのだろう、そう思えたらよかったけれど。)……やあ、レベッカ。ユメを見なかった?(ふと視界を横切った影に我へと返り、飛来者を見上げる。過日に彼女の指に停まったパンチョウは、物言いたげにパタパタと翅をはばたかせていて。物は試しと問うてみたところ、蝶はすぐさま身を翻し、来た方角へ飛んでいく。かと思えば幾らか進んだところで停まり、それはまるで自分に呼びかけているようだった──「会えてよかった。もう離れたら駄目だよ」、それは兄妹兎へ伝えた言葉であり、自らへ向けた叱責でもある。5日間に対する長短の定義は知らないが、まだ知らないことも多い地で独りになんてすべきではなかったのだ。それも暗くなっていく時間帯に。)ユメ!(鏡よ鏡、あの子の居場所を教えてほしい。願えどもその森は他者を映さない。そも、立つ者を映さない。すべてが鏡の森の中、飛ぶ蝶を追いかけながら挙げる声は切迫に塗れている。袖をはためかせ、サンダルの足で地を蹴る仕草も中々にすばしっこい。ただし脈拍は駆けたぶんだけ速まるし、息も上がる。それでも必死な声で呼ぶのは止めなかった。)ユメ、(やがて、蹲る小さな姿を見つける。蝶もその影に向かって飛んでいく。なれば後は一層迷いなく、彼女の許に駆け寄るばかりだ。)ユメっ、大丈夫かい……!
トロイメライ 2020/02/01 (Sat) 18:08 No.10
(冬空のもと珍しく吹雪いたその日、男子のいたずらでお気に入りのましろいコートが見る影もなく汚れてしまったから、娘は母に「あたらしいコートがいい!じゃないと明日は学校にいかないもん」無邪気ながら親泣かせの駄々を捏ねて。きっかけは自分のわがまま、母の顔がもう見えないのも、ぜんぶ。兄の言葉は忘れられずに妹の脳裏に刻まれよう、もしも、もしも「友愛子が生まれなきゃ母さんはいまも生きてたのに!」傷付けるつもりはなかったのであろう、兄もあの時はまだ中学生。「うそ、友愛子ちゃんには傷がなかったの?」「ただでさえ変わった子だったのに…」「もしかしてこれが忌み子って言うんじゃなくて?」まるで夢のようだった。ファンタスマゴリアには重苦しい空気も、自らを責め苛む者も、ましてや過去や現在に“生きにくさ”ばかり与えるつらいことは何もない。朗々と明るいひとたち、愉快な生き物、二足歩行の動物とおしゃべりの達者な花々――非日常でありながら、夢のようで夢じゃない、あたらしい世界。あれからもう7年にもなる、その時間の感覚すら今は遠くて。場面が切り替わるように、きらきらだった無情な鏡に今度はちがうひとの真っ赤な口紅が映りこむ――「あなたが友愛子さん?私は娘とは思わないから、そのつもりでいてちょうだいね」。)――…っ私だってあんたなんか!母親になれると思われるなんて、こっちこそ願い下げだよ!(ばしん、鏡の中の厭らしく歪んだ頬に向かって平手打ちのつもりで手を払い、しゃがんでいた体勢からむりにそうしたもので、娘は盛大なしりもちを。ユメ。ちいさい頃はみんな友愛ちゃんと呼んだ、けれど。いまその二文字で娘を呼ぶものは、あんな痛々しく厳しい世界のひとでは、なくて、)………痛、い……?(たしかに伸ばした手は何かに当たり、打った腰庇う間もなく我に返ろう。ユメ。もっと呼んでほしいと、久方ぶりに「おやすみ」を伝えてくれたあのひとの音色だと、気付くのは数拍も遅れてしまったが、)…ライ……うっ、ライ、ライ!(うずくまって塞いだ目と耳、なにも出来ずに泣き通した過去の、忘れてしまいたいのに永遠に心を巣食う魔物から――薔薇色にきらめく眼差し、艶々の黒髪、広い肩。お揃いだねと心舞い上がらせたそのひとの名前を、何度も何度も。呼ぶと同時に伸ばした両手は、いままで宙ぶらりんを彷徨っていたのだ。背が伸びた、きらいなものが食べられるようになった、テストの点が良かった。ぜんぶ母に伝えたくて、伝えられなかった私の“成長”だが、鏡は善きことなどひとつも映してはくれない。だったらそんなまやかし、二度と見たくなんかない――)…つ、連れ出して!ライ!こんなところからはやく――!(ぜんぶ忘れて生まれ直せたら、このファンタスマゴリアでしあわせになりたいと夢想した。そう、そんな“夢”がもし叶うものなら、このひとと一緒に。――ああ、まさか、これも悪夢のつづき?)
ユメ 2020/02/01 (Sat) 19:24 No.12
ユメッ!(しりもちつく少女の姿に、思わず呼び声が爆ぜる。この目には視えない何かが彼女を苛んでいるのか。森の特性を思えば察し得るものの、嵐の正体を鏡は何ひとつ映してはくれない。けれど悲痛に塗れながら幾度もこの名を呼ぶ彼女を見つけた今、何をすべきか判じるのは容易い。一息に駆け寄り、伸べられた小さな手の片方を自らの掌ひとつで包んだ。)よし、よし……大丈夫だ。俺に掴まっておいで。(努めて宥めるものとした声に反し、白い指先を捕まえた五指には力が籠る。やおら地に膝をつき、彼女の両手を自身の首根に導いた。一度繋いだ手はその折こそ離れることになる。けれど空の掌はすぐに彼女の背へ、もう片方の手は両膝の裏へ。一瞬息を詰めると同時に腹へ力を入れ、彼女を両腕に抱えたまま立ち上がった。)目を閉じて。離さないで。……もう少しだけ、我慢していて。(何も見なくていい、感じずともよい。代わり、自分に掴まっているようにと囁いて強請る。苛んでくるものをすぐに払えないこと、勝手に抱き上げたこと、そういった我慢を強いるがゆえの謝意は、僅かにトーンを落とす声調に表れた──言葉で詫びるのは後にしよう、今は再び蝶に先導を求めて森の外へ駆けていくばかり。何も映さない鏡は沈黙を貫く。駆けているから彼女へ逐一言葉を掛ける余裕こそないけれど、抱き上げる力は寸分も緩めやしなかった。だってもしも一瞬でも気を抜いてしまったら、その刹那から彼女の体が光か何かに還ってしまう気がしたのだ。それこそ月の光のよう、煌くも重たさのない夢幻へ。静寂に沈む森の草木、葉か低木の枝かに引っ掛かった袖の端が破れる音がした。ほんの小さな音だけど、彼女の呼吸の音より大きかったようにも思う。夜へと眠りゆく森の内側、先を飛ぶ蝶と腕の中の存在が寄る辺であった。こんな気持ちは初めてだった。)……、……。(駆られていたのはほんの数分のはず。けれど永年にも思える時を経て、森の外へ抜け出れば息をひとつ吐く。すっかりあがった呼吸を宥めるべくにも、幾らか歩を進めた後にその場へ座り込んだ。大きく肩で息をしてから、胡坐をかいた膝上に彼女を降ろして、)……ユメ。もう、大丈夫だよ。(まろい声でその名を呼ぼう。走り通しの余波で呼吸こそ荒いものの、間もなく落ち着きを見せていくだろう。彼女の瞳へ真っ先に見せたのは、常と変わらぬ微笑みだった。落ちかけた陽の紅も鮮やかに、夜が東の空裾を藍色に染めている。柔らかな草の茂る平原に座り込んでいると、夕刻の風が頬を撫ぜていった。)ごめんね、独りにしてしまって。……怪我はない?(眉を下げての微笑み結ぶ面を彼女へ向けて、ようやっと謝辞を声にする。)
トロイメライ 2020/02/01 (Sat) 20:42 No.17
(張った右手が継母の頬を打ったのは、さてはて気のせいであったのか。しりもち付いた痛みに被るかのひとの声がいまさらながらに聞こえてきて、胸の奥が軋みをあげよう。大丈夫、何より言ってほしかった言葉の持ち主はいささか緊張したように声を上げ。やさしく響いた「掴まっておいで」の音色。導かれた手の先に大きなひとの首元あれば、娘は縋るように抱き付いて。「友愛ちゃんママ、きっと辛かったんでしょうね」「愛斗くんとちがって、あの子の出来が悪かったからよ。」葬式の席でさえ娘を苛む言葉を、慎まないおとながいた。背中抱えるように伸びた安寧の腕、膝裏へ回った逞しい五指。いやに輝く鏡の森が逐一娘を苛む中、その感触だけが平常を取り戻すよるべだったに違いない。言われるがまま目を閉じ、首元に回した腕、つよくつよく抱き締めて。かのひとが蝶を目安に森抜けるのも、己を抱えたまま駆け出したのも――私のせいだ。ぜんぶ、私が悪かったからだ。ありのままの現実から、いま一時は眸逸らして泣き声漏らそう。力強い抱擁感じるも、いっそ消えてしまいたいと願う心の奥底をほどくには至らない。月からこんなワンダーランドに落っこちてしまったけれど、だったら現実世界のあれこれに踏ん切りをつけて、いっそのこと、平和が過ぎるここで暮らしてしまいたい。首を刎ねよ――あの厳命さえなかったなら、おとぎの国でしあわせになれたのかもしれないのに――。びり、と聞こえた現実の音にようよう眸開いて、荒れた呼吸の中、永延の先でかのひとの声を聞いた。ひしゃげたように曲がった心に、助けるように響いた言葉。普段どおりの、そのひとの微笑。)……っライ。ご、ごめんなさい、私…運んでもらったの?(ぐったり沈んでいた腰を引き上げられ、所謂お姫様抱っこで辛い過去映し出す鏡の森を抜けたなら。兎の兄妹がどうなったのか、打った平手は彼を襲わなかったのか。夕刻の生ぬるい風受けたかんばせは強張って、暮れかかる時は夢幻の終結を彩ろう。まやかしから逃れた肢体は生々しい過去から抜け出したのか?独白めいた謝罪に、娘はかのひとの胡坐の上でふるふると首元ぐらつかせ、浮いた心のままに「ちがうの、」辛うじて言を発した。)ライのせいなんかじゃない。どこも…ちょっとお尻が痛いくらいで、なんともないから…、(心配しないで、と言う顔は青褪めているものの、これが悪夢のつづきでないならそれだけで慟哭潜めよう。まぼろし。あれが現実じゃなかっただけで――今の娘には申し分ない朗報だ。)ライ…腕、それ、破ってしまったの…?(きらきらに見せかけてひどい過去見せ付けてくれた森の中から抜ける際、衣服破れるほど必死にさせてしまったのなら申し訳ない、そう言葉尻下げつつ眉を顰め。ごめんなさい。何度目かの謝罪はかのひとに言ったのか、遠い過去、私がころしてしまった母に言ったのか――。)
ユメ 2020/02/01 (Sat) 23:42 No.18
(返る力があれば安堵する。けれど不安を全て拭い去れる訳じゃない。零れる嗚咽が走駆に拍車をかける。四足の獣だったならもっと速く彼女を連れ出せたろうに──けれど、腕と足を持つ生き物でなければ、こうして彼女を膝の上に乗せることもできない。まるでうわ言のように感じられる彼女の声調。どうやら外傷は負わなかったようだけど、この胸の内に積もっていく予見を杞憂で片付けるには花顔の色は青白い。夜が近いからではあるまい。思う最中、掛かる声在らば自らの腕を見る。引っ掛けて破けた袖の端。とはいえ裂傷は肌にさえも届かなかったのだから、浮かべ続けるは柔和な微笑みと声のまま。)ん? ああ、これ……よくやるんだ。怪我した訳でもないし、大丈夫だよ。(笑って、「うっかりしてるんだよ、俺」なんて付け足す調子は軽やかで、)ユメ。(呼びかける響きもまた緩やかに、両腕を伸べれば彼女の背へと回しなおそうか。嫌がる気配がなければ、自分に比して随分細こく思える体を優しく抱き締めたかった。尤も否を示されれば、手の置き場が草地に変わるだけのこと。掌の行き先は彼女の意に委ねながら、そうして口を開く。)"ごめんなさい"なんて言わないでいいんだよ。……あの森がどういうものかって知っていたのに、君に伝えていなかった俺の落ち度なんだから──…、とはいえ、気にしないでって言ったら余計に気にさせてしまいそうだね。だから……そうだ、お互い怪我がなくて良かったって、そうも思ってくれたら嬉しい。(忘れるのが難しいこともあるだろう。蓋をすると余計に苦しいこともあるだろう。心に生まれたものは、扱いによっては毒にもなり得る。子守唄のごとく安穏と伝えたのは、あくまで自分の願いだ。それをどう受け取り、何を選ぶかは彼女だ。よって反応を待たず、言葉を続けていった。)……あの森は、「鏡の森」という。何もかもが鏡で出来ている森でね……だけど、映すのは「記憶」。特に……辛いもの。悲しいもの。苦しいもの。思い出したくないもの。そういう記憶を鮮明に映し出してくる。(かの地はファンタスマゴリアの中でも珍しいものに分類している。何せ平和なこの国だ。負を湛えた思い出など、早々──もしかして全く、生まれない楽園だ。自分から見れば存在理由に首を傾げつつある場所は、しかしながら月から落っこちてきた彼女に於いてはどうだろう? 出逢いから今までに聞いた彼女の言葉を、つい先程聞き拾った涙の音色も思い返しながら囁いてみる。)ねえ、ユメ。……本当に、何もない? 痛いのはお尻だけかな。(強いぬ響きを編んでは微笑む唇をそこで一度閉ざし、答えを待ってもみよう。)
トロイメライ 2020/02/02 (Sun) 14:02 No.22
(このワンダーランドに来て数日、かのひとの名前の意を囁いた時以外、娘の発音は明瞭ではきはきしていただろう。おとなになり演劇を嗜むようになった兄から聞きかじった発声法、バイト先で必要だった明朗な発音、迷い惑いながらもそれらは娘を“普通のおんなのこ”に見せかけていたはずだけれど――この時ばかりはか細く頼りない音、そして消え入りそうに脆くなろう。あの夢幻が齎した苦しみの余韻の中、このひとを傷付けてしまったのではと懸念できたのは“傷”に敏感になっていた証左。どこまでも柔らかな微笑みと聞き心地の良い声が、どうかまぼろしではありませんように。)帰ったら、私が縫うよ。…そのうっかりも、私があんな風になんなきゃ……(ぽつりぽつりとした声は心配と罪悪感、しかしそれらを払拭するかのように、己の名前謳うひと。広い胸へ優しく抱かれることに一切抵抗せず、震える指先はこのひとの裾を握って離せない。伝わる体温により娘の胸裏にもじわじわとあたたかさ行き渡れば、謝罪ばかり口にするくちびるにも少しは温度感ぜられるだろうか。)……だって迷惑をかけたから…。ライが助けてくれなかったら…どうなってたか、怖くて想像もしたくないけど、じゃあ……“ありがとう”って、言っても良い?――うん。うん…っ怪我しなくてよかった。ライを傷付けなくて、ほんとうに…よかった…!(落ち度と言うほどの失敗ではなかったろう、娘がこの森に迷い込んでしまったのは偶然で、かのひとが気兼ねする必要はどこにもない。そう伝えたいが、いまは口先がもつれるよう。互いの無事に心の奥底から安堵できたのは、平常のゆるやかさでぬくもり分けてくれるひとのおかげに違いなく。腹心の疾抱えて胸はまだ動悸しているが、悪夢から抜け出せたことに救われ、大きく長く息を吐こう。)か、鏡の森…?だからあんなにきらきらと、その……いやな思い出が見えたんだ。もう二度と…あんなところに、行ったりしない。ちゃんとわかったから、今度から気をつけるよ…。(ふう、ふう、と動転した気息整えるようにして、彼の説明してくれた森の正体聞けばまなじりに溜まった涙落とさぬように瞬いた。いやな思い出――自分を信用できなくなり、人生に疑問を抱き、何もない毎日に狂おしい焦燥感抱えて追い詰められていた、娘の中の尤も奥深いところにある原因。つむりをそっと彼の広い胸に凭れ、いらえは小さく、)――…胸がいたい。だからライ、もうちょっとこうしていても…いい?(記憶に関して掘り下げることはまだ出来そうにない。けれど本当に何もないなんて気勢も張れず、望んだのはまだ幾分か彼の胸を借りること。早鐘打つ心臓よ、はやく落ち着け。夢のようで夢じゃない――このひとは確かに、ここにいてくれているのだから。)
ユメ 2020/02/02 (Sun) 18:17 No.25
(霞のような声に対し「縫ってくれる? ありがとう、助かるよ」なんて笑う調子は、日常を象ってのんびりと。言ったとおりに袖の破れなんて"よくやる"範疇なのだから。それより気にかけるべきは彼女である。)迷惑だなんて思ってないよ。ただ、心配はしたから……ユメを見つけられて本当によかったし、"ありがとう"も喜んで頂戴しよう。……パンチョウのレベッカが案内してくれてね、……ああそうだ。兎の兄妹も無事に再会できたよ。(彼女を探していた時の自分の心境に名をつけるならば、やっぱり"心配"だった。こうして傷なく会えた今は憂慮こそ解けるも、細い体へ回す腕には力が籠る。自らの裾を乙女の細指に委ねながら、彼女の許に至れた理由に加え、兄妹兎の行方を語る声も穏やかがかる。互いの無傷を喜んでくれる響きを受ければ、抱擁の力も僅かに厚くなった──きっと自分は、自分で思っている以上に安堵している。こうして触れ合えること。温度と言葉を交し合えること。長く流される吐息の音を、聞けること。"一緒にいること"とは、もしかして当たり前ではないんじゃないかって、今更のように思いもする。つい先日まではお互い存在を知らなかった相手だというのに、いつの間にかずっと一緒にいたような感覚を抱いていたのだと、それもまた今更気付く。)……そうだね。あそこには、もう行かない方がいい。(呼吸を整えては浮き沈みする華奢な背をそっと撫ぜながら、返る言葉に頷こう──胸元に凭れる感触は、心地よい重みを持っていた。)もちろん。(まろいトーンがふたりの狭間に融ける。抱き締める腕はそのままに、小さな頭に頬を寄せれば温度が一層身近に感じられた。互いの表情も見えぬ位置あいで瞼を降ろし、まなうらを夜色に染めながら口を開いて。)……ユメ。聞いてくれるだけでいい。(少しばかり真摯な響きを帯びる声が、黄昏の麓へ融けていく。微笑んでばかりだった口角も微か下がり、珍しくも心底真面目な面持ちとなる。)お兄さん兎を見つけてさ、妹さんのところに戻るだろう。その時……君の姿が見えなくて、胸騒ぎがしたんだ。君ともう逢えないんじゃないかって、そうも思った。二度と逢えないのが……とても、嫌だと。そうも思った。(そこで一拍の間を挟んでから再び落とす声は、安息の色が濃くなっていた。微笑みを取り戻す唇をまた開き、かいなに収めた少女へと吐息めく囁きを向ける。)だからね、君を見つけられて本当によかった。君が伸ばしてくれた手を捕まえられて、よかった。……なんだろうね、森で見つけた時の君は……硝子のようで。少しでも目を離したら、永遠に見失ってしまいそうでもあったから。
トロイメライ 2020/02/02 (Sun) 21:16 No.29
(伝えたい言葉がたくさんある。見つけてくれて、傍にいてくれて、助けてくれて、ありがとう――自分で自分を支えてゆかねばと気を張って、やるべきことも見つからず、さもしく金だけは貯めて。そんな娘に、何の衒いもなくたくさんのものをくれるひと。ファンタスマゴリア照らす太陽が夕闇に染まれば、そのひとの眸は鳶色にも見えようか。)…裁縫ね、得意なの。だからライが迷惑じゃなくても、私のごめんなさいの気持ちを込めて、それだけは縫わせて。(これは自らのけじめにも似ている心算ゆえ、翻されないうちに言い切って二言も浮かべない。パンチョウの案内、兎の兄妹――探しに出た時分からもう随分経った気がするけれど、それはつい数刻前のことなのだ。ふたつ吐息をこぼして「よかった」兄妹が無事、再会できて。長く力強い腕に抱かれ、探し当ててくれたひとの温度を心地良く身に受け、くんと鼻鳴らし。数日前に出逢ったばかりのひとなのに――こんなにも安心できる腕がほかにある?少なくともはじめて、娘は自らを預けられるひとに巡り合った。ひとたび見出してしまったら他のなににも代えられない、特別で危険な存在へと。つむりに寄せられた頬のあたたかいこと、静かに響く真摯にまどろんだ瑠璃少しひらいて。夜の帳も、もう近い。)分かれて探そうって言った私が言うのもなんだけど…ライがいない時間、ちょっと、つまらなかった。それではやく見つけようと思って、暗いところにまで行っちゃって……あの森でね、正直言うと、ライの存在をまるきり忘れたの。むかし見知った汚いおとな、それに血の色を思い出して――、っひ。ひとり、で。(それはかのひとの胸騒ぎに当て嵌まったであろう危機、鏡の森のせいではっきり見えた悪夢の一部。返事としては聊かずれていたけれど、)…だけどね、ライに見つけてもらえて、ライを思い出せて…ほんとうによかった。捕まえてくれて、よかった。私が勝手に落ちてきて、また勝手にいなくなる存在だとして……ライと一緒にいられる時間を一生わすれない。もう二度と、ライのことわすれない。――…かぎりない、永遠があれば良いのに…っ!(硝子のように、いま見えている現実が割れてしまったら?それは幼き頃より抱いていた疑問へも繋がる先々への不安、だって改めて心に巣食った憂鬱が問う「生きるっていったい、どういうこと?」ここはワンダーランド、私は招かれざる客人。)私からいなくならないで欲しいのに、ライは、この不思議の国にしかいない。私は…私は、永遠にいなくなっちゃうんだよ。あと、十日もしないで。(ぐずついた鼻声で「そんなのやだ」と駄々を捏ねたら、昔の自分のリピートだ。でも、どうしても。)やだ…やだな。はなれたくないな…!(夢の終わりまでのカウントダウンに抗うよう、せめて今だけ、ぎゅっとそのひとを抱き返そう。)
ユメ 2020/02/03 (Mon) 16:19 No.42
(この時刻、鳶色から変わらぬ瞳に彼女を映す。そうすると自然と安堵が湧いてきて、「裁縫が得意なの? すごいなぁ」と感心げな顔や声も素直に浮かんでくる。申し出を素直に受け取るも、何も返礼として抱きしめたわけじゃない。もしも理由を授けるならば"自分がそうしたかったから"に他ならない。張らずとも声が届く近しさは身にも心にも温かく、どんな柔草や寝床よりも心地よかった。)うん、俺も……ユメがいないと、寂しかった。(大の男が口にするには情けない心情さえも、実に素直な音になった。相槌を挟んでは口を閉じ、再び耳を傾ける──涙の名残か、それとも新たに生まれてきたか。生まれてきたものの名は。まことを知るは彼女のみ、だけどせめて分かち合えたらと心さえも傾けよう。悪夢の正体と訪れた"よかった"を語り、永遠の別れを拒む彼女は齢に相応しい様相で、涙の気配が交ざる声調はこの胸を震わせる。細腕の力は寧ろ儚さを知らしめて、彼女を包む我が腕にも自然と力が増した。息苦しさこそ与えない至近で落とすは細い息。)……離れたくないって、言ってくれたの……ユメが初めてだ。ありがとう。俺も……同じ気持ちだよ。君と離れたくない。(声と唇は微笑み、脳裏は過去を過ぎらせる。日ごと友の家を渡り歩く身。"またおいで"は何度も受け取ってきて、彼ら彼女らの厚意を疑ったこともない。満足もしていたけれど、たとえば"行かないで"とか。彼女が言ってくれたように"はなれたくない"って、その響きもまた暖かな喜びを連れてくる。欠落なき世界のまんなかで、貴方の代わりはいないのだと言って貰えた気分だった。)……俺も月まで飛べたらいいのに。あの向こう側へ君と一緒に行けたらいいのに。……思い出だけで、満足できたらよかったのに。でも……今の俺と、何かひとつでも違った俺だったなら……君と出逢えなかったのかな。君が教えてくれたしあわせも、知らないままだったのかな。(自問自答は尽きない。無限だからこそ有限の儚さを知る。夢幻のかなしさと尊さを知る。やわらかな髪へとそっと頬ずりをして、僅かに眉を下げた微笑みにて再び口を開いた。)ねえ、ユメ。俺も君と離れたくないし……忘れない。決して。どれだけ月日が巡っても、君と歩いた道を見るたびに君を思いだす。空を仰ぎ、大地に寝転んで……詩を書いても、リュートを弾いても。どんな時も……君と見つけたしあわせの欠片と再会するたびに、俺は君を想うんだ。(うたうように、何ら慰めにならないのだとしても、生まれた心を言葉に代えてたしかに贈ろう。永遠、思い出、記憶、目に視えぬもの。かたちなきものを少しでも堅牢にするすべ。緩々と廻らせる思案の中、ふと思いついたことがひとつ。)ユメ。今日も時間はまだあるから……落ちつくまで休んでさ。そうしたら……俺の我侭をひとつ、君に叶えてほしい。一緒に選んでほしいものがあるんだ。(そんな風に彼女へ囁いて、一旦口を閉じて答えを待ってみる。もちろんこのまま過ごすのも吝かではないけれど、まずは彼女の意向を伺ってからだ。)
トロイメライ 2020/02/03 (Mon) 21:55 No.45
(寂しかった、おとなの男のひとでもそういう思い抱き口にする時があるのかと、すこし意外にも、腑に落ちたようにも感じて、素直に心明かしてくれたことをうれしく思おう。同じ風に寂しくて、同じように心を寄せていて――生まれた感情に、まだ何という名をつけたら正解かはわからない。けれどこれだけは確実に、ぜったいに。このひとの傍にいたいと胸を揺さぶるものがある。柔らかな音色に震える耳が、時に薔薇色のきらめき見せる眼に眩暈を覚える自分がいるから。)私がはじめてだなんて、逆にびっくりなんだけど…ライにはその、こ、恋人はいなかったの…?友達もあんなにいっぱいいるのに…離れたくないのが、私で、間違ってない…?(いつかも問いかけた“人違い”に此度はそろりそろり、瑠璃の奥に切望滲もう。多くの友人に囲まれ平和なワンダーランドに満足で万福な生活を送っていたのなら、娘の登場ひとつでは何も変わらなかったのではなかろうか。かのひとの中にも一抹の、或いは一滴の“隙間”があったから――そうじゃなくては、どうして欠点と欠陥ばかりの私を選ぶだろうとは、刹那過ぎった娘の憶測。しかして鏡の森が彼を捉えはしなかったこと、娘は危機に晒されていたがゆえその意味を忘我していて。ああ私達には、翼がない。)…私は月まで飛ぶ方法を、きちんと探さなくちゃなんだよね…。ライと一緒に、月下の遊覧飛行ができたらなあ。……ライは、ライだよ。どこかに違う自分がいるかもしれない、って妄想してきた私にとっては、どんなに変わったり、私と出逢わなかったり、ちがうしあわせを見つけたかもしれないライも、ぜんぶぜんぶ……“トロイメライ”、あなただよ。(全肯定。言い切った娘の瑠璃は、しっかとかのひとの鳶色を見上げて視線合わせ。いつだって将来や未来に自信持てない昏迷の道のりであったけれど、このひとが例えどんな風であっても娘の感謝は変わらない。また同時に、彼の代わりはどこにだって在り得ない。)離れなきゃいけないときがくるまで、やりたいことリスト、やろうね…。日が経っても歩いた道を、ライの言葉を、音を、きっと忘れないように。ライが想ってくれてるって…それがいまの私には、拠り所だから。(生きるすべを見つけるのは困難だ。だが頼ることを覚えた娘のかんばせは彼の面へ、相変わらず心裏には暗鬱宿っているものの、そのひとと共にあれば一時鎮められると知ってしまったもの。)――…わがまま?ライのお願いなら、いいよ。私にできることなら…行こっか?(いつまでも腕の中にてという訳にもゆくまい。膝上から降りる頃には目に見えるところに愁嘆もなく、どこへ?何を選ぶの?と首傾げながら。「いま」は――このワンダーランドにひとまずの安穏が、戻って来たかのように。)
ユメ 2020/02/04 (Tue) 16:52 No.55
うん、間違ってないよ。恋人って呼べる存在が今までいなかったのも、離れたくないのが君っていうのもね。(デジャビュに軽やかな笑み息を転がしながら、柔らかな断定を明瞭に降ろす。隠しも偽りもしなかった。秘める必要性がそもそも存在しないから。贈られる言葉に耳を傾ける相手は多々在れど、今ように大事に抱き締めるひとなんて屹度彼女が最初で最後だ──とは、さすがに照れくさくって言えなかったけど。心に燻り心を擽る心地を一体何と呼ぼう? 古い本を捲れば見つかるのかもしれないが、答えは自分で見つけ出したかった。もっと贅沢を言えば、彼女と一緒に探したかった。明言してもらえる喜びを、瞳が重なる幸を教えてくれたひと。)……どんな世界に生まれていても、どんな俺でも。君の瞳と心にひとつきりの存在として映れるのなら……俺は、とびきりのしあわせものだ。君が俺の存在証明になってくれるんだろう? そうしたら、君がいるかぎり……君が俺を憶えていてくれるかぎり、俺は俺として在れる。生きてゆける。(導を得た迷い子のよう、満ちる笑みには安堵が色濃く宿る。幸の輝きも瞳に宿り、和らぎに満ちる虹彩のまんなかに彼女を映しながら、)うん、やろう。ひとつでも多くのしあわせを、一緒に見つけよう。(笑って頷くも、彼女が膝から離れる時ばかりは子供みたいに寂しさを抱いてしまう。けれど並び立って歩く道が続いているならば、何ものも憂いに折らず進んでいける──何処へ行き、何を一緒に選んでもらうのか。そういったことを明かすのは、目的地についてからだ。「あそこ」と指差したのは小さな一軒家だった。宵と夜の狭間、深緑の屋根と白い壁を持つ家屋の正体は、木の扉を開けばすぐに分かる。)何というか。……思い付きではあるんだけど、(開いた扉を抑え、お先にどうぞと彼女を屋内へ促す。すれば淡やかな輝きたちが瑠璃にも映ろう。そこは小さな雑貨屋で、白木の陳列棚には種類も数多な装飾品たちが綺麗に並べられていた。室内の所々に置かれた百合の形のランプから零れる金色の光を受け、まるで木漏れ日の湖のよう。)……形に残るものを。君をより鮮やかに、思いだせるように。想えるように。……一緒に選んでほしいんだ。(自らも店内に入り、そして彼女の隣で一旦足を止めて花顔を見やる。真正面から見られないのは、何となくの気恥ずかしさが拭いきれないから。実際声にも微笑みにも、隠しきれない擽ったさが滲んでいた。ネックレスに始まりブレスレット、ピアスにイヤリングその他、装飾品に分類されるものならば一通り揃っている。デザインも女性向けのものはもちろん、男が着けていても然程不自然ではなかろうシンプルなものまで。「ね、見てみよう」なんて彼女にかける声は楽しげでさえある。自由な足で踏み出しながら、改めて彼女を見ては問うた。)ユメは、こういうの……アクセサリーっていうのかな。好き?
トロイメライ 2020/02/04 (Tue) 21:03 No.58
(どちらの意味でも間違ってはいなかった――それを受けた娘は頬染め、続く、心擽る視線から己の瑠璃を引き離したろう。素直に照れている、と言えたなら良かったけれど、いまそれについては難易度が高く。一緒に探したい、そういった気持ちがあるのなら、娘とて共に幸いへ向かうことに躊躇せぬであろう。ただただかのひとが――己にとって、尊い存在であるという自覚が芽生えていたから。)どこに、どんな世界にいたって見つけてみせるよ、私のトロイメライ。だって込められた意味は“夢”なんだもの、私が見失わなければ、きっと…!(きっと見つけられる、と意気込んで、けれど言葉尻は沈んでもいただろう。大切がゆえに確約できない自身にいまもきっと迷いがあって。とびきりにと、そんな存在になれているだろうか、安堵の色に応えられるであろうかとは胸裏から拭えない。そんなかのひとの眸は輝かんばかり、いろはきっと薔薇に準えられる、特別のいっとき。)…私もライと、しあわせを見つけたい。見つけようね。(希望は何一つ紛うことなき言葉から得られて、示された小さな一軒家に辿り着いた折にはまだ疑問符を。共に歩み進めたなら促されるまま中へと踏み入り、淡い輝きは瑠璃に映りこんで数多の装飾品に息を呑む。木漏れ日閉じ込めたかのようなピアスもあれば、百合のランプに照らされた金色が映えるネックレスも、琥珀を包むがごとき指輪も見えよう。かたち。それに拘るべきは二人の未来の為だとも、となりに立つひとが言ってくれるからこそ鮮明な装飾品たちにわっと感動の色浮かべ。)…すごい。すてき。これ、この内のひとつが私とライを繋ぐものなんだね…!(かのひとを思い出せるよすがになる装飾品へ胸いっぱいになるのと同時、いずれ「離れなければ」いけない現実が圧し掛かろうとも、いまはこの幸福に心躍らせそのひとの擽ったさに感じ入って。思わず漏らした嘆声には、夕刻も間近、与えられた家屋に戻らねばという気すら与えず、光り輝くアクセサリーに目を奪われたことだろう。)こういうの、好きだよ。女の子ならみんな好きだと思う――でも、これがライとの思い出になるのなら、私はもっと大切におもう…!(おとなの男のひとがどんなアクセサリーを好むかなんて、娘の目に浮かぶ驚嘆には用をなさない。シンプルな品が良いのか、派手派手しいのか、何にも代え難い一品を選ぶべきかと何度目かの夢見心地の末――、)…これがいい。ライの黒髪と、私のひとみの色。(取り上げたのは四つ葉のラピスラズリを細かいシャーマナイトが囲ったピアス。黒い宝石はマットな質感で、青い宝石守るがごとく。たしかラピスラズリは持ち主の成長のため試練を与えることがあるという。この先への思慮じゃあないけれど、パワーストーンとされるそれを瑠璃は一心に見詰め、)……あのね、ライ。お願いがひとつ。…選ぶのを私に委ねてくれたのなら…耳、開けてくれる?(それだけで通じるだろうか、手元のピアス煌かせつつの言葉は17歳、初の試み。ファーストピアスこそ何より鮮やかに思い出せるであろうという娘の麗々しい渇望の先にて、さてかのひとの返答とは。)
ユメ 2020/02/04 (Tue) 23:19 No.60
(暮れゆく空の下。白い頬の色づきを具に把握するのは難しくも、目を逸らす仕草はちゃんと拾える。しかし寂寞に見舞われたかといえば否、寧ろ微笑ましく思うほどで、「可愛いね」なんて小さく囁くのだった。)……君が見つめてくれている時、トロイメライも見つめ返しているよ。目を合わせていない時でも、君をきっと見守っている。"夢"とはきっとそういうものでもある。……どんな時でも、君の心の隣にだって存在しているのさ。(自信万全とはいかない言葉尻だけど、それが却って親愛を募らせてくる。だから我が眼に翳りは生まれず、絶えぬものを湛えつづける。きっとどんな世界でどんな姿であろうとも、瑠璃に映し出された瞬間に息吹を得るのだ。自分というものは。そんな未来への架け橋を求めてやってきた店は、どうやら置きに召して頂けた模様。)うん。……絆、っていうのかな。それを形にしたくって。(たった5日ばかりで何が生まれるかと、そう言う者もいるかもしれない。だけど幸いなるかな、絆の証を求めるのは彼女との間に於いてのみ。ゆえに傍らの乙女こそが証人になってくれたならば仔細ない。喜びの声を受けるほどに安堵を抱き、外套の下でこっそり緊張していた肩からも力が抜けていく。変える言葉も受け取りながら、選び手は彼女に委ねてついて歩く。そうして間もなく白い指が選びあげたピアスに「へえ」と純粋な感嘆を転がした。)とても綺麗だ……うん、君の瞳と俺の髪の色。こういう形でも、一緒にいられるんだね。(互いを思わせる色彩の輝くそれは、玉座のように眩い。喜びに双眸を細め、すれば続く言葉の先を促すべく軽く首を傾けた。疑問符まで聞き受けて、瞬きひとつ。)……それは、君の手で、俺に……つけてくれるってことかな? そういうことなら大歓迎だよ。(確かめる口振りの後、微笑みに戻れば快諾を。裁縫が得意と言っていた少女の手ならば、細かい作業が不得手な自分と違って安心して耳朶を委ねられる。意味を履き違えているのなら、きっと彼女が訂正をしてくれるだろう。甘えにも似た信頼を傾ける自分は、彼女の願いならば何を拒む筈もない。だからどんな望みとて、すんなりと諾を示すはず──応えを得た後、こちらもまたぐるりと店内を一瞥して、)ユメは……何か、つける?(再び彼女を見て、問う。こういうのが好きと言ってくれた彼女だけど、いつか終わる夢とも思えば哀切を煽るばかりだろうか。気を遣わせることはしたくないし、無理強いだなんて持っての他だ。よって尋ねる調子は軽やかなものだった。)
トロイメライ 2020/02/05 (Wed) 22:14 No.70
(咄嗟の照れ隠しがかわいいだなんて、それこそ少女漫画のよう、どう返せば良いかわからなくって「ぐう」と唸る。揶揄、ではないのだろう。このひとのことだから。)うん…心の隣に、トロイメライ。私はそれを忘れないようにするけれど…いまはライ本人がいるんだから、こうしたって良いよね?(世界が変わってもあなたを想う――そんな気持ちと裏腹、いまこの時には現実にこのひとがいるのだからと、娘は道中そのひとの手を取って繋いでみたり。店内に入れば解けもするが、この先、いつだって手の届くうちは繋ぎ合いたい。絆を形に。この宝石が、言葉にできないたくさんの感謝や、ふたりの繋がりの証になってくれるのならと一途に賛成の声。まさかかのひとが緊張していたなどとは思いもよらない。何せいつも通りの柔らかな声変わらぬから、和やかにこの提案を勧めてくれたようだから。彼は細かくこちらを察し、戸惑いひとつ見逃さずにあたたかく包んでくれようというのに、娘も洞察力はまだまだだ。)きれいだし、夜空に輝く星空みたい。夜がライで、星が私なの。ずっと、ふたり一緒にいられそう…なんてちょっと、恥ずかしいかな…?(自分を例えにするには幾分か大仰だっただろうかと、傍らのそのひと見上げながらちいさく舌を出して「やっぱ星はないか」なんてくすりくすり。共に在れたらと望んだばかりのそれが叶っているいま、動揺も完全にとは言わぬが消え去ったし、残りの時間をありったけ楽しみ尽くしたいと深く願うゆえ、かんばせをぬくい笑みに染めて。手にとって四つ葉のラピスラズリなぞったり、シャーマナイトの縁取りに指先走らせてまばゆいそれに魅入っていた合間、かのひとの言葉に「あれ?」僅かに頓狂な声をあげよう。)ライもピアス開いてないの?ライがいいなら開けてあげるけど、ほんとにいいの?……えと、ちがくて、私の耳に穴をあけてほしかったの。このピアス、左耳にライが付けて、右耳に私がつけようよ。(男性が片耳、それも左の耳たぶにだけピアスをするのには「勇気と誇り」の意味がある。変わって女性が右耳にだけつけた場合は優しさだったっけ?なんてうろ覚えから、そのひとの手で娘の耳朶に穴を開けてもらいたかったのだと訂正を。そもそも彼にピアスホールが開いていないのなら、ちょっと考え物だ。日本でよく言う「親にもらった大事な身体」に傷をつけて良いものかと。娘にはなんの躊躇もないが。)…別のにする?お揃いっていうのもちょっと古いよね、考え方が。(ううん、では如何しようと悩んではみるのだが、いっとき過ぎても小振りな輝き放つピアスのコーナーから動けずに。そこに哀切こそなかったが、瑠璃は奥底まで真剣な色味、辺りはそろそろ夕闇に包まれよう――。)
ユメ 2020/02/06 (Thu) 13:22 No.77
(手を繋いで歩む道は、暮れの時刻だというに明るく見えた。まるで魔法のよう。その声が編む言葉、小さな掌から伝わる温度、面差し。たったひとりの少女の存在というものが、この心にはさながら奇跡か何かのようにさえ感じられるのだ。森で覚えた儚さを今の彼女に見出さずに済んだのも、この手で彼女の存在を確かに感じられていたからなのだろう。 じゃあ、離した暁には? 性か、そんな思惟も浮かびはするものの、装飾品を前にして華やぐ様相を目にしながら口にするのは無粋というものだ。)……本当だ。星夜のピアスだね。俺が君の夜で、君が俺の星っていうのもぴったり……、ユメも中々詩人になってきたね? とても素敵なことだ。(見上げ来る瞳に眼差しを返し、小さく覗いた舌に笑み息を淡く綻ばせる。満天の星空を固めたような石の形は、なるほど幸運を思わせるもの。瑠璃の輝きを守りたい、大切にしたい。そう願う者にとっても善きものとして添うだろう。)──ああ、そういうことか。これは失礼。俺も開けてないし、ユメがやってくれるなら大歓迎。……ユメこそ、俺でいいんだね? 誰かの耳にピアスを開けるのは初めてだけど、うん。任せて。(受け取り違いに思わず眉を下げ、素直に謝罪を述べるのをまず第一に。手先の器用さに自信がない部類の人間でるあるものの、彼女相手ならば誠心誠意慎重に、丁寧に、頑張らせて頂こう。決意を述べた後には、真摯な眼差しを装飾品たちに向ける少女を純な微笑みで見つめ。歩み寄っては両手を向ける。そんな気軽な掌は、背後から彼女の両肩へぽんと乗っけた。)そう? 俺はお揃いが増えるの、嬉しいな。だから……ユメが選んでくれたそのピアスを半分こにしよう。(同じものを共有し、分かち合う。思い出、喜び、しあわせ、名前もそうだ。そこに煌きたちが加わったならば、そう、記憶は殊に鮮やかに心へ宿るだろう。今この瞬間さえも褪せぬ頁となって、捲ればいつでも出逢えるものになる。信じているからこそ微笑みは絶えない。店内から窓辺を見やると、空がいよいよ夕刻の欠片を手放して藍色に染まっているのが見えた。)そろそろ帰ろうか。……夕食を食べて、ユメに俺の袖を縫ってもらって。ピアスはそれから、かな。(何を急くでもない。だからこの後の想定を音にする声はのんびりとして、それでいて楽しげでもあった。ピアスを開けるとなると、針はもちろん消毒用の道具も要るだろう。三つ編みと丸眼鏡の彼女も巻き込んでの段取りを頭の中で組み立てかけるも、仔細は道中で彼女と話し合いながら決めていくのがきっといい。ゆえ店員に包装を頼み、選んだ品を受け取った後には、)行こうか、ユメ。(此処に来るまでに彼女がそうしてくれたように、今度は此方から彼女の手を取ってみよう。)
トロイメライ 2020/02/06 (Thu) 21:33 No.82
(空の如く広がる黒色のシャーマナイト、星の如きラピスラズリの中心角。四つ分かれた宝石を囲む黒が天体のそれを指していて、かのひとの言ったとおり星夜のようだと再確認する瑠璃は嬉しげに。)そうかなあ、ライ以上の詩は書けないとおもうけれど。(だって詩人を生業としているのだから、敵わない。けれど同意を得られたのなら自信も少しずつ湧き出でて、それが“素敵なこと”の一部であり、自身が齎し得たのなら実に重畳。これが善きことなら共有したいと思うのは必然か、一センチ角のピアス指に転がし会計をしようと主呼ぼうとして気付くのだ、この世界に金銭での売買はなかったのだと。)…タダでもらえちゃうなんて、ちょっと悪い気もするなあ。…でもあのね、ライ、私はライとだから一緒がいいって思ったんだよ。ライの身体を傷付けることになるけど…それも承知で良いっていうなら、私だって、大歓迎。(任せて、その言葉に力込めて頷けば、受け取り違いなど瑣末なこと。普段は紅茶零してしまうほど不器用な手先であっても、私はあなたの手が良いんだものと明確に示し。両肩へ乗る掌に拠り所得たように、)私たちだから、お揃いに意味があるなって思うの。半分こね、おとこのひとが左耳だけにピアスをするのって“勇気と誇り”の意味があるんだって。私の世界では。(改めてその価値高いのだと同意してくれた彼に告げれば、外は藍色、夜の帳。帰ろうかの合図で一対のピアス布地に包んで持ち帰り、他のアリスたち同様宛がわれた家にかのひとと共に帰宅しよう。夕飯の折は三つ編み眼鏡の彼女に料理頼むとして、裁縫箱と付随する針・消毒液もその折にもらっておこうか。己が手を差し出すまでもなく、取られた片手の指を絡めて家まで辿り着いたなら、共に和やかな夕食終えて破れたそのひとの衣服の修復を。手早く終えてテーブルに付く彼の膝元、拒まれなければ乗り上げるように己の身体預け、)ほんとにいいんだね、ライ。私の国では「せっかく親に与えられた」「健康な身体なのに」わざわざ穴を開けるなんて…って否定的なひとも多いんだけれど。いま拒まないなら、本当に開けるからね。(再三の忠告めいた言ならびに指先に光る針確認の末、半ば脅すかのように言ってみるも、耳朶に穴開ける経験は娘も初の試みで。かのひとの左耳確かめるように数度撫で、丁度耳たぶの中心に来るよう針宛がえば抵抗ない限りぷつりとそれを刺し貫こう。ガーゼに消毒液染みこませ、直ぐに宛がい、穴が塞がらぬうちにラピスラズリとシャーマナイトの四つ葉のピアス差し込んで。)い、痛くない…?や、痛いよね!でも真っ直ぐに抜けたから、たぶん、これで大丈夫なはず…!(何せ初めてのことだからと不安めいたかんばせにもなるけれど、あとはこちらの右耳打てばふたりの“お揃い”は完了だ。刺した針もガーゼで消毒し直し、そのひとへと受け渡して。膝広げて彼の腿に乗ったまま告げるのは「開けてください。」決意に満ちた、瑠璃のまなざし。)
ユメ 2020/02/06 (Thu) 22:47 No.84
"勇気と誇り"……素敵な言い伝えがあるんだね。女性が右耳だけに着けるのにも意味があるのかな? よかったら、今度教えて。(初めて知る伝承に目を輝かせ、感心しきりの声を返す。願い事もひとつばかりそっと添えて、手を結び、指を絡めて辿る帰路の果て──相変わらず美味しい食事に舌鼓を打ち、彼女の修復の手際に感心の目線を直向きに捧げ。「ありがとう」の言葉と共に外套を受け取った後は、いよいよ"その時"だ。大腿に乗ってくる彼女を笑って迎え入れた男は、忠告のような言葉を受けても表情を変えない。代わり、伸べた両手を彼女の腰へ回した。こうすれば離れないでしょう、って、そう言いたがるみたいに。)……"ライの身体を傷付けることになるけど"……って、言っていたね。(瑠璃を見つめ、店で彼女が言っていたことを今改めて口にする。ふたつぶの宝玉、針、そうして再び星の瞳を見つめては微笑み描く唇をまた開いた。)この体に穴を開けることを君の国の人たちが非難するのなら……俺は、こう返そう。(眼差しを寸分も逸らさずに、そよ風みたいな声量で。ふたりの間にだけ流す言葉は、誓いのそれのごとく揺るぎない。)この体は俺のもの。何処に穴を開けるも、誰に委ねるも、俺の自由だ。それに……大事なひとに触れられて、同じ印を刻んでもらえもする。そのしあわせを知らないままだなんて……それこそ、勿体ない──…、ってね。(ふふと笑い、本意を囁いて落とす。すればお喋りな唇も一旦閉ざし、彼女へ向けた両手はそのままに耳朶を委ねよう──刺突の折こそ微かに眉を寄せ、ちょっとだけ口角を下げる。指先もまたほんの小さく震わせるけれど、処置も授印も済めば笑みに返るのも早い。)うん、まあ流石に全然痛くないって言えば嘘になるけど……小さい穴だから、すぐに治まると思うよ。(なんて言って笑う様に強がる気配はなく、只管に明るい喜びがあった。この面持ちが笑みを収めることがあるとすれば、針を受け取った頃である。)ああ、任せて。(決意に満ちた瑠璃を前にした時こそ、小さく笑って頷いた。けれどいざ、彼女のやわこい耳朶に銀色の先を宛がう瞬間には緊張を面持ちに湛え──きっと、多分、数年分の集中力を費やしただろう。刺した針を抜いて、消毒液で冷たいガーゼで傷口を抑えて。それからピアスを嵌める。その一連を為す間、比喩ではなく息を止めていた。彼女から手を離して漸く酸素を取り込んで、)……大丈夫?(真面目な顔して、慎重な声で問うてみる。失敗こそしなかったけど、心配なものは心配だから。それでも見守る先、彼女に大事なければ、安堵の息を緩々吐き出すと共に相好崩す姿があっただろう。)お揃い、増えたね。(口ずさむ音節も多幸の喜色に綻び、双眸もまたやわりと細まった。そうして気紛れのような軽やかさで彼女へ顔を寄せ、瞼を降ろし、白い頬の左側へごく軽く、淡く、唇で触れんとした。)
トロイメライ 2020/02/07 (Fri) 19:55 No.94
(元々は男性が左側に「守るひと」の意でピアスを開け、反対に「守られるひと」として女性は右側にピアスを開けていたらしい。それは転じて、)おんなのひとが右耳にだけピアスを開ける、その意味はたしか、優しさと成人女性のあかし…だったとおもう。私のいたところでは成人は20歳からだけれど…そういう意味では、ライのおかげで、私ははやくおとなになれるんだね。(たっぷり頂いた夕食も、手早く終えた裁縫も“その時”には叶わない。腰へ回った腕を力強く感じながら準備をして――彼のもったいぶった言葉にひとつひとつ頷いて。まるで春風吹いたように、その一陣は腑に落ちた。)…うん、ライの身体はライのもの。同じく私の身体も、私のもの。大切っておもってくれてるの、すごくうれしいよ。ほんとに…このファンタスマゴリアでは、しあわせの音がするみたい…!(そのしあわせ知らぬことこそ勿体無い、そう思ってくれることが実にありがたい。本来なら氷で冷やすべきところ、工程吹き飛ばし針を刺し貫いて大丈夫かと心配したが、すぐ笑みに返る様子に満ち足りた思い巡らせて。痛みは当然あるだろうに、あまりにやわらかく感想述べるものだから娘のかんばせにも安堵広がろう。言ってしまえばこの娘のわがままだったのに、そのひとの晴れやかな愛想に随分と救われ、)しばらくは消毒を欠かさないほうが、いいとおもう。でもそのうち、ピアスホールは固まるから…これが、ふたりの絆だね。(確認するように言ってから、かのひとに渡した針の切っ先に目を落とし、膝の上ですこおしだけ緊張の一時。耳朶に宛がう銀色は見えないながら、変に力を入れぬようにと身構えて――いざ、ぷつんと耳の皮膚に刺突の音鳴り、穴が開こう。すぐに抑えられた傷口には一センチ角のピアス挿入され、そのひとの吐息感じられたのは一連の動作終わったのち。)だ、大丈夫…!思ったより痛くなかったのに、逆にびっくりしちゃったよ。――…そだね、お揃い、だよね。(考えたが古いかしらんとは娘が言ったことだが、それでもふたり同じ意匠のピアスを付けられること、素直に嬉しくて。あなたの左耳、わたしの右耳。他愛ない所有欲の権化であったかもしれないけれど、かのひとがそれを受け入れてくれ、実際己の身体に刻んでくれた証が何よりいとおしい。)…ライ、ありがとう。(膝の上、近しい距離でひだりの頬へ触れたくちびるが息を呑むほどあたたかい。そのまま胸に飛び込んだとて、受け入れてくれるであろうと察すれば娘の行動はただひとつ。)ねえ、ライ。…今夜はここに泊まらない?なんだか、ひとりで寝るのがさみしくなっちゃった。(かのひとが居場所を転々としているのを知っているから、今晩の宿はここで如何かと誘いをかけて。無論他に行く場所あるなら止めぬし、友人方の誘いあるなら断ってくれて構わない。ただただ一晩だけでも共にと、語り明かすでも眠り合うでも好きなようにと、都合が良いのだったら娘はそのひとを無心に招じ入れるだろう。)
ユメ 2020/02/07 (Fri) 22:08 No.97
("おとなになれる"。少女の口から出た言葉に胸が震えた、気がした。何だか言葉に代えられないほど尊い瞬間に立ち会っているような、そんな心地。自分の言葉を素直に受け取って、のみならず顔ばせを華やがせてくれる乙女。明るむ面差しを目にすると、この心は時刻を問わず晴れ間に出逢った気分になるのだ。)そう。俺のしあわせ、君のしあわせ……それを決められるのは、自分たちだけ。だから間違った答えなんてないのさ。信じたものこそが正解だからね。(互いの手が齎すものが、互いの、ふたりのしあわせになればいい。彼女の耳に刺す針にはそのような願いも込め、甲斐あってか処置は無事に済んだ模様──それはもう、吐息にもありあり表すくらいには安堵したとも。)よかった。ユメも、消毒頑張ろうね……、一緒に。(彼女から頂いた言葉を自らも、軽やかな調子で口づかせる。自分の思いつきに快く乗ってくれただけでなく、こうして分かち合える宝も齎してくれた。そのひとが喜びを示してくれる姿に、想い募らせぬだなんて無理というもの。まろい頬から僅かに唇を離したところで聞こえた言葉に、一層口元を綻ばせた。)うん。俺からも……ユメ、ありがとう。(卑下も謙遜もせず、贈ってくれたものをそのまま受け取ろう。すれば続いて聞こえた音節に目を丸くするも一瞬。すぐに相好崩し、綿飴みたいにやわこい笑みを浮かべた。)……おや。これもお揃いか。(呼気で頬の肌を擽れる間近で囁き、そうして再び唇と白い肌の距離を削る。此度吐息のかかる位置を望んだのは左の耳朶。ふたりだけの秘め事として、そっと囁いた。)俺も、ユメと一緒にいたいって思っていたところ。……レディに強請るのは、流石に遠慮してしまってね。だから……ユメも同じ気持ちでいてくれたなら、嬉しい。(そう告げて、今度こそ顔を離す。すれば互いに正面から向き合いなおるだろう──それから緩やかに擡げた左手を向けた先は、星夜の煌く右の耳朶。開けたばかりの穴へ障らないよう、すべらかな感触を持つ上縁を指先でなぞって。)……眠くなるまで話すのもいい。言葉が休みたがったなら、手を繋いでいるだけでもいい。君を感じていたい──…、それで朝になったら、消毒しあって。一緒に朝御飯を食べよう。(何をしようか、ふたりで考えるのも楽しい。だから自分で言うだけでなく、彼女にもしあわせの青地図を強請ってみよう。瑠璃を見つめて謳う言葉はやわらかな幸に満ち、尽きぬ喜びをも湛えていた。)──…おやすみ、ユメ。(眠りに導かれる間際に君へと囁いたことも含め、きっと自分はこの先夜空の星を見上げるたびに、今宵を思いだす。一番眩い夜天の宝石を見つけては、君の瞳を。己の耳朶に触れ、そうしたら君の指先を、温もりを。何度空が廻っても、君を想いだすたびに笑っていられますように──どうかこの夜を越えた先でも、また幾つもの記憶の花を咲かせられますように。)
トロイメライ 2020/02/07 (Fri) 22:51 No.99
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