Mome Wonderland


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(さみしいのはきらい、自分のことはもっと。)
(五日が経った、クローゼットにはあのギンガムチェックワンピースが毎日色違いで用意されていて、今日はネイビー、昨日はオレンジ…と日々をあざやかに彩っている。顔がある花木や家具、晴天ばかりの空、お喋りでそっくりな双子、見たこともない植物、ファンタスマゴリアというらしいこの世界で出逢うものはみんな愉快に変テコで。キャンディピンクの少年とネズミ以外のひとと話す時はやっぱり顔も声もひどく強張ってしまうけれど、此処の住人たちは少女の様子に不思議そうな顔をすることはあれど呆れて愛想を尽かしたり遠巻きにするなんてことはなく。他の"アリス"たちも年上のひとが多いからだろうか、親切にしてもらえている。心細さや家族恋しさが失くなったわけではないけれど、少し、ううんもしかしたらだいぶ、この変テコでやさしい世界は少女にとって息がしやすかった。──だからひとりで出かけることにだって躊躇いは少なく、星屑がとれるという湖に行ってみたくて、あべこべを言う猫にそうとは知らず訊いてしまったのが不運のはじまり。気付けば鏡の森の中、覚えのある光景たちに囲まれていた。楽しげに賑わう教室のなかで、どの輪からも外れ俯く灰色の制服。緊張のあまり強張って怒ったような自分の顔と声、戸惑うような怯えるようなクラスメイトの顔。──自分では自分の顔は見えていなかったけれど、こんなふうだったんだ。そりゃあこんなでは誰も寄って来ない筈だ、時折現れた手を述べてくれた優しいひとたちだって嫌になってしまう筈だ。分かってる、自分がぼっちなのは…自分が寂しい想いをしてるのは誰かのせいじゃなく自分自身のせいだって。なんでこんなふうになっちゃうんだろう、なんで上手にできないんだろう、なんでなんでなんで。鼻の奥がツンとして、じわりと視界が滲む。いつもいつも上手に出来なくて、こんなふうにしか振る舞えない自分が嫌いだ。此処で息がしやすいのは住人たちがおおらかで大賀美の不器用を気にしないでいてくれるからで、元の世界に戻る術が見つかったら、ファンタスマゴリアを去る日が来たら、きっとまたあの自分に元どおり。情けなくて後悔ばっかりの、大嫌いな自分に。)や……、(きゅーっと喉が絞りあげられて、心臓がバクンバクンと嫌な音で騒いで、息が震えて、視界がゆらゆらに滲んで、逃げ出したいと思うのに脚が石のようで一歩も動けない。もう立っていることさえ難しくて、目をつむって耳を塞いでしゃがみこんでしまう。それなのに嫌な想い出たちが耳の奥にこだまして、瞼の裏に映り込んで。)っ、……
ナル 2020/02/01 (Sat) 08:42 No.5
(月の時間と太陽の時間は交互に訪れ、女王陛下から言い渡された期日は着々と駒を進めていた。我らが女王が実際に首を刈る場面を見たことはないけれど、今回も同じとは限らない。だというのに一日の終わりに今日の収穫――大抵はお花に新しい歌を教えて貰っただとか、雑貨屋の中で小舟に揺られながら店主が編み物をするのをただ眺めていただとか、元の世界に通ずるものは何一つ無かったが――を振り返る時には落胆より充実感の方が強かった。見知らぬ世界へ放り込まれたのが自分自身であったなら、もう少し振る舞いも変わっていたろうか。もしもなんて考えていても仕方がないけれど、時々そんな風に思う。国のあちこちから流れるマーチに合わせてステップを踏みながら、やって来たのは新たなおともだちの家。ノックノックノック。返事は何も聞こえない。)…………えっ、森へ行ったの!?(そこから少女の行き先を知るまでに随分と時間が掛かってしまった。親切に教えてくれたのは、花のベッドで休んでいたミツバチたち。頭を下げてお礼を言って、森の入り口でそっと深呼吸をする。鏡の森に立ち入ってはいけないよ、戻れなくなってしまうかもしれないから。店長が教えてくれた言葉を思い出し、胸の前で拳を握る。言い付け通り足を踏み入れたことの無いこの森に何が住んでいるのか、想像するだけで足がその場に留まりたがる。けれど彼女は大切なおともだちだから、今日も肩に乗っている子ネズミを森の入り口に残して、単身足を踏み入れた。――けれど幾ら進めど危険な生き物や植物は現れず、ただ木が生い茂っているばかり。何の変哲もない景色に首を傾げ、うねる道を曲がった時だった。そこに蹲るシルエットに、瞳孔がぎゅっと縮まる。)――ナル! どうしたの、大丈夫!?(土を蹴飛ばし、小さな体に走り寄る。すぐ近くにしゃがみ込めば、その体が震えていることも知れるだろう。ただの森じゃないかと笑っていたけれど、実は恐ろしい生き物が住んでいるのだろうか。辺りを見渡して、震える肩に両手を乗せる。大丈夫って言い聞かせるみたいに。)ナル、ナル。聞こえる?おれだよ、コルネだよ。……立てる?(立てなくともおんなのこ一人くらいならきっと抱えていけるだろう。俯く頭に自らの額を寄せて、何度となく「大丈夫」と声にする。言い聞かせる相手は彼女だろうか、それとも自分自身だろうか。)
コルネ 2020/02/02 (Sun) 18:26 No.26
(鏡で出来た森は映しだす、さみしい現実を、だいきらいな自分を。──ランドセルを背負っていた頃も、セーラー服を着ていた頃も、灰色のブレザーを着る今も、いつだってひとりきりで俯く帰り道。グループ作りにぽつんと残る自分、困ったような先生の顔、指示を受けて入れてくれたグループの子たちの微妙な顔。賑やかな教室には居づらくて、人の来ない階段隅でお弁当を食べる昼休み。仲睦まじくはしゃぐ同級生たちを羨ましげに見る自分。そのくせトイレに籠もって泣くしか出来ない自分。──いやだ、やめて、見たくない、聞きたくない、分かってる、分かってるから、見せないで、聞かせないで、やめてやめてやめて。 ぎゅと瞑る瞼の裏に映る光景や、塞いだ耳の奥でこだまするヒソヒソ声にまぎれてしまって、駆け寄る足音や呼び声は少女の心に届かない。肩に両手を置かれてようやく幻でない誰かの存在を知り、ビクン!と身体が震えて。)っ、(俯いて滲んだ視界にはキャンディピンクは見えないけれど、耳を押さえつけていた手が緩めば、ほんの五日間で聴き慣れた少年の声が鼓膜に染み込んでくる。)……コル……ネ、く…………?(こつりと頭部に感じるやさしい重みと、おまじないのように降りそそぐ「大丈夫」が少女の心を暗がりから掬いあげてくれるようで。震える息をぐっと飲みこんで、不器用にもどうにかうなずいて立ち上がろうとするけれど、カクリと膝の力が抜けて地面に逆戻り。)ぁ……、(呆けた声といっしょに、潤みきった黒の瞳から涙が勝手にぽろぽろり。──あぁ、ほら、やっぱり。元の世界に戻ったらどころかこの世界に居たって、泣くしか出来ない情けない自分のままだと知らしめられる。ぎしぎしぎゅうぎゅう心が軋んで、余計に涙がとまらない。)っ、も、……ゃ゛だ……私、……こんな私、きらい゛……。 なん゛で、いつも上手に、出来な……いの、…… やだ……、きら、い……
ナル 2020/02/03 (Mon) 00:06 No.35
(細い肩の内側に一体どれだけの恐怖を抱えているのか。平和と喜びに満ちた世界に生きるコルネには、皆目見当もつかなかった。それでもどうにか彼女を守ってやりたくて、根拠のない「大丈夫」を繰り返しながら、合わせ鏡の狭間に潜む怪物の気配を辿ろうとする。少女を此処まで怯えさせているのは黒く大きな獣だろうか、それとも醜悪な顔付きをした人もどきだろうか。或いは毒の実が生った巨木かもしれない。懸命に耳を澄ませてみるものの、猛獣の鳴き声はおろか草を踏む音ひとつ聞こえて来ない。そうやって周りに意識をやっていたから、膝から崩れる彼女に手を差し伸べるのがほんの一瞬遅れてしまった。)っ、ナル……!(覗き込んだ瞳から、悲しみの欠片が零れ落ちる。堰を切ったように溢れるそれは瞬く間に少女の頬を濡らし、やがてその頬を包むコルネの指先までを濡らすだろう。両の頬をそうっと包む手のひらは、あたたかな体温を彼女に分け与えようとする。そんなことしか出来ない自分が無力で、苦しかった。「大丈夫」の代わりに今度は彼女の名前を何度となく声にして、怪物の足音ではなく彼女の言葉に耳を傾ける。――きらい、きらい。本当に?)ナルがきらいだって言うなら、おれが二人分だけナルのことすきになるよ。ナルが百回きらいって言ったら、二百回とおまけに百回すきって言ってあげる。だから、帰ろう。(灰色の屋根の家へ。正面から少し横に体をずらして、片手で少女の背中をゆっくりをさする。)帰るんだろ。(元の世界ってやつへ。宥めるように背を撫でていた腕と、もう片方の腕は、それぞれ肩と膝の裏を抱えて少女の体を持ち上げようとする。不思議の国、ファンタスマゴリアには様々な意味で地に足のついていない住人も多いけれど、コルネは両腕と両足にしっかりとひとり分の重さを感じていた。)んぐっ、 んぐううああぁ……!(子ネズミよりずっと重い、なんて感想はレディに対して失礼だろうか。歯を食いしばって、腰を落として、少しずつ小さな体を持ち上げる。爪先が地面から離れる頃には、口の端っこで笑いかける余裕くらいは出来ていると良い。)また落ちてどっか違う国に行っちゃわないように、ちゃんと、つかまっててね。……大丈夫、だっておれがついてるもん。
コルネ 2020/02/03 (Mon) 12:53 No.40
(へたりこんだ地面の冷たさが心にまで這いのぼり。ぼろぼろ落ちる涙がギンガムチェックを水玉に変えて、彼の指まで濡らして、それでもまだ止まらない。頬を包んでくれるあたたかな感触や、何度も呼びかけてくれる声をちゃんと受け取れないほど、自己嫌悪がむくむく膨らんで。合わせ鏡に無限に映り広がるさみしさと悲しみに閉じ込められてしまったみたい。──きらいきらいだいきらい、私は私がだいきらい。頭の中の言葉なのか、声に出ているのかも分からぬ自己嫌悪の渦に──ガシャン!ひとすじひびが入った。あんまりにもあたたかくって、ちからづよい「すき」が、鏡の檻を壊していく。)っ!!(少女は濡れそぼるまなこを大きくおおきく瞠って。)…………、な゛……っ、 ……ど……て、……(『なんで、どうして』)わ゛っ……たし……、 きら゛……な、 たしっを、す……きなん゛…… る、の……(『私でさえきらいな私をすきなんて言えるの』 嗚咽で引っかかる問いはほとんどまともな言葉にならず、彼には伝わらなかったかもしれない。ただひたすらに、混乱していた、驚いていた、そして目の前がパッと開けたようなおおきな感情の昂ぶりに襲われていた。ソレにいちばん近い言葉を探すなら、感動、だろうか。背中をさする手がやさしくて、涙腺が故障してしまったようにまた一層ボロボロと涙が落ちるけれど、さっきまでとは違って頬をすべる雫はなんだかあたたかい。)……う゛……ん、……(帰りたい、灰色屋根のお家へ。)ぅ、ん゛……っ(帰らなきゃ、元の世界に。彼をクリケットボールにさせないためにも。そう思うのにまだ力の入らぬ情けないこの脚。かわりに、添えられた手のひらに力がこもって少女を此処から連れ出そうとしてくれる。いつかにくるくる回された時よりずっと大変そうな声が鼓膜を打つものの、恥ずかしいだとか申しわけないだとかの感情は泣きじゃくってぼんやりする頭には浮かばずに、大人しいお荷物であるのが精いっぱい。やがて少女の重みはすっかり地面から離れ。)……うん、……っうん、(懸命に抱えてくれる腕と言葉それから浮かべられた笑みが、どれほど少女に安心感をくれたことか。──コルネくんが居るから、だいじょうぶ。乾くこと知らぬ頬で懸命に頷き、震える心を彼にあずけて。ネイビーのジャケットを弱々しくも確かに握り、縋るように身を寄せよう。そうしてふたりが鏡の森をどうにか抜け出したなら、子ネズミのお出迎えがあるだろうか。)
ナル 2020/02/04 (Tue) 02:52 No.50
(途切れ途切れに押し出される気持ちのうち、きっと半分も理解を出来てはいないんだろう。ただ、開かれた瞳が信じられないと言わんばかりのかたちをしていたから、こんな状況だというのに可笑しがるみたいな笑みが口元に浮かんだ。おともだちを好きになるのに、どんな理屈が必要だというのだろう。蹲っていた身体を抱え上げる所作は決してスマートではなかったから、紳士然とした友人たちに近く手解きをして貰わねばと思いつつ。腕の中、何度となく返される頷きに沸いてくる勇気に背中を押されて歩み出す。鏡で出来た草木の間を進む足取りは次第に速度を増し、森を抜ける頃には駆け足になっていた。足元では踏みしめた草や葉が割れる音が響いていたけれど、青空の下で見下ろした靴には割れた破片のひとつも付いてはいないのだった。)っはあ、……はぁ、…………っ、 ここまで、来れば、……だいじょーぶ、だからね。(まるで絵本のページを捲ったみたいに、森の端っこから一歩出ればそこにはいつもと変わらぬ平和なファンタスマゴリア。緊張、不安、焦燥。胸を占めていた感情は穴の開いた風船みたいにじわじわ萎んで、こちらに気付いたネズミが駆け寄る頃にはすっかりと安堵が満ちていた。それに比して、限界いっぱいまで走り続けていた足からも力が段々抜けていく。彼女の体を落としてしまわぬよう抱え直して、足を向けるのは国の中央に位置する噴水。その周りに立つ、灰色の屋根の家。)ナル、ごめんね。あの森に近付いちゃいけないって先に言わなきゃいけなかったのに……怪我はしてない?大丈夫?(額に浮かぶ汗を拭うこともせず、程近くにある少女の顔を覗き込む。少年にとっては美しい細工のように見える森で何が起きたのか、それを無理に暴くつもりはない。手足を擦りむいたときのように、簡単に癒えるものではないんだろうから。コルネの足を登って、肩に乗った子ネズミが「おうちに帰ったらおいしいマフィンでも食べましょうね」というのを聞きながら、そうっと目を細める。)そうだね、ミートパイも食べよう。お腹いっぱいになるまでね。ナルは何が食べたい?(問う声は努めていつも通りに。それでいて、灰色の屋根が見えた途端に歩む足取りは早さを取り戻す。かわいいおともだちはみんなに自慢して回りたいけれど、泣き腫らした顔をみんなに見られるのはきっと嫌だろうと思ったから。)
コルネ 2020/02/04 (Tue) 15:35 No.54
(沢山のきらいをもっともっと沢山のすきで上書きしてくれる。ともだちってみんなみんなそういうものなのか、彼にとってのともだちがそういうものなのか、少女にとっては彼(と子ネズミ)こそがはじめてできたともだちだからよく分からない。分からないけれど、コルネくんが居るから大丈夫、と彼の服を握りこむ指先が信じている。風きる速度は黒髪の裾と腰のリボンをそよがせ、やがてふたりは青空の下。鏡の森を抜ければ不思議ともう幻は見えず聞こえず、心を蝕んでいたさみしさやこわさがしゅるしゅると縮んでいって。少年の肩へ駆けのぼってきた子ネズミと間近で目があった。)そう……だったんだ……入っちゃだめなところ、だったん、だね……。(だからあんなことになってしまったのか、と今ならば少しは冷静に思えるけれど、先程の幻を思い出しただけでちいさな身震い。きっと頑張れば自分の脚で歩けたのかもしれないけれど、結局そのあとも抱え直してくれるともだちの腕にに甘えてしまった。やがて見えてきた噴水と灰色屋根のお家。涙もようやくおさまってきて、子ネズミと彼の言葉にホッとした顔で頷いたのはマフィンとミートパイが食べたかったからじゃなくて彼らのやさしさが嬉しかったから。)…………ママのオムライス……、(問われて最初に思いついた好物はこのファンタスマゴリアではどうあったって食べられない代物で。だから「なんでもない」と首をふってごまかした。たった五日で安心する場所となっていたお家に辿り着いたら、やさしい腕から降ろしてもらい。しばらくぶりに自分の力で地面に立つと、今更ながら恥ずかしさと申しわけなさが湧きあがってくる。一応、これでも、自室やトイレに籠もってから泣くので人前で涙した経験はそう多くはないのだ。ぐしぐしっと涙の名残を手の甲で拭って。)っぁああ゛………あり゛っ、ありがとう゛コルネくん……っ お゛……重かったよね……疲れたよね…… ごめんね、ありがとう、ごめんね……(「チップちゃんも」とちいちゃなおともだちのことももちろん忘れずに。近づいちゃいけない場所なら、少女を探す以外に訪れる理由はなかったろうし、彼らもこわかったに違いない。それでも森の中に踏み入って、助けにきてくれたともだちへ溢れる程のありがとうの気持ちをどうやって伝えたらいいんだろう。うろうろ、おろおろ、泣き腫らした顔で考えて悩んで迷って。)…………コルネくん、チップちゃん、……オムライス食べたこと、ある……? ……私、ママほど上手じゃない゛けど……、……材料があればつくれ゛る、と思う゛から……だから…… その、迷惑と、心配、かけちゃった……お詫びとお礼、に……よかったら、……あの、(そんなのでお礼になるかな。私なんかが作ったものを食べるなんて嫌じゃないかな。鏡の森を抜け出しても根暗やマイナス思考が消えてなくなるわけじゃないから、涙の名残で赤らんだ目元がおそるおそるに彼らを窺う。)
ナル 2020/02/05 (Wed) 12:24 No.65
(ナッツいっぱいのタルト、花の蜜を溶かしたミルク、ベーコンとチーズのホットサンド。彼女の答えが予想のどれとも違うことに対する驚きは無かったが、一瞬、瞳が大きく見開かれた。それだけでなく思わず声まで詰まらせたのは、"ママのオムライス"が意味するものを想像出来なかった所為なんだろう。それは何?と問う前にはぐらかされてしまったから、特別に何かを追求することはなく。ただ一度だけ、独り言を言うように「ママの……」と復唱を。彼女を無事に家まで送り届け、そっと身体を下ろした後は、情けないことに近くの椅子にへたり込んだまま暫く動けなかった。息を吸って吐く動きに合わせて、胸が大きく上下する。日頃の運動不足をこんなにも呪いたくなったのは初めてだ。)ううん、全然だいじょーぶ。……っはは、ありがとうとごめんがおんなじ回数だ。ナルはえらいねえ。(ファンタスマゴリアに住まう者たちは多くが愉快な変わり者だけれど、中にはとんでもなく怒りっぽかったり、人の話を聞かない皮肉屋だったりと扱いの難しい住人も存在している。そんな国で暮らしているものだから、最初に出た言葉が「ありがとう」だっただけで凄く特別なことをされているような気になって。未だ汗ばむ額を手の甲で拭うと、肩から飛び降りたネズミが机の上に着地した。「ナルが無事ならいいのよ」「それ、おれが言おうと思ってたのに!」部屋の中に溢れるのはいつも通りのぬくもり。)うん? ……えっ、いいの!?ほんとのほんとに!?(おずおずと申し出られた内容に面食らったのはほんの数秒、雪崩れ込んだ椅子から勢いよく立ち上がると、喜びのあまり両手を広げて彼女に飛び付きかけたが――「コラ」とお叱りを受けるのは昨日依頼、通算五回目だ。)オムライスって本では見たことあるけど、本物は食べたことない!ナルは料理が出来るんだね、すごい!てんさいだね!(大袈裟な褒め言葉は、けれど決して彼女を煽てるための文句ではない。素直に感心して、素直に言葉に変えただけ。きらきら瞳の中で光る星屑はどんな色をしているだろう。行きどころの無くなった両腕を開いたまま、首と一緒に上体も傾けて。)ナルがオムライスつくるとこ、となりで見ててもいい?邪魔はなるべくしないからさ。(ちょっとくらいはしちゃうかもしれないけど、と舌を出すのは心の中だけに留めておく。そろそろ腕を広げたままでいるのも辛いからと下ろしかけた手は――拭いきれなかった涙に触れたがるよう、彼女の目元に伸ばされた。眦の薄い皮膚を親指でゆっくり撫でる。赤い目は時計を持った慌てんぼうのうさぎちゃんみたい。)
コルネ 2020/02/06 (Thu) 19:38 No.80
(こんなにへとへとになってまで助けにきてくれた彼のほうがずっとずっとすごくてえらいのに、少女のことを褒めてくれる彼はなんて心が広いんだろう。子ネズミと彼の息のあったやりとりがいつもどおりで、尚のことほっとできた。そして、おずおずとした申し出に大袈裟なほどのきらきらの喜びが返ってきたから、)!? ぅ゛っ、うん゛…!(安堵と嬉しさとプレッシャーでどぎまぎしてしまう。もしかしたら、今にも飛びついてきそうだった腕も理由のひとつだったかもしれない。)あ゛、えと、でも、ちゃんと作れるかは、分かん゛ない、けど……。(それでもいいなら、と見学希望には控えめに頷いて。涙が名残る赤い目元を撫でられると、気恥ずかしさに睫毛をすこし伏せた。逸る鼓動はさっきと違ってなんだか落ち着かないのにくすぐったい。──しかしさてさて、オムライスをつくろうにもとにもかくにも材料がなければ始まらない。「ど、ドードーさん……」呼びかけに応じてそっと現れた女性に、こういうものが欲しいのだと相談をしてみて。たまごや具の野菜は問題なし、お肉やケチャップもそれらしいものがあるそうで、唯一ごはんが難関だった。検討の結果、つぶつぶもちもちした何かの実を代わりとすることに。さぁ切った具材と実をケチャップもどきで炒めて、薄焼きたまごを被せてくるんと包み、ケチャップをかけてできあがり。途中ちょっとくらいの邪魔があったって、びっくりした後にはちいさく笑ってしまってたのしさが増すだけだ。ふつうサイズをふたつとちいちゃなサイズがひとつ。おいしいマフィンとミートパイも並べたらなかなかヘビーな食卓になったけれど、たまにはこんなごはんもいいだろう。)で、できました…!(そう呼びかけたら、みんなでテーブルについて頬張ろう。ナルのオムライス─ファンタスマゴリア仕様─はもちもちの不思議な食感で、ママのオムライスとはちがうものになったけれどこれはこれでなかなか悪くなかった。……と少女自身は感じたが、彼らの反応はさてどうだろう。最初のひとくちめの後はどきどきのまなざしが彼らをじぃっと見守った筈で。 オムライスがのこり半分になる頃には涙の気配もすっかり薄れ。)……ぁ゛のっ(ふと少女はひっくり返る声を挟む。)……今日は、ほんとに、ありがとう。……あのね、もしも゛……コルネくんとチップちゃんが困ってたら、わ゛たっ、私が、ぜったい……絶対に、助けにいくっ、から……ねっ(約束、と意気込む少女は真剣に。自分なんかにどれだけのことが出来るかは分からないけれど、彼らが助けにきてくれたように自分も、と思うのはともだちとしてきっと当然の気持ち。──そういえば、この世界に落っこちる前に聴いた「助けて」の声のひとは大丈夫かな。だれかに助けてもらえたかな。そうだといいな。 忘れかけていた声のことを思い出してちょっぴり心配がよぎったけれど、続くたのしい会話に意識はさらわれてしまう。お腹がいっぱいになったなら、後かたづけはみんなでしようか。あんなにこわくてさみしくてたくさん泣いたのに、今はもう普段どおり……どころか笑えている。それってどう考えても彼らのおかげだ。──ともだちって、ともだちって、なんて素敵なんだろう!)
ナル 2020/02/07 (Fri) 18:41 No.91
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