(月の時間と太陽の時間は交互に訪れ、女王陛下から言い渡された期日は着々と駒を進めていた。我らが女王が実際に首を刈る場面を見たことはないけれど、今回も同じとは限らない。だというのに一日の終わりに今日の収穫――大抵はお花に新しい歌を教えて貰っただとか、雑貨屋の中で小舟に揺られながら店主が編み物をするのをただ眺めていただとか、元の世界に通ずるものは何一つ無かったが――を振り返る時には落胆より充実感の方が強かった。見知らぬ世界へ放り込まれたのが自分自身であったなら、もう少し振る舞いも変わっていたろうか。もしもなんて考えていても仕方がないけれど、時々そんな風に思う。国のあちこちから流れるマーチに合わせてステップを踏みながら、やって来たのは新たなおともだちの家。ノックノックノック。返事は何も聞こえない。)…………えっ、森へ行ったの!?(そこから少女の行き先を知るまでに随分と時間が掛かってしまった。親切に教えてくれたのは、花のベッドで休んでいたミツバチたち。頭を下げてお礼を言って、森の入り口でそっと深呼吸をする。鏡の森に立ち入ってはいけないよ、戻れなくなってしまうかもしれないから。店長が教えてくれた言葉を思い出し、胸の前で拳を握る。言い付け通り足を踏み入れたことの無いこの森に何が住んでいるのか、想像するだけで足がその場に留まりたがる。けれど彼女は大切なおともだちだから、今日も肩に乗っている子ネズミを森の入り口に残して、単身足を踏み入れた。――けれど幾ら進めど危険な生き物や植物は現れず、ただ木が生い茂っているばかり。何の変哲もない景色に首を傾げ、うねる道を曲がった時だった。そこに蹲るシルエットに、瞳孔がぎゅっと縮まる。)――ナル! どうしたの、大丈夫!?(土を蹴飛ばし、小さな体に走り寄る。すぐ近くにしゃがみ込めば、その体が震えていることも知れるだろう。ただの森じゃないかと笑っていたけれど、実は恐ろしい生き物が住んでいるのだろうか。辺りを見渡して、震える肩に両手を乗せる。大丈夫って言い聞かせるみたいに。)ナル、ナル。聞こえる?おれだよ、コルネだよ。……立てる?(立てなくともおんなのこ一人くらいならきっと抱えていけるだろう。俯く頭に自らの額を寄せて、何度となく「大丈夫」と声にする。言い聞かせる相手は彼女だろうか、それとも自分自身だろうか。)
コルネ 2020/02/02 (Sun) 18:26 No.26