(口先三寸で美辞麗句を連ねることには慣れている。しかし彼女の前で紡ぐ言葉は取り繕うこともなく、有りの儘のかたちで呈されている。やはり彼女の傍は呼吸がし易い。どうしてそう感じるのか予期していないわけではない。だがそれに丁寧に蓋をした。今ふたりの前に横たわる優しい空気を損ねたくなかった。己が振る舞いに戸惑いが波紋を広げるものの、溢れぬうちに堰き止める。微かに奥歯で空気を噛んで、湛えた笑みは穏やかだ。彼女が微笑みを咲かせれば、幼子のように頬が綻んでしまう。単純に安堵の色も孕んでいた。つい吐息が零れる。)よかった! いいものだっていうのは俺が保証するが、リアに気に入ってもらえなきゃ意味がないからさ。ああ、勿論いいとも。遠慮なんか必要ない。(自分の心裡を扱いあぐねているというのに、彼女が喜んでくれれば自然と声も軽やかに滑り出る。彼女が実際に身に着けてくれたなら、最初から其処に在ることが当たり前だったと錯覚してしまうくらいに馴染んでいる。実感の籠った声音で告げた。)すごく似合っているよ。やっぱりリアに贈りに来てよかった。なあドードー、こんなに似合っているんだ。お前も見て御覧よ。(上機嫌に水を向ければ、首肯と同時に娘のおさげが揺れる。「素敵です」と本心と共に目を輝かせる様に、何となく自分も誇らしい気持ちになった。鎖骨の地平にきらめく月星。レースを漣と見立てれば湖面に在ると喩えたほうが正確かもしれない。大切にするとの言葉に、何となしに頭を掻いてしまった。誰かに喜んでもらうことが好きだ。誰かに笑顔でいてもらうことが好きだ。──その『誰か』は、今だけはたったひとり。先般の鏡の森の件が脳裏に過り、彼女を苛んだ憂いを思い出して僅かに眉根が寄る。)そんなことないほうがいいし、ないと思いたいが。……もしこれから哀しみに溺れそうになったとしても、ひとりじゃないって思い出してくれたらいい。今後とも帰り方を探しつつ出来るだけ傍にいようと思うが、四六時中ってわけにもいかない。俺がリアのさいわいを願っていることも、憶えていてもらえたらいいなって素直に思ってる。(そこまで言いながら、不意に思い至って息を詰まらせる。そう、彼女がファンタスマゴリアにやって来てから七日が経過していることに気付いたのだ。ちょうど半分。折り返し。彼女は何時か彼女のいた世界に帰るひとだ。青色輝石を標にしても、月が見えなくなる時が必ずやって来る。最初からわかっていたことだった。指先にちりりと焦げ付くような感覚があって、宥めるように擦り合わせる。彼女の言に小さく噴き出した。)言っているじゃないか、敵わないな。別に俺が渡してばかりなわけじゃないよ、俺はリアに優しい気持ちを貰ってる。(直截的に言ってしまえば気恥ずかしくて、眦が赤くなるのは見ないふり。)……隣にいてくれたら、俺は嬉しい。(嘘偽りのない事実を、真心を籠めて囁いた。)
イディオ〆 2020/02/07 (Fri) 21:21 No.95