Mome Wonderland


back


(今宵は暗闇のち悪夢となるでしょう。)
(この数日で少し慣れてきたから、今日はほんの何の気なしのお散歩で一日を終えるつもりだった。みんなの真似をして「ありがとう」のたどたどしい言葉で貰えたきらきらの綿飴を食べ終わる頃には、いつのまにか街並みの風景から森へと移り変わっていた。ここは、どこだろう。)
(迷い込んだ森に人も動物もおらず、お喋りしてくれそうな花も見当たらない。おまけにどんどん暗闇だけが増えていく。進めば迷わされ、迷えば狂わされそうな、そんなおぞましさを密かに肌が感じていたときのこと――視界にきらり、なにか光ったものを見つけた。「?なんだろ、気のせいじゃない…よね。」とぽつり零し、よおく目を凝らしてみると遠くに位置する木自身がなにかを反射しているらしい。あとは咲夜の好奇心の赴くままだった。近づいていくにつれ、その全貌が明らかになると途端に瞳はまんまるくなり驚きを隠せなくなるだなんて、この時は知る由もなかったのだ。)これ、……わたし……?(戸惑う顔はそこには映っておらず、代わりに練習着でダンススタジオに篭もる姿があった。どうしてこんな姿が映っているのか、どんな原理なのか分かる術もないまま「麗花ってアイドルに向いてないんじゃない?」といつか言われた言葉がエコー掛かって森の中全てに聞こえるほどの音量で再生される。)どう…して、……ひゃ、(朧気な足は知らず知らずのうちに後ろへと逃避を図る。突きつけられると自分が壊れてしまいそうなものだと、頭の中で危険信号が鳴り響くから。けれど木々がそれを許さないと言わんばかりにトスンと後ろの木にぶつかると同時、そこもまた痛い記憶を映し出す。)やめて、(もうなにも見たくないとぎゅっと閉じきったまなうらには暗闇しかない。されど声は鳴り止まず、寧ろ音量をあげたそれは咲夜に終わりなき悪夢を知らしめる。「××ちゃん、○○ちゃん、デビューおめでとう」)やめてやめてやめてっ……!(耳を塞いでも小さくならない声は「今年いっぱいでデビュー出来なきゃ引退だよ」と冷ややかにあの時と一寸も変わらず再生され、思い出の言葉はずきりと胸を締め付ける。不安が満ち、息の吸い方さえ忘れて戦慄く体はやがて膝から崩れ落ちて握りしめたふたつの拳が大地を殴りつける。)わかってる…もう、わかってるから!(悲痛な慟哭は迷い込んだ暗い森のなかで誰にも届くことはない。ましろのレースが土埃にまみれても、爪の間に砂がどれだけ食い込んでも厭わない。響き続けるこの苦しみから逃れられるのなら痛さだって甘んじて受け入れるから。掻きむしり足掻く度、地面にはがりがりと何度も何度も爪痕が増えてゆく。それでも悪夢は耳元で永遠に嗤い続けているのが悔しくて怖くて、どうしようもなくて。)
レイカ 2020/02/01 (Sat) 02:08 No.3
(目が覚めるといつもおなじそらがひろがっている。青く澄んでいて、たかいそら。とうてい届きそうにないのに、どうしてもヒューは手を伸ばしてしまう。その日、レイカには会わなかった。正しく言うのなら、会えなかった、だ。噴水広場のお家をノック・ノック・ノックしても、リュウノヒゲ畑に走ってみても、きりかぶのところに顔を出しても、彼女のすがたはなかった。)ちぇ。(石の上を慎重に渡りながら、水面にうつるおのれのすがたを見る。いつ見てもかわりのないかわいいおれは、つまんなさそな顔をしていた。そのとき、風に乗って歌声が聞こえてくるのだった。 『 かがみよかがみ かがみさん 』 振り向いたヒューのひとみには、いつもと変わらぬ景色がうつるだけだ。それでも歌は続くので、ヒューは対岸へと飛び移った。 『 月からおちたそのむすめ かがみの森にいったきり 』 耳をたよりに辺りを見回すと、どうやらその歌は足元から聞こえるらしかった。見ると、だんまり花が風にゆれている。 『 森へはいったそのむすめ うつつのゆめにさいなまれ 』 )鏡の森? そこにレイカが行ったっていうのかよ。あそこにはなんもおもしろいもんはねーだろ?( 『 うるわしきししょくのひとみ くらいあくむへまっさかさま 』 だんまり花の答えはそれだった。ししょくがなんのことかヒューにはわからなかったが、くらいもあくむもヒューは知っている。言葉として。だからヒューは駆け出し、硝子の草へ飛び込んだ。森はヒューを歓迎しなかった。いやがらせをされるわけじゃあないけれど、どこかそっけない。ヒューは森の鏡にとって異物だからだ。それはわかっていたので、ヒューは声を張り上げた。)悪いな!ちょっと探し物なんだ!見つけたらすうぐ出てくからさー!(森はヒューに興味はないらしく、うんともすんとも言わなかった。だんまりだ。ヒューはちょっといやになる。地の利のきかぬ場所を少年は嗅覚にしたがって駆ける、駆ける。だんだんと息が上がり、首筋に汗が浮かんだ。木々のあいだに割り込んで、ひらけた視界の先に――彼女がいた。)レイカー!(ヒューはうれしそうにすら彼女を呼ぶ。間もなくして、その異変に気づいた。)……レイカ?(うずくまる肢体、土で汚れたましろ。もうレースは胡散臭いまでの本来の美しさからはかけ離れていた。恐怖が底から這いあがってくるのをヒューは感じた。急く足が彼女のとなりに頽れる。)おいっ!おい、レイカ!レイカーっ!聞こえるか?!かわいいおれ、ヒューがきたぞ!(こわれてしまう。恐怖の中で藻掻く手が、かつてましろだったそれを必死につかんだ。深淵をのぞく彼女のことを離してはなるものか。溺れさせてはなるものか。ヒューは彼女の名前を呼び続けた。レイカ、レイカ!)
ヒュー 2020/02/01 (Sat) 20:34 No.16
(咲夜はどんどん小さくなる。少しでもこの不協和音轟く悪夢に接する面が少なくなるよう、逃げるように。それでも「頑張りが足りないんじゃない?もっと頑張れば?或いは体の一つ二つくらい、ねえ?」なんて嗤う声は耳鳴りのように甲高く脳内で轟く。悔しい。憎らしい。苦しい。)これ以上わたしに……頑張れなんて言わないでっ……!(腹の底から沸き上がるその声は平常のかろやかな音にはかけ離れた悲痛そのもの。どうかたすけてほしい。こんな悪夢から目を覚まさせてほしい。願わくばあのあたたかい手で掬い上げられたい。そんなこと思っても、だあれも居ない森にひとりぼっちの状況は変わらない上に帰り方も見つからない。判断力も精神力も削られ、がり、と今一度咲夜の指先が大地を削り取った刹那のことだった――その部分が何かに掴み覆われた感覚に気付けば何事かと恐る恐る顔を上げるだろう。そうすれば咲夜の荒立った呼吸は一度止まる。ただでさえ唐突に触れられた感触を覚えただけでも驚いたというのに、たすけてほしいと願った相手が此処にいるのだから。それはそれは汗で張り付いた前髪が鬱陶しいと思う暇もないほどに驚いた。)――…………ヒュー、くん……?(はあ、とペース乱れる息を吐きながら震える唇が呼ぶ名前はこの世界で知る唯一の存在。お人形みたいにかわいらしくてとびきりまっすぐのあなたの名前。「ヒューくん」ともう一度確かめるように、それでいて縋るように名前を紡いだ。)ヒューくん、……ヒューくんっ…!わたし、わたし……っ……(はくり、はくり。言葉にならぬものと酸素を吸いきれずに焦る気持ちとが余計に唇を動かしても全て無駄な動きと変わる。冷静さを欠いている自覚など咲夜にはとうになかった。だから綺麗な真玉手と知りながらかつてましろだった指を絡ませ、己の頬へと手繰り寄せて一先ずはまなうらで安堵するのだ。あたたかい手。こうしてちゃんと触れられるのだから、これは悪夢のひとつではないんだと。睫毛を伏せたままで)此処にいるとだめになっちゃう、(咲夜は言う。「だからお願い、」――その先にはなにも続かなかったけれど彼には伝わるとそう信じて。か細い声に反比例するように、彼の手を握りしめたままの手は力強く未だ足掻きを見せている。それは悪夢が変わらず嗤い続けている証拠でもあったのだ。)
レイカ 2020/02/02 (Sun) 21:45 No.30
(少年になにが出来ただろう。悪夢に沈みゆくむすめの手を掴んでやるほかに。胸が焦げ付くようだ。だめだ。レイカがきえてしまう。なぜだかそんな、確信に似た気配がヒューには在った。だめだ、レイカ。きえてしまわないで。恐怖するヒューの耳に、ふるえる声が届く。切迫した表情が名を呼ばれるごとにゆるみ、やがて、気の抜けた笑みを浮かんだ。)――うん、おれだよ。(いっとうにやさしいアルトを鳴らして、ほうとついた息は自分勝手にも一先ずの安堵を含む。手繰り寄せられた先、場ちがいにほおのやわさが照れ臭かった。存在を確かめるように片腕が彼女の頭蓋を撫ぜる。それは無遠慮だったかもしれぬ。呼吸に呑み込まれてしまうような彼女の『ねがい』の先をはきちがえてさえいなければ、ヒューは彼女を抱き上げる。“なげる”のは無理だっていっても、でもそれはたやすかった。“かわいい”顔にそぐわずかるがると背と脚をささえ、紫色のふたつぶをおのれの肩に寄せ、まるで赤子にするように。とん、とん、とかよわい背をあわく、ただただあわくたたく。)よしよし、こわかったな。もう大丈夫だ。なにも心配はいらないぞ。おれがちゃあんと、レイカをつかまえたからな。おれはぜったいにレイカを離さないし、ほら、おれの顔だけ見ていれば、なんにもこわくない。な。レイカはだめにならない。(汗で張り付いた彼女の前髪を、骨ばってちっともかわいくない指が梳く。まるいひたいを人形みたいだな、とおもった。)鏡の森はな、いじわるなんだ。森たちはそんなつもりなんかないけどな。(森の外へと向かいながらそんなことをぼやく最中、月光のように揺れるまなこは少女の様子をひたに見ている。出来うる限りはやく、けれど、けして不安をあおらないように。ヒューは“ふだんどおり”にしようとして、している。やがて森を抜け、光が見えたころ、ヒューはいまいちど彼女にくちびるを寄せ、ささやく。)よし、外に出たぞ。もうほんとうに大丈夫だ。な。…いや、ちがうな。大丈夫、か?(森を抜けてもなおヒューは彼女を放そうとはしなかった。様子をうかがうようにのぞき込み、めずらしく明瞭さを欠いたこわいろが心を砕く。言葉はむずかしい。自分で言っておきながら、まったくしっくりこないのだった。なんせ大丈夫なわけがないのだ。しかしそれを声にすることはどうしてかヒューにはできなくて、歯がゆそうに結ばれたくちびるが、ややあって、また開く。)こわかったな。おれ、レイカがきえてしまうかとおもった。(くたりと眉を下げ、なさけなくも白状した。ほほえみはよわくも、やわらかく彼女を見つめている。)
ヒュー 2020/02/03 (Mon) 22:49 No.46
(酸素の取り込み方さえも忘れてしまいそうだったというのに、悪夢の存在とは違う彼の温度に触れられたならいつの間にかこの世界に沿うような穏やかな時を刻む針が動き出す。爆発しそうになっていた心臓も血流もとくりと平常を取り戻しつつありながら、けれども唐突に掌が華奢な肩へと導かれ、疑問符を浮かべる余裕もないままふわりと体は宙へ羽ばたいた。たすけてと願ったとはいえ、抱え上げられるのは想定外だったものだから咄嗟にしがみつく砂だらけのましろ。見目の愛らしさに反してどこにこんな力を隠していたのだろう。あながち月まで投げられる肩だったのかも――ううん、ちがう、この子はおとこのこなんだ。だから。こちらの不安も怖さもなにもかもを見据えて救おうとしてくれるあたたかい指先が前髪にかかると、心がこそばゆくなったのかもしれない。不思議となにも怖くなくなってきたもので、あやされる子どものように大人しくあるままそっとふたつの帳を下ろす。目を閉じればやっぱり。ずっと轟いていた不協和音はいつしかもう消えている。いつもより特段ずうっと近くに聞こえる彼の鼓動が悪夢を追い払ってくれたのだ。)うん、……うん。(私、泣いてなんかいないのに。そんな風に優しく扱われるとまた心の底がこそばゆくくすぐったくなる。なんにもこわくないと強く光る月色を見る紫もその輝きを薄らばかりでも灯し、さすればいつもどおりを繋ごうとする彼になにか応えることは出来ただろうか。ふと落ちてきた言葉でここは鏡の森というらしいと知る。きっと自分は近づいてはいけない場所なのだろう。この世界の異端だからこそ見えるものがあるのならば、余計に彼をまた此処へ迎えに来させてはいけない。前を見据えて出口へ歩く彼の横顔を見つめながらそれだけは思った――のに。大丈夫かと問われ、大丈夫だよと言わなきゃいけないことくらい分かっている、のに。それでもその五文字が言えないまま暫くだんまりを貫いて、困った表情を取り消すことも出来ぬまま。覗き込む月の色に映り込んだ自分の顔は到底可愛らしいアイドルとはかけ離れていた。再び悪夢が脳裏をよぎって、ぞくりと肌がざわついた。)………っ、………へ、変なところ見せてごめんね。私、また迷っちゃったんだね。この世界でもひとりになるなんて…、(ひとり。ずっと選ばれないままの、ひとり。よぎる悪夢を振り払うように努めて明るい音を転がして頬を持ち上げた筈だったのに、そんな思いに相反してひどく視界が揺らいでいた。あの悪夢は『現実』だ。皮肉にも己が帰らなければいけない場所なのだ。このあたたかさのいないところ――そう考えただけでこんなにも心が軋むなんて知らなかった。)……ヒューくんがいなかったら、だめになりそう。(ぽつりと花を割る言葉と共に頬へ一筋の気持ちが流れ落ちた。そして上体へ力を込めて彼の首筋に縋り付く。ふたりになんの隙間もないように、悪夢を考える余地などないようにして今だけは甘えていたかった。)
レイカ 2020/02/04 (Tue) 18:47 No.56
(やわい返答に応えるように身体をゆら、ゆら。ゆったりと揺らす。彼女が腕のなかにいて、壊れずにあることは心強かった。気まぐれな月を宿した少年が目指すはひとところ。彼女を心休まる場所へつれていく。思ったとおり彼女はぜんぜん大丈夫じゃなくて、大丈夫だって嘘をつかせることにならなくって良かったとヒューはこころのなかだけで思う。)ううん。変だとはおもわなかった。謝る必要もねーしさ、まあ、迷うことなんてめずらしくもないことさ。そうだろ?………、でも、(ヒューの声にいつもの明瞭さはない。躊躇うように、あるいは、はじめから存在しなかったその先を暗闇の中手探りで見つけだそうとするように、ゆらぐ紫色を見つめていた。やがて、なにもかもあきらめたような苦笑いが浮かぶ。)……ひとりは、やだよなあ。(本心だった。ヒューはずっとひとりだったはずなのに、そう感じる。朝目が覚めるときも、夜ねむるときも。いままで誰かが隣にいたことなどなかった。それなのに、その言葉はいつわりなんかじゃなかった。頬つたうひとしずくは胸が痛むのに、どうしてかヒューはそれをはっきりと、まよいなく、うつくしいと思う。こぼれたしずくがふしぎなことに紫色ではなく透明で、頬のあわい色をすかして輝いていることを。そして月よりうつくしいそれをヒューはすっかり信用してしまっている。この気もちが残酷だなんてすこしも知らないで、彼女を抱きとめるのだ。)レイカはおれがいたら、だめじゃないのか?そうか。それは、よかっ (おおきく笑ってうんうん頷き同意を示したくせに、最後の「た」がかくれんぼしたきり迷子になった。今日のヒューはちょっとおかしい。まっすぐであるはずの言葉はうろうろしているし、考えも朧に散らばっている。だけど、それらすべてひっくるめて、どうしようもなく正直だった。)これもちがうな。やっぱり、だめだ。(気まぐれというには易い声が、なにもかもをひっくりかえす。あんまりにも容易く、きっぱりと、躊躇いもせずに。)レイカはだめでいいよ。おれがいるときくらい、だめでいい。(寝かしつけるような音で耳に吹き込むくせ、眼窩におさまるふたつの満月がつよい色をして言い切った。泣いてもいい。弱音を吐いてもいいし、わがままだって言えばいい。さんざん駄々を捏ねるのもべつに良いとヒューは思う。何故ならヒューの手は彼女を投げるためなんかじゃなく、おっこちたときに受け止めてやるためにあるのだと、そう思いたかったからだ。)
ヒュー 2020/02/05 (Wed) 19:41 No.68
(もしもこのあと首を刎ねられないことがあったとしたらば、帰り道がしっかりと見つかったときだろう。そうすればこの日は遠い過去になる。あたたかい温度も、お喋りな花も、空を泳ぐクジラも、まだ見たことのないイモムシだって、全てが触れられない思い出に変わってしまう。この場所に留まることは出来ない。咲夜はお伽噺の登場人物ではないのだから――でも、それでも。今は彼に縋ることが不安を埋められる唯一の方法だと狡くも分かっていた。知れば知るほど離れられなくなる温もりだと知っていながら、それでも人間は止められない。アイドル業界に置き換えても何にしても成り立つ人生の縮図。気付きたくないことに目を瞑ろうか悩みあぐねていたもので、宵闇に溶けてしまいそうな声で彼がひとりは嫌だよなと言ったことに対して、咲夜には自分に投げられた同情なのか彼の真意なのか図りかねていた。恐らくは後者なのだろうけれど、確かめることがどうにも怖かったのだ。)…、……ヒューくん?(途切れた音の行方を捜して、反転する言葉の意味を求めて、肩口にうずめたはずの紫の瞳は月色を探した。どういう意味かと問うように小首を傾げば、さっき食べたきらきらの綿飴なんかよりもとびきり甘くてやわらかくて力強い魔法が降ってくる。魔法のおかげで咲夜は言葉を飲み込めるまで時間が掛かってしまったが、やがて緩やかに破顔する。)ふふっ、ヒューくんは優しいね、私に幸せをたくさんくれる天才だよ。だから私今ひとつだけ気付いた。(だめでいいなんて、言われたことがない。完璧に歌えて踊れて演技も出来て、そんな女の子が活躍する場所にいたのだから当然か。不安の風に吹かれて揺れていた花は、魔法の言葉で水を取り戻したように自信を持って誇らしげにこう紡ぐ。)私、あなたに会うために月から落ちてきたのかもしれない。(なぜかそう断言出来る気がした。今日はいつもとは違う、波風荒い日だったからだろうか。迷子にはなってしまったけれど、ほんとうの心は迷ったことなど一度もないから。)さっき私しか見えない、私の中の記憶があの森にあったの。私にはあまり突出して誇れるものがないし、叶うか分からないけどそれでも夢を追いかけるだけしか出来ないから、周りから心ない言葉もたくさん投げられたりしてて。……そういう、元の世界の光景が木々の映す鏡の中にあったの。もしこの世界に来なかったらあのままきっと私の心は壊れてたのかも。(だから落ちてきて良かったって、今思ったよ――至極穏やかに浮かべた微笑みに泪はもう降らない。気持ちは見事、晴れやかなものだった。)!あ、あの!ヒューくん、…私、重くない?(当たり前のように彼に引っ付いていたが、改めて思えばなんと甘えた行為だったのか。気付けばどきまぎと心臓がうるさくて仕方ない。)
レイカ 2020/02/06 (Thu) 15:21 No.78
(身を捩れば肩をくすぐる感触に、うん?と少年は首を傾げる。まるで寝返りをうつ子どもを見ているように、どした、と尋ねるひとみはきっとやさしい色をしている。)おれに会いに?そぉーれはずいぶんなむてっぽうってやつだぜ、レイカ。帰りかたもしらないくせしてさー、このまんまだとおれたちふたりそろって首刎ねだぞっ。(不平不満を漏らすみたいな言葉の並びは、へんなことに悉くうれしそうにうさぎが跳ねるよう。かんばせだってわかりやすいなんてものじゃなく、にっこにこ。紫色がおだやかにほほえむのを見て、ヒューはそっとうしろの森に振り向いた。ヒューにはやはりなんにも見えず、大人しく瞳は彼女へもどる。)夢っていうのはさ、見るものだろ。それを追いかけるっていうのはさ、あわてんぼの白うさぎを追いかけるみたいなものだよ。つかまえられるって誰にも約束できないし、壊れてたかもしれないって思うのに、それでも、レイカは戻らなくちゃいけないんだろ?夢をつかまえるためにさ。(ヒューが森に求めたのは、夢のきれはしだった。傷だらけの彼女のいちぶ。知らないほうが良いような気がして、でも知っておきたくて、けれど本当の意味で知ることはできない彼女のかけら。まだなおそれを追う彼女のことを。)レイカのそういうところ、すきだな。(おさえたくなるような傷痕も、彼女が歩んできた結果ならきれいだとおもう。星くずよりも、お月さまよりも、もっとずっときれいで、そして、信用できる。慌てたような声を聞いて、きょとんとしたあと、すぐさまヒューはにんまり顔。)重くねーよーっだ!(たかだかと持ち上げて、くるん、くるんとかろやかに回ってみせる。無邪気にわらう少年はいじわるに。)……おろしてほしい?(悪びれた様子もなく、その先を彼女に委ねた。イエス・ノー。端的に答えられる質問に答えを得たとて、素直にきいてやるやらないもまたこの気まぐれには見当もつかない。)
ヒュー 2020/02/06 (Thu) 23:09 No.85
あっ、今でももちろん首は刎ねられたくないけどね?!それでも私はヒューくんに会えて良かったなって思うの。き、……危機感ない、のはわかってるけど……。(水に沈んでいくみたいに語尾はぶくぶく泡のように小さく消えていく。童話のように泡になって消えてしまえたら楽なのかもしれないけれど、自分は泥臭くても夢を追いかけて生きることを選んだから。それを、なんとなしに汲み取ってくれている彼へまっすぐ強い眼差しは逸らさないまま――)そう。私、それでも戻らなくちゃいけない。夢を追いかけようと決めた小さい頃の自分と、約束は違えたくないんだ。それは責任感とかじゃないと思うんだけどね、約束は人を強くするためにあるおまじないだと思うし。(結果的にこの国に落ちてきたけれど、それでも咲夜麗花の人生は終わっていない。いつか帰り道を探して、元の世界に帰ることは自分の希望でもあるしそうなろうこともなんとなしに気付いているのかもしれない。それでも彼とこうして出会えたこと、場所でも言葉でも『自分』という存在をいつだって探し当ててくれること、全てに感謝の思いは満ちている。)ありがとう、ヒューくん。認めてもらうことってこんなにもあったかいんだね。それとも、すきがあったかいのかな?(にこやかに微笑みつつも、最後は小首を傾ぐ咲夜には分からなかったのだ。眠れない日に飲むあたたかいココアのような、甘くて優しい温度がどうしてここにあるのかが。それは自分の嫌なところさえも受け入れてくれるところなのか、認めてくれたところなのか。それとも別の理由があるのか。)う、うわわわっ…!ちょ、ちょ、ヒューくんってば……も~!(容易く持ち上げるもので、まるで背中に羽が生えたみたいだ。なんにもこわいと思うことなんてなかった。驚きに幾度かぱちぱちと瞬きしたものの、やがては仕方ないんだからと言わんばかりにくしゃりと笑って、無邪気ないじわるを受け入れよう。なのに、小悪魔のように問いかけられれば再び瞼はぱちくり。)う、え…?あ、えっと……――しばらくはこのままでいい、のかも……?(それは曖昧な願いだっただろうか。ワンダーランドはみぃんないじわるだ。月から落としたり、首を刎ねろと言ったり、嫌な記憶を思い起こしたり、こうして無邪気に笑ってみせたり。いじわるだけど、ありのままの咲夜麗花としてを受け入れるこの世界を自分はなによりも望み、そして好いている。好きというのはあたたかい温度らしいのだ。彼の透き通る綺麗な肌、額がうっすらのぞく前髪へ唇を寄せて、さん、にい、いち。ゼロ距離だった熱はほんの一瞬で離れる。まなじりをへにゃりと下げて柔く笑い、彼の表情が如何様に変わるのかはこのあとのお楽しみにしておこう。なにせ、体にも、心にも羽をくれる彼の存在にどう感情表現したらいいのか、咲夜は知らなかったから。心がぽかぽかとしてくすぐったい、そんなあたたかさから離れることは今はまだ出来そうにないから――まっすぐの心は言う。「すきだよ」。)
レイカ 2020/02/11 (Tue) 17:16 No.105
Log Download