(明日には忘れるだけのメロディでも構わない。数時間後には変化している旋律でいい。ただ今この時、ちょっとだけ彼女の心を穏やかに出来るような、そんな音階であるだけでいいのだ。ファンタスマゴリアの空の下、男が奏でる声の理由はそんな小さなもので十分すぎるくらいだから。)生きるのは楽しいこと半分、それ以外が半分、なんていうみたいだから。……心配だから、今度はあんまり教えていないところに迷い込まないでね。(また探しに行くことを苦には思わないけれど、彼女がおびえているのはもう見たくないと思うから。もしも知らないところに行きたいのなら自分を誘って欲しいと言いたげに、窺うように視線を投げた。大丈夫、なんて簡単に済ませることが出来るようなものではないと、あの震えを抱いた感触がまだ残っている。出来ることは多くないのは、多種多様の住人のように誰かのために、何かの役に立つようなことが自分の中に見出せないからだ。それを気に病んでいるなんてことは、自由に生きてきたうえで何一つはないけれど。こうして彼女と向かい合っていると、もっと何かと思えてくる。陽に透ける、明るく柔らかい髪を梳きながら色彩を探して、差し込んだ色には満足気。うん、この色も彼女に似合う。纏う香りのようにふんわりと笑みを零して、飾られた花を問われれば「コラレット咲きだよ」と。浮かんだ無理のない笑みに安堵したようにして、彼女へ渡した砂糖菓子を自分も一口。滑らかな口触りはふわりと口の中で溶けて甘く広がり、まるで本当に花びらを食べているようでもあっただろう。美味しい?と問うように彼女を見やり、反応が好ましければもう一枚を彼女の唇へと運ぼうとするだろうか。)いや、持ってる子もいるよ。もちろん同じように持ってない子もいるだろうけれど……俺にはここで生きているっていうそれしかないというだけ。だから鏡の森に入っても、映り込むのは自分だけなんだ。(だから躊躇なく森の中に踏み入れた。恐怖を抱くこともなく、彼女を探すことだけに集中もできた。とはいえ記憶を持つ住人は鏡の森を避けるものが殆どなのも事実。そういう場所だと知っていたから、彼女を探していた時にははやくはやくと足が急いた。ただ記憶がなくたって何にも不便はしていないし、ここで過ごしている思い出がない訳でもないから何でもないことと浮かべた笑みはそのままに。)そうだな……どれも好きなんだけど、白い薔薇が、好きかな。今日はちょっと向こうの方で咲いてる。(ありきたりな好みで、どれがなんてあまり選べはしないけれど敢えて言うなら。棘のない真っ白な薔薇が好きだった。野ばらのように小さな花も、重なる花弁の大輪も。もし彼女が良ければ、「見にいく?」と問いかけて手を引こう。少しでも心が晴れるなら、今日は花園でのんびりと話をするのも良いはずだから。)
エセル〆 2020/02/08 (Sat) 22:11 No.102