Mome Wonderland


back


(今日から僕たちおともだち?)
(星降る夜に出掛けるのなら、帽子を被っておゆきなさい。空から零れるのは星屑だけとは限らないから。嘗て店主に教えられたことは本当だったのだと感激しながら、原っぱに寝そべるおんなのこの頬をつんつく突く。きっと面白いことが起きるに違いないと息急き切って駆けて来たは良いけれど、こんなに大きな落とし物じゃあズボンのポケットに入らない。キャンディピンクの頭を掻き回して、近くに住んでいる誰かに相談しようかと腰を上げたところで――規則正しいトランプ兵たちの行進が、ふたりの影をぐるりと取り囲んだ。そこから先は彼女の記憶にもあるだろうか。或いはお城に着くまでは心地良い眠りの中にあったやもしれないが。)女王さまもさ、もう少し優しく言ってくれたらかわいくていいのにね?チップもそう思わない?(肩に乗せたクリーム色のネズミは、コルネが住まうパン屋で働く従業員のひとりである。僕らの赤き女王様が偉そうなのは今に始まったことではないし、実際にこの国で最も偉大な方だから、命令に背くつもりは無いけれど。些細なことであれ、他人に強要されるのは今ひとつ好きになれない。なんて不満も道の先に灰色の屋根が見えてくれば、すっかりどこかへ消えてしまった。道沿いに咲く花たちと陽気な歌を口ずさんでいる蝶々に挨拶をして、地面を軽く蹴っ飛ばす。丸襟のシャツに、サスペンダーで吊り下げたパッチワーク付きのズボン。ネイビーのジャケットを羽織ったいつも通りの装いに、紙袋を抱えて。おとぎ話の1ページ目が始まる。)とんとんとん。とんとととん。……おはよう!今日もたのしい一日が始まるよ!(ノック音をそのまま口に出して、握った拳で木製の扉を叩く。澄んだ青空に似合いの挨拶をしたあとは、どこか落ち着かない様子で扉が開くのを待っていた。肩のネズミが小さな声で「もうおはようの時間じゃないよ」と教えてくれるけれど、そんなのは聞こえない。)
コルネ 2020/01/26 (Sun) 09:10 No.7
(……ぴんく。二度目の気絶を果たしてどれほどが経った頃か、ほっぺに違和感をおぼえて睫毛がぴくりと震え。うっすら開いた視界に映るかわいい色、それがなにとも分からずぼんやりと見つめていた。──ら、誰かに担ぎ上げられ、えっさほいさと運ばれて。情けない悲鳴をあげる少女が連れて行かれたのはお城だった。落ちて落ちて落っこちて、それで死ななかったのはよかったけれど、なんだかとんでもないことになってしまった。どうやらここは少女の知る日本ではなく、かといって天国でも地獄でもなさそうで、まるで幼い頃に読んだおとぎ話の世界。この世界の女王らしいちいちゃな女の子に首を刎ねるといわれて竦みあがり、男の人のとりなしでなんとかそれはなしになったようだけれど、いっしょに連れてこられたピンクの彼とともに元の世界に戻る術を見つけなければならないとか。もう何がなにやらだ。元の世界への戻りかたを見つけて……ということはつまり、元の世界への帰りかたをみんな知らないってことで。しかも期日までに見つけられなかったなら、ふたりそろって頭をクリケットボールにされてしまうらしい。──なんでどうしてこんなことに。パパ、ママ、ティティー、さみしいよ、こわいよ。はやくみんなのところへ帰りたい。ひとり暮らしなんてしたことがないから、与えられた一軒家は広くてつめたくて心細くて。それでもいつの間にやら疲れ果てて眠ってしまっていたようで、ノックを模したあかるい声にビクン!と飛び起きた。灰色の制服スカートがしわになっているのを引っ張って伸ばしながら、息をひそめてそろーりと開いた扉の隙間。こわごわとのぞく目元の赤さは泣きはらしたゆうべを物語っていた。)…………、…………(ピンク。ピンクだ。派手な髪だから不良のこわいひとかと思ったけれど、ここではいろんな髪色が珍しくないみたい。だってそれどころかねずみや木や家具が喋っていたし、なんだかもういろいろいっぱい変だし。ともあれこの変てこな世界は眠ったら醒める夢ではなく、楽しいかはさておき彼の言ったとおりに新たな一日がはじまったのは確かみたいだった。こわいどころか明るくて気さくそうな雰囲気の少年の様子に、勇気を出してごくりと唾をのみ。)…………ぉ、……お゛、は、ようご、ざぃ……ま゛す……。(警戒というよりはビビリの空気をだだ漏れに、こわばった顔でどうにかそれだけ返した。)
ナル 2020/01/26 (Sun) 14:38 No.17
(聞けばこの土地に慣れぬ彼女の為にお世話係が付くというのだから、我らが女王陛下はお優しい。野原の真ん中で倒れている彼女をおうちに返すより、女王様を説得してあの子を迎え入れた方が手っ取り早いし楽しそうだけれど――その辺りはどこからともなくやって来た彗星とお話しながら決めていこう。ノック音に返事はなく、迷い子も世話係も居ないのだろうかとネズミにアイコンタクトを送った時だった。薄く開いた扉の隙間から覗く二つの目。青空とは対照的に沈んだ調子をした表情に、首がぽてんと横に倒れる。夜明け色をした瞳は少女の挨拶を待ち侘びる間、無遠慮にその黒髪を見下ろしていたけれど。小さく途切れ途切れに、でも確実にこちらへ向けた挨拶が返されればパッとこころに花が咲く。)うん!おはよう!気持ちのいい朝だね……って思ったけど、もしかしてまだ寝てたかな。起こしてごめんね? きみは太陽の時間に寝て、月の時間に起きてる生き物なの?(興味本位が半分。あとの半分は無理な時間に起こしてしまったかもしれない申し訳なさ。髪と同じ色をした眉を緩く下降させて、腕に抱えた大振りの紙袋を覗く。彼女にも中身が見えるようにと膝を折ってみれば、近くに覗いた目が赤くなっていることに漸く気が付いた様子。瞳孔がきゅっと縮こまって、瞬きを繰り返した。)あ、ぇ……っと、えっと。も、もしかして、その……、(平和と幸福に満ちた国、ファンタスマゴリア。そこに暮らす彼らの多くがそうであるように、コルネもまた心身共に距離の近い人物であった。赤く色付いた目元に思わず伸べた指先に、肩のネズミが「コラ」と制止の声をかける。「相手はレディなのよ」なるほど確かに。再び反省の意を込めて眉を下げたなら、今度は不躾に触れることなくちゃんと紙袋を抱えて。)もしかして、女王様が怖すぎて眠れなかった? 実はね、実はね。おれも!昨日は特にご機嫌ななめだったみたいだし。(というより何かにうんざりした風ではあったけれど。お城のトランプ兵たちは近くに居ないけれど、女王様の悪口を言っていたなんて噂が流れたら首と胴体がさよならしてしまうかもしれない。口元に手を当てて、こっそり打ち明ける内心。生まれてからずっとファンタスマゴリアで暮らしてきた男には、別の世界に来てしまった不安は推し量れない。)
コルネ 2020/01/26 (Sun) 22:17 No.30
(眩しく咲いた笑みに一瞬たじろいで、目線を逸らすついでにちろっと上を見る。──あぁ確かに気持ちがいい天気。しかし彼の来訪まで寝ていたのだと看破されて肩が跳ねたのはこの少女なりの乙女心で。)……え゛、……ぇえっと……た、太陽の゛時間に、起きて……月の時間、に゛……寝る、生き物……です……。(しどろもどろに彼の言葉を真似てみる。十四日後には首を撥ねられるかもしれないのに、なんで彼はこんなに明るくて元気なんだろう。下げられた大きな紙袋の中を覗き込もうと、ほとんど無自覚に扉の隙間を大きくして、ふとピンクの彼がなにかに驚いたようなのを察し、目線を上げたら。)……っ!?(おもむろに伸び来た指先に目をまんまるにして硬直する羽目に。しかし、とどめる声に助けられ。どこから聴こえたのかと思ったら、少年の肩にはネズミが。──もしかして、もしかしなくても、この子の声か。人見知りの少女にはその制止はありがたかったけれど、ネズミにレディと言われなんだか不思議な気持ち。喋りかたからしてメスなんだろうか、まばたきふたつぶんまじまじと見つめてしまってから、「あの、お、は、よ゛う、ございます……」とぎこちない挨拶をネズミにも向けて。そしてそこへ向けられた少年からの打ち明け話。)へ? ──っあ゛、……あぁ、えっと、……それも、うん、はい……すこし、ある゛……かな……? いえその、いつの間にか、寝ちゃってた、ん゛、ですけど……。(目が赤い理由の大半はそうではないんだけれど、……でもそっか、彼もこわかったのかちいちゃな女王様が。そんな淡い親近感とは裏腹に、少女の顔は眉をしかめた険しい色。キャンディピンクの彼から次々と向けられる言葉や態度が不快だったわけではなく、……端的にいって動揺していた。少女がこわばった態度を見せつけて、尚も積極的に関わってこようとするひとはこれまでなかなか居なかった。大抵怯えるか呆れるか委縮するか怒るかさせてしまって、自己嫌悪の嵐の中でその背中を見送るのがいつものパターンで。だから、こんなのは初めてだ。どきどきばくばくと荒れ狂う心臓のほとんどは緊張と混乱が理由だけれど、きっとそこに知らず知らずティースプーン一杯の喜びと期待が混じっている。──天国でも地獄でもないこんな変てこな世界でも、いやこんな変てこな世界だからこそ、自分とともだちになってくれるだれかが、居るんじゃないかって。)……え゛と……、それであの、なにか……ご用件……が……、…(あるのでは、と伺う黒の瞳がそろーりと夜明け周辺を漂う。まっすぐに視線をあわせることはこの少女にはまだ難しく。)
ナル 2020/01/27 (Mon) 17:30 No.40
(言葉を交わして、分かったことが幾つかある。彼女の一日は、ファンタスマゴリアの住人たちと然程変わらないということ。"元の世界"にも太陽と月が存在し、交互に顔を出していること。そして、彼女はおしゃべりがちょっぴり苦手だということ。たどたどしく紡がれる言葉の続きを急かさず、短い文節ごとに首を縦に振って聞いているよの意を示す。子ネズミの挨拶に目を見開いた時には思わずこちらも動揺してしまったけれど、礼儀正しい挨拶には一人と一匹でこそこそ笑って「おはよう!」をユニゾンでお返しした。)うんうん、そっかそっか。まあ昨日までと違うベッドじゃなかなかぐっすりは出来ないよねえ。(拳を打つ代わりに八重歯の覗く口を大きく開けて、豪快な笑い声を響かせる。能天気で前向きな少年はやっぱり少女の不安を正確に捉えられてはいなかったが、見知らぬ世界へ放り出させる心細さを慮れないほど無神経というわけでもなかった。夜空が月を欠くと同時に首が刈られてしまうというなら尚更に。)きっと大丈夫だよ、何もかもがね。(根拠のない台詞は、だけど決して嘘じゃない。だって此処はファンタスマゴリア。奇跡が本当になる国だ。様子を窺う瞳にずずいと近寄って、今度こそしっかりと紙袋の中身を見せてやる。中には店から持ってきたパンが幾つかと、お気に入りのティーカップが二つ。そしてシュガーポット。袋の上からでは見えないけれど底にはお菓子もそこそこに。)そろそろお腹空いてるんじゃないかなあと思って!おれも今日はまだ食べてないから、一緒にごはんでもどう?えーと、えーと、ま、 まどもあぜる……。(何せ顔見知りしか居ない国に暮らしているものだから、初めましてのお嬢さんを何と呼ぶのか正解なのかも分からない。初めて口にした単語に感じる面映ゆさを誤魔化して、ピッと背伸びをしてみせる。あなたのお名前なんですか、と問う前にまずはこちらの自己紹介から。)えへへっ忘れてた!おれはコルネ。こっちはチップ。向こうのパン屋の店員だよ。おれはあんまり働き者じゃないんだけどね。……きみは?(そもそも名前があるのか。話はそこからだ。無いならとびきりかわいい渾名を付けてあげなくちゃ。止まらないわくわくは表情にも現れているだろう。おしゃべりが得意でない彼女が話しやすいように、問い掛けてからは礼儀正しく気を付けをして答えを待っていた。それこそ太陽が傾くまで時間がかかろうとも。)
コルネ 2020/01/28 (Tue) 06:50 No.58
(ユニゾンで返された挨拶は息がぴったりで、仲良しなんだろうなって自然に思い、自分とティティーをすこし重ねた。詰まってひっくり返って辿々しい少女の言葉を呆れず急かさず目線や仕草で『聴いてるよ』を示してくれるあたたかさはちょっぴりパパとママみたいだった、もちろん見た目はちっとも似てないんだけど。バクバクの心臓が少しだけ大人しくなったのは大好きな家族を思い浮かべたことと、彼らが少女に慮って向き合おうとしてくれていることが感じられたから。そして極めつけが「きっと大丈夫だよ、何もかもがね。」のひとこと。)……っ、(目をまんまるくしてしまった、それなのにゆうべから不安とさみしさまみれの心が不思議とストンと落ちついてしまった。──なにもかもがって、きっと大丈夫ってそんな。クリケットボールにされちゃうかもしれないのに。だけどあんまりにも当たりまえみたいに、きらきらの笑顔で言うから。とびきりのおまじないのリボンをかけられたみたいに、──もしかしたらそうかも、って。 この心模様にだって根拠はない、けれどそんなものなのかもしれない、なにせ此処は変テコなワンダーランドなのだから。)あ……そ、そういえば、お腹す、空いてる、かも……。(詰まってどもってひっくり返って瀕死のカメを走らせるようだったくちびるが、酔っぱらいのモモンガくらいにはすべらかになった、気がする。食べものを見れば空腹を思いだし、呼ばれ慣れてもいなければ呼び慣れてもいなさそうなマドモワゼルが可笑しくて、ちょっとだけ、ほんとうにちょっとだけ、口元がゆるんだ。)ぇえ゛っと、……コロ、……コルネくん゛……と、チップ……ちゃん……?(カスタードやチョコクリームがつまった甘いうずまきを思い浮かべながら、パン屋さんにぴったりの名前をくり返して。自分なんかが馴れ馴れしく呼んでいやじゃないかな、こういう呼び方でいいのかな、と二重のお窺いが語尾をそろりと持ち上げさせた。──そしてひしひしと感じる。ピンと伸びた背筋が、ワクワクの夜明け色が、少女の名乗りを待っている、と。)……、……。(ゴクリ、息をのんだ。顔の強ばりは緊張のせいに違いなく、だけれど、いつもの緊張とはどこか違った。早く応えなきゃ上手く答えなきゃ呆れられちゃう嫌われちゃう、そういう追い立てられるような喉がきゅーっと絞まるような気持ちじゃなくて。そわそわとうずうずと、待ちに待った映画が始まる前みたいなそんな緊張。すぅ、はぁ……すぅ、はぁ……制服の胸を上下させて、そうっと、けれどきちんと扉を開こう。)お゛っ……大賀美、奈瑠、で……す…! えっと、オオガミは名字だから……私自身を指すの゛は、ナル、の、ほう……。っよ、よろしくお願い゛、しま、す……っ(真似っこみたいに背筋を伸ばせば、ばくばくと鳴る心臓がうるさい。でも、言えた。ちゃんと……かはさておき、言えた。達成感と疲労をじんわり感じながら、そろりと動かす視線で彼とネズミと紙袋と、それから家の中をなぞり。)おうち、入る……? どこか、行く……?
ナル 2020/01/28 (Tue) 20:31 No.64
あはは、それはいけないね。お腹と背中がくっついて風に飛ばされないうちに食べなきゃだ。(無論、食べ過ぎてたまごそっくりの体型になってしまっても困るのだけれど。背伸びした分だけ離れた顔を見下ろせば、僅かに和らいでいるような。そうでもないような。思わず不思議な物を見る目をしてしまったのは、この異国の生き物が自分たちと同じように笑うものだと今更に理解したから。見目も中身も、然程変わらないのかも。そうと知れば親近感は増すばかりで、惑いつつ紡がれた自身の名に返事をするより早く「コルネくんだって!」と喜びの声を上げる始末。そんな落ち着きの無さも、目の前の少女の顔が一層強ばるのを見れば釣られるように身を潜めて、)うん、うん。……うん。 そっか、ナルっていうんだね!やっと呼べてうれしいなあ!(支えながらも届いた声に、胸がいっぱいになる心地がした。心のままにるんるん跳ねてしまいたいのは山々だけれど、食器が割れてしまっては大変だからどうにか我慢をして。よろしくお願いしますと返す代わりに、礼儀正しくお辞儀をした。すぐに持ち上がった頭は、彼女の提案に合わせて部屋の中を覗いたけれど。)まだ国の中はあんまり歩いてないよね?案内がてら、景色のいいとこを探そうよ。……でもその前に、良かったら着替えておいでよ。お洋服、皺になっちゃってるよ。(目元に触れるのは失礼だとネズミが教えてくれたけれど、これはまだ教わって居なかったので。紙袋を離れた指先は、少女が纏うスカートの裾をちょいと摘もうとした。ファンタスマゴリアの住人は多くが彩色豊かな服を好むけれど、コルネの衣服は白とネイビーを基調とした地味な色合いのものが多い。彼女もまた、灰色の服を好んでいるのだろうか。「多分用意してくれてると思うよ」と口にするが早いか、それともネズミに叱られるが早いか。或いは彼女が不埒な指先を咎める方が先かもしれない。いずれにしたって皺を指摘するだけの指は、すぐに彼女から離れたろう。)あっ、皺になってたら変とかじゃなくてね、おれが別の服着てるとこも見たいなーってだけだからね!(なんてフォローは果たしてフォローになっているだろうか。肩の上ではネズミがやれやれと両手を広げている。)
コルネ 2020/01/30 (Thu) 07:48 No.84
(不器用に名前を呼んだだけで弾むような顔をしてもらえる驚きって、自分の名前をこんなにも嬉しそうに呼んでもらえる目の覚めるような喜びって、ちょっと筆舌に尽くしがたい。どきどきしてソワソワして、目の前が明るくちかちかする。──パパママ、私、とんでもない世界に来ちゃったけど、もしかしたら悪いことばっかりじゃないのかも。 スカートの皺を示す指には、気付かれていた恥ずかしさも込みで「ひぎゃっ」とひっくり返った声をあげてしまったけれど。フォローの言葉にも後押しされて、着替えと外の案内どちらの提案にも頷かない理由がなかった。)え゛っとじゃあ、……着替えてくる、の゛で、……ちょっと待っててくだ、さい゛。(昨日貸し与えられたばかりの家に見られて困るものなんてないから、どうぞと彼らを招き入れると、自分はパタパタと奥の部屋へ引っ込んだ。ゆうべは泣くのに忙しくてそれどころじゃなかったけれど、世話係さんが着替えはクローゼットにあると言ってくれていた気がする。サーカスみたいな変テコな服じゃありませんように、と願ってクローゼットを開けるとそこには。)……!(幼い頃に大のお気にいりだったものとそっくりな、ピンクのギンガムチェックワンピースが。あの少年の髪にも似た甘いキャンディピンクの、腰にリボンのついたふんわりと裾の広がるそれは高校生となった自分が着るのは少しといわず気恥ずかしく思われてためらったけれど。用意されているのはこの一着だけのようだし、彼はシンプルな服装なものの他は個性的な格好をしているひとがこの世界では多いみたいだし、なにより彼らをお待たせしているし。悩む数秒ののち、えいっと勇気をだして袖を通してみたワンピースはまるでオーダーメイドみたいにぴったりだった。)……わぁ、すごい……いや、待ってなんでサイズ……(感嘆から一転、瞬刻固まったものの深く考えるのはやめておいて、とりあえず鏡を覗いてみれば着れなくなって久しいかつての大好きが今の自分を飾っていた。気恥ずかしさはやっぱりどうしたってあるけれど、それ以上に心が弾んでくるのも本当で。それに、それに。この後に待ち受けているのはふたりと一匹のお外ごはんという大イベント。それってなんだかピクニックみたい。そんなことをいっしょにするのってまるで、まるで──ともだちみたい!)……ふ。(ぽとりと零れた一音、それから。)……っふふふふふ!どうしよどうしよ、……と、ともだち、に、なれちゃったり……なれちゃったり、する!? するかな!? 男の子とネズミのともだちなんてはじめて!そうじゃなくてもはじめて!!あーっどうしよう…!!変なこと言わないようにしなくちゃ、笑顔……笑顔で、……(この少女、他者の前で表現するのが下手なだけで、元来感情の波立ちは人並み以上に豊かなのだ。満面の笑みで頬をおさえ、独り言に留まらぬ声の大きさやじたばたぴょんぴょこはしゃぎ回る大騒ぎっぷりが、彼らが居る部屋までまる聞こえだなんてさっぱり気付いておらず。──さてさて、しばしの後。)……お゛、お待たせ、しま゛した……。(現れた少女は灰色からピンクのチェックへと装いを変え。口元はぎこちなくもどうにか笑みの形をぎしぎしと作っているが、緊張と気合いのあまり怒ったように眉が吊り上がってしまっていた。)
ナル 2020/01/30 (Thu) 18:35 No.87
(行ってらっしゃいと奥の扉に消える背中を見送って、部屋の中をぐるりと見渡した。此度の事態の為に誂えたわけでもなかろうに、丁度よく空き家が揃っていることに運命めいたものを感じる。つい昨日の昼までは誰も済んでいなかった家は、けれど決して無機質ではなく。埃ひとつ積もっていない家具たちは、今にも歌い出しそうだ。木製の椅子を引いて腰掛けると、持って来たカップの中にシュガーポットから角砂糖をひとつ落として。取っ手を持ったままカップだけをくるくる揺すれば、忽ち紅茶が湧きだしてくる。水面に映る少年の顔は、この上なく嬉し気だ。さて、手持ち無沙汰にお茶を嗜んでいたコルネの耳に弾む声が届いたのは、間もなくのこと。扉一枚隔てている所為で、というよりは先程まで対していた少女の様子とは全く違うものであったから、一瞬それが誰の声であるのか分からずに。カップの縁に口を付けたまま、その場に固まってしまった。)…………なれちゃうっていうか、もうおともだちだよねえ?(こっそりと話し掛ければ、ネズミの丸い耳がぴくりと動く。同意をするように小さく何度も頷くネズミに良かったと大きな息を吐いて、今度こそ温めの紅茶を啜った。鼻腔を擽る木苺の香りは、戸惑った心を落ち着かせてくれる。花も小鳥も野ウサギも、出会った時にはもう友達だから、「なれない」なんて選択肢は端から無いのだ。どうやら異国のおんなのこは変わり者みたい。そう思う反面、彼女にとってはじめてのおともだちになれるのならそれ以上に光栄なことなんてないと、思わずジャケットの襟を正してしまった。扉が開いて彼女が戻って来るのを、秒針が一周巡る前よりずっと楽しみにしている自覚はない。)はーい、おかえ、 ……。(流れる沈黙の中、肩口でネズミが鳴くチュウという音だけがこだました。カップを手にしたまま持ち上げた双眸は、まん丸を保っている。別に彼女の表情や、今し方の燥ぎっぷりとの落差に驚いたわけじゃあない。証拠に、驚き瞬いていた顔にはすぐさま笑みが戻って来た。)わあ!わあわあ!あー……っ、なんて言ったらいいんだろう!? まるで、まるで…… ううん、他の何かじゃ喩えられないや!(ひとりで盛り上がる少年の手元で、揺れるカップの中身はミルクティへと変わり出す。ソーサーは忘れてしまったからテーブルにそのままカップを置いて、跳ねるように立ち上がるとそのまま少女に駆け寄った。かわいいギンガムチェックの包装に、封をするリボン。まるでプレゼントみたいな装いの少女に伸びた手は、やはり遠慮の欠片も無く両脇から細い体躯を抱えて持ち上げようとした。それこそ、暴れて反抗でもされない限りは気持ちの赴くままに。幼子をあやすみたいに持ち上げて、そのままぐるぐる回り出す。絵本の住人みたいな動きで。)ナルはとびっきりにかわいいね!こんなにかわいいなら、みんなに見せびらかさなきゃ勿体ないなあ!
コルネ 2020/01/31 (Fri) 12:20 No.102
(着替えをして心も気合を入れて渾身の笑顔を浮かべて登場したつもりなのに、場の空気が固まるのを肌身で感じる。──覚えのある感覚、教室で幾度も経験した。またやってしまった? ザッと血の気が引きかけるも、次の瞬間には少年の顔にあざやかな笑みがあり。)……え? …………え゛っ!?(明るく弾ける声にまずぽかんとしてしまって。──かわいい…!?見せびら…!? 何がどうなっているのかと一層混乱してるあいだに、駆け寄ってきた少年にひょーいと持ち上げられてしまった。驚きのあまり硬直した少女は抵抗のての字もないまま、靴底が宙に浮き視界がぎゅんぎゅん回りだす。)……っ、(腰のリボンが、ゆたかなフレアのスカートが、ひらひらふわふわ膨らんで舞い踊る。ぐるんぐるんと回されながら、ふと感じた懐かしさ。そういえば、ちいちゃな女王様よりちいちゃな頃、これとよく似たワンピースをあたりまえに着ていた頃、パパがよくこんなふうにくるくるしてくれたっけ。不思議なティーカップの中でくるくる渦巻く紅茶がミルクティーに変わったように、くるくるくるくる回されるうちに少女の面持ちも硬直から可笑しさへと徐々に転じていき。)……っふ! ふふ、ふふふ!コル、コルネくんっ、目が回っちゃう、よ、あははは!(やがて耐えきれなくなって、笑い声が零れた。誰かの前で、家族以外の前で、こんなふうに気負いなく笑えたのなんてはじめてかもしれない。地面に下ろされる頃には目が回ってヨロヨロと、ついでに他者の前で笑うなんて慣れないことをしたために噎せこむ一幕なんかもありつつ、それでも少女の面持ちと心はほぐれたままだった。)チップちゃん、大丈夫…? っふふ、(名残る笑いを燻ぶらせながらネズミの様子をうかがって。楽しくて、ワクワクして、ドキドキして。今なら、彼らになら、この変テコな世界でなら、言える気がした。いつもいつも喉でつっかえて音に出来なかったあの言葉を。)コッ、コルネくん、チップちゃん、……あの、その゛、もし、……も゛しよかったら、なんだけど……(顔を上げて吸い込む息、震える睫毛、チェックの裾をぎゅっと握りこむ指先、赤らむ頬。)ゎた、私と、……お゛っ、お、ともだちに、なって、くれませんか…っ?(乞うように、祈るように、絞りだしたお願い。出逢っただけでともだちになれる世界に生きてこなかったうえ、元の世界のなかでもとくに経験値不足な少女は、こうして真っ向から申し込むしか術を知らなかった。──不器用な期待をこめた言葉は、その返事は、楽しいピクニックのはじまりの合図となったろうか。そうであったらいい。落っこちて落っこちて辿りついた変テコな世界で、はじめてのともだちとつくるはじめての想い出はきっと、おどろきときらきらの甘い星屑みたい!)
ナル 2020/02/01 (Sat) 08:26 No.112
(不思議の国に迷い込んだアリスの戸惑いなんて何一つ知らないで、抱えた身体をぐるぐる振り回す少年はすっかりダンスパーティ気分。普段は薪を運ぶだけで疲れたもう嫌だと唇を尖らせているのに、腕はちっとも重さを感じていないみたいだった。もしかすると日が暮れた頃合にまとめて疲れがやって来るかもしれないけれど、それはそれで面白い。風を含んで膨らむギンガムチェックと同じ分だけ胸をふくらませる感情は、きっとピンク色をしているに違いない。)……! 笑った! そっちの顔もいいね。(緊張に揺れる瞳の動きも、怒っているみたいな表情も、もう少しがんばりましょうなおしゃべりも、それが彼女を作る一部であるならどれもがチャームポイントに思えるから。まとめて全部に花丸をつけてあげたい。二人きりのダンスパーティは百を五回数える頃に漸くおしまいを迎え、少女の爪先も地面と再会を果たしたことだろう。立ち止まった途端に回り出す世界が元通りを取り戻すまでは、互いに酩酊しているかのような足取りになってしまったが。回っていたのと同じだけの時間が経てば、「ナルの国ではやっぱりナルが一番かわいいの?」なんて疑問をぶつける余裕も戻ってくるはずだ。)なんでお前だけ大丈夫なんだよっ!(とは呆れ顔のごネズミに。そうして小さな鼻を指先でつついて抗議をしていたら、突然の申し出に思わずひとりと一匹で顔を見合わせてしまった。小さな勇気を振り絞ってやっと言葉にしたんだろうことは、彼女の様子を見ていれば分かった。コルネにとっては当たり前のことでも、それを一生懸命に伝えようとしてくれていることがたまらなく嬉しくて、向き合う表情はココアに乗せたマシュマロみたいにとろんと溶けていただろう。)もちろ…………ってこらー!おれが一番におともだちになろうと思ったのに!ずるいずるい!ずるいー!(「もちろん喜んで!」遮るように鳴き声をあげたネズミに地団駄を踏みたい気持ちになる。だけどコルネはスマートでジェントルな住人なので、それ以上、したり顔のネズミを責めることはしなかった。大切なのは順番じゃないからだ。紺色のジャケットの襟元を正して、背筋も確と伸ばしたならば、彼女に向けて手のひらを差し伸べよう。妙に恭しく畏まった素振りで。)もうおともだちだと思ってたよ。……きみの自慢のともだちになるって約束するよ、ナル。改めてよろしくね。(伸ばした手に彼女の手が触れたなら、ぎゅっと包んでそのまま外へと歩き出すつもり。一向に離すつもりのない態度を咎められたとしても、「握手なんて一言も言っていないけど?」と白々しい言い訳をしただろう。片手で抱えている紙袋の中、放り込んだカップの中身はいつの間にか消えてしまった。それを惜しいとは思わない。物語の主役は紅茶ではなくかわいい迷子のアリスだから。)
コルネ 2020/02/04 (Tue) 23:59 No.117
Log Download