(この世界において"老い"の概念は存在しない。ネバーランドみたいなものだ。子どもは永遠に子どもで、与えられた役割を永劫に演ずる定めにある。だから、"大人"という評価には「そうかぁ?」なんてあいまいな返事に成ってしまった。けれども、そんなに悪い気分はしなかった。なにせ見上げてくれる顔ばせには疎むよな色彩はなかったから。)ふうん。ファンタスマゴリアとはまた全然違うんだなぁ。……ふふ、憧れる?(淡いばら色に染まる頬に、浮かび上がった問いを投擲する声はやわい。ハッピーエンドを掴み取った一対に抱く思いは何であるのかなんとなく想像が付いたから、青年の口元もしあわせそうに弛んでしまう。旅立つ誰かを見送るのが役目だったと聞けば「ミコトに送り出してもらったらいい旅になりそうだなぁ」なんて想像巡らせて笑った。颯爽としたパンツルックの彼女がお勤めに励んでいる姿もきっと素敵に違いない。――嘘が真に。真が嘘に。両者の意義がオセロみたいにくるりとひっくり返ることだって、このワンダーランドならそう珍しいことじゃあない。花は喋るし、星屑はパンに練り込められる。不可能なんて起こり得ない。たった今、彼女の指先がささやかな魔法を引き起こしたみたいに。真っ赤な小鳥の誕生。ちいさな一喝に「悪かったって」と眉尻を下げた。アリスのために、髭猫はとびきりのものを用意しておいてくれたらしい。)――っ、見たよ。見た見た!(きらきらと光る顔貌に、同じくらいの明度で応えよう。青年が導いて、彼女が自らの手で作り出した、いちばん最初の魔法。しかとこの碧眼で見届けた。きっと永遠に忘れまい。解けてゆく果実も、形成された鳥も、黄金色にまばゆく弾けたその微笑みも。すべて刻むようにいとしげに双眸を細めて、君へと頷き返そう。)ああ、そうさ。此処が俺達の生きるファンタスマゴリア。摩訶不思議のおとぎの国――。(彼女のゆびさきから生まれ落ちた小鳥はしばらく果実をつついたかと思えば、その羽根をぐんと広げて、やがてはむすめの手の上を離れるだろう。わずかな風を起こして蒼天へ舞い上がる紅鳥。危うげのない羽ばたきで門出を祝福するかの如く旋回するのを見仰ぎながら、淀みない口ぶりで約束しよう。)でも、こんなもので終わりじゃないぜ。ミコトをびっくりさせて、ドキドキさせること。これからもたくさん出会えるよ。(ふたりの物語はまだ始まったばかり。ましろい頁が彼女にとって幸せなものばかりで埋まることを祈りながら、さあ、彼方へ飛び去ってゆく小鳥を手を振って見送ろう。行ってらっしゃい。よい旅路を。そして。改めて彼女に向き直ったのなら、その瞳をまっすぐに捉えて告げたい。)…そういや言い損ねてたな。改めて……。 ――ファンタスマゴリアへようこそ! 歓迎するから、これからよろしくな。ミコト!(からっぽの手を差し出して、真夏の空より爽やかに笑っていよう。月から落ちてきた親愛なるアリスへ。――Welcome to wonderland!)
エース〆 2020/02/03 (Mon) 00:31 No.116