(無残な切れ方をしたトマトが細い指に攫われて、ぱくりと食べられたならまな板の上には綺麗に切れた輪切りしか残らない。程よい甘味と酸味が口の中に広がったなら、良く熟したトマトであることが知れただろう。サンドイッチにするには最適。でも人が食べているのを見たら自分も食べたくなってしまうものだから、きれいな輪切りを摘まんで自分もぱくり。行儀の悪さはお互い様だ。「おいしい」と口の中に広がる味に満足げに落としたならば、残りのトマトを切ってしまおう。切り終わった頃には、他の準備はきっとほとんど出来ていた。)詩人なら俺よりももっと囀るのが上手な人がいるよ。あの詩を歌うのは楽しそうだといつも思ってるけど。……うん、歌を歌うのは好きだよ。つい口遊んで、よく夜に歌ってる。(自分で音楽や詩を作っている、という感覚はないけれど、思い浮かぶフレーズをつい口にしていることは少なくない。夜になると、昼に浮かんで繰り返した所為なのかそれがはっきりしてくるから、次の日まで我慢が出来なくて歌う、そんな調子だ。そうして過ごすのが好きで、だから男の住む花園からはメロディーが耐えない。旋律が止んでいる時と言えば、男が出掛けているか眠っている時くらいなもの。)花びらが重なってる咲き方なんだけど、見た方が早いかもね。もしかしたら見たことがあるかも。他にも咲き方が色々あるから、見たことがあるのを探してみるのもいいね。赤かあ。気に入る色があれば良いね。(赤いダリアが好き。覚えるように脳裏で反芻して、今日の庭園を思い出す。気に入るものがあればいいなと笑みを描いたその先で、もしも彼女が笑ってくれたなら。きっと最初の贈り物がその花のになるだろう。)呼び捨てで良いよ。その方が気兼ねもないでしょう?(あまりさん付けに慣れている訳でもないし、序列があるわけでもなければ気軽に呼び捨てて欲しいと、そんな風に。重ねた手を揺らしながら行く道はのどかで、時折分かれ道がいくつかある以外は迷いようもなかったかもしれない。道が分かれる度に歩き方のコツを伝えもしただろうか。花園につくまではきっと会話が絶えず続いていたに違いなく、揺れる手のひらも彼女が離さなければそのまま。)近くはないけど遠くもない、ちょっと分かれ道がいくつかあるくらいかな。 じゃあ花園でゆっくりブランチをとったら、その後はオーロラの森に行こうか。きっと気に入る。(まずは気になるところから。移動の間にもきっと目に映るもので気を引くものだってあるだろう。最初の一日はファンタスマゴリアを知ってもらうことに使うとして、まずは花園でバスケットの中身を広げるところから。それから彼女の明るい色の髪に、白いダリアを一輪飾ろう。好きだと言われた色ではないけれど、真っ白な花びらが映えるとは月夜からずっと思っていたものだから、はじまりのしるしに。)
エセル〆 2020/02/01 (Sat) 17:28 No.115