リアは俺を喜ばせるのが上手だな。こんな素敵な踊りを、ファンタスマゴリアで最初に見たのが俺だなんて光栄だよ。これじゃ赤の女王に「わらわに先んじてそのような舞いを鑑賞するなど無礼である! 首を刎ねよ!」なんて言われてしまいそうだ。陛下に詰られた時は庇ってくれよ?(耳打ちするように声を潜めて、内緒話の温度で囁いた。何より彼女がこの庭園を楽しんでくれてよかったと本心から思う。彼女には簡単に折れてしまうようなか弱さは感じないが、繊細な感性を持っているであろうことは察するに余りある。月が廻るうちに切なさや苦しさが過らないとは限らない。心の慰めとしてこの庭園があればいい。ノヴァーリス侯爵夫人が嘗て話していたのだ、「青薔薇には奇跡の魔法がかかっているのよ」と。ならばその裾野が彼女に届けばいい。男自身が魔法を信じる信じないはさておくとして、彼女はしあわせになるべき人だと、この短いやり取りの中でも感じている。柔らかな布で丁寧に胸裏を撫でられるのに似た、健やかで穏やかな心地だ。男が湛える笑みも深まるばかり。)そうだな、リアは甘やかして駄目にしてしまうことはなさそうだ。誠実に向き合って、時には厳しく指導することもあるんだろう。でも愛情をもって教えているんだろうな……なんて、これは俺の予測。でもあながち間違っちゃいないと思うね。(正しい意味で適切な距離を見極め、寄り添うことが出来る人だ。ひどくそれが眩しく思えて、二度瞬きをした後に紺碧の眼を細める。青薔薇に囲まれて尚ひたむきに咲く花だ。枯れてしまうことのないように出来る限りの力を尽くそう。改めて気を引き締めようとして、そのくせ凪いだ表情を呈するのは今の空気の心地良さ故。彼女が言葉を途切れさせた時、ほんの僅かだけ視線を横に流す。すぐに戻して、いつも通りのイディオの姿で向き直る。彼女の手を恭しく掬って、すべらかな指先を包もう。彼女を真似るように片目を瞑ってみせた。)実際一緒に重ねる時間はそんなに長くはないんだろうけど、俺はこうしてリアと過ごすのはとても楽しいよ。帰り方を探すのも、陛下に言われたからじゃなくて、俺自身がそうしてあげたいと願っている。困難があっても必ず見つけ出そう。リアが元の平穏を取り戻せますようにってね。(語調こそ軽いものの、そこには真摯な響きが滲む。彼女が帰る路を手繰ろうとする。ファンタスマゴリアの麗しさも、彼女は本来程遠い場所にいるべき人だ。水が上から下へ流れ落ちるような自然さで、在るべきところへ帰してあげられたらいい──幽かに弾けた何かを見ないふりして、男は口の端を上げる。)さあ行こう。帰り方の相談もいいけれど、せっかくだからリアの話をいろいろ聞いてみたいよ。いいかい?(遠くで鳥が鳴いている。青薔薇が波のようにさざめいている。これははじまり。であるのなら、めでたしめでたしを目指して肩を並べて歩いていこう。)
イディオ〆 2020/01/31 (Fri) 21:09 No.106