Mome Wonderland


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(青の裾野を迎えに行こう)
(あなたは、と問われた声に返事をする間もなかった。小夜啼鳥が囀るファンタスマゴリア。白くやわらかな月が見守っていた夜半の折り、己の瞳に映ったのはすらりと舞った女性の姿。その姿が星月夜に透けるようで、何故か光を纏っているようにも見えて。僅かに吐息を噛んだような気がする。気がする、で留まったのは、彼女に声をかける時間もなく赤の女王の御前へと引き摺り出されたからだ。赤の絶対君主はいつも通り横暴で容赦がない。命令に僅かに目を瞠る。常夜の従者の様子を窺うも状況が変わることもなく、つい額を手で押さえてしまった。)えっ、あー……はあ。左様ですか。まあ、構いませんが。(軽く頭を抱えつつも、状況を噛み砕こうとゆっくりと声を返した。驚きはすれど忌避感もなく諾意を示したのは、女王陛下の我儘には慣れっこだったから多少のことでは動じたりしなかったため。後は単純に彼女に何の非もないだろうと感じたためだった。理屈も事情もさっぱり理解が及ばないものの、彼女がファンタスマゴリアの住人ではないことは確かだ。少なくとも頼りになる人間が他にいるとも思えない。もっとも謁見の間において女王から視線を逸らすなどという不敬が許されるはずもなく、当の彼女がどう思ってたかを汲み取るまでの余裕はなかった。故にその場ではただ「かしこまりました」と恭しく一礼し、──さて。夜が明けた朝は麗らかで、平穏な日常のにおいがする。彼女は城の近くに小さな家を宛がわれたという。トランプ兵に場所を確認し、男はそちらに歩を向けた。朝といっても朝食時は過ぎた頃合い、昨日の今日で早くから外出しているとは思えないけれどと、そこまで思って首を傾げた。そもそも彼女は食事を摂っているのだろうか。ともあれ目当ての家を見つけたならば、ドアのノッカーを二度鳴らす。自然と背筋が伸びた。)ごめんください。(いきなり来客があれば不審に思われるだろうか。陽光が背をあたためていく最中、彼女がドアを開けてくれるのを素直に待つ所存。もし彼女が姿を現してくれたなら鷹揚な笑みを差し出そう。)おはよう。急に悪いね。昨日顔を合わせたんだが覚えているかい?(彼女も状況を即座に呑み込めていたかはわからない。だから決して焦らせる気はなく、危害を加えるつもりがないという証左に両手をひらり翳してみせた。不躾にならない程度に彼女の花かんばせを見遣ろうとする。)
イディオ 2020/01/26 (Sun) 01:04 No.2
(宵の漆黒よりやさしく、晴天の青より深く、月明を受け容れた海洋が如き彩。かち合った眸の持ち主に対し、先ず抱いたのはそんな印象であった。されど魅入られる心の余白を得る前に、どちらかが二言目を発するよりも前に、状況はメトロノームの錘を最速にして進んでゆくばかり。気付けば豪奢な城内にて穏やかでない命令を受け、本来持つべきであろう怯えも畏怖も無しにぱちくりと瞬いていた。女王の口調も内容もかの童話を彷彿とさせるようで、然れど自分はエプロンドレスを纏った幼い娘ではなく、ウィリの世界にしては随分と生気に満ちている。などと状況の割に思惟が呑気な廻り方をしていたのは、陥った現況そのものが現実味を欠くためか。高圧的にみえる陛下が、発言と不相応にあどけない姿をとっていたためか。或いはもっと単純に、自分ひとりではなかったからか――己の思いまでそうして朧にぼやけさせる程、とかく慌ただしくも目映い一夜であった。白い月の夜色がぬりかえられて、おとなう早暁は安寧と平穏の光を連れてくる。仮住まいの目覚めは思いの外おだやかで、世話係にと付いてくれた三つ編み娘の気遣いも温かくて。この国は“そういう”場所なのだと、何とはなしに理解が及んでしまう程。彼女を相手に朝食後の歓談にまで興じていたひととき、来客の音に応えるソプラノは「はい」と軽やかに鈴鳴った。淡いブルーのワンピースは逸るステップにしたがって、亜麻色の髪とともに楽しげな揺れ方をする。プログラムをひらく瞬間のような高揚をお供に、両の手で開けた扉の先。程近い距離で、そっと持ち上げた視線の先。陽光の下で尚映える濃紺をみつけて、睫に縁取られたブルーアイズは柔く和んだ。)ごきげんよう。……ふふっ、もちろん覚えているわ。私を見つけてくれた方!(しゃんと伸びた常の背筋はそのままに、自然と声音が明るむ。彼の悠揚迫らぬ表情と所作は、その人柄の大らかさまで示すかのようで。こちらもまた警戒心の皆無さを伝えるように、淡い吐息をまじえて笑った。)昨日はご挨拶もできないままでごめんなさいね。それになんだか……そうね、大変なことになってしまったみたいで?(当事者にも拘わらず他人事めいた物言い、加えて半端に上げられた語尾は、いまだ実感を伴えていない心持ちを物語るかのよう。さりとて彼を巻き込んでしまったらしいことは流石に察せられ、笑みは退かずとも小さく眉尻を下げていた。)
リア 2020/01/26 (Sun) 02:49 No.5
(月の下でまみえたからだろうか。月光のようなひとだと思った。清廉でまっすぐに澄んだ光を戴く月。星のように明滅するのではなく、確かにそこに在ると思える芯を持っているひとのように感じられた。では月が紅掛空色の黎明に霞んだ朝においては、彼女はどんな彩を持っているのだろう。そんな風に思索に耽っていたのはきっと僅かな時間だっただろう。太陽は未だ中天には遠い角度。ドアが開いた先、彼女の姿が陽光に縁取られたようにも見えたのだ。柔く綻ぶその表情に刷いた笑みは安堵の色。)それは僥倖。俺に見つけられてくれたお嬢さんが笑顔でいてくれるのは、俺も嬉しいよ。世辞じゃないさ、本心だよ。(実際、声音に揶揄の気配はない。謝意を汲めば首を横に振る。)挨拶が出来なかったのは俺も同じだから言いっこなしだ。そうだな、随分大変なことになってしまったようだ。(肩を竦める様子に深刻さは滲まない。流石に昨夜は不可思議な事態に幾らかは頭を悩ませたものの、割り切るのも早かった。商売人故か、つい相手の顔色から感情を読み取ろうとしてしまう癖がついている。もちろん胸裏をすべて見抜けるわけではなくとも、彼女が控えめにこちらを慮ってくれることはわかる。そのために気に病む必要はないとばかりに紺碧の双眸を細める。)だが少なくとも俺のことは気にかけなくて構わないさ。自分で言うのも何だが、俺は誰かに喜んでもらうことが、誰かの笑顔を見るのが好きな性分なんだ。だからお嬢さんもどうか気を楽にして欲しいな。(笑って、そう示すように己が口角を指先で上げる仕草をした。冗句交じりの言い回しの後、改めて彼女に向き直るとしよう。滑らかな口吻は芝居がかってはいるものの大仰さはなく、単純に口先が達者なだけと露呈するだろうか。)自己紹介が遅れたな。俺の名前はイディオ。しがない商人だよ。馬に引かせた荷車と一緒に、このファンタスマゴリアの随所で商売をしているんだ。いろんなところに行くからね、ファンタスマゴリアのことならそれなりにわかっているつもりだよ。(軽く首を傾げて「叶うならお嬢さんの名前を聞いてもいいかい?」と促そう。月の裏側から迷い込んできた彼女が意気消沈しておらず、もしも外に出ることを厭わないなら。曇りも歪みもない晴天へ漕ぎ出そうと誘うのだ。)お嬢さんがどこからやって来たのかはわからないが、帰り方を探すならまずはこの世界の歩き方を知ったほうがいいだろう? お嬢さんさえよければ少し散歩に行かないか。僭越ながら案内人に立候補しようかと思うんだが、どうかな?(家の中に閉じこもっているよりは気晴らしにもなるだろうという算段だ。問いかけの返事を気長に待とうとする。涼やかな風が男の黒髪を撫でていった。)
イディオ 2020/01/26 (Sun) 14:32 No.16
光栄です。私もとても嬉しいわ、もう一度お会いできたらと思っていたの。それが笑顔なら尚良いって。(自分ひとりならとことん楽観視できても、罪なき国の平穏、ひいては偶然出逢ったひとの日常まで脅かしてしまうのは問題であろう。そんな微かな憂慮ごと取り去るよう、そのひとの笑顔は容易く心を軽くする。振り返る声もまた、世間話にも似た長閑さとなって。)ふたり揃って首を刎ねる、だったかしら。せっかく可愛い顔とお声をしているのに、随分なご命令だったわねえ。……もしかして、此処ではよくあることなの?(あまりにも鮮明なる昨夜の出来事。隣の彼に倣うようにこうべを垂れている間、女は周囲に控えた国民の空気も淡く感じ取っていた。幼き君主への恐れ、異邦人への憐憫。それから微かに、慣れめいた諦観。つまり月からの来訪者はイレギュラーであれど、物騒な命令は日常茶飯事なのかと。そんななにげない疑問を呈すばかりで、謝意を重ねることはしなかった。なにぶん他ならぬ彼が、かくも豁達に赦してくれるものだから。)あら……まあ。ふふふっ、やさしい。それならずっと笑顔でいるわ。(心の機微に敏感なのは国をめぐる商人という職ゆえか、彼自身の生来の人柄か。淀みなきリードで進む語らいのさなか、名乗りまで聞き終えた所でふわりと姿勢を低める。脚を軽く交差させて立ち、跪くようなプリエを一つ。舞台上のレヴェランスより幾分日常に近しい、それでいて心からの敬意を表したカーテシーのお辞儀である。)こちらこそ申し遅れました。私は、月影璃亜……リアと申します。宜しければどうぞ、リア、と。(姿勢を元の位置に正しながら、教えられたばかりの名を脳内で反復させる。さして長からぬその間だけ、笑みは考え事の面持ちと成り代わった。イディオ、You are idiot.――響きを無音のままにくちびるでなぞると同時、英字のスペルが自然と浮かんで。初対面の殿方に由来を問うまではせずとも、呼び掛ける折の違和を自問するように。微かに伏せた睫の下、幾らか思案の色をのせて再度呼ぶ名は。)イディ、オ──…ディオ、……うん。……ディオ。(一度目は、音の在処と終着点を探って。二度目は己の舌に馴染ます音色、三度目を紡ぐと同時に眸の紺碧を真っ直ぐ見つめた。満足げな笑みのあとに「愛称はお嫌い?」と、今更ながらの確認を取りもして。続く提案にはトウ・シューズの足許が弾みそうなルルベを象り、声音もまた素直にぱっと明るむ。)宜しいの?ありがとう!あなたさえ良いのなら是非、お願いしたいわ。(全ては未だ量れぬまま、それでも世界の優しさを知覚した胸裡に怖れはない。彼の声、渡る風が似合いの音を介せば一層魅力的に思われて。ブルーの眸はいとも簡単に、確かな期待に輝いていた。)
リア 2020/01/26 (Sun) 16:44 No.19
(彼女の優しい微笑みに、音を立てるように瞬いてしまった。遅れて気付く。もしかしたら憔悴してしまっているのではないかと、ある意味で無自覚に見縊ってしまっていたのだ。当然彼女を労わる気持ちが損なわれることはないが、一見線が細く嫋やかなばかりに見えた彼女の芯の強さを垣間見た心地になった。胸裏に仄かな苦さと、純粋な興味が湧き出てくる。淡い吐息を奥歯で噛んで、それから努めて穏やかに眦を緩める。)あの赤い女王陛下は「首を刎ねよ!」が口癖でね。俺は実際にそうなった奴を見たことはないが、あの方にそうすることが出来る権限があるのもまた事実だ。……と、まあ。それでも周囲がその振舞いを咎めないのは、可愛らしい女王がこの美しいファンタスマゴリアを、平穏無事に統治されているからだ。他の誰かがどう思っているかはわからないが、俺はそう思っているよ。(「とはいえ横暴な方なことは確かだ。結構な気分屋でね」なんて今度こそ冗談めいて嘯いて、内緒とばかりに唇の前に人差し指を添える。ファンタスマゴリアは平和な世界だ。赤の女王はその象徴ともいうべき、可憐な魅力を備えていると男は感じていた。男は幼き君主をつい微笑ましく見守ってしまいがちで、それが少女を憤慨させることもあるのは余談となろう。詳らかにした世界の一端が、彼女がファンタスマゴリアを理解するためのピースになればいい。会話の最中、彼女の麗しきお辞儀と優雅な振舞いを見れば、思わず感嘆の息を零してしまう。男は芸術に通じているとは言い難いが、彼女が何かしらの舞踊を嗜んでいるだろうことは明白だ。後で機会があれば尋ねてみようか。興味のきらめきがもうひと粒。)つきかげ、りあ。(幼子のように復唱する。噛み締めるように、真珠を丁寧に絹糸に連ねるように音を繋ぐ。)りあ……そう、リアだな。覚えたよ。これから長くとも十四日の付き合いではあるだろうが、どうぞよろしく。リアにとってファンタスマゴリアの日々が楽しいものになるように、俺も尽力しよう。(期限までに帰り方を見つけるとすれば、もっと短い滞在になるかもしれない。それでも少しでも彼女にとっていい思い出になればいいと素直に思う。彼女も己の名を諳んじてくれているのに耳を傾け、抱く波紋に思い至らず、「まさか。リアがそう呼んでくれるなら嬉しいよ」なんて率直な答えを返そうか。花笑みが綻べばつられるように破顔する。)じゃあ行こうか。ああ、ドードー。今日はリアの時間を拝借するよ。帰りも送るから、その時にはあたたかい紅茶でも淹れてあげてくれ。(ブラウンの娘が慌てて首肯する姿にひらり片手を上げて、彼女と肩を並べて歩き出そう。薄いベージュの石畳を踏んで、歩を進めつつ何気なしに尋ねる。)どこに行こうか。そこの噴水がある広場からいくつか道が伸びているだろう。そこからいろんな場所に向かえるが……何か好きなものや、気になるものはあるかい?
イディオ 2020/01/26 (Sun) 21:46 No.29
素敵なことだわ。この国……ファンタスマゴリアに住む人達は、きっととっても幸せなのね。此処へ来てからずっと、辺りの空気がやさしいのよ。(幼き女王の統治からなる安寧、そして平穏。国の有り様を語る聡慧な声は、恐らく他者を見る目も優れているのだろう。出逢ってからの長からぬ時間が、それでも如実に教えてくれる彼の人となり。呼応するように、ほのか色づいたくちびるへ己も人差し指を宛がう。「また首を刎ねよ!って言われてしまうわよ?」などと冗談めかして、みたび笑った。表敬ののち、耳に届いたリフレインの響きはどこかいとけなく。それでいて大切に、馴染んだ名前のかたちを成してゆく。微笑ましさと嬉しさが溶け合って、繋いだ音を受け取り終えるまで柔らかな心地で待っていた。対峙する姿は大凡自分と同じか、或いはやや上くらいの年頃に見えるというのに。抑も先程までは親切且つ的確に説明を受けていた立場だというのに、生徒を見守るような面持ちとなってしまったのは無意識の内。)私の方こそ、よろしくね。分からないことばっかりだけれど、ディオにも楽しい時間をお渡しできたら嬉しいわ。(短き縁とて佳き縁に。切っ掛けこそ成り行きであれど、実り多くなるように。そうして今日の意向も定まれば、つま先は逸る心ともども外へと赴いた。良くしてくれる少女を振り返り、行ってきますと微笑んで手を振ることを忘れずに。共に一軒家を後にし、等間隔に響くふたりぶんの靴音は、ごく穏やかなアンダンテ。)好きなものは、沢山あるけれど……きれいな音楽と、それに合わせて踊ること。っていうのは、多分もうご承知よね?(何しろ迷い込んだ瞬間から、月光をスポットライト代わりにくるくると回転していた娘である。恐らく見られていたのだろうと遅れて心付けば、くすくすと零れる笑みには淡い面映ゆさも含まれる。はじける噴水の光の向こう側、のびゆく路へ視線を飛ばした。)そうねえ。此処はとっても素敵な場所だし、目的なく歩いているだけでもきっと楽しいのだと思うわ。でも……(ひらり、ひらひら。ふたりを出迎えるよう緩やかに飛んできた蝶を、伸べた示指に留まらせながらすこしだけ考える仕草。よくよく見ればその翅はなにかの花弁のようで、不可思議に満ちた世界の一端にまたひとつ触れた実感も少々。されど今、純粋な興味の煌めきが一番に向くものといえば――やおら顔を上げ、視線を結ぶ先ひとつ。)ディオ、あなたがいっとう気に入っている場所はある?お仕事中によく廻る所でも……或いはこうして歩きながら、好きなことを教えてくれるのでも何でもいいわ。私、あなたのことをもっと知りたいの!(聡明なひと。傍らが不思議と居心地の良いひと。突然の来訪者を、快く迎え入れてくれたひと。真っ直ぐに心を惹く感覚は好奇心に類するのか、もっと別の名が相応しいのかは未だ知れない。ただ隣を見上げる眼差しには既に、芽吹いたばかりの信頼が確固と灯っていよう。)
リア 2020/01/26 (Sun) 23:37 No.33
(微かに睫毛を伏せ、ファンタスマゴリアのやさしい空気に思い馳せる。この世界に昏い悲哀は似合わない。だから置いた間は玉響よりも短く、彼女の言葉に口の端を上げた。「十四回月を数える時に、互いの首が繋がっていることを祈るとするさ」なんてふざけた言い回しを呈する。まろいくすぐったさが心裡を撫でていく。昨日の今日だというのに臆する様子がない彼女の清々しさに、やはり関心を寄せてしまう自分がいた。男の表情はあくまで穏やかなものだ。)じゃあ楽しい時間を分けっこしようか。困りごとがあれば俺を頼ってくれてもいいし、そこにいるドードーは誠実な仕事をしてくれる。遠慮なく相談していい相手だと俺が保証するよ。(軽く水を向けられてあわあわしているドードーの姿を微笑ましげに見遣り、一歩踏み出して輝く世界に足跡をつけていこう。花が咲き、緑がそよぎ、小鳥が唄う、爛漫のファンタスマゴリア。彼女の返答は腑に落ちるという言葉がぴったりだった。確かに彼女には美しい旋律と、それと共に踊る様がよく似合う。頷いた。)ああ、そうだな。俺は芸術にあまり造詣が深くないから詳しいことはわからないが……いつかきちんと見せてもらう機会があるといいな。期待してもいいかい?(つい瞳に期待を籠めた光が宿るのは許されたい。そうして彼女の声に耳を傾け、紡がれる希望を待っていた。ひらり舞い降りた花蝶を眺め、そういえばこの種を模したハンカチーフを仕入れたことを思い出す。機会があれば彼女にも見せてあげようか、などという考えを頭の隅に置いておく。迎える視線を受け止めて、再び訪れたこそばゆい思いに真直ぐに向き直る。)リアのご要望には応えたいところだ。俺はファンタスマゴリアのいろんなところで商売をしているから、好きな場所もいろいろあるんだ。その中でもリアに気に入ってもらえそうなところといえば……うーん。(顎に手を添え景色を思い描く。いくつかの選択肢をより分けて、辿ったひとつを指先で示そう。踵を半分だけ返し、角を曲がる。しばらく歩くうちに姿を見せた門を通り抜ければ、ふたりを歓迎したのは甘い薫り。あおいあおい、夢のほとり。)ノヴァーリス侯爵夫人という方の庭園だ。端的にブルー・ガーデンって呼ばれているよ。由来は見ての通り、咲き誇る青薔薇さ。(磨かれた瑠璃にも似た青い花弁が風に揺れる。石畳はパールホワイト、視線を巡らせれば円舞場や四阿も見える。)ノヴァーリス侯爵夫人はガーデンパーティーを催すのがお好きでね。俺も菓子や茶を手配して協力させてもらっているんだ。よく楽団や劇団を招いているし、……ほら、今も聞こえるだろう?(耳朶に届くのはフルートの淑やかな響き。どうやら庭園の片隅で音楽隊が演奏を披露している頃合いのようだ。)ここを訪れる人々は誰もが笑顔だ。それを見ることが、俺はすごく好きだよ。
イディオ 2020/01/27 (Mon) 20:14 No.42
ふふっ、頼もしいわね。ドードーちゃんにもあなたにも、既にお世話になっているから……お返し、というのか。私にも、お役に立てることがあれば嬉しいわ。(図太くもそんな風に存意を口にするも、当然ながらこの地では至って世間知らずの娘御。力添えなどたかが知れているから、言葉通り“叶えば僥倖”程度のニュアンスで繋ぐ。だからこそ、伺いを立てる形とはいえ所望を聞けるのは嬉しくて。華やいだ面輪は、早くも楽しいひとときを分け合う気で居るよう。)もちろん、喜んで!お望みなら、リラの精にも雪の女王にもなってみせるわ。いつでも言ってくださいな。(もとより与えられてばかりでは物足りないのだと、心得た様子で深く頷く。深き海洋の眸に籠もった想望を、受け容れる一対のブルーもごく嬉しげに。誘われ舞い飛ぶ蝶のように、しなやかな指が示す先へ共に往く。彼が導く場所というだけで、期待は初めから十二分にあった。然れど、それでも。)まあっ……!(甘くやさしい芳香に包まれ、あおの幻想に脚を踏み入れた瞬間はまばゆさに目を瞠っていた。口許に当てた指の合間から、淡いソプラノ混じりにこぼれる感嘆の溜息。気に入って貰えそうな、と。確かに彼はそう言った。眼差しの聡さは先刻から感じていれど、最早感服にひとしく――ありていに言えば、感動していた。暫し感じ入る間を置いてから彼を見上げる双眸は、そんな胸中を分かり易く物語っていよう。)凄いわ、ディオ。どうして私のこころを惹くものが、そんなにすぐ解ってしまうの?それとも好むものが似ているの?(青空色の一対がきらきらと輝いて、心に正直な声音はあかるく音符を弾ませる。声と音との協奏のように、銀笛の音色が楚々と涼やかに。それでいて詩情豊かに、花園ごとふたりを包んでいた。)ミセス・ノヴァーリス。私のいた地……世界、というのかしら。そこに、同じ名前をした詩人の著書があったわ。夢の中で見た青い花に焦がれて、あらゆる地をめぐる物語よ。今、丁度こんな景色だったのかしら、って思ったの。それくらい……嗚呼、なんて綺麗なのかしら。まるで夢の中に居るみたい!(今一度周囲を見渡すべく片足を軸にターンして、柔らかなフレアの裾がふわりと躍った。いつかと望まれた機会を、なにも早速披露しようと試みた訳ではない。いわば花占いを好む村娘が、心の高揚にしたがって足取りを軽くするようなもの。優しいメロディに合わせて石畳に踏んだステップは、つま先で夢路を渡るような。お気に入りのヴァリエーションと似た、軽やかさと幸福感を同居させる振りになった。)連れてきてくれてありがとう。あなたの好きなもの、愛しているもの……きっと私も好きになれるわ。心から。(訪う人々、誰もが笑顔――その中に彼の存在がある。それだけのことが、由も知らずに幸せで。ふたたび背筋を伸ばして佇むころには、興奮も凪いだ微笑へと移っていた。)
リア 2020/01/27 (Mon) 21:34 No.47
(商売人という生業故に、男は笑みを湛えるのが常であった。しかし──こうして彼女と過ごしていると、ただひとりの人間として自然と気分が明るくなる。今、平時より呼吸がしやすいのが不思議でならない。ふわふわ揺蕩うような感覚に抱かれながら、彼女がいつか披露してくれる演目に心躍らせていた。辿り着いた青薔薇の庭、周囲を見渡しながらもつい彼女の様子を窺ってしまう。だが彼女が花かんばせを、露草の瞳を輝かせてくれたなら。胸に萌すあたたかさが光の粒子になって、身体中を巡っていくような心地になった。)それはよかった!(それは晴れ渡る空のように。先程まで湛えていた笑顔よりは幾分幼く、屈託ないと表現するのが相応しい。それに遅れて気付いて、照れ臭そうに喉を震わせる。)リアに喜んでもらえて嬉しいよ。へえ、そんな詩人がいるなんて興味深いね。ならその人も、こんな景色を胸に抱いていたのかもしれないな。夢の階でノヴァーリス侯爵夫人と繋がっていたかも……なんて、そんな浪漫を嘯いても許してくれよ。(軽口を叩くものの、そこには彼女と歓びを分かち合うさいわいがわかりやすく滲んでいただろう。彼女の軽やかな爪先が弾む心を表しているようで、そうやっていつも朗らかでいてくれたらいいと素直に思った。顔を覗き込みながら言う。)なら俺にもリアの好きなもの、愛しているものを教えて欲しいな。とりあえずはきれいな音楽に合わせて踊るリアが見てみたいよ。今から楽しみでたまらない。(ファンタスマゴリアのことはかなり知っているつもりだが、その他にある世界があるなんて思ってもいなかった。男の紺青の眼差しに宿るは好奇心、未知の空白に咲いた彼女という花は、果たしてどんな彩をしているのだろう。次の頁を待ち望むような男の声は伸びやかだ。)少し見て回ろうか。向こうには青薔薇のアーチがあるし、小さな池に架かる橋もあるんだ。橋を飾る青薔薇もそれは可憐なものだよ。休憩したければ、右手の奥にティーテーブルがある。声をかければお茶も用意してもらえるから、疲れたら我慢しないで言ってくれよ。(紳士というには砕けた態度ではあるが、彼女をエスコートするように歩き始めようとするだろう。青い波がさざめくように薔薇が風に揺れている。その間を渡るうちに、不意に閃きが降ってきた。)そういえば……(彼女は驚くほどにこの世界に馴染んでいるとはいえ、知らぬ土地では不慣れなこともあるだろう。出来る限り過ごしやすい環境を作ってあげたいと思う。帰り方というものが見当もつかない以上、日々の暮らしに障害はないほうがいい。)後で在庫からファンタスマゴリアの地図を持ってこようと思っているし、日用品はドードーか俺が手配するとして。あらかじめ何か知っておきたいこととか、用意しておいたほうがいいものはあるかな。(あらかじめ不安を除こうとして首を捻る様子は、些かいとけなくも見えただろうか。)
イディオ 2020/01/28 (Tue) 00:47 No.54
(ああ、そんな風にも笑うのね――対峙する面貌が、声が、喜びに満ちて映るから。ブルーローズより深い花紺の双眸が、少年のように澄むものだから。ほんの一瞬だけ息が止まって、頬にオフェリアの薔薇色がおちる。はじめての、あるいは久しき感覚に、月草が揺らいだのは束の間。まばゆさに直視を躊躇うのは勿体なくて、碧空の笑顔を穏やかに見つめた。まなじりに淡い紅を残したまま、それでも睦まじく笑い返して。)そんなに素敵な浪漫語りを、もし許さないひとが居たらお会いしてみたいわ。……青い薔薇はね、奇跡の花と呼ばれているの。きっと夢を渡ることも、出逢いを結ぶこともしてくれるはずよ。(反語表現はすなわち“私は好きよ”の意。麗しく整えられたガゼボや円舞場の辺りへ、眺めるともなしに視線を移ろわせて数拍。熟考と呼ぶには緩やかな思惟をめぐらせて、ささやかな要望の答えを選った。)私の好きなものは、……演目なら『ジゼル』……踊ること以外なら、紅茶をお供に歓談する時間。皆が笑っているやさしい団居。それから、風景を楽しみながら歩くことかしら。今のようにね。(差し出してくれた興味の絹糸に一粒ずつ、音の真珠を通してゆく。沢山あると前置いた通り、頁が途切れる様子はなかった。和やかな談話の後奏は、伸びやかな雰囲気に比重を置いた優雅な音色。己の世界で言うところのラヴェル風に近い旋律、その源にふと視線を向けて。)お望みなら今すぐにでもご披露できるわよ。“きれいな音楽”の条件は満たしているもの、充分すぎるくらいに。(冗談交じりの気軽さで、けれど望まれれば吝かではなく叶えることもしそうな口振り。甘美な芳香に包まれた花園は、散歩道とするも舞うも憩うも赦してくれるようだった。無論きちんと場を設けて、即興ではなく馴染み深いプログラムを丁寧になぞるのもまた楽しみな選択肢である。いずれにしても今はただ、何をも出迎えるブルー・ガーデンを心身ともに満喫するのみ。固くなり過ぎないエスコートの端々、滲む気遣いにすんなりと首肯して微笑んだ。至福を象徴するかのようなアーチの彩に目を細め、空と花の濃淡あざやかな青を見仰ぐ。楽観から成る順応性は、当人も可笑しさを自覚するところであった。現実世界における真っ当な価値観の持ち主ならば、恐らく呆れ果てる類のものであろうと。)こんなにも至れり尽くせりで、なにかを望む余地があるのかしら。って思うけれど、そうね。知っておきたいこと……この世界で守るべき規律とか、入ってはいけない場所とか。そういう決まりごとみたいなものはある?(思えば衣食住すべてにおいて無償であることが気に掛かり、ドードーに尋ねれど不思議そうに首を傾げられもしていた。郷に入っては何とやら、無知ゆえの非礼を働きたくはなくて。「あ、女王さまの命令は絶対!っていうのは分かったつもりよ。」なんて、あながち冗談でもない既知事項を振り返りつつ。)
リア 2020/01/28 (Tue) 12:22 No.60
そっか。リアが言うと夢物語じゃなく、ほんとうにそうみたいだ。……不思議な感覚だな。俺もそんな奇跡が咲けばいいって思ってる。(目を眇めて呟いた。彼女が月から降り立ったことそのものが未曽有の事態であり、俄かには信じがたいと思う人間もいるだろう。だが自分が実際にその光景を目の当たりにしたからだろうか。こうして肩を並べて歩いているからだろうか。彼女は確かにここに存在していると知っている。それこそが奇跡のようなものではないか──なんて陳腐な考えをひとまず脇に避けておく。風に吹かれて、シャボン玉がいくつか飛んでいく。虹色越しに見遣る彼女の横顔はとても綺麗だ。午前の清廉な空気は彼女によく似合っているし、麗しき青薔薇も、奏でられる横笛の音色もまた同様に。肺を満たす薔薇の薫りもひどく優しい。胸裏に萌すあたたかさを携え、彼女の話を零さぬように、しっかりと聞き入ろうとする。首を傾げて尋ねたのは、単純に詳しく話を聞きたかったからだ。)ジゼル? それは舞踊……いや、バレエか何かの演目なのかな。何かしら物語性がありそうな気もするな。どんな感じだい?(ふたつの紺青には興味のひかり。男は芸術に慣れ親しんでいるとは言い難いが、様々な分野に関心を抱く性分である。だからこそ未知に胸を躍らせ知見を広げたがるのが常だった。彼女の『好き』を指折り数え、扱う紅茶のリストを用意しようと胸裏に書き留める。彼女の提案には殊の外嬉しげに頬を綻ばせた。)なら少しでいい、この先の円舞場で見せてもらえないかな。あ、ほら。ちょうど曲も新しいものに移ったみたいだし。(管楽器の重奏に、滑り込む弦の旋律。青薔薇に留まる朝露のようなパッセージはそっと背中を押してくれる。それが霞んでしまう前に、歩を進めることにしよう。その途中に真面目な口吻で手渡したのは、この世界の渡り方。)重々しい規律は特にないよ。この世界の住人は誰しも心優しく善良だ。親愛を持てばきっとそれが返って来る。ただ……そうだな。(僅かに声のトーンが低くなる。真剣な面差しになってしまった。)あまり市街地から離れすぎるのはお勧めしないな。人里を離れてしまうと安全な場所ばかりじゃないんでね。帰り方を探すにしても、そういうところに向かう時は決してひとりでは行かないこと。いいね?(つまり男に一声かけるようにという意図だ。「確かに、まだ身体と首は離れ離れになりたくはないしな」とふざけて肩を竦めてみせよう。)あとは……ああ、ファンタスマゴリアの外へ出ることは出来ないんだ。外周に高い壁がそびえていてね。少なくとも俺は出入口らしきものは見つけられなかったし、見つけたという話も聞かない。国外との交流はないんだ。まあ、それに対して誰も不自由を感じていないってのも事実だけどね。(そういう意味でも『アリス』の来訪はとても珍しいものだ。言外にそう語り掛ける。)
イディオ 2020/01/28 (Tue) 20:56 No.66
(夢想を渡る、出逢いを結ぶ。見知らぬだれかの夢語りとして繋いだはずの話題は、まるで今隣を歩いているふたりのことを指しているよう。機微に聡く、どちらかというと器用な大人の殿方と映っていたひと。されど今し方、垣間見た笑顔は太陽の如く眩しくて。咲けばいいと、そう呟く声音はあまりにも無垢で。捉えどころのなさが女の好奇心を刺激しているのみか、彼だからこその芽生えなのかはまだ、我がことながら量りかねる。虹色の膜からなる泡沫は甘い移ろいなど露知らず、壊れて消えることなくゆったりと飛んでいった。)そうね。バレエの演目の題で、ヒロインの名前よ。村の小さな家で暮らしていて、踊ることが大好きで……恋する喜びにあふれた、瑞々しくて可憐な女の子。(視線が重なり合う紺碧の双眸に、純粋な興味の天光を見た。微風と睦ぶ黒髪にひとすじの青、陽光を透かす綺麗な彩にそっとまなじりを弛ませる。綻ぶくちびるは何を惜しむ様子もなく、大切に音を紡ぎ出した。元々自分が出した話題、彼の興味を惹いたのなら単純に嬉しくて。)ジゼルのお母さまがね。「あんまり踊りに夢中になると、ウィリになって死んだ後まで踊ることになるんだよ」って言うの。私、小さな頃はそれがすごく怖くて……けれどどうしようもなく、憧れたのよ。(青いひとみには幼き日の憧憬を追思する懐かしさ、やわらかな語り口には愛おしさが滲む。彼ならば聴いていてくれると、我知らず安堵する部分があったやも知れない。流れくるメロディーの変容を共に受け止め、みずから言い出した案を快諾して円舞場へと歩む道すがら。勿論こちらも、求めた答えにしかと耳を傾けていた。どこまでも心安く優しい世界の在りように、改めて目許と頬を和ませて。ふと真剣味を増した忠言が耳を打てば、面持ちは自然に引き締められることとなる。)はい、約束します。(そうして承知の意を示す時ばかりは、声音も心静かな真率さを帯びる。説諭の形をとりながら、自然に頼る対象として彼の存在を示してくれる温かさがあった。きちんと伝わるからこそ、心からの感恩を示す意も込めて約そうと。)ここに居れば困りごとも、哀しいことも何もなさそうだものね。けれど帰り方を探しなさいと仰りながら、外へ出てはいけないなんて……物理的なことではなくて、もっと根本的な何かなのかしらね? “帰る方法”って。(漸く、恐らくは初めてに等しく、正常な現実世界の人間らしい疑問を口にしていた。それも左手の示指をくちびるに宛がい、銀輪が陽光を反射して煌めく程度の束の間。まあ良いか、の思考転換まで数秒も掛からなかった。今は、うつくしい音律がふたたび色を変えることの方が問題であるらしい。少なくとも、かけがえのない観客を前に逸っている己の両脚にとっては。控えめであったルルべは目的地に近付くにつれふわりと浮き、歌う弦楽器と睦ぶ仕度を始めていた。)
リア 2020/01/29 (Wed) 00:28 No.70
(玲瓏たる彼女の声にしっかりと耳を傾けていた。角砂糖が紅茶に溶けるようなやわらかさで咀嚼する。『好き』を語るその姿は歓びを纏い朗らかで、本当に『好き』なのだと男からしても理解が及ぶ。亜麻色の髪は陽光に縁取られ、燦然の櫛で梳かしたように風に流れる。もう一度目を細めてしまった。日の高い頃合いであるにも関わらず、彼女の佇まいから感じ取られるのはやはり月虹を思わせる澄んだきらめきだった。芯はあるのに押しつけがましくない、清楚な居住まい。職業柄女性客と相対する機会も多いものの、他の女性とは違う何かが其処にあるように思えたのは、どうしてだろう。夜半の月を映した湖面のような瞳を、不躾にも見つめてしまっている。)ウィリっていうのは、その流れで言うと死者の魂というか幽霊というか、そういう類の存在かな。……そうか。ジゼルが死んだ後まで踊っていたくなる気持ちも想像がついてしまう、そういうことかい? 俺は死という概念を創作でしか知らないから憶測に過ぎないけれど。(何時か図書館で読んだ定命の人間の物語を思い返しながら言う。月下の邂逅以降、彼女の楚々とした所作と刻むステップに、熟達した舞踊の技術を見出していた。それ以上に踊ることへの確かな愛情を認識していた。彼女の穏やかな物腰と柔らかな口振りからして、きっと他者に説明し導くことにも長けているだろう。彼女のいた世界のひとひらを垣間見られた気になって、つい眦が緩んでしまう。「ほら、この道を往けばもうすぐ円舞場だよ」と指差そう。然して話題がファンタスマゴリアの在り方へ移れば、声は自然と真面目な気配を孕んでいく。彼女を不穏なものから遠ざけたいと本心から願っていた。)ああ。小さな諍いくらいはあるけれど、誰かが傷付き損なわれるような出来事はほとんどないな。うーん確かに……国を囲む外壁を越えればリアが帰ることが出来るという予測は厳しいかな。そもそもリアは月から降って来たわけだし。だからといって月に帰るっていっても現実味がなぁ。(前髪を掻き上げながらの声は疑問符を添えて。誰もが善意を前提として暮らしている事実に男は違和を感じない。それが当たり前の世界だからだ。月には誰かが住んでいるのだろうか。それこそ童話の類でしか読んだことがないから、ファンタスマゴリアの外側を想像出来ずにいる。眉を寄せたけれどもそこに不快の色はない。)ファンタスマゴリアの外から誰かが来るなんて、今まで前例がないはずなんだ。……ナイトメアあたりにもう少し話を聞いてみるかな、伝承の類にも詳しそうだし。 ──……、(彼女の繊手に銀輪が嵌められていることに、その時初めて気が付いた。よく似合ってはいたが、何故か吐息を噛んでしまう。思考が中断されたのは、大理石のタイルが敷かれた円舞場へと踏み入ったからだ。明るい声で促す。)到着だ。さ、特等席で拝見させてもらうよ。
イディオ 2020/01/29 (Wed) 21:20 No.77
ご明察よ。ウィリは、婚礼の前にいのちを終えた乙女の精霊で……夜になると森の中に現れて、優美に舞うのですって。一緒にしてしまうのは失礼でしょうけれど、私も小さい頃は暇さえあれば踊っていたから。少しは落ち着きなさい!って叱られてしまうくらいにね。(視線を合わせ、茶目っ気を含んで悪戯っぽく笑う。真っ直ぐに見つめてくる宵の海色を、不躾や無作法だなどとは露程も思わなかった。ひとつひとつを丁寧に受け取ってくれていると、眼差しからも伝わる傾聴が殊更舌の根を軽くさせて。囀りがふとテンポを落とすのは、ほんの小さな言葉じりを捉えた瞬間。哀切のない優しい世界には、命の刈り取りも訪れ得ぬと知った時である。)そう、……そうなの。いのちのおわりも、此処には……(無いのね、と。中途で潰えた淡いソプラノが、不自然な間を置かないうちに笑みを象り直す。)不思議だなあって思っていたのよ。ドードーちゃんに年齢を聞いたら、何故だかきょとんとされるんだもの。いま納得したわ。(生死の概念もないのなら、恐らく年を重ねる概念もないのだろう。ワンダーランドの常識を前に、またひとつの得心を書き留める。庇護される身は落ち着かない、苦労を掛けるのはしのびない。されど状況を思えば、多少彼を悩ませるのは致し方ないことなのだろう。つられて真面目なトーンに移り変わりつつ、重たくなりすぎないように談話の語調で繋げんとする。)前例がないのなら、やっぱり何かに導かれたのかしら。私はいつものように、仕事終わりにひとりで過ごしていて……(感覚としては昨日の出来事。にも拘わらず辿る声音は何故か、遠き日を手探りするように響いた。)誰かの呼ぶ声がね、聞こえたの。それを追いかけようとして、足を踏み外して。気付いたら此処に居たのよ。(生憎それだけしか覚えていないのだとは、ちいさく竦める肩の仕草から伝わるだろうか。現実的な思考もそこそこに、いまは意思の向く先へと。明朗な声に背を押され、一度だけ振り返って微笑んだ。そうしてひとたび大理石の床を舞台と定めたなら、表情はひとりの女から演者のそれに変化する。クロワゼのポジションから片足を引いて跪き、ゆったりと宙へ舞わせる両の手はラ・シルフィードの羽ばたきに近しく軽やかに。自己紹介の折より深く、かけがえのない観客への敬意を示したレヴェランスを贈る。そうして柔らかに踊り始めるは、ふわりと空間をすり抜けて舞い飛びそうなヴァリエーション。花を飾る玉水か朝露のような音の連なりに、相応しい振りは如何なるものだろうかと道中廻らせた思惟の先。選び取ったのは人ならぬもの、話題にのぼったウィリかフェアリーを彷彿とさせるロマンティック・バレエであった。リラの精でも雪の女王でもないけれど、背景効果も手伝って青薔薇の精とでも映ってくれたのなら幸いに。ただひとり、奇跡の庭園へ連れ出してくれた案内人のために舞っていた。)
リア 2020/01/29 (Wed) 23:17 No.81
(視線がかち合えば自然と男の顔貌も和らいだ。気安くも親愛が籠められた、男の常の表情だった。続いて触れたのは認識のひずみ。違う空間を覗き見た心地で、腕を組んで首を捻ってしまう。)年齢って、えーと、何だったか。重ねた年を数えるやつだっけ。俺、そういうの気にしたことないんだよな。俺はずっと前からイディオであって、それ以上でも以下でもない。ドードーや他の人間だってそうだろうさ。……って、リアにとってはそういう考えも珍しいのかね。(個人ごとに何年生きているかを数え、時にはそれを祝うという風習。書き人知らずの書物でそんなことを読んだ記憶がある。筆者はその概念を知っていたのか、ただの虚構に過ぎないのか。当然検証したことはない。間違いないのは、それを身に染みて実感したことは一度もないということ。けれど彼女が波紋を広げてくれたのならば、疑問を丁寧に掬い上げてインクと成し、胸裏の冊子に書き留めておく。今は理解出来ずとも何時か考察を深める機会があるかもしれない。栞を挟んで後で見返そう。その後に連なる話題にも、真摯に相対しようとする眼差しは怜悧だ。物語の一篇にも思える非日常。)呼ぶ声ねえ……少なくとも、リアはファンタスマゴリアに望んで訪れたってわけじゃないのは確かか。誰かが意図的に導いたって考えるのが自然だろうが。(そこまで言って、弾けるように視線を上げる。深刻な空気は涼やかな青薔薇の庭にはそぐわない。肩を竦める様子から察せられるように、彼女にも思い当たる節がないなら尚の事だ。努めて軽妙な声で訊く。)まあ、それはひとまず脇に避けておこうか。ちなみに仕事ってのはどんなことをやってるんだ? やっぱりバレエに関するような何かかい? 後で教えてくれよ。(言い添えたのは円舞場に到着したためだ。彼女を見送るように微笑みを返し、円舞場の外周で控えることとする。流麗な弦楽器の旋律の狭間に、時折瞬く朝露のようなピチカート。そこに在る彼女の表情が変わるのを見た。繊細にして滑らかな動き。かなりの練習を積んでいるのだろうと冷静に考えればわかるだろうに、彼女はあまりに自然に舞い踊るものだから、ただ目を奪われることしか叶わずにいる。男は芸術に詳しくない。詳しくないからこそ息を呑んだ。森の中で翻る白く長い丈のチュチュが視えた気がした。風にそよぐ青薔薇すら舞台装置に過ぎず、彼女を引き立てるために其処に在る。きっと彼女が踊り終えるまで見惚れていただろう。演奏の転調でようやく我に返り、気が付いた時には喝采の拍手を鳴らしていた。)こりゃ見事だ! すごいな。青薔薇から生まれた妖精みたいじゃないか。(男の頬は上気していて、紺青の瞳にも光が滲んだ。声だって純粋な賞賛の色を直截的に伝えるだろう。)リアは音楽と舞踊の女神に愛されているんだな。なんて、流石に陳腐に過ぎるかな。
イディオ 2020/01/30 (Thu) 20:10 No.89
そうよ。生まれてきてから、ひとつ、ふたつって年を重ねて。昨日より成長したとか、前よりも大人になったとか……変化を楽しんだり、喜んだり。ときどき少しさみしいこともあるけれど、大切に一日一日を生きていくの。それが当たり前だと思っていたから、……ふふっ!驚いた、本当に違う世界なのね。まだまだ知らないことがいっぱいあるみたい。(生徒に指南するよりも近しい空気で、みずからの世界のなんたるかを説いてゆく。知見を広げたがる利発なひとに対し、少しでも知的好奇心を満たす素材となれば幸いとばかりに。そうして明るく受け答えながら、同時にふたつのことを解していた。悠久のときを与えられ、常に幸せの明日を約束されたファンタスマゴリア。そこに住まう民にとって、幸福とは恒常的にして普遍的なものであること。そして自分は、この世界の一部にはなれないこと――悲愴感も何もなく、ワンダーランドの素晴らしさとして受け容れたのち。即興ながら有りっ丈の思いを込めたヴァリエーションは、花香の中でしっとりと終章をむかえる。転調を見送り、カーテンコールを真似て今一度深く礼を取った。惜しみない拍手に応えるよう、最上の感謝と礼節を胸に。全てのバレエはレヴェランスに始まり、レヴェランスに終わる。見守ってくれた観客に対し、舞姫は礼儀を第一に――それは幼少の頃から教わり、また教える立場となって以降も大切に言い聞かせた事柄のひとつ。ゆったりと睫を羽ばたかせたのち、やおら上げた顔に浮かぶは面映ゆくも親しみ深い朗笑。演者からひとりの女性へ、ゆるやかに舞い戻っては双眸を煌めかせた。)まさか!陳腐だなんてとんでもないわ、私には最高の褒め言葉よ。ありがとう、ディオ。(弾むこころを抑えることなく、さして短くもない距離を彼のもとへ駆ける。ふわりと円舞のステージから舞い降りるようにして、ふたたび同じ高さへ並び立とう。光がともる碧空の眸は殊更に眩しくて、見上げるブルーをやわらかに細めた。)ちなみに元の世界ではね、バレエの先生をしていたの。ちいさな子達を相手に、踊るのは楽しいのよ!って教えてあげるお仕事。(光を広げるにはふたつの方法がある。ひとつは自ら灯る方法、もうひとつは鏡になってその光を反射させる方法――とある著名な作家の言葉を受けて、ならばと後者を選び取ったのはいつの宵であったか。一曲ぶんのタイムラグを挟んで、先刻の問い掛けへ答えを贈る。)仕事には必ず意味があるのだって、憧れていた人が教えてくれたわ。あなたも、(至近距離から指差す顔は、少しだけ“先生”の風情を気取っていた。年齢がないのなら、姉ぶるのだって自由である筈と。)多分なにげなく言ったのでしょうけれど、しがない商人だなんて自分を低めちゃ駄目よ。幸福を売る、皆さまの心に光を灯す、笑顔になるお手伝いをする……そんなお仕事をしているのねって、ちゃんと伝わったもの。
リア 2020/01/30 (Thu) 21:42 No.91
(彼女から齎された淡い揺らめきがもう一滴。澄み渡る透明な水底で、真珠を見つけたような心地だった。空を翔ける鳥では知り得なかった境界が溶けていく。ファンタスマゴリアという国に不満を抱いたことはない。他の世界を知らない。なのに、何故か。喉の奥に空白が詰まるような感覚に陥った。)……、……?(不可思議な違和が眼底に溜まる。言葉に成り損なった吐息が唇の端から漏れた。傍から見れば誰も気付かぬようなあわい。シャボン玉越しに眩い何かを見出したような眼差しで、彼女の踊る様を眺めている。どうして今、噎せ返るような薔薇の匂いで身動きが取れなくなっているのか。それでも彼女の素晴らしい踊りに魅入られていたのは確かだし、捧げる賛辞も真実だ。高い拍手の音が円舞場に響く。)ありがとうを言わなきゃいけないのはこっちのほうさ。いいものを見せてもらったよ、ありがとう。宝物を分けてもらった気分だな。(わかりやすく喜色を浮かべてしまう。そのまま大理石を踏み彼女との距離を詰める。ふたりの間に冷たい風は吹き抜けたりせず、ただあたたかなばかりだ。届いた言葉に得心して頷いた。)なるほどな。ああ、子供たちに優しく教えている様子が目に浮かぶよ。きっと慕われていたんだろうなって想像つく。(彼女は自ら先頭に立って華々しい世界に生きるというよりは、誰かの傍らでやわらかな光を注ぐような印象が強い。それでいて彼女自身輝きを持っていないわけではなく──不意に思い至る。彼女が月から落ちてきたのではなくて、彼女自身、月の光を紡いでひとの容を成した存在なのではなんて。胸の裏側でちいさく苦笑した。変な感じだ。世界の美しさを確かに知っているとはいえ、元々はさして浪漫を呈する性分でもない。己の矮小さを把握しているからこそ、対岸の煌く景色に手を伸ばしたがるのだ。そしてそれを誰かと分かち合い、相手が笑顔であってくれたらと願う。ただそれだけだ。なのに。)  リア?(指差す先に自分がいることに気付くのが一拍遅れた。拳ふたつくらいの身長差が縮まる。僅かに瞠目して、そこに落ちたのは空虚だ。何かを取り繕おうとしたわけでもなく、誤魔化そうとしたわけでもない。青薔薇の花弁が風に煽られて翻る。シャボン玉より彼女の輪郭のほうが光を帯びているように見える。)おかしなことを言うな、リアは。(眉を下げながら言えば、ほんの少しだけ声が震えた。しかしすぐに明朗な空気を纏い、彼女に手を差し伸べる。飄々とした口吻に衒いはない。)こんなに見事な踊りを披露してくれたお嬢さんにはお礼をしなきゃならないな。さっき言ったティーテーブルに行って休憩しないか? 美味しい紅茶とスコーンを用意してもらおう。スコーンは上質なバターを使っていてね、それは絶品だよ。(それこそエスコートをする柄でもないが、そのくらいの格好つけは許して欲しい。穏やかなクラリネットの音色が背を押すようだ。)
イディオ 2020/01/31 (Fri) 01:14 No.99
(降り立った世界の輪郭を、未だ鮮明ではなくとも大凡なぞりはじめる頃。住民である彼と自分との違いが、如実に伝うのもまた当然の運びであった。けれど言の葉を交わす都度、空と海の青を共有するに似た触れ合いを感じる都度、どうしたって心は解けて――夢のほとりを彩る奇跡の花は、何をも些末なことと咲き匂う。率直な賞賛に喜悦を灯す月草もまた、相手の微細な機微には気付けぬままに。美しい白大理石からパールホワイトの石畳へ、舞手から異邦の客人へと、すんなり戻る折には常の明るい笑みが咲いていた。)あら、宝物の一部はディオが与えてくれたのよ。連れてきてくれた此処が、とっても素敵な場所だから。それに、ずっと見ていてくれたから。私の踊りが良いものだったとしたら、庭園とあなたのお陰だわ!(だから矢張り感謝を紡がせてほしいのだと、晴れやかながら譲らぬ姿勢には生来の頑固さも見え隠れ。月輪に空の鏡と異称が付くのは、外界の光を受けて反射させるが故だという。彼には陽射しの如き明朗さがありながら、木陰に安らぐような心地良い空気をも感じさせていた。対峙するものが輝くのもきっと、何ら不思議でないことだと解釈して。)うふふ、そうだと良いなあって思っているわ。ちゃんとレッスンに取り組まない子には少し、ほんのすこーしだけ怖い先生にもなるかもしれないけれど。(ぱちんと片目を閉じて飛ばす軽口は、さて何処までが本当なのか。基本的には語った通り、楽しさを第一として見出させる役割に変わりはない。他者の笑顔を望む立ち位置も性質も、安易に結びつけはせずとも何処か、彼と近しいものを感じていた。だからこそ内心で引っ掛かりを覚えていた形容詞には、遅れて忠言もどきを付したのだけれど。)あら、おかしなことを口にした覚えなんて……(冗談の延長線で“心外ね”とばかり軽い抗議を試みた口は、終わりまで紡ぐ前に噤まれる。花の芳香より淡く、されど距離が近いぶん確かに、心付くものがあったから。眼前の陽が陰った訳ではない、幽愁の影が過ぎった訳でもない。ただトレビの泉の水面が如く、ささやかな揺らぎを捉えたのみ。無意識に伸ばしかけた手は定位置に降りたまま、かるい疼きを覚えた指先に力を込める。ほんの一瞬覚えただけの違和感を、徒に引き摺るものではないと己を諫めて。ラフに差し出された紳士のエスコートに、今度は自然と持ち上がった手指をまっすぐ預けよう。)喜んで!……ふふっ。お礼なんて、さっきの拍手と感想だけで充分だったのに。でもとっても嬉しいわ。(紅茶とスコーンも、付随する時間も、彼の気持ちも。てのひらに触れる温度は元の世界と相違ない、血が通ったひとのぬくもり。生きる地の隔たりなど今は隅に寄せ、時間を共にしようと切り替えさせるには十二分な温かさで。木管楽器のやわらかな音律と睦びながら、ティータイムに弾む心と足取りが至って素直なユニゾンを奏でていた。)
リア 2020/01/31 (Fri) 14:17 No.103
リアは俺を喜ばせるのが上手だな。こんな素敵な踊りを、ファンタスマゴリアで最初に見たのが俺だなんて光栄だよ。これじゃ赤の女王に「わらわに先んじてそのような舞いを鑑賞するなど無礼である! 首を刎ねよ!」なんて言われてしまいそうだ。陛下に詰られた時は庇ってくれよ?(耳打ちするように声を潜めて、内緒話の温度で囁いた。何より彼女がこの庭園を楽しんでくれてよかったと本心から思う。彼女には簡単に折れてしまうようなか弱さは感じないが、繊細な感性を持っているであろうことは察するに余りある。月が廻るうちに切なさや苦しさが過らないとは限らない。心の慰めとしてこの庭園があればいい。ノヴァーリス侯爵夫人が嘗て話していたのだ、「青薔薇には奇跡の魔法がかかっているのよ」と。ならばその裾野が彼女に届けばいい。男自身が魔法を信じる信じないはさておくとして、彼女はしあわせになるべき人だと、この短いやり取りの中でも感じている。柔らかな布で丁寧に胸裏を撫でられるのに似た、健やかで穏やかな心地だ。男が湛える笑みも深まるばかり。)そうだな、リアは甘やかして駄目にしてしまうことはなさそうだ。誠実に向き合って、時には厳しく指導することもあるんだろう。でも愛情をもって教えているんだろうな……なんて、これは俺の予測。でもあながち間違っちゃいないと思うね。(正しい意味で適切な距離を見極め、寄り添うことが出来る人だ。ひどくそれが眩しく思えて、二度瞬きをした後に紺碧の眼を細める。青薔薇に囲まれて尚ひたむきに咲く花だ。枯れてしまうことのないように出来る限りの力を尽くそう。改めて気を引き締めようとして、そのくせ凪いだ表情を呈するのは今の空気の心地良さ故。彼女が言葉を途切れさせた時、ほんの僅かだけ視線を横に流す。すぐに戻して、いつも通りのイディオの姿で向き直る。彼女の手を恭しく掬って、すべらかな指先を包もう。彼女を真似るように片目を瞑ってみせた。)実際一緒に重ねる時間はそんなに長くはないんだろうけど、俺はこうしてリアと過ごすのはとても楽しいよ。帰り方を探すのも、陛下に言われたからじゃなくて、俺自身がそうしてあげたいと願っている。困難があっても必ず見つけ出そう。リアが元の平穏を取り戻せますようにってね。(語調こそ軽いものの、そこには真摯な響きが滲む。彼女が帰る路を手繰ろうとする。ファンタスマゴリアの麗しさも、彼女は本来程遠い場所にいるべき人だ。水が上から下へ流れ落ちるような自然さで、在るべきところへ帰してあげられたらいい──幽かに弾けた何かを見ないふりして、男は口の端を上げる。)さあ行こう。帰り方の相談もいいけれど、せっかくだからリアの話をいろいろ聞いてみたいよ。いいかい?(遠くで鳥が鳴いている。青薔薇が波のようにさざめいている。これははじまり。であるのなら、めでたしめでたしを目指して肩を並べて歩いていこう。)
イディオ 2020/01/31 (Fri) 21:09 No.106
(来訪したばかりの自分を、そして恐らくは元々の住民達をも、喜ばせることに長けているのは一体どちらだというのか。賜った言葉をそっくりそのまま、リボンでも付けて返品したい気にもなりながらくすくすと笑う。彼の声でなぞられる絶対君主の口調に妙なリアリティがあるものだから一層、好意的な可笑しみを増長させて。)あらあら……ふふっ、なんだか想像がついてしまうのが不思議ね。勿論お守り致します、ナイトメアさんが何か仰るまでの時間稼ぎくらいはしてみせるわ。(これもまた冗談なのか本気なのか、囁き合う声音の軽やかさから傍目にはきっと量りかねる遣り取り。いつとて他者の笑顔と幸福を願う、そんな生き方を選ぶひとなのだろうとは、短い時間でも嘘偽りなく伝わっていた。だからこそ彼の行く末にこそ幸があれば良いと、異邦人の分際で思ってしまうのだろう。)そういうディオは、私を甘やかして駄目にしてしまいそうよ。……なんてね。(細められた紺青の眼差しが温かくて、まるで困っているかのように眉尻を下げて笑った。別段自己評価が低い方ではなくとも、あまりに率直な賞賛ばかりを与えられては、こう。確固とした嬉しさが花ひらく裏側で、人並みに照れも生じる訳で。惑いというよりは“しょうがないわね”の温度に近しく、両の手指を合わせてちょこんと肩を竦めていた。殿方のウインクに斯様な愛嬌があるのだと、またひとつ光を発見した気分で。)頼もしいこと。私も……私と過ごすことで、あなたに実りがあるのならとっても嬉しいわ。それが一つでも多くあってほしいって、心から思うのよ。(つい先程、僅か横合いに逸れた視線を追うことはしなかった。こころの水底に何があるのか、今はきっと世界の在りよう以上に不鮮明なもの。さりとて丁寧にとられた手に、真率なことばに嘘偽りがないことだけは解るから。見つけ出そう、と。一方的に叶えられるばかりでなく、共に歩む明日を予感させる言葉選びが単純に喜ばしかった。ふたりぼっちではない、ひとりとひとりの約束事に。)だから、――改めて。これから宜しくね、パートナーさん!(限りある日々に、今から心惜しさを滲ませるのは似つかわしくない。出逢いのひとときにも、晴れ渡る空の如き笑顔にも。なにより紺碧に映るものは、少しでも明るく優しく在ってほしい。そんな心持ちは容易く面に表れるもので、一点の曇りもなく晴れやかに笑ってみせた。)ええ。お返しにディオのお話も聞かせてね?結構欲張りなのよ、私。(Nice to meet you, “miracle”. 出逢いが序章であるならば、これはさしずめ第一章。とある幕開けの旋律が、はじまりを彩った日のこと。)
リア 2020/02/01 (Sat) 09:21 No.113
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