Mome Wonderland


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(なんでもある“なんでもない日”のはじまり。)
(気づいたときにはトランプ兵に囲まれて、その後のことをヒューはよく覚えている。月が落としたむすめ――それが“ほんもの”であることにヒューはずっと後で気づいた――と共に謁見の間へ連行され、我物顔で胡坐をかいていた。女王の癇癪をヒューはけっこう気に入っている。首を刎ねよ!そう声を上げたときには、うっかりにんまりと笑ってしまったほどだった。それからすぐにそれが月の落とし物だったことを思い出し、つい真似ようとしたくちびるをへの字にひん曲げた。せっかく返してやろうと思ったのにな。月はいけ好かないやつだが、大切にしているものを失くすといやな気もちになることは識っている。かわいいおれが異を唱えるよりも早く、従者が制止をかけたことでヒューのくちびるはさらにひん曲がることになった。)えーーーーーっそんなのさー!投げとばしゃあいいんだ…むがむご………(盛大に吐き出された声は心優しいファンタスマゴリアの住民にしゃにむに止められたのでヒューの首はいまのところ、ちゃんと繋がっている。気に入りの野っ原で目覚めたヒューは一番に身だしなみを整えると、黒のワンピースをはためかせてうまれたての朝日の中、風切る。“ほんもの”のリュウノヒゲ畑を飛び越えて、ひしゃげた木のアーチをくぐり、黄色いレンガを選んで渡る。噴水のきらきらひかる宝石のような水飛沫に当たらないよう注意しながら、一軒の扉を迷わずノック・ノック・ノック!)おい、おい、おーいっ!“落とし物”!かわいいおれが来たぞ!(まばたきするあいだも待ちきれず、無遠慮にガチャガチャ音を鳴らす。続けて、ノック・ノック。)おい、おーいってば(ノックと呼びかけの数はおなじだけ、大きく歌うような声でワンダーランドの朝へ誘う。遊ぼうよってねだるように、ヒューの顔は扉の向こうへにっこりと笑っていた。)
ヒュー 2020/01/26 (Sun) 13:08 No.13
(この世界で初めて見た宝石は、月に似た輝きを持つ綺麗な色だった。まるでお人形のように可愛らしい出で立ちのそのひとの存在を見たときに気付けばよかったのだ。これは自分が如何様にでも自在に描ける夢ではないのだと。すっかり信じこんでいた夢の世界――それを咲夜が実際に生きる現実だと受け入れられたのは、首を刎ねよと言われた瞬間でも与えられた住まいに連れてこられた瞬間でもなかった。ただぱちくりと瞬きしている間にながいながい夜が明け、いつのまにか倒れ込むようにして眠っていたかんばせへあたたかな朝日が微笑んだときも、まだ。)ど……どうなってるの……。(ウエスト部分にサテン生地の大きなリボンが結ばれ、ふんわりと柔らかさを感じさせる白のミニドレスを纏う姿。鏡の前で立ちすくむ自分の頬へ触れれば、然りとその質感が本物だと語る。さすれば漸く此処がいつもの夢ではないのだとたらしめるだろう。呆然と視線を泳がせるだけの咲夜のもとへ、だれかの来訪を知らせる振動が響いた。)えええっ?!誰?!(咄嗟に廊下へと顔を出して音のする玄関を見れば、まるでホラー映画の演出よろしく回り続けるドアノブ。動揺をそのままにした声は外まで届いたかは分からないが、とりあえず彼女には届いたらしい。いつの間にやってきたのかは分からないが、ドードーさんが「そう焦らずとも昨晩の方ですから…、」とひっそりと補足してくれた。忍者すぎる…と驚くことよりもまずは「ま、待って!待ってね、今開けます!」と待ち人のいる方へ慌てて駆けだそう。)でも私、”落とし物”なんかじゃ――……ないとも言い切れないけど、……ええっと…うーん。(濁す言葉と共に扉を開けば、少し見上げた先に出逢う二度目ましての宝石の色。彼女が言った通り、昨晩のお人形さんだった。見目に反して随分とやんちゃな物言いが記憶に残ってはいるけれど、こうして自然と緩む頬は彼のその表情がそうさせたのだからきっと悪いひとじゃないはずだ。)拾ってくれた人になんにもお礼は出来ないけど、あなたが見つけてくれたんだよね?どうもありがとう、……でも本当に夢じゃ、ないんだよね?(落ちてきた者と見つけた者。行動を共にさせられる命があったとはいえこうして尋ねてきてくれたことで、孤独を感じるこころを呼ぶ暇も無かった。だからこれは最終確認だ。彼が纏う漆黒のワンピースの袖口部分に、恐る恐るましろのレースで縁取られた指先が伸びるだろう。もしもちょこんとつまんで触れること叶えば咲夜は覚悟を決める――ああ、私ほんとうに迷い込んでしまったみたい。)
レイカ 2020/01/26 (Sun) 14:31 No.15
(扉をがちゃがちゃしていると向こう側から悲鳴が聞こえた気がしたが、ヒューはそれでもお構いなしだ。だって早く!早く!ってヒューの内側が叫ぶから。がちゃり!ああやっと開いた扉の先に、夜ふけの前のただ一瞬を切り取ったような色のまんまるがふたつぶ。そこにあるのは“落とし物”にちがいない。そうしてヒューはあいだに何を挟むことなく、にっこり笑顔をまっすぐに向けることが叶った。ふわふわのワンピースに身を包み、アルトの声だけがゆいつ少年のまま。)ふー、やっと開いたぜ。何言ってんだあ?誰がどう見たってお前は“落とし物”だろー?だって月から落ちてきたんだからさ!(否定とも肯定とも取れない返事は言葉尻に向かうにつれてぼやけて最後には霧散した。胸の前でむんずと腕を組み、不満げに口をとんがらせる。しかし、彼女の頬がほどけるように緩んだのを見て、不満は満足に早変わりだ。魔法より、ずっと魔法みたいにヒューはほほ笑む。)そ。おれが見つけたの。でも礼にはおよばない。おれはたまたま見つけただけだしよー、結局月に投げ返してやれなかったしなー。(腕組みを解き、むうと眉寄せ右腕を上下させる。きれいすぎるレース編みを、せつなのあいだヒューは警戒した。レースは彼女の一部なんかではなく、まるで違う生き物かもしれず、嘘をつくかもしれないと。確かめたがる彼女の意を察するのと同じくして、ヒューもまたおそらくはおんなじ気もちだったのだ。ゆえに、つままれた袖口を静かに見下ろして、そして、素早く動いた。レースを挟んだ向こうがわにほんものがあるかを確かめたがって。それが成功すればきゅっと彼女の手を握って、「つかまえた」と得意げに笑うだろうし、失敗すれば片頬を風船のように膨らませて悔しがるだろう。)なんだ、まだ寝ぼけてんのか?おれは夢じゃないぞ。ああ、そうか。月からおっこってきて上と下がひっくりかえっちまったから、さては混乱してるんだな。大丈夫かよ?月に帰れなきゃ、首刎ねなんだろ?(ヒューなりの解釈に付随するのはヒューなりの心配である。自分の首はさておいて、彼女が首だけになるのはさすがのヒューも少々気の毒に思うのだ。)
ヒュー 2020/01/26 (Sun) 21:16 No.27
(見目麗しいお人形さんの背景を彩る晴れた空、そしてどこからともなく聞こえる心地よいメロディーライン。お喋りをしながら飛んでゆく小鳥たち。どこからどう見てもこれを『普通』と受け入れて呼吸するにはまだ咲夜のキャパシティが足りなかった。当然、自分が月から落ちてきた”落とし物”であると認めきることもまたそうである。こんなのねじれた知恵の輪を解くよりずうっとむずかしい。だったらむずかしく考えることをやめてみようか。そうすれば答えはまだ簡単になる。)なにがなんだかよく分からないけど月から落ちてきた私よく無事だったね…。生きてて良かった…。(胸に手をあて、ほうと息を吐けば心臓が確かに動いていることも確認出来る。が、しかし。落とし物の第一発見者、可愛らしいお人形さんは不服そうにしながらさも当然に不穏の言葉をなぞらえるもので。いくら多少のことには目を瞑ろうとした咲夜でさえ「なげかえす…?」と拙くなぞり、クエスチョンマークだけを一面に散りばめた。)投げ、かえす…?――~~っ?!わ、わた、私を投げ返すつもりだったの?!(途端、一気に青ざめる。拾って返してくれようとする姿勢こそ素晴らしいことだけれど、こちらとすればなんて恐ろしい返却方法なのだろう。出来るか出来ないかではなく、出来そうなのが何よりも恐ろしい。そういえば昨日もこんなことを聞いたような気もするが、夢だと高をくくっていた代償はこうも高くつくものなのか。)…ひゃ、(然りと裾を掴んだ感触に現実を感じたと共に彼の手が動いたものだから。つい反射的に、咎められるのだと身構え固く硬直した筋肉も得意げなアルトが笑えば瞬時にほぐれ、「……つかまり、ました…?」と小首を傾いで再び浮かぶクエスチョン。突然触れたことも咎めず、きゅうと覆われた手のひらの温度はとてもやさしくあたたかかい。うん、やっぱり夢じゃない。それは悲しい現実でもあるけれど、それでもひとりではない安心というものをきっとずっと咲夜は色褪せること無く覚えているだろう。そんな気がした。月に帰れなければ首を刎ねられる――その言葉にハッと目を丸くすればそのふたつの虹彩にはっきりと刻まれる文字はたった二つ。焦りだ。ああもう、此処でもタイムリミットに追われることになるだなんて。)そうだった…!私ずうっと夢だと思ってたけど、女王様に昨日言われたこともほんとうってことになるんだもんね。く…、首を刎ねられるのはやだよ。私の首もあなたの首も繋がったままの方が絶対良い!(生首クリケットだなんて、あんなあどけなさの残る少女が好む趣味のものでもないだろうに。先ほどの投げ返す発言やらなんやら、冗談ではないことが分かるからこそ余計に恐ろしさが倍増する。でも、負けられないのだ。)私まだやらなきゃいけないことがあるんだもん、帰る方法もわからないけど…でも頑張る、から。(「だから、」その言葉を続けるにあたって呼べる名を持たないことに気付いた。そう、自分は何も知らない。この世界の理も全ても。目の前の彼のことも。)あなたにこの国のことをもっと教えて欲しい、お願いっ!あ、もちろんあなたのことも知りたい!(帰る方法が分からないのは怖い。たどたどしくも真剣な声を以て見つめる先、あたたかいお日さまのような温度の彼にどこまで伝わるかは分からないけれど。こうして一歩ずつ手探りに進むことしか、知らないから。)
レイカ 2020/01/26 (Sun) 23:58 No.35
それはそうだな、壊れちゃわなくてよかった。ほんっとーに!(生きる、という言葉をヒューは識っている。なんせヒューは生きている。おしゃべり小鳥もしましま猫も生きている。それはしっているのだが、このワンダーランドで必要ない言葉でもあった。事実、ヒューは生き“なくなった”者を見たことがない。しかし同意は雄たけびを上げるが如く、深いものだった。悉く素直さでもって続く対話は青ざめる彼女に反してあっけらかんとしたもので、おおきく頷いてみせさえする。)そうだよ。当たり前だろ?一番手っ取り早いしさ、むんずとつかんでこう!……でもさあ、けむたいイモムシのやつが言うんだよ。月まで飛ばすだって?ぼうやにはできっこないさ、およしって。失礼しちゃうよなー!ぼうやだってさ!(こう!と声にするとき、ヒューは天高く振りかぶるまねをする。野っ原のうずまききのこで一服していたイモムシの口まねは諳んじるだけのものだったが、つりあげた眉にもふくれた頬にもたっぷりふくんだ不満をこれっぽっちも隠そうとはしなかった。だのにヒューは捕まえたレースに上機嫌だ。彼女と鏡合わせに小首をかしげ、認めさえされたのなら、嫣然とし、レース越しのそれをやわやわとにぎる。感触を確かめて、温度をあじわうように。一度捕まえたものを放してやる気配はなく、彼女の焦りは手を伝い、空気を震わせてヒューに届いた。いやだ、という思いも確かなものだと見受けられる。景色に深刻さがにじみかけたが、しかし、おれの話になったとたん、ヒューはきょとんとひとみをまるくさせた。)おれの首のことはかまわないだろ?首だけでも、きっとヒューはかわいいよ。(平然と宣いつつ、彼女とつないだ手を左右に振って機嫌のよさを示す。ごくごく楽しげに、続けて「でも」と言葉も繋ぐ。)帰りたいなら、おれが手伝ってやるよ。ぜったいに帰らせてやるって約束はできないけどな。おれの手足、そうだなあ、さいごの指一本になっても動くんなら、手伝ってやるって約束はしてやるよ。(たんなる口約束を結ばんとするアルトはよく晴れた空のようにどこまでもあおく朗らかだ。なおもこんなに高らかに。)ヒュー! おれは、“あなた”じゃなくてヒュー。わかるか?ヒューウ!(くちびるをはっきりと動かし、一音一音を丁寧に発音してみせる。そうして、)なあ、“落とし物”。お前が落とし物じゃないってんなら、名前がちゃあんとあるんだろ。(ヒューの予想では、彼女が落とし物ならどこかに“月”のサインがあるはずだった。でも見当たらないのだし、彼女の言い分が正しいのだ、と密やかに認めていたのだ。)
ヒュー 2020/01/27 (Mon) 21:45 No.49
(当たり前ではない。なにも当たり前じゃない。人が壊れることも人を投げ返そうと思うこともけむたいイモムシもなに一つ当たり前じゃないよ。あとほんの少しで出かかった言葉は唇を噛みしめて、裏側に頑張って閉じ込めた。そういえばけむたいイモムシとはまた新たな登場人物。まるで小さい頃に読んだ絵本を彷彿とさせる。そのイモムシさんのおかげで彼は今不満げだけれども、真剣に投げ返そうと思っていたこともその再現もある種の素直さが垣間見れて思わずふふと小さく笑ってしまう。ぼうやとは言い難いが、どこかあどけなさを残す少年にも見えるから。かわいらしさは、見目だけからなるものではないのかもしれない。)出来る出来ないは…そうだね、やってみないと分からないのはあると思うよ。何事もチャレンジだよね。あ、でも私が投げられるってことだから…あんまり…その、ね?月までの高さとなると怖いから…もう少し穏便な方法があるといいなって思うよ。(投げられることを辛うじて回避した代わりに今度は首を賭けることになってしまったが、「そのイモムシさんは優しいのかもしれないね」と付け加えておいた。物理的に無理だと呈したのか、彼の肩を心配したのか、落とし物を気遣ったのかはイモムシのみぞ知ることだけれども。そうやって当たり前ではないことでも少しずつ受け入れようとしだした咲夜に、また一つ飲み込みがたい問題が出現した。”首のことはかまわない”なんて、今日は良い天気だねと言わんばかりの口ぶり。目をまんまるにして驚かれても、まるで鏡あわせの表情がこちらにも浮かぶ。)ええ?!だ、だめだよ!確かにあなたは可愛らしいけれど!この体もあってこそだよ、じゃないとどこにも行けないしなんにも出来なくなっちゃう!(ぶんぶん否定する気持ちに比例して頭を振る。かわいいかわいくないで首になる選択なんてしたくないしまず出来ない。なのにどうして。握られた指先がすこうし震えていることなどお構いなしにご機嫌に揺れるのみで、こんな焦燥感を抱いているのは自分だけみたい。それまで然りと見れていたはずの月の色した双眸を捉え続けることはむずかしく、顔の角度は徐々に玄関口に引かれたウエルカムマットのほうへ沈み落ちてゆく。ふざけているとは思えないが、軽んじて捉えられているのではと――そう、思ったときだった。やわらかくてちからづよい、魔法が降ってくる。ぱっと視線を上げ、改めてかち合わせたふたつの色はやっぱり綺麗な宝石のよう。)……、……うん。ありがとう、そう言ってくれてとっても嬉しいし私も頑張れる。これからよろしくね。(ふたつの輝きの前に、焦りなど呆気なくまっすぐに撃ちぬかれて溶けてしまったから、しっかりと頷いた。再びやわらかな笑顔に戻してくれた彼はまるで魔法使い。)ヒューくん。ふふ、分かった。ちゃあんと覚えたよ。私は咲夜麗花、レイカだよ。――あ、そうだヒューくん!せっかく来てくれたから、お茶でもどう?こんなに良いお天気だから外に出てカフェもいいかもしれないけど。(どうしようね?と改めて問いかけておいたものの、外のことはさておき家の中に何があるのかまだなんにも知らない。けれどきっとどうにでもなるだろうと思うことこそ環境に慣れてきた証拠だったのかもしれない。)
レイカ 2020/01/28 (Tue) 00:10 No.52
(投げるのは名案――というより、他に案がなかった――に思えたが、投げられるのはそうではないらしい。工房のさんかく屋根みたいにとんがったくちびるは、理解を見せてまずはゆるくへの字に変わる。納得の意思表示は首肯でしたつもりだが、イモムシへの評には反対にイーっと歯を見せる。なにが不満かなんてヒュー自身にもわからなかったが、とにかくイモムシが優しいかもしれないことは面白くなかった。)首と体が離れるだけだろ?首と体が離れると、体は動かなくなっちまうのか?おれは離れたことがないからわっかんねーな。離れたら離れたで、体のほうがかるーくなって、華麗なダンスができるようになるかもしれないぞ。ま、顔がボール代わりにされんなら、噛みついてやるけどな!(ガチガチっと歯を鳴らし、最後にべーっと舌を突き出してみせる。彼女の“ぶんぶん”をヒューはあんまりきちんとは理解できなかったが、おれの首が離れることと彼女の首が離れることがヒューにとってまったくちがうことのように、おれの首が離れることが彼女にとって嫌なことであるのかもしれない、と思ったら、ヒューのほうは彼女とちがって悪い気はしないのだった。可愛らしい、ただその一言に機嫌の良さをかくさずにほほえみすら浮かべて。)はは!うん。いいよ。最初から返してやるつもりだったしな!(笑った顔にくすぐったがって笑い声が飛び出した。わかったと頷く彼女には満足だったが、ヒューの名前のうしろにもれなく妙なしっぽがついているのがむずむずして、胸のあたりをごそごそ掻く。しっぽを無理やりちょん切ることも、そのしっぽに触れることすら、ヒューには許されないような気がするのだ。)サクヤレーカ。レイカ、な。(ゆえに彼女の名前は繰り返すにとどめ、背にある外界を振り返ってから、くんとレースの手を軽く引っ張った。)茶が飲みたいならきりかぶのティーパーティーに行くか?かわいい野っ原で毎日やってるぞ。ふしぎと会話がもりあがるおしゃべり花の蜜入りのお茶を出してんだ。おおきいお客様はめずらしいけど、きっとみんなレイカを気に入るよ。(おれが案内してやる、と、ほこらしげにすら胸を張ったが、それともここにいるか?と問うように、手を引く力はよわい。レースの手はまだ壊れてしまいそうな不安があった。)
ヒュー 2020/01/28 (Tue) 22:30 No.67
私も首を切られたことはないけど、もしもそうなっちゃったら動けないし喋れないし意識もなくなって、だれも元に戻すことが出来ないのはみんな知ってるんだ。でも……ふふ、そうだね。その歯でとびっきりの噛み痕を残せそうだね。私もがぶっといっちゃおうかな。(なんて最後は冗談めかして紡いでみせる。No one lives forever――それが当たり前の世界では首と胴体に切り取り線を入れられたあとを描く術など知らなかった。もしこの世界にそのルールがないのであれば、柔軟に全てを受け入れてくれようとするこの構造にも納得出来るかもしれない。彼の自由な想像力がその賜物なのであれば尚のこと。さて、いよいよおしゃべり花というワードが生まれたとて大袈裟に驚くことはないけれど、ぱちりと一つだけまばたきをして「お花も…喋れるの、ね?」確認するようにごくりと唾を飲み込んだ。)なんだかこの世界では口下手な人のほうが少なそうだね、今まで聞いただけでも物知りのイモムシさんにお話し上手のお花でしょう?私あんまり上手い話が出来ないタイプだから、ここの住人さんにちょっと憧れちゃうな。(元いた世界ではMCトークの下手さは自分でも分かっていたことだったから、それを思い出せば笑顔だったかんばせもほんのり苦い色になる。けれどもましろに包まれる指先は語るだろう。言葉で返すよりもはやくに、そこへどうか連れて行って欲しいのだと。ぎゅうとしっかり力を込めて握り返して、そうして彼が応えてくれたなら。白いローヒールのパンプスがかつりと小気味よい音を奏でだし、知らない世界での一歩は踏み出されるはずだ。導いてくれるこの手があれば、どこへでも。)ヒューくんは普段お茶会によく行くの?その、……きりかぶ…さん?、の。(歩き出した道中、二足歩行の動物だったり、味も想像出来ないきらきらした食べ物だったり視界に映るすべてのものにアメジストの瞳は困惑しながらも目移りを繰り返す。今からゆく切り株もお話するのだろうか。動くのだろうか。いやそもそも彼の日常はどんな風なのだろう、そう気になったものだから見上げて問いかけてみた。)
レイカ 2020/01/29 (Wed) 23:18 No.82
(――動けないし喋れないし意識もなくなって、だれも元に戻すことが出来ない。それを聞いた時、そんなのやだなと思ってヒューの顔は固まった。しかし冗談めいた言葉をヒューは本心と受け取ってほがらかにわらった。その意気だとでもいうように。)おしゃべり花の仲間でも、おしゃべりしない花もいるよ。だんまり花だな。話さないってのがつまり、喋れないのか、喋れるけど黙ってるのかはわっかんねーな。聞いても答えちゃくれないんもんだからよー。上手い話をするのが大切なのか?おれはすごく上手な話だったら、てんでつまんない話のほうがすきだけどな。上手すぎるものって、なんかさ、いまいち信用できないだろ。(むつかしげに眉寄せて答えたのは花たちについてだ。そういえばヒューは考えたこともなかった。喋らない花が喋れるのかどうかなんて。憧れるという彼女のひとみを見て、なんでそんな顔をするんだろう?と考える。上手い話が出来ないのも、ヒューにとっては取るに足らない。それに。ヒューは続ける。)それに、おれもしゃべるの苦手だ。理由はぜんぜんちがうけど、ちょっと似てるな。(ヒューのほほえみにもまた、苦いものがほのかに、けれど確かにまじった。気を取り直すようにましろを握り、大股に一歩すすんでから、小股に改めた。彼女のましろが奏でる音に合わせてヒューはまっくろのブーツで重ねる。かつり、こつん。かつり、こつん。)うん、まあ、そうだな。おれ、その野っ原でよく寝てるんだけどさ、腹がへったころに顔出すと、さそってくれるんだよな。レイカはあまいもの好きか?しろいちごのまっしろスコーン、うンまいぞ。(黄色いレンガを選んで歩き、街の通りを抜け、あおむらさきのリュウノヒゲ畑を越えても、ヒューはぜったいに駆け出したりしなかった。よく透き通った川のせせらぎに人ひとり乗れるくらいの円い石が点々と浮かんでいる。ヒューは握る手を壊さないように注意しつつ力を入れて、声を落とす。)水には気をつけろよ。月ではどうだったかわっかんねーけど、ここでは注意しないとだめだ。こういうところは、女の子ひとりで渡っちゃいけない。ぜったいのぜったいのぜーったいに、おれの手を離しちゃいけないし、おれもぜったいのぜったいのぜーったいに、レイカの手を離さない。いいな?このよわっちいレースだけ残してどぼん!なんてぜったいのぜったいのぜーったいに、やだからな?(この世界を知りたいのなら、これは言っておかなくっちゃならない。取るに足らないことの例外のひとつだ。ぜったいと繰り返すたびヒューはぎゅっと目をつむり、声に力を入れるのだった。やっぱりやめよう、と言いかねない切実さで。)
ヒュー 2020/01/30 (Thu) 22:04 No.92
(上手い話をするのが大切なのか?――胸に鋭い刃が突き立てられたような感覚に心臓がどくりと驚く。見えない傷口から少し滲み出たのは血なんかじゃない。けれど確かになにかが滲んだ。昔からずっとそこで凝り固まり続けているなにかだったのかは咲夜には分からなかったけれど。)つまらなくても、つたなくても、いいのかな。ほんとうの気持ちがあれば伝わるものがあるよねきっと。(ふわりと花が綻ぶのは、すんなり心の真ん中に答えが落ちてきたから。話し上手というものは技術だとばかり思っていた。然るべきときに笑わせて、然るべきときに話題を変えられる、ある程度の才能と知識の上で成り立ち光る技術だと。けれどもそこに信用が生まれるのかと言えばなるほど、綺麗に纏まりすぎる言葉は敬遠したくなるのは分かる気がしたのだ。)ヒューくんの言葉はあたたかくて、好きだよ。喋らないお花も喋れないお花も、たぶんヒューくんの言葉が好きだと思う。(まっすぐに伝わるから、と付け加えるのは本心からだ。おしゃべりが苦手でも、それでも交わす言葉と時間の中にほんとうがあればいいのかもしれない。)あ、苺だいすきだから楽しみ~!私甘いものだーいすきだからついたくさん食べちゃうんだよ、可愛い見た目で甘いのってずるいと思うなあ。欲望に抗えないんだもん…。(苺のスコーンは紅茶にとびきり合うに決まっている。きゅう、と期待に鳴いたお腹の虫のことは知らんぷりして、ヨーロッパのようなあたたかいレンガ造りの街並みの中でふたつの靴音が踊り進んで行く先。景色は移り変わり、いつしか道を隔てるように流れる川が現れた。綺麗に澄んだ川に、渡るためであろう点在する石。もしかして此処を渡るということなのだろうか。うーんと判断しかねていると念入りに降りかかる彼からの忠告。その押しの強さに、ただの川ではなくて、もしかすると落ちたら今回のようにどこかの世界に行ってしまうかもしれないところなのではとぞっとする。世界の勝手が分からない咲夜には、何度も頷くことだけが唯一出来た。)……う、うん。わかった、約束する。絶対離さないよ。それにバランス感覚は一応あると思――……、?(そう結びかけてふと気がつく。視線持ち上げた先にいる彼がむずかしい顔をしていたことに。ヒューくん、と声にならないほどの音を震わせたのは自分よりも背が高い彼が自分よりも小さく感じてしまったから。推測するまでもなく、この川にはなにか『ある』のだ。それがきっと彼に恐怖を与えている。念を押して注意してくれたところもそうだろう。辺りを見渡しても渡るような橋は見つからなかったから、これを渡りきることしか手段がないのであれば――よし。一つの決意を灯したらば結ばれていないほうのましろの手が、徐ろに白を掴んだ。オープントゥになっている先っちょではなく、かかと部分をくいっと引っ張って露わになるのはパステルピンクのフットネイルが映える素足。裸足で踏みしめる大地はやわらかくて、少しくすぐったい。)うん、大丈夫。行こう、ヒューくん。渡りきったらとびっきり甘いお菓子食べよう、ね?(彼を想えば行かない選択肢だって選べた筈だが、咲夜は進むほうを選んだ。脱いだパンプスを大事に抱え、穏やかに微笑みかけられたのはなにも咲夜に緊張感がまるっきりなかったわけではない。そこに見栄や嘘があったわけでもない。繋ぐ手、その親指で柔く一撫でしてかける魔法は勇気を伝えるおまじないだった。)だから二人で、飛び越えよう!(ひとりでは怖くたって。ねえ、そうでしょう?)
レイカ 2020/01/31 (Fri) 10:33 No.100
(ヒューのくちびるは「へ」を描いて、ちょっとへんな顔をした。考えるしぐさだ。すこしのあいだ黙り込んで、上手より、伝わるほうをめずらしくも慎重に選んでいく。)つたわるだろ。ほほ笑みやたったいっしゅんのめくばせでも。ことばは正しい使いかたをすればほんとうに便利だけど、だから頼りすぎて、ことばをみがいて自分を着飾ったり、本人そのものよりことばだけを信じてしまうことがあるのさ。きっとな。(終始こむずかしく寄せていた皺が、咲いた花を見てきれいさっぱりなくなった。ヒューはにっこりとほほ笑んで、“伝える”。)おー。そっか。まっすぐな。確かにおれはぐにゃんぐにゃんってより、ずっとまっすぐかもしれないな。おれ、“好き”って言われるのは好きだけど、レイカの“好き”が好きだな。信じられる。(言葉ってのはまったくむつかしくって、何通りも存在しているし、ヒューはきっとその何分のいちも知らないし、覚えちがいもあるわけで、ヒュー自身きちんとあつかえているつもりはなかった。でもいつわりのない“好き”と、いつわりの有無は関係なく“かわいい”はどういうわけか、好きなのだった。そのことをヒューは甘いものが好きなことに似ている、と思う。)えーーーっ。そんなの、あらがわなきゃいいじゃん!おなかも食べたいって鳴いてるしさー。(爛々としたひとみが悪魔のささやきというにはあんまりに明朗かつ率直な音でもって、ぽっきり折った。着のみ着のまま生活している少年は欲のままに生きている。寝たいときに寝、食べたいときに食べ、考えごとをしたいときに考える。ゆえの抗うという行為へのふしぎだった。きりかぶまでの道のりはかるい散歩には丁度良い。円い石の橋は渡ることこそ難しくはないが、それでもヒューは不安になる。不安はヒューの中でふたりぶん。名前を呼ばれれば「うん?」と首を傾ぐ。足元のすはだにしぱしぱ瞬き、)せっかくかわいいのに、いいのか?女の子はケガしちゃだめなんだぞ。(かしかしと頭と首を掻いて、とがったくちびるは、けれど、甘いお菓子を食べる約束を「おー」と請け負った。)うん、二人で飛び越える。あのな、レイカ。だから、いまもこの先も、ひとりで飛び越えようとしちゃあ、ぜったいにだめだぞ。おれか、信頼できる誰かがいるときにするんだ。いいな?約束。(指先から伝わる勇気がヒューは頼もしく、そしておんなじくらいにおそろしくもあるのだった。それでも「せーの」で飛び越えた先、無口なきりかぶのティーパーティーに辿り着いたのはふたりいっしょだったはず。おしゃべり花の蜜入り紅茶はいつもよりすこしだけ饒舌になるからお茶会は賑やかだし。ヒューがそれをたのしい、と感じたのは、繋いだまんまの手にきっと理由があるはずだけれど。)
ヒュー 2020/01/31 (Fri) 23:19 No.110
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