(ヒューのくちびるは「へ」を描いて、ちょっとへんな顔をした。考えるしぐさだ。すこしのあいだ黙り込んで、上手より、伝わるほうをめずらしくも慎重に選んでいく。)つたわるだろ。ほほ笑みやたったいっしゅんのめくばせでも。ことばは正しい使いかたをすればほんとうに便利だけど、だから頼りすぎて、ことばをみがいて自分を着飾ったり、本人そのものよりことばだけを信じてしまうことがあるのさ。きっとな。(終始こむずかしく寄せていた皺が、咲いた花を見てきれいさっぱりなくなった。ヒューはにっこりとほほ笑んで、“伝える”。)おー。そっか。まっすぐな。確かにおれはぐにゃんぐにゃんってより、ずっとまっすぐかもしれないな。おれ、“好き”って言われるのは好きだけど、レイカの“好き”が好きだな。信じられる。(言葉ってのはまったくむつかしくって、何通りも存在しているし、ヒューはきっとその何分のいちも知らないし、覚えちがいもあるわけで、ヒュー自身きちんとあつかえているつもりはなかった。でもいつわりのない“好き”と、いつわりの有無は関係なく“かわいい”はどういうわけか、好きなのだった。そのことをヒューは甘いものが好きなことに似ている、と思う。)えーーーっ。そんなの、あらがわなきゃいいじゃん!おなかも食べたいって鳴いてるしさー。(爛々としたひとみが悪魔のささやきというにはあんまりに明朗かつ率直な音でもって、ぽっきり折った。着のみ着のまま生活している少年は欲のままに生きている。寝たいときに寝、食べたいときに食べ、考えごとをしたいときに考える。ゆえの抗うという行為へのふしぎだった。きりかぶまでの道のりはかるい散歩には丁度良い。円い石の橋は渡ることこそ難しくはないが、それでもヒューは不安になる。不安はヒューの中でふたりぶん。名前を呼ばれれば「うん?」と首を傾ぐ。足元のすはだにしぱしぱ瞬き、)せっかくかわいいのに、いいのか?女の子はケガしちゃだめなんだぞ。(かしかしと頭と首を掻いて、とがったくちびるは、けれど、甘いお菓子を食べる約束を「おー」と請け負った。)うん、二人で飛び越える。あのな、レイカ。だから、いまもこの先も、ひとりで飛び越えようとしちゃあ、ぜったいにだめだぞ。おれか、信頼できる誰かがいるときにするんだ。いいな?約束。(指先から伝わる勇気がヒューは頼もしく、そしておんなじくらいにおそろしくもあるのだった。それでも「せーの」で飛び越えた先、無口なきりかぶのティーパーティーに辿り着いたのはふたりいっしょだったはず。おしゃべり花の蜜入り紅茶はいつもよりすこしだけ饒舌になるからお茶会は賑やかだし。ヒューがそれをたのしい、と感じたのは、繋いだまんまの手にきっと理由があるはずだけれど。)
ヒュー〆 2020/01/31 (Fri) 23:19 No.110