Mome Wonderland


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(開幕の刻を照らすデイライト)
(暗き森の緞帳が開かれる。無数に瞬く星辰が照らす舞台は小さな野花が広がる花畑。柔らかな風にそよぐ花の中心には、天上のスポットライトを浴びて浮かび上がるエトワール。足許に咲く花々を傷付けぬようなステップは注ぐ月光に似て優しく、繊細な舞を呼吸一つで邪魔する事さえ惜しくて、男は息を呑んでいた。呑み込んだ余韻は胸の内で大きく膨らみ、やがて舞手への称賛となって飛び出そう。)……嗚呼、ブラボー、ブラーヴォ!なんて美しい舞だ!(彼女からすれば、静寂に突然響いた音は驚かせたかもしれない。それでも美しいステップへの喜びを伝えたくて上げた声は、高らかに鳴る拍手と共に真っ直ぐに彼女へ向かっていた。しかしトランプ兵に取り囲まれたなら、瞬く間も無く女王の御前へ。「おやおや困った事だ!」と全く焦りの滲まない声を上げる様はどこか慣れた様子でさえあったが、一つの命令が下されたなら「仰せの侭に!」とニッコリ笑うのだった。やがて月が眠り、朝が訪れる。新しい一日の幕が上がれば、男はすぐさま満月から零れたヒトの家へ向かう事にした。誰より早く彼女の許へ──そのつもりだったのだけど。フラミンゴの主人が営む花屋の前では朝摘みの花を愛で、虹色の飴玉が煌くキャンディショップを見掛ければアライグマの店員とお喋りし。広場の向こうでお茶会の気配がすれば沼ウサギと共に飛び跳ねそうになったが、どうにか方向転換して。あちこち巡る間に太陽はずいぶん高く昇っていたが、かろうじて昼前と呼べるうちに小さな家へ辿り着いた。手の形のドアノッカーで三拍子を刻めば、扉の先へ声をかける。)ごきげんよう、エトワール!ボクだよ、さあ扉を開けておくれ!(声を弾ませる男は、星空色のスーツに白のアスコットタイという昨夜と同じ姿だった。けれどカジュアルな装いの方が良いだろうと宵色のマントは今は外している。さて、彼女は扉を開けてくれるだろうか。開かなければぐるりと家を廻って窓越しにでも彼女の姿を探す気だが、兎も角、再会が叶えば男は恭しく一礼して誘う様に手を差し出すのだ。)おはよう、昨晩は良く眠れたかい?閉じこもっていても退屈だろう、一緒に散歩でもいかがかな!(不審な男の挙動に彼女が手を伸ばそうと、伸ばさなくとも、程無くして男が指を鳴らす様に自らの三つ指を触れ合わせれば、白いアスターの花が一輪咲く。差し出す白い花はさしずめ不思議の舞台への招待状。花と彼女の顔とを見つめながら、男は不敵な笑みを浮かべてみせた。)
ジェスター 2020/01/26 (Sun) 11:54 No.10
(覚醒した思考が真っ先にすっ飛んでいった先が“どこか”でも“なぜか”でもなく“踊れるか”であった自分には、すこしあきれる。まだ踊れる。宵空へかざした左右の掌を、ふわりと円を描くように下ろして――安堵とともにこころがほどけて、りんどう色の双眸をやわく細めさえするのだから。尤もその三日月はほんの一瞬のことで、耳朶を打った称賛の声に、すぐさままあるく満ちるわけだけれど。)………!!(真夜中色のマントをまとったそのひとは、迷いのない足取りでこちらへ歩み寄る。だれ? 尋ねたかったけれど、咄嗟のことで声が出ない。そうしてくちびるがなんらかの音を紡ぐよりも、トランプたちが走ってくるほうが先だった。状況を把握できないまま、むすめは連行され、“陛下”の御前に引き出され、首を刎ねられかけ―――よくわからないけれど最終的に、14日間という猶予を与えられた、らしかった。)
(そうして迎えた、最初の朝。なるほどここは日本では――もっといえば地球では、ないかもしれない。そう合点してしまうのは、あまりにも順応がすぎるだろうか。けれどその答えがいちばん自然なのだ。走って喋る巨大なトランプ。日本にはいないはずの“女王陛下”。今だって外の空気を吸いに出たら、なんと往来でウサギとリスがマカロン片手に談笑していた。軽いめまいに家の中へと引っ込んだむすめのまなざしは、部屋の隅に置かれた姿見で止まる。デコルテがおおきく開いたレースブラウスに、膝上丈のやわらかなスカート。グレージュの生地には星くずのごときこまかいラメが腰元から降りそそぐようにちりばめられ、低いヒールのパンプスはいちご飴色につやつやとして軽く、むすめの足に不思議なほどよく馴染んでいる。スタジオを出るときに着ていたはずの、モッズコートは見当たらない。荷物もない。これもまた、むすめが非現実を受け入れようと思ってしまった理由のひとつだ。)―――…あ。昨日の………おはよう、ございます。はい、おかげさま?で、ぐっすりと。(ノックの音に扉を開けた。スマートな所作で一礼する声の主が昨晩の彼だと気付けば、戸惑いながらもまずは挨拶を。こちらとしては厄介ごとを引き受けさせてしまったという負い目があるゆえに、表情がやや硬くなってしまうのは許してほしい。差し出されたてのひらと、青年の笑顔とを、交互に見つめる。)散歩?………いいですけど、なんで、―――……!!(と、青年の指先から白い花が咲いた。あざやかなその魔法に、むすめのひとみは素直にきらめく。吸い寄せられるように、その花を取る。)…………魔法使いなの?(ほろりとこぼれた疑問もあどけない。)
コユキ 2020/01/26 (Sun) 17:20 No.21
(小さな家の扉が開けば、現れたのは優しい夜。まるで昨夜の月と星を集めて織った様な装いのむすめがやってきたのなら、一礼によって顔を伏せる前に男の口許が小さな感嘆を零していただろう。そしてひとまず眠ることが出来たと知れば、「それは良かった!」と安堵を声にして大袈裟に相槌を打ってみせた。月下の花畑から女王の間に到るまで、満月から零れたばかりの彼女はほとんど口を開かなかったように思う。少なくともお喋りな男の目にはそのように映っていたから、せめて眠りが彼女を癒してくれていたなら良いと願った。けれど男を迎える表情に強張った様子が見てとれたなら、指先はうずうずと騒ぎ出すのだ。)フフフ!良い顔をしてくれるね、エトワール!(白い花の向こう側にそっと視線を送ったなら、りんどう色の星が輝いていた。ほろりと崩れたむすめの顔ばせはどこか稚くも愛らしく見え、アスターを差し出す男の口許まで思わずふわりと綻んでしまう。昨夜は天満月を抱き締めるようにまるく流れた指先が花を受け取ってくれたなら、男は得意げに声を張った。”魔法使いなの?”)キミがそうと信じてくれるならね!(花を渡した指先を揃えて、自らの胸元に添えるとウインクひとつ。エレクトリックブルーを瞬かせたなら、男は唇に弧を描いて彼女の疑問に答えていた。)キミが眠りモグラに弟子入りしていて、一歩も家から出たくないと言うなら別だけどね!ファンタスマゴリアの外からお客様が来たのなんて初めてなのさ。だから、ぜひ楽しんで欲しいというだけさ!どうだい、エトワール?今ならボクが案内役を務めよう!(高らかに告げて、大きく両手を広げる男は見てごらんよと彼女を誘う。扉を開けたなら、どこからともなく聞こえるストリングスの軽妙なメロディーに気付くだろうか。ファンタスマゴリアを包む優しい音色が駆け巡り、住人たちの笑い声は大勢で奏でる合唱のよう。何より、夜とは打って変わって燦々と輝く太陽が暖かな光で街中を煌かせている。きっと君にも気に入って貰える筈さと、自信を持って笑ってみせた。)……それとも、キミは女王サマのクリケットに付き合ってやりたいのかい?(変わってるね、と言いたげに添えた声色はあっけらかんと響いただろうか。決して意地悪などではないけれど、からかいの色は隠し切れない。)
ジェスター 2020/01/26 (Sun) 22:52 No.31
(不可解だらけの"暫定:日本ではないどこか"に突然放りこまれて、不安がなかったわけではない。それでもきちんと眠れたのは、ふかふかとやわらかなベッドと、優しい月明かりのおかげだろう。それにそもそも、疲れていた。大学から直行でスタジオに入り、夕食も食べずに踊りどおしだったから。)……、(よかった、とあかるく応える青年に、むすめはきょとんと瞳を揺らす。まるで彼自身が気持ちよく眠れたみたいな、まっすぐに親身な声だったから。そうやって案じてもらうことも、迎えも散歩のいざないも、このましろい花もそう。こんなに親切にしてもらう理由に心当たりがまったくないから、申しわけないけれどすこし警戒している。ゆえにあどけなく油断した顔ばせを見た青年が微笑みを浮かべたなら、気まずそうにきゅっとくちびるを引き結び直したのだけれど、)―――……。楽しんでほしいって、……それだけの理由で、わざわざ? おひ、………優しいんですね。(もたらされた回答に、むすめの双眸はまた違う色をにじませる。つまり、意表を突かれたのだった。めずらしい客人だから楽しんでほしい。なんて純粋な人類愛。あるいは根っからのもてなし好き、あるいは稀代のおひとよし――は、さすがに失礼だから口をつぐむとして。それから――)………っ…!なんの音……?(誘われるまま、今度はふたりで外へ出たならば、むすめの表情はみたびあどけなさを覗かせるのだ。耳朶に、あかるいひかりに満ちたおんがくがじゃれついてくる。思わず踊りだしたくなるような、胸いっぱいにしあわせが満ちるような、やわらかな旋律。しずかな興奮をふたつのりんどうに宿したむすめは、嬉しそうに青年の方を仰いだ。けれど次いで紡がれた声音にからかいの色を感じ取ったなら、すぐさまむぅと頬が膨らむ。)……知り合いに眠りモグラはいません。ボールになるつもりもありません。(あと、わたしエトワールって名前じゃありません。煽るような口ぶりに減らず口で応戦しながらも、むすめは半歩青年のほうへと歩み寄る。そしてその愉快そうな碧眼を、まっすぐに、真摯に、じぃと見つめた。それは親切な申し出に、甘えようという意思表示だ。)………戻りかたをと言われたけれど……どうしたらいいかわからなくて、困っていたので。案内、すごくありがたいです。よろしくおねがいします。(ぺこりと下げられた頭が持ち上がれば、そこにはぎこちないながらもほんのすこし、やわらいだ表情のむすめがいるだろう。信じていいって、そう思えた。とても変わったひとだけれど、悪いひとではなさそうだから。)
コユキ 2020/01/27 (Mon) 21:06 No.46
(強張るつぼみが笑顔に咲けば、それだけで満足感が男の胸を満たす。笑うとは、心に暖かな灯りが宿るということだ。その灯りは優しさや嬉しさといった素敵なものを照らす灯りだ。小さくとも大切な灯りを彼女の内側に見つけられたなら良い。)キミに楽しんで笑って欲しい、それ以外の理由がいるかい?(りんどう色を覗き込むように見詰めながら、天上に広がる青空にも負けぬ晴れやかさで問い返そう。だって男にはその他の理由など無いのだから。それにこの世界に居れば誰だって楽しくなるに決まっていると、男の自信を後押しするようにむすめを歓迎する旋律たちが飛び込んで来るだろう。扉を閉め切った侭ではきっと聞こえなかった音楽と触れ合った彼女の表情が明るく輝けば、存外素直に顔に出る少女なのだなと心の中で独白する。けれどぷっくらと風船のように膨らむ頬を見れば、むすめの機嫌を損ねるような覚えが無い男はおや?と首を傾げていた。)……フフフ、ははは!じゃあ首を刎ねられないようにしなくっちゃあね!(応戦する口振りは、男が初めて耳にした彼女の意思だった。愉快そうに笑うのは彼女の意思を聞けた事が嬉しかったからなのだが、からかいの延長線と思われても仕方が無いだろうか。しかし、真っ直ぐに差し込む光のような眼差しが向けられたなら笑い声を潜めて彼女の言葉に耳を傾けよう。頭を下げるむすめの仕草は昨夜出逢ったステップと同じ様に丁寧で、真面目そうな為人の表れだと思えた。顔を上げた彼女と改めて顔を合わせれば、男もニィと口端を持ち上げる。)そんなに畏まることは無いよ!ボクは女王サマじゃあないし卵男爵でもない。でも礼儀正しいキミは素敵だね、エトワール!(礼儀を知るひとは美しい。ニコニコと機嫌良く宣った後、男も改めて彼女へ一礼しよう。左手は大きく開いた侭、右手を高く掲げてくるくると回しながら上体を倒す。どこか遠くで開幕のベルが聞こえるような、そんな一礼を。)では改めて自己紹介だ。ボクはジェスター。楽しいことと面白いことが大好きなだけの、ファンタスマゴリアの住人さ!まずはこの国を楽しんでおくれよ。お腹は空いている?何か欲しいものはある?さあさあ、とにかく歩いてみようよ!(ファンタズマゴリアの外から来たというのなら、見ず知らずの場所に来た彼女は少なからず不安が有るだろう。けれどこの国は恐れるような事など何一つ無いのだと、見て知って分かってもらえたら良い。だから彼女にこれ以上の支度が無ければ共に外へ出かけようか。やわらかな旋律に音符を刻むように、弾むステップを踏みながら。)
ジェスター 2020/01/28 (Tue) 09:03 No.59
……普通はもうちょっと、いるんです。わたしと親戚関係だとか、莫大な報酬がもらえるとか。(青年の澄んだまなざしを受けとめ、むすめは律儀に説明する――しっくりこないのだろうなと確信しながら。額面どおり、裏などなく、彼は自分を楽しませたいのだ。本当に心からそうなのだ。そのおさなごのような純粋さは、小狡いむすめには理解できない。理解できないものだけれども、好ましかったし、まぶしかった。「でも、お気持ちは嬉しいです。」だからそうやって話題を結んだ。あっちの世界の"普通"なんて、彼は知らないままでいい。)そうですね。そんな最期の迎えかたは、ぜひとも遠慮したいです。(話す内容はとびきり物騒なのに、その笑みが不釣り合いに陽気だから調子が狂う。わざわざ迎えに来てくれた。この世界への扉を開き、心躍る音楽に気付かせてくれた。彼は唯一頼りにできるひとで、本当なら頭が上がらないほどの恩人だ。それなのについ、なまいきな口をきいてしまう。むすめの警戒心も口ごたえも意に介さず、それどころか「いい顔をする」「礼儀正しい」と美点を見つけて褒めてさえくれる青年のおおらかさに、知らず甘えていた部分もあるのだろう。――あらためて案内を求めた自分を上機嫌に見やり、同じように一礼するその所作は指先にまで神経がゆき届いていてうつくしい。こなれた雰囲気に同業者かしらと目を瞠ったむすめは、けれど尋ねるより早く、その疑問への答えを得た。)なるほど。魔法使いさんの正体は、気のいい道化師さんだったわけね。(合点がいったとばかりにひとつ頷く。)朝かるく食べたので、おなかはひとまず大丈夫です。ほしいものも……すぐには思いつかないかな。――全面的におまかせします。道化師さんの馴染みの店でも、行きたい場所でも、お気に入りでも。ここにいるあいだ"楽しく"過ごせるような、素敵なところを教えて。(きっとこの国を好きになるはず。楽しく過ごしてゆけるはず。言葉の端々からにじむ自信を汲み取って、お手並み拝見と言わんばかりのオーダーを。いたずらっぽく口角上げて、名乗る声音はさっくりと歯切れよい。)―――湖雪です。似鳥湖雪。……きのうは、まきこんでしまってごめんなさい。わたしの世話役、引き受けてくれてありがとう。(いちばんはじめにするべきだった、謝罪とお礼もようやく、言えた。)
コユキ 2020/01/29 (Wed) 16:49 No.74
(彼女と親戚関係であったならきっと楽しい関係が築けるだろう。莫大な報酬といったらファンタスマゴリア中の笑顔が集まっているに違いない。とても素敵なことだろうに、どこか説明し難そうにしているむすめの双眸を男はただ笑いながら見つめていた。話したくないなら話さなくても良いけれど、唇が閉じてしまうのは勿体無い。だから、彼女の口がつんとした音色を奏でていようと、男は真昼の三日月のようににんまりと弧を描き続けるのだ。礼儀には礼儀を、そんな当たり前で捧げた一礼にむすめが何か納得する様子であれば人差し指を自らの唇に添えて、悪戯めいた声で囁く。)魔法使いの方が浪漫が有るだろう?(如何なる名で与えられようと男の在り方は変わらないけれど、叶うなら彼女が望むように呼ばれたかった。やがてリクエストを承れば「お任せあれ!」と調子の良すぎる声を上げたのも束の間。紡がれた名前は澄んだ朝の空気の様な清らな音だと思ったが、続いた謝礼の言葉には少し考えた後にそっと己の胸ポケットに手を伸ばした。)──コユキ、こっちを見てご覧。(促す声と共にするりと白のポケットチーフを抜き出せば、ひらひらと翻してみせた後に左手の上に白布を乗せる。一拍も置かずに布を取り外せば、先程までは何も無かった筈なのに星の形をしたキャンディがころころんと男の掌に転がっていた。転がる度に色を変えるキャンディで少しでも彼女の意表を突く事が叶えば、してやったりといった様子で口端に深い笑みを載せようか。)良いかい、キミを見付けたのはボクの方だ。そしてまだボクはキミを全然笑わせてない。だからごめんなさいは要らないよ!ありがとうの方は、もっともっと笑ってから言っておくれ!(巻き込まれた等、これっぽちも思ってはいないのだ。そして世話役らしい事もまだ何もしていない。勿論、これから存分に果たすつもりではあるのだけれど。故にどちらも気にしなくて良いと飴を彼女に差し出したなら、いよいよ街中へ踏み出そう。)さて、エトワールのリクエストは簡単だけど難しいね!フフフ、だってお気に入りの場所も素敵な場所も、ここには沢山有るからさ!(カツカツ、カカカ。笑い声と重なるステップの音が石畳に響く。)あの発明ヒツジの家は時々大きな音がするんだよ。そのハリネズミの風船屋は時々主人が間違って自分で風船を割っちゃうんだ。向こうの大通りは演奏家の皆がよく集まっていて、そうそう、ここのマロニエの樹には双子リスが住んでるけど、悪戯好きだから気をつけて!(溢れる音楽と戯れるようなステップで右、左、右と街中を指し示しながらくるりくるりと身体を反転させる。落ち着きの無い男の行進に、むすめが疲れていなければ良いのだけれど。)
ジェスター 2020/01/29 (Wed) 23:48 No.83
(ヒトが好きなひとなのだろうな、とむすめは思う。自分だって社交性は人並みにあるけれど、こんなふうに無条件に相手を懐に入れることは、きっと出来ない。浪漫があるだろう。かろやかな音色でささやく笑みには、いなすように首をかしいでは、)どうかな。もう魔法使いじゃないってわかっちゃったし。たしかにロマンはあるだろうけど、………道化師のほうが、あなたには天職に見えるわ。親切で、あかるくて。(キミが信じてくれるなら。先の青年の言葉を持ってきて、もう信じてない、だからあなたは魔法使いじゃないと、これまた小癪な前半部分。けれどそこで終わりとならず、フォローの言葉がつながったのは、ひとえに青年のこれまでの親切の賜物だ。これまで出会ってきた人のなかで、いっとう献身的なひと。こんなにやわらかな物腰のひとに、いつまでもツンツンしている理由もない。)……?な、―――……!! キャンディ……?(なあにと返事をする間もなく、なにもない場所から星が生まれる。小さく息を飲んで見開いた双眸、ぱちぱちとくりかえすまばたき。言葉よりもよほど雄弁なその顔ばせは、彼を悦ばせることができただろうか。どんな味がするか想像のつかないような、不思議な色にまたたく星。「きれい。」素直にこぼれた感嘆に、青年のやさしい訂正がかぶさる。)………。………ふふっ。変なひと。(全然笑わせてない、なんて、その使命感はどこからくるの。理解不能な思考回路に、思わずむすめは小さく笑った。それはすみれの小花がたった一輪、音もなく咲くようなささやかさだったけれど、とりつくろったところのない、まっさらに素直な笑みだった。差し出された星を「ありがとう」とつまめばポンと口に放りこんで、さあ街中へ。何味のキャンディだったのかは、結局よくわからなかった。)発明ヒツジ……あの、れんがの家? でしょうね。風船屋なんて、世界一ハリネズミに向いてない仕事なんじゃ―――。演奏家……ふたごのリス……みんな、すごく楽しそう。(培ってきた基礎体力のおかげでついてゆくのは造作ないものの、見慣れたものはひとつだってないから、リアクションに忙しい。あれやこれやと文句をつけながら道をゆき、どのくらい経っただろうか。青年の案内が途切れたところで、それで、とむすめは口を挟む。)ジェスター……さん、は、普段はどこにいるんですか?会いたいと思ったときは、わたし、どこを訪ねたら? あと―――”戻りかた”、なんですけど。わたし、どうしたらいいですか?(わが道化師に意見を仰ぐ、その双眸には信頼の色がにじんでいる。昨晩世話役を引き受けたとき、このひとはとても自信ありげに笑っていた。きっと心当たりがあるのだろう、あるはず、どうかおねがいします。そんな推察に基づいた、信頼、もとい懇願の色。)
コユキ 2020/01/30 (Thu) 17:59 No.86
(魔法使いの称号がお預けとなれば大袈裟に天を仰いで残念そうにしてみせるものの、りんどう色が齎す暖かな音色によってころりと機嫌が上向きになる。)ボクだけじゃないさ、ファンタズマゴリアのみんながキミにそうしてくれるとも!(己に与えられた人物評は何も自分に限った事では無い。けれど男と話すうちに、強張っていたむすめの表情が和らいでくれたのは嬉しかった。嬉しいからこそもっと花顔を綻ばせてやりたくて、またたく星を掌に呼び寄せる。きれいと零す声音の方がずうっと綺麗だと思った。青、白、黄と色合いを変える飴が菫のつぼみを綻ばせたなら、にっこりと歯を見せていっとう満足そうな笑みを宿す。)ボクはこれが普通だよ!(咲き立ての菫を見つめて、胸を張ってみせよう。彼女の口中に転がったキャンディは、優しいミルクの味がしただろうか。むすめの零す感想を聞きたがって、ついついあれもこれもと紹介しながら歩くものだからさしずめ二人編成の音楽隊のようになった道中を往く。)みんな楽しいとも、でも悪戯好きには本当に気をつけるんだよ。特に兄のチャーリーはすぐにくるみを投げてくるから──…っだあっ!?(念押しをする間にコツンと頭上に衝撃が走る。マロニエの樹の上からはキシシシと響く笑い声。全く仕方が無い、と肩を竦めた頃だろうか。一息吐くように挟まれた問い掛けと重ねられる懇願に、ぱあっと華やぐ笑み色を浮かべては一言。)さあ?(何の裏表も無い二音が軽やかに響く。)キミが月から零れ落ちるのは見ていたけど、ボクは月に行った事が無いからね!どうしたらいいかなんてサッパリ分からないさ!逆に、キミはどうやってファンタスマゴリアに来たんだい?翼が無いから落っこちて来たんだろう?(空は鳥や蝶といった翼を持つ者達の生きる場所だ。ならば満月から零れたむすめも同様かもしれないが、羽が生えているようには見えない。けれど大して重要な事ではないと言わんばかりに、爪先で石畳の上を跳ねて笑った。)フフフ、そう困らなくても良いよ!分からないから、探せばいいのさ。ボク達が知らなくても知っている誰かが居るかもしれない!だったら行く場所はひとつだよ。──さあ着いた、今日はここがとびきりお気に入りの場所だ!(やがて辿り着くのは、大きな広場の少し先。通り沿いに置かれたティーテーブルに集った陽気な住人達が紅茶と甘味とお喋りを楽しんでいた。そこは全ての答えが詰まった場所。男の行きたい場所で、お気に入りで、きっと彼女も楽しく過ごせるような素敵なところ。そして男が普段居付いている場所だった。)ボクを探したい時はお茶会においで、エトワール。この国ではいつでもどこかでなんでもない日を楽しんでるからね。尤も、コユキが来る前にボクが誘いに行くけどさ!
ジェスター 2020/01/30 (Thu) 23:13 No.96
(ボクだけじゃないさ。さらりとした調子で紡がれる言葉に、ともに暮らすこの国の仲間への信頼が見える。青年の言葉にちいさく頷いたのは、昨晩むすめのもとを訪れ、かいがいしく身の回りの世話をしてくれた丸眼鏡の少女を思い浮かべてのことだった。ましろい花を咲かせるのも、甘い星くずを取り出すのも、呼吸するみたいに自然でよどみない。種も仕掛けもあるはずなのに、どうにもさっぱりわからない。むすめは少しだけくやしそうにくちびるをとがらせる。)変なひとはみんなそう言うの。(ほがらかな笑顔に肩をすくめて、わかりやすく呆れた声を出してみる。少なくとも同世代か、やや年上かと見える彼だけれど、年端のゆかぬ子どもに言い含めるような気持ちになるのはなぜだろう。無垢や純真を感じさせるその振舞いこそが、この国の住人らしさでもあるけれど――気付けばすっかり、彼のペース。けれどそれはちっとも不愉快なことではなく、むしろ心は高揚していた。それはライトの落ちた観客席から、まばゆい舞台の上へと駆けあがる直前に似ている。)わっ!……ええ……だ、大丈夫……?………ふっ、ふふっ、言ってるそばから、(おだやかな口調が唐突にトーンを変えれば、つられたむすめの喉からも声が飛び出す。結構おおきな音がして、いかにも硬くて痛そうだ。慮る言葉とともに気の毒そうに首を傾げたけれど、じわじわと笑いがこみあげてくれば、最後には口もとに指をあててくすくすと肩を揺らすのだった。――本当におかしなところだけれど、なるほど悪い場所ではなさそうだ。ぼんやり歩けばさらわれて、財布や貴金属、最悪いのちまで奪われることもめずらしくないと噂の外国に比べたら、よっぽど治安もよいと思える。仮暮らしには申し分ない。少しのあいだ楽しんだあと、さくっと日本へ帰還したらいい――…)……さあ?!(――そんなふうに楽観視しかけたむすめの双眸は、けれど青年のあっけらかんとした声によって、ぱかっとまあるく見開かれることになる。)な、だ、だって、昨日あんなに自信満々に……わたしてっきり、なにか知っているのだと……(しおしおと、小さくなってゆく声。)どうやってって聞かれても――…だれかの声に気を取られて、足を踏み外してしまって、気が付いたら………。でも、月は空に浮かんでた。そう、わたし、直前に見たんだもの。足元から落っこちた先が、月に繋がってるなんて、変だよ。(ひとつひとつ順を追って、懸命に説明してみせる。当てにしていた展望が、綿菓子みたいに溶け消えたから、むすめは途端に不安になった。けれど沈みかけた心をすくいあげるのもまた、灰霧を薙ぎ払うがごとき青年の、あしたを信じるまっさらな笑顔なのだ。)―――…お茶会、(わからないから、探せばいい。お茶会においで、エトワール。なんでもない日を愛する道化師。その声はあわい希望のひかりをまといて、やわらかく、けれどまっすぐに、響く。)
コユキ 2020/01/31 (Fri) 19:42 No.105
(気の良い住人達ばかりの世界だから、納得するようにむすめが頷いてくれれば住人達を代表して弾む笑顔で応じよう。献身的な乙女だけでなく、もっと多くの仲間と出逢いたいと彼女が思ってくれますように。しかし可憐な唇がつぼみのように閉じてしまうなら、あと一歩の口惜しさを感じて男は舌を出して笑う。)キミが笑ってくれるなら変なひとでも何でも良いさ!(落ち着いた物言いのむすめに返す声音は、全く悪びれていない風にけろりと響くだろう。だって、まばゆい太陽の下でひとつでも新たな彼女の言葉を、表情を引き出せたならそれだけで男は喜びを憶えるのだから。)~~……っフフ、心配ご無用!次はボクから倍にしてチャーリーにお返しするからね!(けれど調子に乗ってはいたのかもしれない。物理的に自重を促す硬い衝撃に後頭部をほんのり押さえ、足許に転がり落ちたくるみを拾い上げる唇は僅かに口角を下げていたが、それさえもむすめの笑い声を引き出す材料に出来たのなら重畳だ。拾ったくるみを頭上へ放り投げ、結い上げた髪で円を描くようにくるりとターンしてからキャッチすれば無事であると伝わるだろうか。家を訪ねた頃より随分と雰囲気が和やかになってきたむすめを微笑ましく見つめていたが、驚きに花開くりんどう色と対面したなら男は思わず腹から声を出して笑ってしまう。)ハッハッハ!可愛い顔だね、エトワール!だってああでもしなきゃ、すぐにでもクリケットが始まってしまうところだったよ?それにナイトメアも言っていただろう、良い退屈しのぎになるって。それならボクの得意分野だからね!(大粒の宝石みたいな円い瞳には、ニヤニヤと不敵に笑うお調子者の姿が映った筈だ。陽射しを浴び過ぎた菫が萎れる様に声が小さく落ちてゆこうと、傾ける耳はひとつひとつを聞き留める。うんうん、ふむふむ。いちいち相槌を打って頷く様子はふざけている様にも見えるだろうが、本人としては到って真剣であった。)だれかの声、だれかの声、……それならこの国の住人の声を片っ端から聞いてみようか!うん、やっぱりお茶会に来るのが一番だよ!(全く手掛かりが無いという訳でも無いじゃあないか。そう結論付ける男の方こそ楽観的だっただろう。だからお茶会に到着する頃にはすっかり機嫌よく、鼻歌でも奏でそうな朗らかさでむすめへ告げた。)ファンタスマゴリアを知りたかったらお茶会が一番さ。だってみんなお喋りが大好きだからね、月から落っこちたキミの翼がどこかに転がっているのを誰かが教えてくれるかもしれない。それとも月から聞こえる声を聞いたことが有る誰かが居るかもしれない。きっとキミが戻る方法は見つかるよ。でも、探しものだけじゃ無くて、楽しくて素敵なものも沢山見つけていって欲しいな!(未知の不安が彼女の心を沈ませるなら、知る事で少しでも安心して貰えたら良い。日向のような暖かさを添えて囁けば、空いている椅子を引いては彼女をエスコートする様に目配せを贈ろう。)さあどうぞ、エトワール。まずは乾杯といこう!……おや、この美味しそうなマカロンは誰が持ってきたんだい?(注がれたばかりの紅茶に並ぶカラフルな菓子へ目を向ければ、それは私たち、と手を挙げたのはウサギとリスの仲良し二匹。彼女達は街中のスイーツを知り尽くしているから、その美味しさは間違いないだろうとはこれからの話題の一つになるだろうか。──きらきらと注ぐ陽射しは世界を照らすサスペンションライト。穏やかなお茶会から幕を開ける物語の行く末を、どうぞお見逃し無く。願わくばキミが、紅茶を片手に少しでも楽しんでくれますように!)
ジェスター 2020/02/01 (Sat) 11:04 No.114
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