そうだね、詩が一番だ。詩にしても、言葉にしても、誰かに向けるのなら伝わらないと意味がないから……君にもペコラにも響くように。張りきって考えるとするよ。(応じる声は楽しげだ。彼女と友羊の両者に届くものは何だろう。そういう方面の考え事は特に好きだから、いつかを思い描いただけで心も一層軽くなるというもの。「今度は外に食べに行くのもいいね。美味しい料理の店が一杯あるよ」なんて、もしや花の前で交わすに相応しくない話題なのかもしれないが。彼女と自分にはこれが正解なのだと信じているからこそ、返す声は淀みない──ただ、そう。さすがに花を贈る時は何だか気恥ずかしかった。それでも彼女の反応を頂く頃には、ふと面持ちを素直に緩める。)あっはっは……ユメはかわいいね。けれど狡いだなんて言わないで。ユメの瞳が好きだっていう俺の気持ちは何処に行けばいいのかな──…、俺はただのしがない詩人だけど、君が贈ってくれる称号ならばありがたく頂戴しよう。ドードーさんと一緒に花瓶を選ぶのも楽しいよ。君の傍に在れるしあわせな花を、どうぞよろしくね。(軽やかに、穏やかに、そんなことを問う自分の方が余程狡い気もする。彼女の手へ花が渡る様を見届けて、ひそりと安堵の息を吐きもした。溜息に在らぬ呼気は爛漫の陽光へ瞬く間に溶けゆきて、見送ることもなく膝を伸ばし彼女の後に続いた。トピアリーを彩る薔薇を、その日の花を摘む乙女をのんびり見守っていた面持ちは、あがる声に眸を丸くして、)……ああ、これは大変だ。大丈夫かな。(白い指先に浮かぶ紅。薔薇の色彩と同じ並びながら、此方は眉を下げてしまうコントラスト。ただ、自分が騒いだところでどうにもならぬとも解っている。)うん、そうだね。レディの手に傷痕が残ったら大事だ。ドードーさんに看てもらおう。(彼女の促しに笑って頷いて、来た道を引き返すべく足先の向きを変えた時だった。)俺の家。……ああ、実は……俺、自分の家って持ってなくって。と言っても、俺が好きでそうしてるんだ。日毎に友だちの家へ順々にお邪魔してさ。そう、昨晩はペコラの家に泊めてもらっていた。紹介も兼ねて、ユメと一緒に誰かの家に泊まりに行くのも楽しいかもね。(ファンタスマゴリアに於いて、定住の家屋を持たぬ者は珍しくない。だから安穏と語る姿に嘘も隠し事もなく、浮かんだ傍から"いつか"の像を音に変えもした。「どうかな?」などとも添えて、応えを受ければ漸う帰路へ踏み出すだろう。)──…よし、ユメ。いこうか。(その名を呼べる、瞳を合わせて隣を歩けるしあわせに、面持ちは空に似て晴れて澄む。尽きぬ言葉や喜びを、帰り道や帰りついた家でも分かち合えたらいい。溢れるものは数多。太陽の下、新しきものは生まれぬと誰が言ったか。新しいものなど何ひとつなく、今あるものは全て嘗て在ったものだというのなら──記憶が過去を振りかえり、太陽の運行を遡り、古書を捲れば君に贈ったのと同じものが文字で記されているのだろうか。それならそれで自分もそうしよう。彼女の家に再びお邪魔して、懐の深い袖に入れていた筆記帳に"ユメと一緒にやりたいことリスト"をなんてものを、緩い筆記体で連ねようと思う。いっそ君の姿を見出せるくらいに──そうだ心の思いは原初、文字で記されたのだから。)
トロイメライ〆 2020/01/31 (Fri) 21:19 No.107